整形・災害外科 60巻13号 (2017年12月)

特集 内分泌疾患に伴う運動器障害

序文 竹内 靖博
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骨代謝の調節機構の解明が進むにつれて,従来から知られていた女性ホルモンや副甲状腺ホルモンのみならず,多数のホルモンが密接に骨代謝に関わっていることが見いだされてきた。また,小児の筋骨格系の成長・発達に重要な役割を果たす成長ホルモンが,成長期のみならず,成人においても骨・関節に対して重要な役割を果たすことが明らかにされている。

先端巨大症と骨・関節障害 高橋 裕
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要旨:先端巨大症は,成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫によって引き起こされるGH,IGFIの過剰により,特徴的な顔貌や身体所見および合併症,予後の悪化をきたす疾患だが,骨関節障害は代表的な合併症の一つである。先端巨大症では骨密度は増加傾向を示すが,椎体骨折は増加する。関節痛をしばしば認めQOLの低下をきたす要因となる。変形性関節症,手根管症候群をきたし整形外科を受診することはまれではないため,比較的若年性の椎体骨折,変形性関節症,手根管症候群などに遭遇したときには,必ず先端巨大症の可能性を疑い特徴的な顔貌の変化や手足の容積の増大に注意し見落とさないことが大切である。

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要旨:クッシング症候群(医原性を含む)が骨代謝に与える影響(ステロイド性骨粗鬆症)に注目し,その対策について概説した。細胞レベルではグルココルチコイドは骨芽細胞の形成,分化,増殖の抑制を引き起こす。また活性酸素種(ROS),小胞体ストレスを介した骨芽細胞および骨細胞のアポトーシスを誘導し,骨形成を低下させる。一方でグルココルチコイドはRANKL/OPG 比を増加させて破骨細胞活性化を引き起こす。また破骨細胞のアポトーシス抑制作用も明らかとなっている。臨床面ではクッシング症候群による骨代謝異常は原疾患治療により可逆的に改善することが多いとされてはいるが,長期にグルココルチコイド過剰が続く状況や,高齢者や閉経後女性などの老人性骨粗鬆症や閉経後骨粗鬆症を合併した患者,骨脆弱性の指標の一つである既存骨折などがある場合には,積極的にステロイド性骨粗鬆症を加療する必要もあることに注意する必要がある。

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要旨:骨粗鬆症発症の原因として閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の低下による骨吸収の亢進はよく知られており,自然閉経以外でもターナー症候群をはじめとした女性の性腺機能低下症は骨粗鬆症を誘発することが知られている。一方,男性における骨粗鬆症についてはあまり重要視されてこなかったが,本邦でも女性の980 万人に対し男性も300 万人が骨粗鬆症に罹患しているとされる。加齢に伴って,男性ホルモン(アンドロゲン)が徐々に低下し,骨量の低下を含む様々な症状を引き起こすLOH 症候群(加齢男性性腺機能低下症候群;late-onset hypogonadism)や,前立腺癌に対して行うアンドロゲン遮断療法(androgen-deprivation therapy;ADT)が引き起こす骨量の低下が注目されている。LOH 症候群においては近年,筋肉量の減少(サルコペニア)との関連も注目されている。このような男性の骨量の低下に対しても骨量コントロールの重要性が増している。

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要旨:甲状腺機能亢進症における筋症状の代表に筋力低下があり,近位筋で著明であるのが特徴である。また,若年男性では食事摂取過多,飲酒,強度の運動を伴うと周期性四肢麻痺による脱力発作を起こすことはよく知られている。一方,甲状腺機能亢進症では骨吸収が亢進し骨量が低下するため,続発性骨粗鬆症を生じる。筋力低下,骨量減少は,甲状腺機能の正常化に伴い回復する。周期性四肢麻痺についても,甲状腺機能正常化に伴い脱力発作は消失する。閉経後女性や高齢者に甲状腺機能亢進症を生じた場合には骨粗鬆症,骨折のリスクが上昇する。甲状腺ホルモンの正常化に伴い骨量の回復は見込めるものの,リスクが高い患者においては骨粗鬆症への治療介入も考慮が必要である。

