整形・災害外科 64巻8号 (2021年7月)

特集 月状三角骨障害の診断と治療

建部 将広
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手関節の尺側部痛は手関節をひねる動作などで悪化することが多く,交通外傷や労災・スポーツ外傷などで生じる一方,尺骨突き上げ症候群のような慢性疾患も存在し,正直「わかりにくい」分野であることは想像に難くありません。また,尺側部痛を生じる病態は多数存在していますが,その中でも今回,月状三角骨障害をテーマとしてエキスパートの先生にお願いして執筆していただきました。私が知る限り,このテーマに絞っての特集は今までになかったと思われます。

月状三角骨関節の解剖 森谷 浩治
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要旨:月状三角骨(LT)関節は平面関節に分類され,可動範囲は少なく,その運動を制限ないし可能としているものは月状骨や三角骨の骨形態および内・外在の手根靱帯になる。LT関節の一次的な制動機構である月状三角骨間(LTIO)靱帯を切離しても,両骨間にわずかな間隙が生ずるだけで,手部にかなりの圧迫力を加えない限り近位手根列掌側回転型手根不安定症は生じない。しかし,これにLT関節の二次的な制動機構となる掌・背側手根靱帯の断裂が加わると静的な不安定性が認められるなど,LT障害の診断には種々の内・外在手根靱帯について深く理解しなくてはならない。LT関節に関係する靱帯の多くは神経支配が豊富であり,そこから得られる固有受容性感覚に加えて,LTIO靱帯が切離された状況下で三角骨を従来の位置へ復帰させうる尺側手根伸筋はLT障害に対する保存治療にとって重要となる。

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要旨:手根中央関節の中で月状三角骨関節がどのようなバイオメカニクス的意義をもつのかを解説した。月状骨三角骨ユニットと有頭骨有鉤骨ユニットの関節は2軸性の楕円関節である。手関節の運動方向にかかわらず,手根中央関節において,月状骨と三角骨は常によく似た動きをする。遠位手根列の有頭骨と有鉤骨の間にはほとんど動きがないが,月状三角骨関節は平面関節でスライドするように平行移動することができる。手関節橈尺屈運動において2型月状骨に対する三角骨の動きは1型月状骨における三角骨の動きよりも大きい。有鉤骨から近位方向に軸圧がかかると三角骨は掌尺側にシフトしながら橈背屈しようとする。このモーメントが月状三角骨間靱帯,舟状月状骨間靱帯を通じて月状骨,舟状骨に伝わる。正常手関節ではこの力は舟状骨が生み出す掌背屈モーメントとつりあって手根配列を維持している。

月状三角骨障害の理学所見 恵木 丈
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要旨:月状三角骨障害は,月状三角骨間靱帯損傷(LT損傷)により生ずる手根不安定症の一種である。背側LT関節間の圧痛以外の特徴的な症状は,手関節尺屈時や回外時に手関節尺側部痛が誘発されることで,そのときに轢音や異音を伴うことが多い。LT損傷の正確な診断は困難だが,その主な理由は手関節尺側部痛を呈する疾患が多く鑑別診断が多岐にわたる点と,LT損傷に対する画像診断能が低く,それを診断の決め手として用いることができない点にある。そういった状況において理学所見は感度が高い有効な検査法であり,画像診断と組み合わせることによって正確な診断の助けとなる。LT ballottement test,Shear test,LT compression testの3種類が,LT損傷に対する特異度が高い理学所見なので特に有用である。

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要旨:月状三角骨障害は手関節尺側部痛の原因の一つであり単純X線でのVISI変形が有名だが,多くの症例では正常であり見過ごされやすい。病歴の確認や丁寧な身体診察の後,月状三角骨障害を含めた手関節尺側部痛の鑑別として画像診断を進めていく。単純X線,MRIともに適切な撮像方法やパラメータを設定し,鑑別可能な疾患をしっかりと読影していくことが重要である。近年MRIの性能の向上や専用のコイルによって,様々な手関節尺側部痛の病態を捉えることが可能となってきているが,月状三角骨靱帯損傷に関しては未だ感度は高くないのが現状である。造影剤の使用や撮像方法の工夫,牽引の併用など,診断率を向上させるための様々な工夫が報告されている。身体診察と画像診断を照らし合わせながら,必要であれば関節鏡を併用して最終診断および治療を行う。

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要旨:手関節鏡は月状三角骨(LT)靱帯損傷,同関節障害の確信的診断手技である。橈骨手根関節ではLT靱帯の中央部から背側部分を鏡視して損傷を検索する。手根中央関節ではLT関節の不安定性の検索を行う。重症度の評価はGeissler分類が有用であるが,不安定性のみではなく,LT靱帯損傷に伴う周囲組織の変性所見,すなわち月状骨,三角骨の軟骨面,三角線維軟骨複合体損傷,有鉤骨軟骨面,滑膜炎,さらに三角骨に付着するextrinsic ligamentの合併損傷を評価することが,治療手段の選択に必須の情報となる。慢性疼痛例における異常所見の混在においては,無症候性異常所見の存在を念頭に,理学所見とともに総合的に判断しながら疼痛源の特定を行う必要がある。

