呼吸と循環 29巻6号 (1981年6月)

巻頭言

研究態度について 松本 昭彦
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 科学の研究は若い研究者の独創性と直感,それに,そこまでに積み重ねられて来た研究成果に支えられて進歩,発展をみるものであることは言うまでもない。これは医学の研究についても例外ではなく,臨床医学といえども基礎的,臨床的研究の積み重ねによってその成績の向上をみることは改めてのべる必要はあるまい。

 最近,学会出席の折に私の尊敬する先輩学究におめにかかり,彼の研究成果について親しく伺う機会があったが,この時に近頃の医師(主として大学,研究施設に勤務する医師)の研究態度について大変憂慮されていた。それは先輩研究者の指導,助言を受けようとせず,自分自身の考え方のみで研究を行おうとする態度であり,また研究などは臨床医には全く必要ないとする態度である。

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 近年,呼吸器系,循環器系の情報収集の手段として,各種の臨床検査法が,C. C. U.やR. C. U.などに例をみるように,システム化されつつある。しかし重症患者で,長時間にわたり経時的変動を観察する必要のある場合では,侵襲の大きい従来からの計測法の応用は,ときに困難であり,いわゆる無侵襲体外計測法の応用が強く望まれている。しかしながら,侵襲,無侵襲の区別にも議論の多いところであり,たとえばSwan Ganzカテーテルの応用すら,その情報の大きさからすれば侵襲度は小さいとする見方も可能である。また,非観血的であるから無侵襲であるということも必ずしも正しくなく,問題点は,患者に与える侵襲度,患者自身の耐容性と,得られる情報の数・量の信頼性のバランスの問題ということもできる。こうした見地からも,Impedance pneumo—graphyは,耐容性のおちた重症患者に対しても侵襲度が少なく,呼吸と循環双方の情報を収集する可能性をもつ検査法であり,その歴史と現状を考察することは意義深いものと考えた。

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 Coronary spasmはその虚血性心疾患の成因に果たす重要性が再認識され,ここ数年来この分野での最も興味ある研究課題となっている。

 1772年にHeberdenは狭心症の臨床概念を詳細に記載したが,その中でnonexertional formの狭心症の存在について触れている1)。1910年Sir William Oslerは初めて「arterial spasmが狭心症の原因となりうる」と提唱した2)。その後,心電図学の発達と共に狭心発作時に一過性のST部分の上昇を認ある症例の報告がなされたが3,4),当時はBlumgart等による「急性心筋梗塞はその剖検所見より冠動脈の一枝あるいは多枝の完全な粥状硬化性閉塞が原因であり,従って狭心症は器質的な冠動脈の狭窄により生じ,胸痛は心筋の酸素消費がその供給をうわまわる時に生じる5)」との考え方が一般に受け入れられていた。1959年にPrinzmetalらは異型狭心症の臨床像を詳細に解析し,その診断基準を提唱したが,3例の剖検所見より冠動脈主幹部の高度の動脈硬化性狭窄病変部に冠動脈の緊張亢進の起こることが狭心発作の発生機序であろうと推測した6)

解説

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 高頻度陽圧呼吸HFPPV (high-frequeney positive pressure ventilation)は,人工呼吸の呼吸数を極端に増加させた方法である。1970年ごろ,スエーデンにおいて,初めは動物実験用に1),ついで臨床麻酔の特殊な状況で種々に応用されていた2)が,最近特に急性呼吸不全時における人工呼吸法として注目をあびるようになった3,4)。本誌でもすでに1976年に菅井直介先生が解説を試みられているが5),その後いろいろと知見も加わっており,また筆者自身がこのための人工呼吸器を開発し6),そのガス交換能を検討したりもしている7)ので,改めて解説を試みたい。本解説は二部にわたっているが,第一部はいわゆる解説であり,これに対して第二部はHFP—PVに対する疑問,問題点などに対して筆者の実験データと仮説を提出するものである。

