整形・災害外科 60巻7号 (2017年6月)

特集 整形外科疾患に対するエコーガイド下注射の最前線

序文 皆川 洋至
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X 線像に依存し過ぎた従来の診療スタイルが大きく変わり始めています。レントゲン時代の始まりがそうであったように,見えなかったものが見え,できなかったことができるようになるとパラダイムシフトが起きます。医師の技量が患者への治療レベルを左右する,患者が「エコーを使う医者と使わない医者」を差別化し始めた理由がここにあります。既に整形外科開業医の半数が日常診療でエコーを使う時代に突入していますが(日本臨床整形外科学会報告,2016 年9 月),この流れは国境を越え世界中で同時進行しています。もはや「まずレントゲン」,「骨に異常ありません」,「はい湿布・痛み止め」が通用する時代ではなくなっています。

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急性発症の頚部痛の中でも,「寝違え,むちうち症」など症状名が病名として扱われている現状は,肩における「五十肩,肩こり症」と同じであり,解剖と病態に基づいた評価と治療がなされる必要がある。今回は,①非運動器疾患(例:髄膜炎,くも膜下出血,椎骨脳底動脈解離)と運動器疾患の鑑別,②運動器疾患のうち,炎症性疾患(例:Crowned denssyndrome,石灰化性頚長筋腱炎)と非炎症性疾患の鑑別,③ 運動器疾患の非炎症性疾患(例:筋膜性疼痛症候群,頚椎椎間関節症,頚神経根障害)に関して,その鑑別方法(痛みや可動域制限の原因となっている部位を触診・動作分析・エコーで評価)と治療方法(治療的診断含む)を概説する。頚部は他部位よりも局所麻酔薬による合併症に注意する必要があるため,非炎症性疾患に対して使用する注射薬は主に生理食塩水や重炭酸リンゲルがよい。併せて,再発予防,セルフトレーニングなどの運動指導や生活動作指導が重要である。

五十肩 西頭 知宏 , 田中 基貴
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中高年の肩痛は五十肩と多くの患者が診断されてきたが,これは,整形疾患を診療する医師がX 線を軸に診療を行ってきた結果である。しかし,X線で診断できる肩痛をきたす疾患はわずかであり,エコーを用いて軟部組織を評価し,診断から迅速に治療に移ることが今後の医療現場には求められる。中高年の肩痛の診断に必要なエコー診断像,エコーガイド下注射の注意点と実際,凍結肩に対するサイレントマニピュレーションの1 年成績を提示した。

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人の肘痛には関節内,関節外,両者が混在しているものなど様々ある。そのため,靱帯,筋膜,滑膜,神経,骨など痛みを発している部分を特定することが重要となる。身体所見では圧痛を中心に,障害に応じたspecial testも用いて診断を確定していく。特に圧痛は重要であり,超音波診断装置(以下,エコー)を用いることで圧痛の整合性をとる。またX線像では診断できない障害がほとんどであり,エコーを用いて診断を行う必要がある。障害を診断した後に治療を行う。肘関節治療に革命をもたらしたのがエコーガイド下interventionである。特に肘関節周囲には神経・血管が多く存在しており,超音波ガイド下で行うことにより,実際に神経・血管を見ながら診断部位に安全に注射ができる。また,機序こそ未だ明確な答えは出ていないが,fascia,神経周囲への生理食塩水注射(hydro-release)も注目され始めてきている。回外筋fascia,橈骨神経,尺骨神経など生理食塩水を用いて疼痛が改善される例が存在する。

手指の痛み・しびれ 皆川 洋至
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手指の痛み・しびれを主訴とする患者は日常診療で遭遇する機会が多い。X線診断に依存し過ぎたり,漫然と消炎鎮痛剤やビタミンB12製剤でお茶を濁したりしてはならない。現在,画像診断の第一選択は直接神経が見えるエコーであり,劇的に痛み・しびれを軽減できるエコーガイド下注射は整形外科医にとって必須の手技である。手指の痛み・しびれを引き起こす原因として発生頻度が高い手根管症候群・肘部管症候群・頚部神経根症について,エコー診断のポイント,エコーガイド下治療の実際について解説した。また本稿では,混乱する用語を統一するため,世界に先駆け液体解離(hydrorelease)という言葉を用いた。

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日常診療で頻度の高い腰痛の中でも,非特異的腰殿部痛の多くは筋膜性疼痛症候群,仙腸関節障害,上殿皮神経障害,椎間関節症,腸腰靱帯障害で占められる。動作分析や,それぞれの特異的な圧痛点を見いだすことによって診断が可能である。時にエコーにてfasciaの重積が認められ,生理食塩水,もしくは重炭酸リンゲル液のエコー下注射で診断的治療が可能である。併せて,再発予防,セルフトレーニングなどの患者指導が重要である。