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要旨:月状三角骨(LT)障害の原因はMayfieldらの舟状月状骨(SL)靱帯損傷のミラーイメージであるLT靱帯損傷を端緒として生じる場合と,尺骨突き上げ症候群,すなわち尺骨の橈骨に対する相対長が一次性または二次性に長いために尺骨頭がLTに突き上げることで生じる場合が考えられる。前者は純粋な外傷性靱帯損傷であるが,慢性期に移行すると月状骨の掌屈変形(VISI変形)を生じ,手根不安定性となる。後者は三角線維軟骨の変性や月状骨,三角骨,尺骨頭の関節軟骨障害などに伴い,手関節尺側部痛を生じる。診断はX線,関節造影,MRIで行うが,手根骨自体の障害の把握にはMRIが有効である。最終的には手関節鏡で診断する。治療はLT間の仮固定に加えて,尺骨plus variance例ではplus varianceを矯正する目的として,また,neutral variance例で動的な尺骨突き上げ症候群の場合では,除圧・遠位橈尺関節不安定性の解消と同時にLT間の安定化が得られる尺骨短縮術を併施することが有効である。

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要旨:月状三角骨障害は,手関節尺側部痛の原因となる診断が困難な手根靱帯損傷を基盤とする障害である。月状三角骨靱帯損傷の治療は損傷の程度により異なる。背側橈骨手根靱帯を用いたcapsulodesisは受傷3カ月以降の慢性月状三角骨靱帯損傷で,月状三角骨間がGeissler分類grade Ⅲ・Ⅳの不適合性・動的不安定性を有する症例が最も良い適応となる。本術式は,背側橈骨手根靱帯を月状骨および三角骨背側に縫着することで月状三角骨間の背側靱帯,背側橈骨手根間靱帯を同時に補強し,月状三角骨間を安定化させることができる。その利点は背側進入で容易に術野に進入でき,手技が比較的簡便であることである。さらに鏡視下にsuture anchorを挿入することで,より低侵襲に行うことができることである。一方,その欠点は骨間靱帯としてより重要である掌側靱帯の処置ができないことである。本術式は月状三角骨障害に対して,比較的低侵襲で疼痛改善が期待できる術式である。

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要旨:外傷性月状三角骨障害(LT障害)についてはLT靱帯のみかextrinsic ligament(DRCおよびDIC)も損傷しているかを考慮する必要がある。近位と背側または掌側LT靱帯損傷のみではVISI変形はきたさず,全損傷すると三角骨が月状骨に対して回外するといわれている。さらにDRC,DIC靱帯も損傷されるとstaticなVISI変形を呈する。VISI変形をきたさないLT損傷では近位側でflap状に損傷している場合や三角線維軟骨複合体(TFCC)の背側損傷を伴っている場合が多いので,これらを鏡視下に治療することができ,その方法を紹介した。VISIをきたしている場合はLT靱帯およびDRC靱帯の再建が必要である。現在のところ正確に鏡視下に靱帯を再建するのは難しく,DICを用いた再建法を紹介した。

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要旨:月状三角骨障害の病態は多岐にわたり,選択される手術などにより後療法の開始時期や負荷も異なる。系統的な後療法は確立されていないが,関節症変化を予防しながら,手関節可動域や握力を獲得することが主な目標となる。関節保護の観点から,手関節装具は必須となる。手関節尺側部を安定させるためには装具の形状に注意を払う必要がある。固定除去後は愛護的な持続伸長や自動運動を中心に可動域の拡大を図り,握力とともに前腕筋による動的支持機構の回復に留意する。特に尺側手根伸筋は月状三角骨関節の支持性に寄与していることから,固定期においても等尺性運動を実施し,固定除去後には荷重や日常生活での使用を目指し,筋力増強とともに神経筋再教育を実施することが望ましい。

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2019年の年末に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2020年1月28日に国内1例目が報告され,2020年2月3日には感染者とともにクルーズ船が入港した。国内の学校は休校になり,3月11日,WHOがパンデミックを認定,欧米では都市のロックダウン,国内でも外出制限などが要請されたが感染症の蔓延は歯止めがかからず,4月には全国に緊急事態宣言が発出された。

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不安定型骨盤輪骨折は高エネルギー外傷に合併し,その90%以上に他部位の損傷を認めるため1),全身状態を鑑みた治療プランの決定が肝要である。

