整形・災害外科 60巻8号 (2017年7月)

特集 非定型大腿骨骨折の病態と治療

序文 斎藤 充
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近年,骨粗鬆症治療薬としての骨吸収抑制剤が広く使用されるようになり,本邦でもある年代においては,大„骨近位部骨折が減少に転じるという素晴らしい成果を上げている。しかし,一方で,骨吸収抑制剤の長期使用による合併症である顎骨壊死や非定型大„骨骨折の話題が学会や学術誌で頻繁に取りあげられるようになった。しかし,骨吸収抑制剤の使用は,非定型的大„骨骨折の一つの危険因子にすぎない。骨吸収抑制剤を使用していなくても,非定型大„骨骨折は発生する。こうした病態に対峙するには,病態を理解し,その要因,リスク因子を一つひとつ明らかにすることが必要である。リスクの多重化は,イベント発生率を飛躍的に高めるからである。日々,患者さんを目の前に診療をする整形外科医は,ガイドラインなどを熟知しつつ,過去のエビデンスだけでは対応しきれないことに関しては,個々の経験をもとにエキスパートとして最終判断をして治療にあたっている。

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非定型大腿骨骨折(AFF)は軽微な外力によって大腿骨小転子遠位部直下から顆上部の直上までに生じる骨折である。その定義には米国骨代謝学会のタスクフォースレポートが用いられる。ASBMRの基準に基づいて検討した発生率(/1,000,000人・年)はスイスで32,米国で59 と報告され,BP使用例ではそのリスクが上昇する。わが国での2010〜2015 年の全国調査結果では大腿骨近位部骨折数に比較して発生数はその0.3〜0.5%で,BP使用例の割合は29.9〜66.5%で,このうちBP 使用期間が3年以上の症例が45.4〜63.2%を占めていた。

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非定型大腿骨骨折(AFF)の成因については未だ不明な点が多いが,われわれが行った多施設共同研究症例の結果をもとにそのリスク因子について検討した。AFF27 症例37 骨折(両側10 例),男性1例,女性26 例,平均年齢74.2歳を対象とし,各種評価項目を検討した。その結果,BP 製剤使用例は21 例,投与期間は平均6.2 年,骨折部位は,転子下18,骨幹部19であり,完全骨折25,不全骨折12 であった。また大腿骨外弯あり17,なし20 であったが,外弯ありの17 骨折はすべて骨幹部に発生していた。骨癒合期間は平均8.6 カ月であり,完全骨折が平均11.3 カ月であったのに対し,不全骨折は平均3.7 カ月であった。全症例をBP 関連型:4 例,薬剤・合併症型:3 例,外弯型:2 例,混合型:18 例に分類した。本骨折の成因は単一のみでは説明し難く,相互作用による骨質の劣化や,機械的ストレスが絡んだ多因子関与である。

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非定型大腿骨骨折(AFF)の要因として,ビスホスホネート製剤長期服用に関しては頻繁に言及されているが,実際はAFF 患者の中にも,ビスホスホネートなどの骨吸収抑制剤を内服していない患者は数多く存在しているため,ほかにも様々な要因が影響していると考えられている。近年,大腿骨の過度な弯曲変形や下肢アライメントなどとAFF の関連を示す報告がみられるようになってきており,広く認識されるようになってきた。さらに,大腿骨の弯曲を伴うAFF と思われた症例であったが,骨生検による骨形態計測を行うと骨軟化症の診断であった症例の報告もみられ,骨軟化症との関連も疑われるようになってきている。われわれは大腿骨の弯曲変形に関して,考えられる幾つかの要因を検討したところ,高齢と低ビタミンD血症のみが,大腿骨弯曲変形との有意な関係性を示す結果となった。これにより,ビタミンD欠乏による骨軟化症の関連が疑われることとなった。

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非定型大腿骨骨折を定義する際,インプラント周囲骨折を除外することが2010 年と2014年に出版されたAmerican Society for Bone and Mineral ResearchのTask Force reportのいずれにおいても明記されている。しかしながら,近年人工関節ステム周囲やプレート周囲の骨折において非定型大腿骨骨折の特徴を持った症例が報告されつつあり,インプラント周囲非定型大腿骨骨折は存在しうると考えられる。ストレス骨折であるという観点から大腿骨にステムやプレートが挿入されていることでその周囲に応力がより集中しやすいという物理的要因に加え,ビスホスホネート使用という生物学的要因の関与が示唆され,これらが複合的に関与しているものと考察される。大腿骨にインプラントが挿入されている状況下でも非定型大腿骨骨折は発生しうると認識することが早期発見,早期治療介入にもつながるので重要と思われる。

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近年がん患者の生命予後の延長により,骨転移患者も増加している。骨転移による病的骨折や脊髄麻痺など,重度の骨関連事象(skeletal related event;SRE)を予防する目的で骨修飾薬が使用される。骨粗鬆症患者への骨修飾薬の長期投与により,非定型大t骨骨折(atypical femoral fracture;AFF)を発症することが知られているが,骨転移に対する骨修飾薬の使用でもAFF 発症の報告があり,注意を要する。骨転移治療に用いられる骨修飾薬の使用用量,使用期間によるAFF の発症リスクには確立した見解が得られていないが,少なくとも長期投与ではAFF 発症のリスクがあるため,注意深い経過観察が必要である。またAFF の発症機序についても,severely suppressed bone turnover(SSBT)の関与が示唆されているが,高用量投与では関与しない可能性も示唆されている。

