看護学雑誌 48巻7号 (1984年7月)

特集 乳がんと闘う—治療・再建・看護+ボランティア活動

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 乳房切断を余儀なくされた乳がん患者にとって,切断後の失望感や苦痛には計り知れないものがある.切断された乳房が再建できれば,患者にはこの上ない福音となろう.形成外科手術の進歩がこれを可能にした.しかし,左右対称で形のよい乳房や乳頭を作成することは,なかなかむずかしい.筆者らは,患者の満足のいくような完成度の高い乳房の再建を目指して研さんを重ねている.その術式と成果を紹介する.

乳がん治療の現況と将来 西尾 剛毅
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 乳がんは従来,日本女性では発生頻度も低く,同じ女性のがんである子宮がんの陰に隠れてそれほど注目されてきませんでしたが,米国では女性10人に1人が罹患し,がん死亡の第1位を占めています.しかし近年,食生活,生活環境,授乳習慣の欧米化に伴い日本でも急激な増加を示しており,近い将来,罹患率,死亡者数など米国並になることが予想されています.

 乳がんは圧倒的に女性に多いこと,進行が比較的緩徐なこと,手術により病名がはっきりわかること,乳房欠損による肉体的・精神的ハンディキャップがあることなどの,この病気独特の問題をかかえています.

乳房再建とその意義 酒井 成身
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乳房再建の意義

 乳房の切断という事態に遭遇して,乳がん患者が味わう苦痛や失望感には計り知れないものがある.がんという疾患の特殊性もさることながら,機能面での障害以上に患者に与えるダメージが大きいのは,この手術が単に身体を侵襲するだけにとどまらず,自己の存在そのものを規定している自己像への侵襲をも意味しているからであろう.ある患者に至っては,もし切断後それを再建してもらえなければ切断は承諾しない,とまで言い切っている.

 このような反応は,比較的若い世代層で顕著であるが,欧米では,高齢の患者であっても,再建を希望して来院する例は珍しくない.最近では筆者らの外来でも,50歳代,60歳代の比較的高齢な再建希望者の姿を見かけることができるようになってきた.

乳がん患者への看護 松本 美由紀
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はじめに

 わが国における乳がんによる死亡は近年,増加傾向にある.その治療の中心は外科的治療であり,乳房切断術を受ける前後に患者が抱く不安や苦悩,術後の身体的・社会的な障害は大きいと思われる.疾病や手術への不安,女性のシンボルとしての乳房を喪失する悲しみ,患側上肢の運動障害など,患者が乗り越えていかなければならない問題は多い.

 乳がん手術で一般的に行われているのは定型的乳房切断術であるが,これは皮膚,皮下組織,大小胸筋,腋窩リンパ組織を一括して郭清する方法である.しかし現在,術後侵襲や術後の機能障害を少なくし,美容上の障害を減少させ,なおかつ根治性が定型的乳房切断術に劣らない非定型的乳房切断術(大胸筋を保存し腋窩郭清を行う)が多く取り入れられる傾向にある.

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患者の疑問・不安にどう答えるか

 患者の中には,病気に関することにかなり詳しい人がいてびっくりすることがある.特に乳がん患者については,手術の形跡が残ったり,後療法のいかんなどによっても,いくら隠しても,自分の病気が乳がんであったという事実を知る患者は,私の経験では,知らずにいる患者よりはるかに多いと思う.この度の特集の質問が,患者から集められたものを基盤にして作られていることからもわかるように,患者の中には,がんであるという事実以上に,その疾患の診断・治療上の医学的にかなり詳細なことまで知っていて,例えば患者からの質問とか患者の持つ不安などに対しても,決して中途半端な答えで間に合わせてはならないことを痛感する.

 時代が進むとともに,この傾向は強まる一方だろう.隠すことが決して賢明でないという時代は,遠くないというより,既に来ている感じさえする.がんをひたすら隠すことに努めるよりも,かえって教えて,がんも治るのだということを教えて励ますことの方が重要な時代に既に入ってきているのかもしれないのである.がんといっても,特に乳がんは,実際上なかなか隠しておけるものではない.その意味では,治癒への勇気づけの方が,患者にとってむしろ救いになるのではないだろうか.そして乳がんの場合,‘治りますよ’という言葉は決して嘘ではないことの方が多い.

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がん患者の苦悩は退院後に始まる

 私は今から7年前,1977年2月に東京渋谷の日赤医療センターで乳がんの手術を受けた.37歳になったばかりの時であった.入院中は主治医やナースたちにやさしく見守られ,若かったから食欲もあり,傷の治りも早く,点滴でも抗ガン剤でもコバルトでもスイスイとこなし,苦痛は何1つなかったと言ってよいほど快適だった.乳がん患者の手術後の課題である患側の腕の上げ下げにしても,病棟の処置室にあった船のカジのような器械で,腕を肩の付け根から回す運動や,天井から下がったロープを使って,腕を引っ張り上げる滑車運動を毎日続けたので,退院時にはほとんど垂直に上がるようになっていた.

 このように,精神的にも肉体的にもすっかり治った気持ちで退院した私が,入院中には全く予期しなかった苦悩に襲われることになる.

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まさか?が現実に

 私は新婚2か月を迎えたばかりの27歳です.私が自分の病気を知ったのは,今からほぼ1年半前のことでした.

 乳房に大きなしこりがあったのですが,年齢が若いせいもあって,乳がんのことなど考えたこともありませんでした.たまたま叔母が乳がんの疑いがあるということで検査をしている最中だったため,その叔母の勧めで検査を受けることになりました.しかし,診察してくださった先生が‘切って調べますが,たぶん違うでしょう’とおっしゃったのをよいことに,検査を1日延ばしにしておりました.季節がちょうど夏だったので海にも行きたかったのです.ずいぶんとのんびりしているようですが,私の気持ちとしても,そのぐらいのものでしかなかったというのが率直なところです.