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要旨:甲状腺機能低下症は内分泌疾患の中で最も頻度の高い疾患群である。こむら返りや四肢脱力といった筋骨格系の症状を契機に診断されることもあり,目の前の患者に対して甲状腺機能低下症の診断を想起できることが重要となる。甲状腺機能低下症患者の骨折リスクは高い。骨密度の低下を必ずしもきたさないが,骨リモデリングサイクルの低下,性腺機能の低下,身体活動量の低下および転倒といった様々な要因によって骨折リスクが高まると考えられる。また,甲状腺ホルモン製剤による過剰補正が骨折リスクとなる。甲状腺機能低下症はミオパチーの原因となりうる。筋の収縮・弛緩の不調和やグリコーゲン・グリコサミノグリカンなどの代謝障害によって筋けいれん・脱力・筋萎縮をきたす。筋肉痛や四肢脱力を訴える患者に再現性のある高CK 血症,高LDH血症,高コレステロール血症,貧血,低ナトリウム血症などをみた場合には血清TSHと遊離T4 を測定することが薦められる。

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要旨:副甲状腺に発生した腺腫や過形成あるいは癌からPTH が自律的かつ過剰に分泌され,高Ca 血症をきたす疾患がpHPT である。pHPT は成人における高Ca 血症の原因疾患として,悪性腫瘍に伴う高Ca 血症に次いで多く,頻度の高い疾患である。このことから,骨粗鬆症,尿路結石,ALP高値,そして骨代謝マーカーの異常高値を認める場合は本疾患を想起し,血中Ca とPTH 値を同時に測定することが望まれる。pHPT の根治治療は病的副甲状腺の摘出であり,骨病変や尿路結石,高Ca 血症による自覚症状を認める場合は絶対的手術適応となる。手術により明らかな骨密度増加効果と骨折抑制効果が示されている。手術困難例や再発例などには,高Ca 血症の治療薬としてシナカルセト,骨粗鬆症治療薬としてビスホスホネート製剤の有効性が示されている。無症候例で手術を行わなかった場合においても,年1 回の血液検査,骨密度測定,椎体骨折判定,尿路結石の確認が推奨されている。

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要旨:副甲状腺機能低下症は,副甲状腺ホルモン作用障害を特徴とする疾患である。本症患者では,低カルシウム血症などの血中ミネラル濃度の異常に加え,骨代謝回転の低下,骨密度の増加が知られている。一方近年の検討では,本症患者では椎体骨折が対照群に比較し,むしろ多いと報告されている。これらの結果は,本症患者では骨密度に反映されない骨脆弱性を惹起する要因が存在する可能性を示している。海外では,本症に対し副甲状腺ホルモン製剤の使用が可能となった。副甲状腺ホルモン製剤による治療は,本症患者の骨代謝回転を亢進させ,骨梁幅の減少,骨梁数の増加などをもたらす。ただし,副甲状腺ホルモン製剤の骨密度に対する効果については,見解が分かれている。さらに副甲状腺ホルモン製剤が,本症患者の骨折に影響するかどうかも不明である。今後副甲状腺ホルモン製剤使用患者の増加により,これらの問題に対する新たな知見がもたらされることが期待される。

糖尿病の運動器障害 金沢 一平
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要旨:糖尿病患者の高齢化に伴い神経障害やサルコペニア(筋肉減少症),骨粗鬆症などの運動器に関わる合併症の重要性が増してきた。神経障害はしびれや疼痛などの陽性症状のみならず,感覚異常や運動神経障害によるバランス異常や筋萎縮なども運動能力低下に影響する。サルコペニアは筋肉へのインスリン作用不足(分泌低下,インスリン抵抗性)などの内分泌環境の変化に加えて,栄養・運動不足やビタミンD欠乏による蛋白合成の低下,炎症性サイトカイン,グルカゴンによる蛋白分解亢進も重要な病態である。糖尿病に関連する骨粗鬆症では骨質劣化が重要な病態であり,骨密度測定が過小評価につながる可能性を念頭に置く必要がある。いずれの合併症も共通の因子や相互関連性が存在すると考えられるため,糖尿病における運動器障害を予防,治療するためには血糖管理に加えて各疾患に対する積極的なアプローチが重要と考えられる。

ビタミンD作用不全の運動器障害 岡崎 亮
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要旨:ビタミンD は,骨・ミネラル代謝の維持に必須のホルモンである。高度の慢性的なビタミンD の作用不全は,くる病・骨軟化症の原因となる。くる病・骨軟化症に至らないまでも,ビタミンD の作用不全は,続発性副甲状腺機能亢進症に伴う骨吸収増加などを介した骨粗鬆症の増悪因子であり,転倒の危険因子である。ビタミンD作用不全の原因として,最も頻度が高いのはビタミンD 不足・欠乏である。本邦でも,血清25(OH)D濃度を用いた判定指針が作成された。