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 左室心筋への血流は拡張期に優位であり,内層(Endo—cardium:ENDO)と外層(Epicardium:EPI)とでは,心一周期の間に異った血流の分布がなされる。すなわち,収縮期においても心筋内圧が冠灌流圧より低い1)EPIでは,収縮期拡張期を通して血流が保持されるのに対し,ENDOでは,収縮期に心筋内圧が冠灌流圧を凌駕するため機械的に遮断され,拡張期における血管抵抗の著しい減少(diastolic autoregulation)2)によって血流が保たれている。これは,EPIに比較してENDOでは,血管抵抗を減少させる予備能を,正常状態でもより多く消費していることを意味する。心筋内圧に対して相対的に冠灌流圧が低い冠動脈狭窄症や大動脈弁狭窄症などでは,その予備能の少ないENDOが容易に虚血に陥る。図1は,72時間に及ぶshock状態ののち死亡した大動脈弁狭窄症例(左室—大動脈圧較差80mmHg)の心臓の割面である。中隔を含めた左室全周のENDOに限局した梗塞がみられる。

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 局所心室壁挙動と同様に心電図変化,特にST seg—mentの偏位も心筋虚血を知る指標として古くから用いられている。しかし,一般に使用されている体表面心電図は,"虚血部の中心の電気的変化を常にとらえているとは限らない"や,"心内膜下や心筋内の狭い範囲の虚血を反映しうるかどうか"などの問題や,虚血以外の他の要因の影響などにより,局所心筋の虚血を真に表現しているとは限らず,false-negativeやfalse-positiveが多いのも事実である。

 虚血時の心電図学的所見と心室壁挙動との関係や,虚血に対し,どちらがよりsensitiveであるかという問題は興味のあるところである。Heyndrickxら1)は,心筋内心電図とminiature ultrasonic crystalを用い局所長を測定した意識下犬での実験で,冠動脈結紮時の虚血壁の心電図ST segmentの偏位と壁挙動とを検討した。

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4.麻酔と冠状動脈血流

 生体に侵襲が加えられた場合,一連の防御反応が起ってこれに対処するが,過剰な反応は,かえって生命の泉を枯渇させてしまうことはよく知られている。麻酔は,この過剰な防御反応を抑えながら,加えられた侵襲から生命を保護するための一つの手段となる。しかし一方では,麻酔のために使用される薬剤は,大部分のものが生体の機能を抑制するように働くことから,その個体にとって過剰となる投与は,かえって生命を脅かすことになる。心機能や冠状動脈血流に及ぼす麻酔薬自体の効果は,動物実験をはじめ臨床例でも多くの報告があり,大体において一定した結論に達しているようであるが,冠状動脈血流の需要と供給の関係は,その時の状況次第でいくらでも変化するもので,とくに重篤な症例では,動物実験で安定した時期に得られた結論とは,また別の考えが必要になる。

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 水溶性ヨード剤を造影剤として心血管腔内に注入しX線写真をとる方法,いわゆる血管造影が行なわれてひさしい。しかしこの解析方法は,主として形態診断のみにとどまっている。血管造影法を動態解析法の一つの方法として利用することは,1938年Robbら1)によってRoentgen-densitometryを用い,cardiac-pulmonal cir—curation timeを測定することによって始められた。1964年には,Woodら2)によってRoentgen-video—densitometryの装置が開発され心機能の詳細な観察方法として利用された。本邦においても小林ら3)は,cine—densitometryにより血流速度を計測した結果を報告,また滝沢ら4)は,肺機能についても評価を試み報告している。しかしRoentgen-densitometryを行なう場合,X線の問題,造影剤の問題,装置の問題と種々の複雑な問題が含まれており,このための臨床的応用はまだ充分になされていない。

Bedside Teaching

肺胞低換気症候群 大塚 洋久
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 肺胞低換気症候群は,比較的稀な疾患であるが,その病像は,興味深い。近年,呼吸の神経調節に関心が集まるとともに,注目されるようになった。血液ガス分析が普及し,本症を容易に診断しうるようになった現在,それについて理解を深めることは重要と考える。

