臨床外科 72巻1号 (2017年1月)

特集 最新の内視鏡外科手術の適応と注意点

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 内視鏡外科手術による低侵襲化や整容性の向上によって,QOLを重視した治療が行われています.最近,いくつかの疾患において内視鏡外科手術の適応が変更されました.

 こうした変化を踏まえたうえで,本特集は,各疾患に対する内視鏡外科手術の適応ならびに実際に行う際の注意点を解説していただき,最新の内視鏡外科手術による治療戦略の指針となるよう企画しました.

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【ポイント】

◆1990年代はじめに,低侵襲化を目指し,消化器疾患に対する内視鏡外科手術が本邦に導入された.

◆近年,国内外の多くの臨床試験から,安全性や優れた治療成績が報告され,広く普及するに至った.

◆標準治療として確立するためには,今後さらなる臨床試験による検証の継続が必要である.

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【ポイント】

◆拡大リンパ節郭清を伴う食道癌手術そのものが過大侵襲手術であるため,内視鏡外科手術を施行しても,その低侵襲性を証明するのは困難である.

◆近年では胸腔鏡手術のメリットは低侵襲性よりも,拡大視効果によって得られる良好な視野と手術術野を共有できることによる教育指導効果が強調されている.

◆食道癌に対する胸腔鏡下手術の問題点は,その侵襲性,短期の安全性と長期の有効性に関する明確なエビデンスがないことである.

◆現在進行中のJCOG1409(MONET Trial)により,食道癌に対する拡大リンパ節郭清を伴う胸腔鏡下手術の短期の安全性と長期の有効性が証明されるであろう.

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【ポイント】

◆ガイドラインの改訂により,腹腔鏡下幽門側胃切除術はcStage Ⅰの胃癌症例における標準治療の選択肢となった.

◆進行胃癌や胃全摘術などに対しての腹腔鏡手術は,国内・外の臨床試験(JLSSG0901,JCOG1401など)の結果が出るまでは臨床試験として行うべきである.

◆標準治療として腹腔鏡手術が選択肢となる症例でも,実臨床で適応する場合には各施設の技術レベルなどを鑑み,症例ごとに慎重に決めるべきである.

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【ポイント】

◆良・悪性を問わず,大腸疾患に対する腹腔鏡手術の件数は増加傾向である.

◆大腸癌に対する腹腔鏡手術に関しては,ガイドラインに則り,技量・経験を考慮して適応を決定する.

◆保険収載されていない術式に関しては,各施設の倫理審査を受けたり,臨床研究として行う必要がある.

肝臓疾患 大塚 由一郎 , 金子 弘真
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【ポイント】

◆腹腔鏡下に肝切除を施行しやすい症例を選択することがきわめて重要である.

◆基本手技を確実にマスターしたうえで,適用はstep by stepに拡大する.

◆2015年より本邦では腹腔鏡下肝切除の術前登録が開始された.

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【ポイント】

◆腹腔鏡下胆摘術中の胆道損傷はいまだ高頻度である.the critical view of safetyの達成による胆道損傷の減少が期待される.

◆現在,総胆管結石症治療は内視鏡的除石が主流である.しかしながら長期フォローにより乳頭括約筋機能廃絶が結石再発率を上昇させることが明らかとなってきている.乳頭機能が温存できる腹腔鏡下総胆管結石手術が広く行われるべきである.

◆通常の4孔式胆摘術のさらなる低侵襲化を目的として,単孔式手術や細径鉗子手術が行われている.これらを併用するreduced port surgeryも有用な方法である.

◆胆管切除手術も行われており,総胆管囊腫症例が多数報告されている.技術的には胆管空腸吻合の難度が高いが,術式は標準化されてきている.

◆ロボット支援手術の多くは胆摘術である.単孔式手術のためのロボットが開発・市販されている.

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【ポイント】

◆腹腔鏡下膵手術を保険診療として実施する場合には,厚生労働省や学会が示す適応と指針を熟知する必要がある.