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要旨:FGF23 関連低リン血症性くる病・骨軟化症はFGF23 作用が過剰となることで慢性低リン血症をきたす疾患群であり,X 染色体優性低リン血症性くる病・骨軟化症(X-linkedhypophosphatemic rickets/osteomalacia;XLHR)や,腫瘍性骨軟化症(tumor-induced osteomalacia;TIO)が比較的頻度が高い。慢性低リン血症により小児では低身長,骨変形(O脚,X脚)を発症し,小児,成人で骨折,偽骨折による骨痛や筋力低下,歩行障害が生じる。また歯の膿瘍や腱付着部の異所性石灰化,脊柱靱帯の骨化を合併する症例もある。現行治療は活性型ビタミンD 製剤およびリン製剤の内服だが臨床所見の完全な改善は見込めず,治療に伴う腎機能の悪化なども懸念される。TIOは原因腫瘍の切除により完治が望めるが微小腺腫が原因で局在診断に至らない症例も多い。またFGF23 関連低リン血症性くる病・骨軟化症の一般医家における認知度が低いことから正しく診断,加療されていない症例も多く存在しており,認知度の向上にむけた疾患啓発活動が急務である。

Personal View

外科医教育のパラダイムシフト 山田 宏
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外科医に対して高まる超高齢社会のニーズと期待に反して,訴訟リスク(手術結果に対する社会の許容度低下)・3 K(過酷な労働環境を避ける風潮)・旧態依然とした指導体制(手術は見て盗め)に嫌気がさしたことに端を発した深刻化する若手医師の外科離れや勤務医不足問題は,日本の医療の死活問題にも直結する重要課題といえます。

整形外科手術 名人のknow-how

Ponseti 法による内反足矯正 岡田 慶太
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小児整形外科の三大疾患といえば,先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全),筋性斜頚,先天性内反足である。日常診療で出会うことの少ない疾患ではあるが,見逃すと治療に難渋することも事実である。

整形外科用語の散歩道

636.Diverticulum 憩室 国分 正一
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原稿の筆が止まり庭に出る。筆進む妙案浮かばなむ。花々を愛でつつも,つい根元の雑草に目がいき,手を伸ばす。抜くとその前,更にその前の草が気になる。際限がない。Pickingweeds is the best diversion。気分転換にはなり,部屋に戻る。

637.Dizziness ふらつき感 国分 正一
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頭痛,眼精疲労,めまい,耳鳴りはBarré 症候群を成す(Rev Nuerol 33:1246,1926)。BarréJA は後頚部交感神経症候群を唱えたが,この名の交感神経はなく,Horner 症候群を意識したが故か。Whiplash-associated disorders(WAD)でもある(Spine 20(Suppl 8):1,1995)。しばしば並記のLiéou YC はé があるが,中国人の劉永成とのこと。

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去る10 月22 日の衆議院選挙は自民・公明の与党が大勝した。改憲論が勢い付こう。『日本国憲法はどう生まれたか? 原典から読み解く日米交渉の舞台裏』(青木高夫著,ディスカヴァー携書,2013)を読んだ。当方の案は帝国憲法の手直しで(毎日新聞1946 年2 日1 日)相手にされず,GHQ から押し付けられしは幸いに平和憲法であった。

医療史回り舞台

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本年度のノーベル文学賞は長崎市出身で英国の作家カズオ・イシグロ氏に輝いた。氏の代表作『日の名残り』や『わたしを離さないで』を読んだことはないが,ずいぶん前にイシグロ氏の原作によるアメリカ映画¤THE REMAINS OF THE DAY(日の名残り)µ(1993年度作品)を観たことがある。詳細はほとんど覚えていないが,手許の『ぴあ・シネマクラブ2(外国映画編)』(1999年刊)を開いて物語を辿たどってみた。

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要旨:電波と光波の中間の領域帯に位置するテラヘルツ光(THz 光)や近赤外光は分子や成分に特徴的な吸収帯域を有し,成分定量評価や分子特異性を持った画像診断に適しており,また低侵襲性という医療利用に有用な特性を備えている。テラヘルツ光は近年実用化に向けて著しい進歩のある領域であり,立体配座の識別が重要な創薬に既に使われているが,臨床応用としてギプスや包帯を透過し皮膚の状態や創傷の性状評価に活かそうとする研究の報告がある。また,近赤外光は機器が普及しており,技術的にも成熟している。高い生体透過性を活かした生体浅層の非侵襲的な物性評価に応用することができ,表皮〜骨までの体の浅層を扱う整形外科領域に非常に有用であり,骨癒合や骨代謝,皮下の血流などを観察する研究が行われている。

