整形・災害外科 60巻12号 (2017年11月)

特集 脊椎関節炎の診断と治療

序文 門野 夕峰
  • 文献概要を表示

ここ数年で強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis;AS),乾癬性関節炎(psoriaticarthritis;PsA)などの疾患を包括する疾患概念である脊椎関節炎(spondyloarthritis;SpA)の認知度が高まってきている。全身性に四肢や脊椎などに炎症症状がみられ,関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)との鑑別を要する疾患群である。RA では抗シトルリン化タンパク抗体やリウマトイド因子など自己抗体が特異的とされるが,SpA では陰性のことが多い。従来では血清反応陰性脊椎関節症というスペクトルで捉えられていた。現在では自己抗体の有無という血清学的異常よりは,関節近傍にある腱や靱帯付着部における付着部炎が病態の主体である考えのもとにまとめられてSpA と呼ばれるようになった。

  • 文献概要を表示

強直性脊椎炎,乾癬性関節炎などを含む脊椎関節炎は,海外では関節リウマチと同程度の頻度でみられる一般的なリウマチ性疾患であるが,日本ではその有病率が少ないため馴染みの薄い疾患でもあった。近年TNF 阻害薬やIL-17 阻害薬の出現により治療が飛躍的に向上したこともあり,これらの疾患が注目されるようになった。2009 年にはASASによる体軸性脊椎関節炎の分類基準が発表されたが,この分類を満たしたことで単純に体軸性脊椎関節炎と診断することなく,他の疾患の除外・鑑別も重要である。関節リウマチの診断に際して鑑別すべき疾患にも挙げられるこれらの疾患についての知識,臨床経験も今後のリウマチ医には求められる。

  • 文献概要を表示

脊椎関節炎(SpA)の代表疾患である強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis;AS)は,仙腸関節および脊椎への慢性炎症と竹状脊椎(bamboo spine)や仙腸関節の強直という不可逆的な骨化を生じる疾患である。2009 年ASAS 分類基準によりSpA はaxial SpA,peripheralSpA のいう分類1)が提示され,ASはaxial SpAの代表疾患として位置づけされている。さらに近年はnon-radiographic axial SpA(nr-axSpA)という概念3)も提唱されより早期の診断,治療介入が求められている。2015 年7 月度,強直性脊椎炎(AS)は本邦においてö指定難病÷に登録4)され,ますます社会的認知度が高まってくることから,患者さんからのSpA 診療への期待にわれわれは応えていく必要がある。

乾癬性関節炎 多田 弥生
  • 文献概要を表示

乾癬性関節炎は国内では乾癬全体の15%程度を占めるとされ,決してまれな疾患ではない。乾癬は関節炎のほかには,メタボリックシンドローム,ぶどう膜炎などの併存疾患を伴いうる。皮疹面積が広い,爪症状,頭皮症状,殿裂部や肛門周囲の皮疹を有する乾癬患者は関節炎を伴いやすい。診断にはCASPAR 基準が頻用されており,骨びらんと骨増殖像が混在する骨X線所見が特徴的だが,早期診断にはMRI がより有用である。関節炎の治療にはNSAIDs,抗リウマチ薬,生物学的製剤があるが,骨破壊進展抑制の明らかなエビデンスを有するのは生物学的製剤のみである。良好な予後のために,骨破壊から機能障害を生じるような疾患活動性の高い症例の超早期からの関節炎の検出,定期的な病勢の評価を行うことの重要性が注目されている。

  • 文献概要を表示

脊椎関節炎は脊椎,仙腸関節の関節炎であり,患者の多くがHLA-B27陽性である。疾患としては,強直性脊椎炎,乾癬性関節炎,炎症性腸疾患(Crohn 病,潰瘍性大腸炎)に伴う関節炎,反応性関節炎(Reiter症候群)が含まれる。眼症状としては,急性前部ぶどう膜炎が最多であり,上強膜炎,強膜炎,結膜炎がみられることもある。眼局所の治療のみでは眼炎症の治療に難渋する場合があり,全身的な炎症のコントロールが重要である。これらの基礎疾患のある患者が眼症状を訴えた際は,速やかに眼科にコンサルトすることが重要である。また,これらの疾患が疑われる際に,眼所見があれば診断の補助になると考えられる。