スポーツ医学 つれづれ草

腹ふくるるわざなれば 武藤 芳照
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先般,あるスポーツ関係の会議の席上,どうにも気に掛ったので,挙手の上,発言したことがある。団体の役員候補者の選考に当たっての条件の一つに,「人格高潔にして,心身共に健康であること」と記されていた。前段の「人格が高潔である」にはまったく異論はないが,後段の部分は,場合により偏見と差別を生むリスクがあると指摘した。

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要旨:光学および映像技術の発展に伴い,関節鏡の細径化と画質の改善から,外来にて穿刺による関節内構造物の鏡視を可能とするニードル関節鏡が開発・販売されている。日本においても特殊なイメージガイドを用いたニードル関節鏡を開発し,臨床研究を行ってきた。ニードル関節鏡は市場への流通が始まったばかりであるが,今後,関節外科診療における新たな診断技術として,そして,その医療経済的な効果に注目が集まることが予想される。

机上の想いのままに

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聖徳太子による十七条憲法は,第一条が「和をもって貴しとなす」で始まり,第十七条「それ事を独り断むべからず,必ず衆とともによろしく論ふべし」で終わる。

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要旨:頚椎の脊柱管前後径をCTの計測値を用いて評価した。C1で前後径が最も大きく徐々に小さくなり,C4~C6レベルでは平均12mm未満であった。年齢とともに下位頚椎の脊柱管前後径は小さくなり,頚髄症を呈する症例では,頚髄症を呈さない症例と比べ前後径は小さい結果となった。一方,男女の比較ではC1を除き有意差は認めなかった。頭蓋頚椎移行部において,大後頭孔前後径が大きい症例は,それに引き続く上位頚椎の脊柱管前後径も大きい結果となった。

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要旨:過去36年間に内固定した大腿骨頚部骨折患者を対象に,遅発性骨頭圧潰(LSC)の発生率や発生時期を調査した。症例は1983~2018年の494例で平均年齢は77.6歳(15~104歳),Garden分類のstageは非転位型399例,転位型95例,術後の平均観察期間は2年3カ月,LSC発生数は48例であった。調査項目を術後2年以上の観察例でのLSC発生率,LSC発生時期,LSC発生時期の比較,再手術率と再手術法,LSC発生から再手術までの期間とした。LSC発生率は非転位型14.9%(22/148例),転位型48.1%(26/54例),発生時期は術後3カ月~10年,平均2年3カ月で術後1~2年に最も多く,発生時期の比較ではGarden stage,性別,年齢で有意差はなく,再手術率は52.1%(25/48例)で再手術法は人工骨頭15例,人工股関節10例であり,LSC発生から再手術までの期間は1カ月未満~2年7カ月,平均6.9カ月であった。長期観察期間で評価すると,LSC発生率は非転位型,転位型ともに予想以上に高率であった。

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要旨:膝蓋骨骨折に対する骨接合術はKirschner鋼線(K-wire)や軟鋼線などの金属を用いたtension band wiring(TBW)法が一般的だが,金属による不具合が散見され,多くの症例で抜釘手術が必要となる。近年,破断強度の強いFiberWire®(FW)などを用い,金属を使用しないstrong suture(SS)法の良好な成績が報告されている。本研究では,膝蓋骨骨折に対して行ったSS法11例とTBW法16例それぞれの臨床成績を後ろ向きに比較しSS法の有用性を検証した。正座可能症例は,SS法で6例,TBW法で3例,皮膚刺激症状は,TBW法で13例に認めたが,SS法では認めなかった。抜釘・抜糸手術はSS法では要しなかったが,TBW法では13例に行われた。以上の検討項目においてSS法が有意に優れた結果となり,TBW法が優れていた項目は認めなかった。膝蓋骨骨折に対するSS法は有用であると考えられた。

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要旨:バレーボール選手に生じる上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD)は比較的まれである。症例は16歳女性,ポジションはセッターで9カ月前より左肘関節痛が出現した。当院を受診し,OCDの透亮期と診断し保存治療を施行するも,分離後期に進行し症状の改善がないため,鏡視下病巣掻爬術およびドリリングを施行した。術後4カ月で疼痛,可動域制限は消失し,スポーツに復帰した。本症例は非利き手に生じており,メカニカルストレスのほかに内因性因子の関与が示唆された。

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要旨:警策(きょうさく,けいさく)は座禅の際,修行者の肩部ないし背部を叩打するための棒を指す。臨済宗の修行僧であった患者が,慢性的に警策で背部を叩打されていたことが原因で左右の背部に長径約6cm大の黒色壊死組織を伴う皮膚潰瘍を受傷した。当科でdebridement,分層植皮術を施行した。この症例のように,修行僧が慢性的に同じ部位に外傷を受け,潰瘍形成した症例は文献的に検索した限りでは,確認できなかった。

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整形・災害外科
64巻8号 (2021年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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