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非定型大腿骨不完全骨折は完全骨折に移行することがあるため,最初から手術療法を推奨する報告が散見されるが,疼痛がごく軽度な症例や報告によってはradiolucent line が認められない症例に対して保存療法は試みられて良い方法であると考えられる。保存療法としては原因薬剤の中止,免荷,薬物療法,低出力超音波パルスなどが単独であるいは併用して行われる。原因薬剤がbisphosphonate製剤の場合には中止すべきであるが,中止するだけで骨癒合を期待することはできないと考えられる。Denosumab も中止した方がよいと考える。免荷は完全骨折に移行することを予防するためにも行われることが多いと思われるが,それだけで骨癒合する例は少ないと認識するべきである。薬物療法や低出力超音波パルスに関しては明確なエビデンスはない。しかし,calcium とvitamin D は十分量の投与が推奨されていて,daily teriparatide に関しては有効であるという症例報告が散見されているもののweekly teriparatideに関しては症例報告も少ない現状である。

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非定型大腿骨骨折(AFF)の発生の増加および認知度の高まりにより,不全骨折の状態で診断されるAFFも増加している。しかしながら,不全骨折に対して手術加療をいつ・どのような患者に・どのような方法で行うかに関するコンセンサスは未だ得られていない。われわれは,文献的考察および自験例の解析から,転子下に発生した不全骨折の予後が骨幹部発生例と比較し不良であることを明らかにした。このことから,われわれは特に転子下骨折例に対しては予防的手術を積極的に実施している。しかし,この骨折は単なる珍しい骨折ではなく,様々なリスクファクターの総和がその発生に関与しているため,いかに完璧に手術加療を行ったとしても,AFF の発生要因の改善を行わなければ術後成績の向上,患者のADL の向上は望めない。不全骨折の治療にあたっても,AFF のリスクファクターの理解の上にそれぞれの患者ごとにリスクを評価して治療方針を検討していく必要があると考える。

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非定型大腿骨骨折に対し,当科で観血的治療を行った21 例25 肢を調査検討した。全例女性で平均77.1歳,骨折部位は骨幹部17 肢,転子下8 肢であった。完全骨折は18 肢,不全骨折は7 肢で,骨折部位は骨幹部17 肢,転子下8 例であった。21 例中13 例に大腿骨の強い弯曲を認め,ビスホスホネート製剤は13 例で使用されていた。手術は全例髄内釘固定を行い,大腿骨弯曲が強い5 肢に術前に髄内釘を大腿骨の弯曲に合わせて成形し使用した。骨癒合は遷延傾向にあったが,1 例を除いて全例で骨癒合が得られた。Implant failure は1 例もなかった。観血的治療の内固定材料としては髄内釘を選択すべきであり,大腿骨強弯の強い症例には術前に髄内釘を曲げて使用することが有用な方法である。また不全骨折に対しては,疼痛がある場合には予防的髄内釘固定を行うべきである。

Personal View

目の前にないもの 筑田 博隆
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臨床医の仕事は,目の前の患者さんを治すことである。患者さんの訴えをきき,所見をとり,治療をおこなう。目の前の手掛かりから,患者さんの身体のなかで何がおきているかを推し量る。医師は,常に「目の前にあるもの」に注意をはらうよう訓練されている。しかし「目の前にあるもの」をみていては,みえ難いものもある。

整形外科手術 名人のknow-how

円板状半月板損傷の治療 橋本 祐介
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円板状半月は外側に多く,欧米より東アジアに多い疾患であり,関節鏡視下手術のうち数%〜15%を占める疾患1)であることから,日本では比較的一般的な疾患である。近年は診断技術が進歩し,円板状半月の診断はMRI 撮像によって容易にできるようになった。一方で,様々な形をした円板状半月が存在することもわかってきた。本稿では,円板状半月の最近の治療に直結した診断方法と手術方法を紹介する。

整形外科用語の散歩道

617.Tract路,索 国分 正一
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英語tractのラテン語はtractusである。粗大解剖でtractus iliotibialis 腸脛靱帯を憶え,次いで脳・脊髄の解剖でtractus corticospinalis皮質脊髄路,tractus spinothalamicus脊髄視床路などを学んだ。英語では語尾を外して語順を変えれば良い。丸暗記したラテン語が無駄になっていない。

618.Trismus 咬痙 国分 正一
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歯科か口腔外科の用語と思しきこのtrismus が日整会用語集に収載されている。Tetanus の症候としてopisthotonus弓なり反張とともに重要であるが故であろう。和名別称の牙関緊急は意味不可解なり。破傷風,中風,風池(K 点の1 cm 下方のツボ)と同様に漢方由来の用語に違いない。