 肺胞低換気症候群の定義は確定していない。狭義には,原因不明の低換気をきたす,いわゆるOndine症候群のことである。しかし,通常はPickwick症候群をそれにふくめる。Pickwick症候群とsleep apneaとの異同は,さらに複雑な問題である。

呼吸刺激薬 藤田 達士
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〔術後の回復室で〕

A医師:この患者は49歳女子,胃癌の根治郭清術後です。PaO2は120 mmHg (F1O20.4)と良いのですが,PaCO2が49.5mmHgで呼吸抑制があるようですし,術後2時間で,なお呼びかけにやっと開眼する程度です。

教授:麻酔はNLAですね。Lorfanは十分投与しましたか?

呼吸刺激剤 岸 不盡彌 , 村尾 誠
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 いわゆる呼吸刺激剤は,主に呼吸中枢の抑制による換気量低下のため肺がガス交換障害に陥っている呼吸不全患者,麻酔患者,薬物中毒患者などの呼吸中枢を,直接あるいは間接に刺激して換気量を増加させ,動脈血ガスの改善をはかることを目的とする薬物である。

 肺胞換気量の低下をともなった急性呼吸不全では,高炭酸ガス血症の悪化を防ぐ対策として,人工呼吸器による補助呼吸が信頼できる方法として行なわれているが,機器の装着,操作,離脱などに熟練を要する。一方,呼吸刺激剤による治療は,歴史が古いにもかかわらず救急的に単発効果を狙って使用されるにすぎなかった。その理由は,第1に,古典的な中枢興奮剤Caffeine,Amino—phylline,Pentylenetetrazol,alpha-Lobeline,Niketa—mide,Bemegrideなどによる呼吸刺激は,中枢神経全体の刺激であるために,最大の呼吸刺激閾では必ず,嘔吐,咳嗽,気管喉頭痙攣,筋肉の痙攣などの副作用をともなう。

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 心エコー図法の普及により,肥大型心筋症が容易に発見されるようになり,心電図所見から虚血性心疾患と診断されていた例の中に肥大型心筋症が含まれていたことが知られた。両者の鑑別には心エコー図が有用であるが,非対称性中隔肥厚(ASH)を認めた症例に狭心症様の訴えがあった場合に,冠動脈疾患を合併しているか否かを心エコー図で判定することは困難である。しかし,ASH例において冠動脈疾患の合併の有無を診断することは,治療および予後を検討する上できわめて重要な意味をもつ。

 以下,症例を示して,ASHに伴う冠動脈疾患の診断について考えてみたい。

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 全肺CO2再呼吸法によって,混合静脈血PCO2(PvCO2)を非観血的に測定する事は1950年代より多くの研究者により試みられている1〜4)。また得られたPvCO2を使って,Fickの原理による心拍出量の非観血的測定がなされ,臨床的応用の可能性が議論されている5〜8)。さらに,実際のPvCO2,PaCO2と再呼吸によるPACO2とを比較して,肺胞と血液の間でガス交換がなくなった時に,正の,A—vDCO2,A-aDCO2が観察されており,この現象の解釈として血液のCO2不平衡説9,10)と肺毛細血管膜の電気的負荷電によっておこるとする考え11)とが対立している12)。しかし,A—vDCO2を議論する前に全肺CO2再呼吸法そのものの基準を明確にする必要がある。

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 人におけるプロスタグラディンE1(PGE1)の血圧下降作用はBergström1)が初めて報告して以来Karim2),Carlson3),Okada4)らによっても確認されている。その作用発現は速やかで,作用時間は短かく,冠循環に関して多くの種で冠拡張作用があり5),腎臓では水利尿,ナトリウム利尿作用がある6)など心血管系に対して様々な利点があり,血管拡張剤療法に十分使用できるものと思われる。しかし臨床的に使用されているのは重症先天性心疾患のPDAを開存させるため7)やBürger病に限られている。