小児でみられる脊椎関節炎 岡本 奈美
  • 文献概要を表示

脊椎関節炎患者のうち,16 歳の誕生日以前に発症したものを若年性脊椎関節炎と呼ぶ。国際リウマチ学会の若年性特発性関節炎分類基準における「付着部炎関連関節炎」「乾癬性関節炎」「未分類関節炎の一部」は脊椎関節炎に内包される概念だが,すべては網羅していない。小児の脊椎関節炎の把握には,成人と同じ強直性脊椎炎・脊椎関節炎の分類基準を用いて分類することが適切と考えられ,若年性脊椎関節炎の概念が浸透してきた。有病率は過去の疫学研究によると,小児10 万人あたり欧米0.28〜88人,本邦0.57 人である。病態としてHLAB27との関連,腸管感染症との関連,付着部への機械的ストレスなどが報告されている。特徴として初期は炎症性腰痛を欠くことが多くperipheral type で発症しやすい,体軸性病変の出現が緩徐である(発症から5〜10 年),unclassified が多いことなどである。若年性乾癬性関節炎においても,小児の乾癬皮疹は非典型例が多くアトピー性皮膚炎と鑑別が困難であり,関節炎が先行する例が多く,皮疹を欠き爪病変・指趾炎のみの症例が多いことから初期診断が困難である。そのため若年性脊椎関節炎の初期診断は困難で,若年性特発性関節炎の他の病型に分類されていることがある。画像診断では,早期病変が主体で骨変化が出現前状態が多い小児において,MRI や超音波検査の有用性は高い。治療は,非ステロイド抗炎症薬,サラゾスルファピリジンまたはメトトレキサートを用いる。初期治療に反応しない場合や,診断時すでに仙腸関節炎を認める場合は,抗腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬の使用を考慮する。

  • 文献概要を表示

脊椎関節炎では画像診断は単純X 線が通常よく用いられる。強直性脊椎炎では仙腸関節の骨硬化,骨びらん,関節裂隙の拡大や狭小化,強直が特徴である。脊椎関節炎では靱帯棘が特徴的であるが他の疾患との鑑別が重要である。単純X 線像で所見のない体軸性脊椎関節炎の診断では仙腸関節のMRIの有用性が高い。乾癬性関節炎では脊椎,仙腸関節病変は不完全なものが多い。末梢の関節ではびらん性の変化のみならず骨増殖性の変化を認め,傍関節骨増殖や骨膜炎も特徴的である。単純X 線像で診断がつかない場合には体軸性の病変および末梢の付着部炎をMRIで評価する。機能的画像評価法であるPETも鑑別診断や治療効果判定,骨新生の評価によいと報告されており,今後のさらなる検討が必要である。

  • 文献概要を表示

脊椎関節炎はその症候の優位性から体軸型(axSpA)および末梢型脊椎関節炎(pSpA)と分類でき,体軸型としては強直性脊椎炎(AS)が,末梢型としては乾癬性関節炎(PsA)が代表的疾患である。AS においてはASDAS スコアを中心に,PsA においてはDAPSA やMDA スコアを中心に用い,それぞれ厳密に疾患活動性の評価を行い,寛解目標達成に向けた治療を成し遂げていくことが重要である。さらに,それぞれ疾患のバイオマーカーを駆使し,適切で適確な診断および治療,適切な予後予測を行っていく必要がある。これらのことは,2017 年に報告されたTreat-to-Target を考慮したaxSpA およびpSpA のレコメンデーション2017 アップデート版により,AS を中心とするaxSpA ではASDAS を用い,PsA ではDAPSAやMDAを用い,しっかり評価しながら目標をもって治療にあたることが改めて確認されている。