619.Vertebra 椎骨 国分 正一
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脊椎外科を駆け出しの頃,Wirbel 脊椎とか,Lendenwirbel 腰椎,Wirbelkaries 脊椎カリエス,Wirbelsa▲ule 脊柱などと,独語を口にしていた。Wirbelnが回わる,渦を巻くで,Wirbel 自体に渦の意味もある。英語で言えばwhirlである。

620.Weaverʼs bottom 国分 正一
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中学生が不機嫌な顔で,診察室に入って来る。腰痛で学校に行きたがらないと親が言う。手から診る。小指外転筋に圧搾痛があり,K 点症候群である。股屈曲・内転・内旋で下部大殿筋に伸長テストを行う。陽性で,同筋が責任筋と診断した。

医療史回り舞台

『おんな城主直虎』の末裔 篠田 達明
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NHK 大河ドラマ『おんな城主直虎』の主人公で遠州井伊谷の井伊直虎ははたして女性だろうか。マスコミによると「直虎は男である」という新史料がでてきたとの報道もあり,実像は判然としない。

新しい医療技術

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運動負荷は細胞のメカノセンシング機構により感知され,メカノトランスダクション機構により下流に伝達される。現在までにメカノセンシングの起点はイオンチャネルと接着斑複合体であると考えられている。メカノトランスダクションに関してはCa2+や細胞骨格が関与することが示されたものの全貌は未解明な点が多い。メカノバイオロジーの解明は,運動器のみならず,生体そのものの恒常性維持機構解明の一助となることが期待される。

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前十字靱帯再建術(ACLR)では,正常靱帯付着部内に正確に骨孔を作製することが重要である。本研究の目的は,3 束(TB)ACLR術後の骨孔位置と骨孔重複率を3D-CTを用いて計測し,2 束(DB)ACLRと比較検討することである。初回ACL損傷60 例に対し,術式をTB-ACLR もしくはDB-ACLR とした前向きランダム化比較試験を行った。手術での骨孔作製は,いずれの骨孔もoutside-in法を用い,大Ð骨側は両術式ともに2 つ,脛骨側はTBACLRでは3 つ,DB-ACLR では2 つ作製した。術後に3D-CT を用い,骨孔開口部位置と重複について評価した。その結果,全例正常靱帯付着部内に骨孔が作製されていた。脛骨骨孔開口部の重複は両術式ともに約30%に認められたが,術式による有意差を認めなかった。骨孔重複の回避には,正常靱帯付着部の大きさや形状を術前に把握し手術計画を立てる必要性が示された。

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軟部肉腫におけるリンパ節転移の臨床的特徴とリンパ節転移の出現時期や治療介入が予後に影響するか検討した。対象は2005年から2015 年までに当科で治療を行った軟部肉腫症例のうち,リンパ節転移をきたした14 例である。男性が8 例,女性が6 例で,初診時年齢は平均60 歳(3〜89歳)であった。組織型は粘液線維肉腫が6 例,横紋筋肉腫3 例,未分化多型肉腫2 例,類上皮肉腫2 例,悪性末梢神経鞘性腫瘍1 例であった。リンパ節転移の出現時期は原発巣の大きさや外科的切除縁とは相関していなかった。リンパ節転移の出現時期が予後に影響していた。特に術後12 カ月以上経過してリンパ節転移が出現した症例では予後は良好であった。また,治療介入は予後を改善しなかった。本研究では症例数が少なく生存分析ができなかった。今後多施設間での症例の蓄積をもとに,軟部肉腫のリンパ節転移が示唆するさらなる臨床病理学的特徴を明らかにしていく必要がある。

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腹部computed tomography(CT)上での大腰筋横断面積の計測によるサルコペニアの診断スクリーニングの可能性を検討した。Dual X-ray absorptiometry(DXA)と腹部CT 撮影を3 カ月の期間内に実施した女性80 名(75±11歳)を対象とした。腹部CT 上の大腰筋横断面積とDXA によって算出された筋肉量との関連を検討するために,DXA の結果により対象群をサルコペニア群と非サルコペニア群に分け,両群の大腰筋横断面積を比較した。サルコペニア群では大腰筋横断面積が非サルコペニア群と比較して有意に低値となったが,DXA で算出された全身筋肉量とCT 上の大腰筋横断面積の相関は中等度であり,全身筋肉量と腰部筋横断面積が高い相関を示すという先行研究とは異なった結果であった。大腰筋は他の筋群と比較して早期より萎縮が生じると報告されているが,全身筋肉量との関連性が中等度であり,大腰筋横断面積が早期にサルコペニアをスクリーニングできる指標かを明らかにするためには,さらなる検討が必要である。

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野球歴のある7 歳男児のPanner 病を経験した。初診時は上腕骨小頭骨端核の骨透亮像は限局しており,離断性骨軟骨炎と診断した。その後の経過で,骨端核全体の分節化が出現したためPanner 病との診断に至った。安静,生活指導による保存加療を行い症状は消失し,7 カ月後より投球練習を開始,最終経過観察時には制約なく野球が可能となった。

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整形・災害外科
60巻8号 (2017年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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