◆腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術の保険診療下での運用に際しては,施設認定,学会との連携,National Clinical Database(NCD)への登録を行うことが義務付けられており,学会連携申請制度と,NCD術前登録制度が整備されている.

◆保険診療として定められていない腹腔鏡下膵手術を実施する場合には,当該厚生局と内議のうえ保険診療準用の是非を確認するか,公費負担もしくは自費診療としなければならない.いずれの場合も自施設倫理委員会の認可を受けることが必須である.

鼠径部ヘルニア 早川 哲史
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【ポイント】

◆腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術は近年爆発的に増加しているが,再発率や合併症発生率は比較的高いことに注意が必要である.

◆腹腔鏡画像により,鼠径部切開法で曖昧となっていた新しい解剖認識が生まれ,質の高い手術が可能となった.

◆腹腔鏡手術を開始する前には,理論武装,知識武装を十分に行い,手術見学,技術講習会,ハンズオン講習会などに積極的に参加すべきである.

FOCUS

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はじめに

 C型肝炎ウイルスに感染すると,約70〜90%と高率に慢性化し,10年単位の経過で肝線維化が進行し,やがては肝硬変さらには肝癌へと進展する.C型肝炎ウイルス感染症に対する治療は比較的早期から開始された.1989年にC型肝炎ウイルスが同定された後,1992年にはインターフェロンの単独療法(24週間投与)が承認されたが,C型肝炎ウイルスが体内から駆除できる確率〔sustained virological response(SVR)rate〕はよく見積もっても30%程度と,とても満足のいくものではなかった.しかしこの頃は,C型肝炎ウイルスのタイプもウイルス量も測定することができなかったのである.後に,日本人に多いgenotype 1型の高ウイルス量症例が難治性すなわちインターフェロン治療抵抗性ということが解明されたのである.

 その後,時代はペグインターフェロン(Peg-IFN)・リバビリン(RBV)併用療法へと移行した.週1回投与のPeg-IFNと経口薬であるRBVを併用することにより,治療効果は上昇したが,それでもgenotype 1型高ウイルス量の難治性症例ではSVR率が50%程度と満足のいく数字ではなかった.しかし,この50%という治療成績から様々なSVRに寄与する因子が発見された.その一つは,本邦1)と欧米2)でほぼ同時に報告されたインターロイキン28(IL-28)の遺伝子多型である.すなわち,rs8099917がメジャーアレルであるTTをもつ患者はPeg-IFN+RBV治療によるSVR率が有意に高いことが判明したのである.したがって,ある程度の治療効果が予測できることから,副作用の大きいこのPeg-IFN+RBV治療を回避できる症例が選択できたのである.

 その後,2012年より直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals:DAAs)であるテラプレビル(TPV)が承認されて,時代はDAAs併用Peg-IFN+RBV療法,さらにはDAAsを複数組み合わせたインターフェロンフリー(IFN free)治療に移行し,現在までに複数の治療の選択肢の中から最適な組み合わせを選べるようになった.そして,何よりメリットだったことは,今まで使用していたIFNの副作用から解放されたことである.さらに,このIFN free治療は副作用が少ない点に加えて,C型慢性肝炎のみならず,代償性肝硬変にも適応があることは朗報である(本邦では,IFN free治療は非代償性肝硬変患者には適応となっていない).

 DAAsはそのターゲットからNS3/4Aプロテアーゼ阻害薬,NS5A阻害薬,NS5Bポリメラーゼ阻害薬に分類される(図1).単独の投与では,薬剤耐性ウイルスが生じSVRに至らないことがあるため,Peg-IFN+RBV治療と組み合わせて,あるいは複数のDAAsを組み合わせて使用するIFN free治療として使用する.今回は紙面の都合上,IFN free治療に限定して説明したい.DAAsはその特異性からgenotype(本邦では保険適用はserotype)に応じて治療法が異なっている.以下に,本邦でおもに存在するgenotype 1とgenotype 2に分けて,その治療法を説明する.