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要旨:医療パターナリズム否定と患者参加の必要性は近年強調されている。Shared decisionmodel は2006 年のBugge によって言及されるようになり,医療コミュニケーションの研究は,昨今大きく進展した。近年のガイドラインには,必ずshared decision と記載されているが,その実施方法を具体的に記載しているものは少ない。本研究は,shared decision が日本で普及以前である2002 年の時点で,43 名の外来患者からのaudio-recorded data を収集解析し,医療現場でいかにclinical decision が行われ,医師がどのようなcommunication strategyを使用しているかを解析した。Strategy は患者によって個別化され,いくつかの方法が意識せずに使い分けられることが判明した。Shared decision という概念下ではないが,実際それに近い患者-医師コミュニケーションが行われていた。整形外科一般臨床ではshareddecision は必要不可欠であり,患者-医者コミュニケーションにおける信頼性獲得にも有用である。ただし,個別性が高くより体系化が必要であろう。

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要旨:上腕骨顆上骨折は小児期に発生する最も頻度の高い骨折の一つであるが,矢状面での転位だけを伴う阿部分類Ⅱ型には明確に推奨されている治療基準がなく,施設によってその治療方針は異なる。近年,本邦では徒手整復と経皮的鋼線固定による良好で安定した成績から手術治療が主流となってきているが,今回,われわれは阿部分類Ⅱ型の10 例に対して,無麻酔による徒手整復と肘関節を軽度鋭角屈曲位とした外固定による保存治療を行い良好な成績を得た。阿部分類Ⅱ型は後方骨膜が連続した単純な伸展変形であることから,上腕骨顆上骨折に特有の複雑な整復手技を要さない。また軽度鋭角屈曲位による外固定を行うことで,循環障害を合併せずに整復位の保持も可能であった。阿部分類Ⅱ型の小児上腕骨顆上骨折は,まずは保存治療を考慮すべきであると考えられた。

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要旨:Zone 1 手指屈筋腱損傷の修復後に固定法を施行した症例の治療成績について調査した。対象は2012〜2016年に加療した4例4指で,手術時年齢は21〜75歳であった。損傷指は示指2 指,中指1指,環指1指,深指屈筋(FDP)腱の修復は4-strand 縫合が2 指,6-strand縫合が2 指であった。術後平均3.5週の背側ギプスシーネによる外固定後から可動域(ROM)訓練を開始した。経過観察期間は15〜51週であった。合併症はなく,最終診察時の総自動運動域は157°〜240°,遠位指節間(DIP)関節のROMは17°〜65°であった。Zone 1手指屈筋腱損傷に対して固定法を施行した場合,その治療成績は必ずしも良好とはいえない。ただし,FDP 腱停止部における損傷では,修復術後に発生する癒着がDIP関節のROMへ影響することは少なく,そのため固定法であっても良好な治療成績が獲得できると考える。

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要旨:極めてまれな陳旧性EHL 皮下断裂を経験した。症例は22 歳男性。3 年前の空手練習後より右母趾が伸展不能となった。家業の仏門に入るため,正座から跪座姿勢への移行が必要となり,当科を受診した。手術は他の足趾への影響を考え,EDL を力源とした腱移植術を選択した。グラフトには,EDL にサイズと強度の点で適したPL を用いた。術後半年で可動域と筋力は改善し,良好な成績が得られた。

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私の康永秀生先生に対する印象は“マジシャンのような臨床医学の語り部”です。とても難解で複雑な物事でも康永先生の説明を聞くとなぜかすっきりと頭に入り,なんとなく自分でもできるような気になってしまいます。好評を博した『必ずアクセプトされる医学英語論文完全攻略50の鉄則』の出版から1 年半を経過したこの時点で,鉄則シリーズ第2 弾『できる!臨床研究最短攻略50の鉄則』を上梓されました。先生の目線の先には常に次世代を担う若手研究者がいます。工夫を凝らして綴られた文章の行間には混沌とした臨床医学の世界で迷える子羊を優しく導くマジックがたっぷり詰まっています。

投稿規定

編集後記

総目次

人名索引

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Information

目次

基本情報

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整形・災害外科
60巻13号 (2017年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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