 我々は弁膜症開心術麻酔に際して末梢血管拡張作用があり,心筋抑制の少ないモルフィンを用いているが8,9),麻酔導入後すでに心拍出量の低下と末梢血管抵抗の増大を示し,麻酔による循環動態の悪化を認め,血管拡張剤療法の適応であると思われる。しかし血管拡張剤に対する循環系の反応は僧帽弁閉鎖不全症(MR)と僧帽弁狭窄症(MS)など疾患により異なっており10,11),またニトロプルシッド12),ニトログリセリン13)等の血管拡張剤投与によりPaO2の低下が報告され,血管拡張剤療法の適応・薬剤の選択・投与方法などについて問題も多い。

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 急性あるいは慢性難治性うっ血性心不全患者では,しばしば著明な肺うっ血とともに低心拍出量状態に対応して,体血管抵抗と静脈緊張が代償的に増加する。このような左室流出路インピーダンスの増加と左室終末弛期圧の上昇は,左室張力の増しから心筋酸素消費量を増大させ,結果的にきわめて不利な状態をもたらす1〜4)。急性左室不全あるいは急性肺水腫に対する後負荷や前負荷の軽減療法の試みは,自律経神節遮断剤の臨床導入以来,しばしば行なわれ,急性症状の改善に好結果をえた5〜7)。しかし,重症慢性左室不全に長期的かつ効果的な負荷軽減療法が行なわれるようになったのは,近年,有効な経口血管拡張薬が広く臨床に応用されるようになってからである。体動脈,または同時に体静脈の血流抵抗を減じ後負荷や前負荷を軽減すれば,左室張力の減少から心筋酸素摂取量の減少を結果し,一方左室駆血が容易に行なわれ,不全心の仕事能を改善し,症状の軽減が期待できる8〜46)

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 心臓にすでに障害を有する虚血性心疾患(IHD)について積極的に運動療法を行うことにはそれなりのリスクを伴うが,IHDの運動療法には2次予防の面で大きな関心が寄せられている1,2)。その意味で真に有効であるか否かはなお不明であるが,運動療法によってIHDを有する患者でも身体適性を増しうることは多くの研究で示されている3〜6)。わが国ではIHDに対する運動療法があまり積極的に行われていないので,これらの点に関する成績はほとんど報告されていない。今回は,これまでわれわれが行ってきた混合監視型の運動療法を7),IHDについてに12週間行った際に得られる身体的側面の効果,主として酸素輸送系に対する急性の効果について述べるとともに,運動療法の効果の発現を阻害する要因として冠循環障害の状況と肥満の影響についても言及し,IHD患者のTrainabilityに関して考察する。

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 1966年,Mills1)らによりカテーテル先端型電磁流速計が開発され,心大血管内血流速度の電磁流量計による測定が可能となった。しかし,臨床での本法の使用は左室機能の評価を目的とした大動脈最大血流速度および最大血流加速度の2〜4)測定,およびその他の少数例に限られている。

 ところで,循環器病領域において心大血管の狭窄は主要な病態のひとつをなし,狭窄の程度の評価には古くから狭窄部位前後の圧較差が一般に用いられている。しかし,狭窄部位前後の圧較差は血流速度により変化するため,圧較差のみでは狭窄の程度の評価は困難である。

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 僧帽弁輪部の石灰化病変に関する報告は,1930年代から数多くみられ,直接的な原因は現在に至っても今だ明らかにされていないが,近年ではLev1),Lenegre2),Fulkerson3),およびPomerance4)らの詳しい論文があり,その病態変化は不整脈を中心に僧帽弁や大動脈の石灰化等,多彩にわたって存在することが知られている。我々の施設でも,ここ数年来明らかに僧帽弁輪部の石灰化病変が確認された8例を経験したが,その多くに失神発作を呈する高度な房室ブロックを伴い,さらにヒス束電位記録により第1度から第3度にわたるヒス束内ブロックを呈していた例が多く認められたため,うち1症例を提示し,多少の考察を加え報告する。

基本情報

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呼吸と循環
29巻6号 (1981年6月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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