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はじめに

 非開胸食道切除術の歴史は古く,非開胸的に頸部と腹部からの操作で胸部食道を剝離し抜去する方法として,1936年,Turnerにより初めて紹介され,本邦においては1971年,秋山により導入された術式である1).胸部食道の盲目的剝離とストリッピング(抜去)を特徴とし,リンパ節郭清については下縦隔のみ可能である.本邦における食道癌の大半は胸部食道扁平上皮癌であり,開胸による上縦隔から下縦隔に至る縦隔リンパ節の徹底郭清を標準とする本邦の食道癌根治術式との比較から,非開胸食道抜去術として広く認識されてきた.内視鏡治療が困難な粘膜癌や縦隔郭清が不要な腹部食道癌に対する根治手術,あるいは,胸膜の高度癒着や低肺機能のため開胸困難な症例に対する姑息手術として臨床応用されてきたが,化学放射線療法と内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が普及している現在では,その適応症例はきわめて限定されている.一方,食道胃接合部癌の多い欧米では,現在に至るまで経裂孔食道切除術(transhiatal esophagectomy)として広く行われている術式である.

 近年の内視鏡外科手術手技の進歩は目覚ましく,食道癌に対して胸腔鏡手術が盛んに行われるようになった.こうしたなか,内視鏡外科手術手技の導入により,経胸手術と同等の縦隔リンパ節郭清を伴う非開胸食道切除術が可能となってきた.本稿では,胸部食道癌に対する根治術式としての非開胸食道切除術,すなわち,非開胸食道癌根治術の開発と現状について解説する.

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はじめに

 ラパコレ(腹腔鏡下胆囊摘出術)は腹腔鏡手術の基本ともいえる術式で,外科専門医をめざす専修医も執刀する機会の多い手術手技であるが,解剖学上は肝門部付近での手術操作になることから,術中副損傷が起こると治療に難渋するリスクがある.対象疾患はおもに良性疾患であるが,炎症の程度や結石の位置により手術難易度が格段に上がる.本稿では,いわゆる手技的に難しい症例のラパコレに関して述べる.

手術トラブルを未然防止する12の行動特性・10

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●はじめに

 外科手術の実施に際しては,職員間で当該手術の関連情報が伝達・共有され,診療録,説明・同意書,手術記録をはじめとして,さまざまな記録が作成されている1).本稿では,トラブル発生を未然防止する基盤を整えることに関連して,外科医が適切な情報管理・記録管理を実施していることが,患者への影響拡大の防止とトラブル発生の未然防止に資するということに焦点をあてて検討する.

病院めぐり

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 府中恵仁会病院は1955年4月に武蔵野の面影を残す府中市と多摩市の境界を流れる多摩川のほとりに中河原病院として開設し,以来,同地域全般の救急医療を担って,2015年で60周年を迎えました.

 府中恵仁会病院消化器センターでは,現在,常勤・非常勤あわせて消化器内科医4人,消化器外科医3人が安全と確実をモットーにチーム医療を行っています.近隣の東京都立多摩総合医療センター,日本医科大学多摩永山病院と連携を密にとりながら,地域医療に貢献できるよう心掛けております.また,緊急内視鏡や緊急手術に対応するとともに,消化器悪性疾患の終末期医療を含むケアまでのトータルサポートを目指しています.外科では,良性・悪性の腹部疾患に対して,ガイドラインに基づく標準治療を軸として個々の患者さんの病態にあわせた,いわゆるテーラーメード(個別化)治療の実践を特色としています.手術症例は2015年度の手術例は約270例(全身麻酔&腰椎麻酔)でした.内容的には肝胆膵および食道から胃・大腸にいたる悪性疾患も手がけています.加えて術前・術後の癌化学療法も行っています.診療に際しては日本外科学会,日本消化器外科学会,日本消化器内視鏡学会の専門医・指導医が中心となり,責任を持って行います.スタッフは癌専門病院(癌研究会付属病院,埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター)や大学病院講師経験,米国の有名病院留学(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, NY;Cornell Univ., NY;Mount Sinai Medical Center, NY;MD Anderson Cancer Center, TX;Michigan Univ., MI)も経験しており,臨床経験数,質ともに他のhigh volume centerに比し遜色ないことを自負しています.