Personal View

  • 文献概要を表示

最近スポーツ医学においては,頭部外傷(脳振盪,急性硬膜下血腫)の問題がトピックスの1 つとなっている。一般に多くのスポーツ現場では,整形外科の医学的関与が多いのは周知の事実である。しかしながら,脳神経外科における外傷は時に生命に影響を及ぼすため,昨今,わが国の特にcontact & collisionスポーツの現場においては,スポーツによる頭部外傷に精通した脳神経外科医の関与が渇望されているのが現状である。

整形外科手術 名人のknow-how

膝蓋大j関節置換術 乾 洋
  • 文献概要を表示

過去本邦における末期膝蓋大腿節症(patello-femoral Osteoarthritis;PF-OA)に対する治療としては脛骨粗面移動術や人工膝関節全置換術(TKA)などが行われてきたが,2012年に膝蓋大腿関節置換術(patellofemoral arthroplasty;PFA)用のインプラント(PFJ,Zimmer Biomet社)が導入されPFA も選択肢となった。PFA インプラントの登場はPF-OA 症例に対しての使用だけでなく,内側脛骨大腿(femorotibial;FT)関節+PF-OA に対し人工膝関節単顆置換術(unicompartmentalknee arthroplasty;UKA)とPFA を併用する二顆置換術(bicompartmental knee arthroplasty;Bi-KA)が可能になるなど,メリットは大きい。筆者は現在までにPFA インプラントを約50症例に使用した。本稿ではPFA の手術手技と注意点,またPFA を併用した手術に関し紹介させていただく。

医療史回り舞台

明智光秀の体格測定 篠田 達明
  • 文献概要を表示

このほど新聞各紙に,明智光秀が「本能寺の変」で織田信長を討った10 日後に紀州雑賀党の土橋重治に宛てた直筆の手紙が見つかったと報道された。

新しい医療技術

Defensive antibacterial coating 眞島 任史
  • 文献概要を表示

術後手術部位感染対策の抗菌薬予防投与は,局所濃度やバイオフィルムにより十分に効果を発揮しないことがある。この問題を解決するため2013 年から欧州でdefensive antibacterialcoating(DAC)が臨床使用されている。抗菌薬を混入したヒアルロン酸およびポリ乳酸ゲルであるDAC はインプラント表面をコーティングし細菌の付着を物理的に阻害し,ゲルが吸収されるときに抗菌薬を放出する。これにより,早期の細菌コロニー形成とバイオフィルム形成を阻止する。

  • 文献概要を表示

上腕骨外側上顆炎に対するテニス肘バンド装着の治療効果に影響する因子を検討した。2014 年1 月から加療したテニス肘バンドの装着経験がない上腕骨外側上顆炎症例25 例29肘を対象とした。全例,上腕骨外側上顆の圧痛とThomsenテストの陽性を認めた。治療はテニス肘バンド装着と外用薬の貼付のみとし,経過観察期間は平均7 カ月であった。疼痛軽減効果がみられた有効群は16 例18 肘であり,除痛が得られずにトリアムシノロンの局所注射や手術治療を追加した無効群は9 例11 肘であった。疼痛軽減効果の発現時期は平均1.7 カ月であった。単変量および多変量解析で無効群は有効群より若年で,テニス肘バンドの装着状態が不良であった。青壮年者では仕事上,テニス肘バンドの疼痛軽減効果を待てずに手術や局所注射を希望する症例が多く,このことがテニス肘バンド装着の治療効果にとって若年齢が負の因子になった要因と考える。

  • 文献概要を表示

近年,一般整形外科医が発育性股関節脱臼(developmental dysplasia of the hip;DDH)に遭遇する機会は減少したが,見逃し例や診断遷延例を防ぐための予防・診察法を知ることは重要である。今回,秋田県における乳児股関節健診の推奨項目を含めた発症危険因子を調査し,特に重要な診察のポイントについて検討した。対象は2009 年から2013 年にDDH の治療を行った27 例である。調査項目は,開排制限,鼠径皮膚溝の非対称などの5 つの推奨項目に加え,性別,出生月,地域集積性,斜位姿勢の有無などとした。結果,開排制限は全例でみられ,患側で有意に低かった(p<0.01)。性別は全例女児で,その他の項目の陽性率は,鼠径皮膚溝の非対称が64%,冬期間出生,秋田県県南出身者が56%であった。多因子遺伝を示すDDH において,正しい手技で開排制限を検出することに加え,発症危険因子を把握し,早期発見・早期治療につなげることが重要である。