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膝窩部痛は日常診療において頻繁に遭遇する主訴であるにもかかわらず,膝窩部痛の原因や病態はよくわかっていない。変形性膝関節症における膝窩部痛の病態を考察し,新しい治療法としてのエコーガイド下膝窩部関節外注射を行っている。膝窩部内側部痛には半膜様筋と腓腹筋内側頭が,膝窩部外側部痛には腓腹筋外側頭と膝窩筋が関与していると考えており,関節外注射ではそれらの滑液包をターゲットにしている。膝窩部関節外注射の再現性と安全性を担保するには,解剖学的知識とエコーガイド下注射の手技は必須である。

大人の踵部痛 笹原 潤
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大人の踵部痛の診断は,一般的に病歴や身体所見から行われ,画像診断の果たす役割は小さかった。かつて画像診断の中心だった単純X 線検査では,足底腱膜やアキレス腱といった表在の軟部組織を直接描出することができなかったためである。しかし,その状況が今,変わりつつある。近年における超音波画像構築技術の進歩や高周波リニアプローブの開発によって,超音波検査で表在の軟部組織を鮮明に描出することが可能となった。また,簡便かつ低侵襲に,リアルタイムに動的な評価を行うことができるため,超音波診療が急速に普及してきている。これまでブラインドで行われることが多かった注射手技も,エコーガイド下に行うことにより,その精度を高め合併症を減らすことが可能である。骨折に対し単純X 線検査を行うことが「常識」であるように,大人の踵部痛に対する超音波診療も,これからの「常識」になると考えている。

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アメリカでは,スポーツ外傷・障害だけでなく,加齢性変化を含む「すべての運動器に生じうる問題」に対するアプローチ方法は,明確に2 つに分かれる。整形外科手術にて治療を行うsurgical 整形外科と,「手術を行わずに治療するnon-surgical 整形外科」である。Non-surgical整形外科での治療は,いわば徹底的運動器保存療法である。運動器超音波を用いた詳細な診断だけでなく,超音波ガイド下注射は広く普及している。一般的な消炎鎮痛剤の超音波ガイド下注射だけでなく,5%ブドウ糖水(5%dextrose in water;D5W),多血小板血漿(platelet-rich plasma;PRP)や幹細胞(mesenchymal stem cells;MSCs)を用いた「局所再生」を目指した注射が盛んである。また,慢性例や注射治療抵抗例に対しては超音波ガイド下経皮的最小侵襲手術が行われる。

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国際疼痛学会での定義では,痛みとは実質的,または潜在的な組織損傷に関連した不快な感覚,情動体験とされている。痛みは本人にしか分からないことであるから,患者にそれを正確に伝えてもらい,かつ我々がその情報を正確に受け取らないと正しい診断や治療を行うことは難しい。一方,多くの患者が,これを理解しない。医師にその経過を詳細に伝えることなく,痛みの解決を求める患者が少なくない。とにかく検査を希望する患者や,その検査結果が痛みの証明にならないことに憤慨する患者も少なくない。その結果,不満が残ったり,クレームを投書される事態が発生する。

整形外科手術 名人のknow-how

足関節外側靱帯再建術 高尾 昌人
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足関節外側不安定症に対する術式は,時代とともに非解剖学的再建術から解剖学的再建術に移行していき,さらに近年は鏡視下手術や小切開手術などの最小侵襲手術へと進化を遂げている。本稿では,われわれが行っている最小侵襲手術手技について論述する。

整形外科用語の散歩道

613.Translation 並進 国分 正一
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初めに覚えたtranslation の意味は英語から日本語へなどの翻訳であった。Interpretation 通訳と混同して使ったりしていた。Translateはラテン語trans- 横切って+latus運ぶであり,一方向性で文章の場合に当て嵌まる。Interpretはinter- 間で解釈・説明の双方向性で,会話の通訳となる。

614.Triquetrum 三角骨 国分 正一
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ネギ(葱)の学名はAllium fistulosumである。その仲間にAllium tuberosumニラ(韮)やAllium triquetrumセイヨウニラ(西洋韮)がある。Allium に続くラテン語の形容詞がそれぞれに特異な性質を表す。葉がfistula管,根がtuber塊,花茎の断面がtriquetrum三角である。