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要旨

症例は52歳,女性.2年前より右乳房の腫瘤を自覚していたが放置していた.来院時,右乳房全体を占める18×13 cmの分葉状の弾性硬の腫瘤を認め,皮膚には潰瘍が多発していた.生検で悪性腫瘍が示唆されたが,CTでは遠隔転移を示す所見を認めなかった.以上より,右乳房に限局した巨大悪性腫瘍の診断で右乳房切除術,分層皮膚移植術を施行した.病理組織学的には紡錐形細胞,多核で多形性に富む大型異型細胞,多空胞状の脂肪芽細胞が混在し増生していた.免疫染色ではp16およびCDK4が一部陽性で,FISHによるMDM2遺伝子の増幅を認めなかったため多形型脂肪肉腫と診断された.術後5か月で肝転移が出現したが,2年経過した現在,担癌生存中である.

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要旨

press through package(PTP)による高齢者の誤飲事故は少なくない.症例は74歳の女性.間欠的な下腹部痛を主訴に前医を受診し,大腸穿孔を疑われ当科を紹介受診した.入院時のCTにてS状結腸憩室の被覆穿孔および膿瘍形成と診断した.全身状態は落ち着いており,保存的治療を行う方針とした.第17病日のCTにて膿瘍腔の縮小を認めたが,入院時CTと同じ部位のS状結腸に異物を認め,PTPによる憩室穿孔と診断した.第20病日にS状結腸切除術を施行した.穿孔した憩室にPTPの嵌入を認めた.PTPによる大腸憩室の穿孔は稀である.高齢者の消化管穿孔では,PTP誤飲による可能性も念頭において,画像の読影を行うことが必要である.

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要旨

外科手術後,検体から日本住血吸虫症(以下,日虫症)が確認された胃癌の2例を経験した.症例1は84歳,男性.もともと腹部超音波検査にて日虫症が疑われ経過観察中であったが,貧血精査で早期胃癌を認め腹腔鏡補助下胃全摘術を施行した.病理組織結果はpT2(MP)N0M0, pStageⅠBで,胃ならびに摘出リンパ節より多数の日虫症卵を認めた.症例2は79歳,女性.進行胃癌に対して腹腔鏡補助下胃全摘術を施行した.病理組織結果はpT3(SS)N2M0, pStageⅢAで,摘出リンパ節より日虫症卵を認めた.日虫症の既感染による消化器病変は稀であり,近年報告例が散見されているものの,大腸・虫垂・肝が多く,胃は極めて稀であるため報告する.

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要旨

症例は94歳,女性.右季肋部痛と嘔吐を主訴に紹介入院となった.腹部CTで後腹膜ガス像と十二指腸周囲の高度な炎症を認めた.手術を希望せず,保存的治療を行った.上部消化管内視鏡検査と造影検査で腸石が原因の十二指腸憩室の後腹膜穿孔と診断した.穿孔の自然治癒後,上部消化管内視鏡下に腸石を除去したが,腹痛と嘔吐が続いた.憩室への食物の流入が原因と考えられ,再穿孔も危惧された.憩室の切除は困難と考えられたので,憩室内に食物が入らないように腹腔鏡下胃空腸バイパス術を行った.術後,症状は消失した.憩室穿孔は緊急手術が基本だが,保存的治療例も報告されている.穿孔部位の閉鎖症例では,バイパス術も選択肢となりうると考える.

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要旨

症例は48歳の男性.右鼠径ヘルニアの存在に気付いていたが支障ないため放置していた.5日前の大きなクシャミをきっかけに右陰囊が大きく膨らむことになり,その後還納せず痛みが増強したため,救急要請し当院を受診した.初診時,右陰囊は小児頭大に腫大緊満して発赤が著明であり,血液検査でも高度の炎症反応を示した.腹部CT検査では,腹腔内に異常所見を認めず,陰囊内に盲腸が下垂嵌頓していることが認められた.炎症所見は右陰囊部に限局しており,ヘルニア囊と盲腸壁の間にガス像を認めたため,嵌頓した盲腸の穿孔と診断し緊急手術を行った.手術は,全身麻酔下に行い,ヘルニアに対して前方アプローチで開始し,さらに下腹部正中切開を追加し腹腔内も精査した.ヘルニア囊内には膿汁を認めたが,腹腔内は正常で回盲部切除術を行い,ヘルニア根治術を追加して終了した.鼠径ヘルニアでの盲腸の嵌頓や穿孔は稀とされており,文献的考察を加えて報告する.