整形外科用語の散歩道

  • 文献概要を表示

日本は臓器移植の後進国である。訪れた米国の大学で遺体の解体を垣間見た。大腿骨頭,膝関節すら摘出していた。運転免許の取得に,事故死の場合は自分の体を提供するとの書類にサインするらしい。こちらは透析の大国である。約32 万人の患者数,4,000を越える施設数で,且つほぼ間違いなく利益が上がる。今更,元には戻れまい。

634.Gate control theory 国分 正一
  • 文献概要を表示

Theorem とtheory の違いを考えてみた。両者共にギリシャ語のtheorein 観る,思索・推測するに語源がある。Theoremは例えばPythagorean theoremがあり,axiom公理によって証明されるもので,定理と訳されている。他方theoryは学説,理論,理屈と訳され,寧ろ証明に至らずのもの。

635.Honda sign 国分 正一
  • 文献概要を表示

仙骨骨折にDenis F の分類がある。胸腰椎骨折の分類でthree-column spine を提唱した彼である(Spine 8:817,1983)。仙骨もZone Ⅰ:ala,Zone Ⅱ:foramena,Zone Ⅲ:central sacralcanal の3 つに分けた。主にZone Ⅰ,Ⅱは縦骨折,ZoneⅢは横骨折が生じる(Clin Orthop 227:67,1988)。

  • 文献概要を表示

われわれは上腕骨近位端骨折に対してNCB®-PH を用いてMIPO法を行い,治療成績を検討した。症例は2011 年4 月から2015 年3 月までの6 カ月以上経過可能であった65 例(男性26 例,女性39 例)である。治療成績の判定は可動域,JOAスコア,合併症である。平均挙上角度は134°,外旋40°,内旋L2 レベル,平均JOAスコアが89 点であった。全例骨癒合を認め,合併症は20°以上の内反変形を3 例に,肩峰下インピンジメントにより抜釘を行ったのが4 例,インプラント周囲骨折が4 例,術中骨折1 例であった。おおむね良好な成績であったが,高齢患者,認知症患者において術後合併症を認める傾向があり注意を必要とした。

  • 文献概要を表示

1991年以来,毎年(合計22 回)バングラデシュに出張し,小児のポリオによる麻痺足58 例に再建手術を行い,ほとんどの症例に起立,歩行の改善が得られた。これらの症例を調べると麻痺の形,障害の重さは種々であったが,その中から代表的な3 例を選び,手術の適応,術式,結果などについて検討した。

  • 文献概要を表示

症例は45 歳女性。主訴は背部痛および歩行障害。T8,T9高位の後縦靱帯および黄色靱帯骨化症に対しT8,T9 椎弓切除術および黄色靱帯骨化巣切除術を施行した。術後歩行障害は一旦改善したが,その後再増悪し起立困難となった。保存療法を継続したが改善なく,後方矯正固定術を追加し独歩が可能となった。OPLL とOYL の合併例では,OYL が主責任病巣であれば除圧単独も時に有効であるが,インストゥルメンテーション併用固定術が望ましい。

  • 文献概要を表示

両側異常可動性外側半月の姉妹発症例を経験した。症例は,姉が14 歳,妹が12 歳で,2 例とも鏡視下に両膝外側半月板の異常可動性を認めたため半月板縫合を行い,症状は改善した。異常可動性外側半月の成因として先天的要因の関与が指摘されており,今回の姉妹例からもその可能性が示唆された。

------------

次号予定目次

バックナンバー特集一覧

告知板

投稿規定

編集後記

目次

Information

基本情報

se60-12_cover.jpg
整形・災害外科
60巻12号 (2017年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

文献閲覧数ランキング(
6月7日~6月13日
)