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子供の頃の歯ブラシは,毛束が3 列のものくらいであった。今や歯間ブラシ,把子付きの糸楊枝,電動歯ブラシもコンビニに並ぶ。歯科でsingle-tufted brushを勧められた。歯周ポケットに差し入れることができる。歯ブラシの多様性が高齢者の健康維持に底力を発揮する。

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Calcinosis とcalcification の違いは何か。先ず,calcification を考えてみる。末尾が-fy の動詞は対象を〜するである。代表がossifyで,靱帯などの結合組織を内軟骨性ないし膜性骨化に導く。Calcify は組織を石灰に変える訳でない。Calcium を溶出するであって,生理的な場合も含む。

医療史回り舞台

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大相撲の歴史は古代の神事迄遡ることができる。『日本書紀』には大和国の力士当麻蹶速と出雲国の力士野見宿の大勝負があったことを記している(本欄第36回「スポーツ外傷のルーツ」)。

新しい医療技術

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手術ロボットの知能化については,高度なナビゲーションや機器のネットワーク化だけでなく,手術タスクの自動化が研究されている。筆者らは脳外科や眼科を対象とした手術支援ロボットシステムを開発し,顕微鏡視野外の自動衝突回避や動作倍率の自動チューニング,自動運針などを研究してきた。このような最先端の工学技術をタイムリーかつ安全に医療に導入することが重要である。

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寛骨臼骨折に対する固定法としては一般にプレート固定が行われている。われわれは近年寛骨臼後柱成分の固定に,坐骨結節と腸骨弓状線を結ぶ後柱軸上に6.5 mm 中空スクリューを挿入し手術手技の簡便化を図っている。本研究の対象は11 例で,手術記録と診療記録,X 線像を用いて後ろ向きに臨床成績を調査した。骨折型は前柱+後方半横骨折:4 例,横骨折:3 例,横+後壁骨折:2 例の順に多かった。スクリューの挿入方向は弓状線側からの順行性が4 例,坐骨結節側からの逆行性が7 例であった。順行性に挿入したスクリュー1 例に骨外逸脱を認めたが,それによる症状は認めなかった。一期的人工股関節置換術に併用した1 例を除いた術後X 線像の評価はMatta の基準で,anatomic:7 例,satisfactory:2 例,unsatisfactory:1 例で,ほぼ良好な成績であった。寛骨臼後柱成分に対するスクリュー固定は選択肢の一つとなりうるが,骨外逸脱予防のための術中透視の工夫が必要と考えられた。

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過去の報告から下垂位外旋(以下,外旋)制限の責任病巣は腱板疎部の烏口上腕靱帯(CHL)の肥厚である。一方,肩甲下筋と三角筋間の滑動性低下も外旋制限と肩前面痛の原因である可能性がある。外旋制限と肩前面痛のある症例に対し,肩甲下筋腱と三角筋間に生理食塩水を注入することで外旋角度と疼痛が改善するかを調査した。対象は2015 年10 月から2016 年2 月に当科を受診し外旋制限と肩前面痛を認めた凍結肩freezing phase 10 例10 肩(男性5 例,女性5例,平均62.7歳,右5肩,左5 肩)とした。方法は,エコーガイド下に肩甲下筋表層と三角筋間に烏口突起基部にかけて生理食塩水10 ml を注入し,注入前後で外旋角度と疼痛VASスコアを比較した。結果,下垂位外旋角度は平均26°が45°に,VASスコアは中央値10 が0.5に,いずれも有意に改善した。外旋制限と肩前面痛の症例に本法は有効な治療法となりうる。

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母指の中手指節(MP)関節における側副靱帯の断裂部位は橈側側副靱帯(RCL)が近位,尺側側副靱帯(UCL)は遠位の場合が多い。当院で手術加療を行った17 例17 指の母指MP関節側副靱帯断裂の断裂部位はRCL が近位6 例,遠位1例,実質部なし,UCL が近位1例,遠位9例,実質部なしであった。統計学的検討でRCL は近位,UCL は遠位で有意に断裂していた。母指MP 関節側副靱帯断裂に関するStener の生体力学的検討を参考にすれば,RCL およびUCL の近位部断裂では受傷時にMP 関節は少なくとも伸展位になっており,遠位部断裂では受傷時に屈曲位である可能性が大きい。このMP 関節の伸展・屈曲肢位とMP関節に加わる強制外力の方向(橈屈または尺屈)によって,受傷側ならびに断裂部位はある程度推測可能であるが,RCL 遠位部断裂の受傷機転に関してはさらなる検討が必要と考える。

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基本情報

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整形・災害外科
60巻7号 (2017年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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