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要旨

症例は60歳代,男性.心窩部痛で救急外来へ搬送された.腹部CT検査にて小腸が囊状に集簇し,腸管壁の造影効果は減弱していた.内ヘルニアによる絞扼性イレウスを疑い,緊急手術を施行した.術中所見では,上行結腸間膜背側のヘルニア門に小腸が嵌頓していた.腸回転異常症を伴った右傍十二指腸ヘルニアへの小腸嵌頓と診断した.嵌頓小腸の切除とヘルニア門の開放を行った.右傍十二指腸ヘルニアは先天的な腸回転異常を背景に発症する内ヘルニアの一つであり,比較的稀な疾患である.発症契機として絞扼性イレウスをきたし,腸管切除が必要になることもある.早期診断・手術のためには,特徴的な腹部CT画像所見を認識することが重要である.

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要旨

症例は73歳,男性.左下腹部の膨隆と疼痛を主訴に当院を受診した.CTでは下腹壁動静脈の外側から脱出する鼠径部ヘルニアを認めたが,ヘルニア腔は鼠径管の頭側へと進展しており,interparietal herniaが疑われた.腹腔鏡下ヘルニア修復術の方針とし,腹膜前腔を剝離すると,ヘルニア腔は鼠径管と筋膜で境されており,内外腹斜筋間に進展していたためinterstitialタイプのinterparietal herniaと診断した.通常の鼠径ヘルニアと同様にメッシュによる修復術を行った.interparietal herniaは比較的稀なヘルニアであり,腹腔鏡で診断・治療が行われた報告は少ないため,文献的考察を加えて報告する.

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要旨

近年,診断技術の向上により重複癌が発見されることが多く,また大腸癌は他臓器に比べて多発癌が発生する頻度が高いとされている.同時性重複癌および多発大腸癌に対する手術治療は術式選択や手術の順序について苦慮することも少なくない.症例は78歳,男性.皮膚有棘細胞癌の精査にて施行したCTで進行胃癌がみつかり,スクリーニングの大腸内視鏡にて多発大腸癌(6病変)がみつかった.術前および術後の内視鏡的切除と外科的切除を組み合わせることで可能な限り臓器温存をはかり切除しえた.特に高齢者に対する多重癌における外科的治療では,術後のQOL低下を招かないようになるべく低侵襲な治療方針を立てることが重要と考えられた.

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要旨

症例は79歳,男性,10歳代で開腹歴があり,その際内臓逆位を指摘されていた.健診にて胃癌を発見され,上部消化管内視鏡では胃角部小彎に0-Ⅱc病変を認め,生検結果はpor 1,Group 5であった.術前CT検査では胸腹部臓器左右逆転,およびmultidetector CT(MDCT)検査ではAdachi Ⅵ型に相当する腹部主要血管破格を認めた.以上より完全内臓逆位およびAdachi Ⅵ型血管破格を伴う早期胃癌Stage ⅠAと診断した.手術は開腹幽門側胃切除術を施行し,術後合併症なく軽快退院した.内臓逆位および血管破格を合併する胃癌手術報告例は稀である.内臓逆位症例の術前には解剖学的把握が重要で,特にMDCTは血管走行確認において有用であった.

ひとやすみ・146

息子の成長を願う 中川 国利
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 父親としては息子の活躍を期待しながらも,息子の言動には批判しがちである.一方,息子は父親の背中を見ながらも反発し,親の意見を無視しがちである.消化器外科医の道を歩む息子の成長を願い,ささやかながら自分が使える権利を行使した.

