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臨床研究が成功裏に終わるか否かは臨床研究をプロデュースする技術にもよる.私が最近一番愕然としたのは,HDL-C増加薬CETP阻害薬―トルセトラピブを用いたILLUMINATE studyが2006年12月2日に中止になったことである.12月4日に全世界に報道されたが,新聞や雑誌の見出しもまた興味深かった.「When good cholesterol turns bad」,「Cholesterol drug's failure is a blow to researcher」等など.ILLUMINATE studyだが,CHD/CHDリスク相当の患者15,067例を2群,つまりアトルバスタチン単独群(10~80mg/日)とアトルバスタチン+トルセトラピブ60mg/日群に分けた.一次エンドポイントは致死的心臓病,非致死的心筋梗塞,脳梗塞である.ダブルブラインド・ランダム化試験であり,当初4.5年の試験予定が早期に中止になったのである.最終的に前群の死亡数が59例,後群が93例,その他不安定狭心症,心不全も後群に多かった.トルセトラピブ60mg/日はCETP活性をおよそ35%抑え,HDL-Cを60%増加させたが,死亡数60%の増加は縮む傾向になく,独立安全評価委員会は試験中止を勧告し,ファイザー社はCETP阻害に関するすべての薬剤の開発を断念した.
トルセトラピブの頸動脈内膜・中膜厚(IMT)を標的にした研究も2007年ACCで報告があった.家族性高コレステロール血症患者を対象にしたRADIANCE1と,混合型高脂血症患者を対象としたRADIANCE2である.ともに脂質改善は良好であったが,IMTの進展抑制はなく,むしろトルセトラピブ群でIMTが進展した.さて,ここで問題になったことは,平均血圧がRADIANCE1で2.1mmHg,RADIANCE2で5.1mmHg上昇したことである.ILLUMINATE studyでは収縮期血圧が5.3mmHg上昇したが,2007年11月AHAでの追加発表によると,アトルバスタチン+トルセトラピブ群では血清カリウムが低下,ナトリウムが増加,アルドステロン8ng/dl以上が21.6%と増加していた.これら一連のトライアルの弱さであるが,2006年12月に終了したにもかかわらず,その詳細報告が2007年11月のAHAであったこと,アルドステロンが上昇し,カリウムは低下したことは以前から知られていなかったのか?等々が挙げられる.この種の薬剤の開発に関する是非,つまり動脈硬化防御機構として重要であるコレステロール逆転送系に働くCETPを阻害するのはよくないとの意見もあったため,多くのリポプロテイニストは複雑な気持ちで結果を捉えていた.しかし,CETP欠損症患者に高血圧が生じることはなく,他社開発中のCETP阻害薬に血圧上昇はない.CETP阻害薬全般にみられる作用ではなく,トルセトラピブ自体に問題があったと考える.アルドステロン作働薬を投与していたとなると,研究結果が理解できる.
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