 長らく評議員を務めている学会から,将来が期待される有能な若手外科医を総会の座長に推薦してほしいとの依頼が舞い込んだ.しかしながら病院から血液センターに移り,直接指導する若手外科医はいない.また今年度をもって評議員も定年となるため,親として息子にしてあげられる最初にして最後のチャンスとして息子を推薦したいと思った.

1200字通信・100

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 2016年の8月,ブラジルのリオデジャネイロを中心に第31回オリンピック競技大会が開催されました.開催前には種々の「負」の報道もあって心配しましたが,始まってみれば日本勢の大活躍で,朝早くからTVで観戦することになりました.ただ,閉会式が終わってみれば,総集編や裏話が特集されはするものの,内容が華やかだっただけに祭りのあとの淋しさを感じずにはいられません.一方で,寝不足だけは解消されたようではあります.

 さて,今回のオリンピックでは,来る2020年の東京オリンピックに向けてのスタートとなった選手たちが多くいる一方で,この大会を機に引退する方もあるようです.そうした片隅の報道を目にするとき,私の脳裏に二つの引退劇が浮かんできます.それは,まさに引退の美学というか,自分をどのように納得させて第一線から身を引くのかという引き際の有り様(よう)とでも言うべきものであります.

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 評者自身のことで恐縮であるが,つい最近バングラデシュの首都ダッカ滞在中に,ホテルの階段で足を踏み外し転落した.最上段から10段も落下し,激しく右肩を床にぶつけ,肩関節が脱臼となった.元外科医とはいえ,古希を迎えての単身旅行,言葉が不自由な外国,しかも開発途上国であり,夜8時のことである.この話を聞いた友人全員が,さぞや治療に難渋したことであったろう,と大いに同情してくれた.

 だが実際は,駆けつけたホテル従業員がすぐに,私を招いた現地の外科医にスマホで連絡してくれた.彼は,直ちにホテル近くの緊急病院の整形外科医に連絡を取ってから,車で駆けつけて,そのクリニックに私を運んでくれた.整形外科医は苦痛で顔を歪める私に英語で問診しながら,視診・触診しただけで即座に診断し,単純X線,CT/MRIや血液検査をすることなく,無麻酔で整復してくれた.転落してからわずか30分で脱臼は整復され,激痛はたちまち軽減した.

昨日の患者

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 医師自身はあまり意に介することなく日々行動しているが,主治医の言動は何時までも患者の脳裏に留まり,人生の生き方にさえ影響を与えることがある.

 私が勤める施設宛に,差出人が元患者Yと記載された封書が届いた.差出名にかすかな馴染みを感じ,何ごとかと思いながら封を切った.

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バックナンバーのご案内

あとがき 渡邉 聡明
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 学会シーズンが続いていますが,アメリカ,韓国,台湾ならびに国内の学会に参加してきました.今回感じたのは,国内・国外の学会ともに興味ある演題がディベートセッションとして取り上げられていることでした.ディベートといえば,最近のアメリカ大統領選挙で行われたクリントン氏とトランプ氏のディベートが記憶に新しいところです.結果から言うと,あのディベート自体がどのくらい選挙に影響を与えたかは定かではありません.結果は,皆さんもご存じのような“予期せぬ?”ものとなりました.

 ところで,そもそもディベートといっても,お互いの演者が単に主張を述べるものから,競技ディベートのように演者同士が激しい攻防を展開するものまで,かなり広い意味があります.現在,学会で開催されるディベートセッションは,お互いの演者がそれぞれの立場で発表するのが主体で,演者間での直接の議論が少ないことが大半だと思います.ただ,理解を深めるには,競技ディベートのように演者が他方の立場の演者に対して直接質問し,返答するといった作業を交互に何回か繰り返し,最後にどちらが説得力があったかを会場の聴衆が判定する(投票する),つまり勝敗を決める,といったスタイルで,演者が議論を戦わせるところも見たい気もします.そして将来的にはそれを英語で行って,ディベートを通して,思考能力,論理性,発表能力,英語力などを培って海外でも通用する力を養っていくことが必要でしょう.

基本情報

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臨床外科
72巻1号 (2017年1月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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