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 乳房の切断手術を受けた患者に役立つだろうと思われる情報を,次のような項目で整理してみた.

 ①ブラジャー,②パッド,③水着,④サポーターおよび空圧式マッサージ器,⑤患者会

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はじめに

 外科系病棟では治療・処置に追われていることが多いために,患者と交わされる会話の内容も治療・処置に関することが多くなってきている.看護者があわただしく働いているので,患者も最低にして必要な話しかけしか行ってこなくなることに気づき,反省させられている.今回,問題を積極的に自分で解決している患者との立ち話を再構成してみて,看護婦のかかわり方の特徴と,患者の持っている問題の中で,すでに解決できているものと残されている問題について考察を加えてみたい.

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はじめに

 平均寿命の伸びにより高齢化社会を迎えている今日,痴呆老人は全国に50-60万人いるといわれる.痴呆は治療困難ということから90%が在宅ケアに支えられているが,精神症状が著明になると,家族の手に負えず入院ということにならざるをえない.本症例も,疎通性が悪くどこへでも出歩いたり,拒食傾向を理由に入院となったが,簡単な日常生活行動も満足にできない状態だった.そこで何とか,必要最低限の日常生活行動,すなわち食事・排泄などの習慣化ができないものかと働きかけを行った.その過程と,痴呆老人の看護について学んだことを報告する.

訪問看護 私たちの実践レポート・5

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はじめに

 当院は昭和26年に無床診療所として創設された.以来第一線の医療機関として,地域住民の切実な要求である往診活動に積極的に取り組み,昭和48年には訪問看護も開始された.昭和50年にベッド数51の病院として新たにスターとしたのと同時に,訪問看護活動の取り組みを外来看護の分野とし,半専任体制をとりながら継続させてきた.

 近年,寝たきりや呆け老人を取り巻く医療福祉の問題がクローズアップされ,総合的な在宅医療が求められてきているが,当院では2年前より在宅医療を重要な医療活動の柱にし,医師・看護婦・MSWが参加した‘在宅運営委員会’を設置して,日常的に取り組んでいる.当院の現状を事例を交えて紹介する.

AGING アメリカの老人ケア見てある記・7

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 今回の訪問先のうち,ナーシング・ホームは予定していたもの,臨時に訪れたもの合わせて30か所ほどでした.その中から印象に残った施設のケア状況を中心に紹介します.

選ばれた母親 障害のある我が子と生きて・7

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小さな生きがいを見つけたい

 3月.今日は,かなこの待望のお誕生会.3月生まれのかなこは,この日がどんなに待ち遠しかったことでしょう.その気持ちが痛いほど分かります.お花のペンダントと先生の心のこもった手作りのカードをもらって,誇らしげにしていたあの顔が忘れられません.お部屋に帰ってからの楽しいおやつ.ビスケット4つに薄焼きセンベイ2枚のささやかなおやつ.子供たちが,かわいい仕草で1つ1つ配ってくれた.心のこもったおやつ.

 ‘しんごくんにも,のこしておいてあげようね’と,少しのおやつの中から,お姉ちゃんはしんごくんのおみやげにしてくれました.

NURSES' VIEW

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 3年程前,Aさんという看護婦さんから聞いた話である.

 ほとんど寝たきりの生活をしていたO氏の病室で,2人の看護婦(AさんとBさん)が,ベッドをつくっていた時の小さな出来事である.もうベッドが出来上がるころ,AさんからBさんに,安全ピンを渡す必要があり,仰臥位で寝ているO氏の顔(胸)の上あたりで,何気なく手渡したそうである.その病室には,ちょうど夫人とその子供さん(女の子)が居合わせていた.終わると,その夫人は2人の看護婦に,‘どうもありがとうございました.さっぱりさせていただきました’とお礼を言った.

人工臓器・7 最先端の技術を探る

一時的な人工材料による膀胱再生
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人工膀胱開発の歴史

 膀胱は腎で生成された尿を一定量貯留した後,排泄する臓器である.この臓器が機能的,器質的に障害を受けた場合や,膀胱腫瘍などにより摘除術を受けた場合には,これに代わるべき機能代行処置がとられなければならない.この目的が不可能なために.泌尿器科では従来から,主に尿路変更術が行われてきた.

 この方法は主として生体自己組織(腸管など)を用いて,回腸造設術などを行い,腹壁に尿管瘻などを造る方法である.しかしながら,尿管瘻などを造ったまま生活することは,不自由,かつ不自然である.そのため,尿路を再建し,尿道からの排泄という,自然に近い状態で社会復帰させることを目的として,近年非生体自己組織,非生体材料などを使う方法(人工膀胱造設)が検討されるようになった.

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 さあ,いよいよ最後のグループ,11番目は“価値—信念パターン”です.このパターンのダイアグノーシスは1つ.

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 申し送りには,大きくわけて次の3つがある.

 1)病棟において各勤務時間に行われるもの.

痛みの臨床・3

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恐ろしい破壊力のある慢性痛

 現代の痛みの分野における際立った進歩は,第2次大戦後,急性痛と慢性痛を病因,病態生理,機能,診断,治療において全く異なる概念として区別するようになったことである1)

 急性痛は手術創痛や心筋梗塞痛のように明確な組織損傷が存在し,その侵害刺激が中枢に送られる.臨床的に,痛みは正しい診断・治療に導く警告としての積極的意味づけを持つが,病気の治癒に伴い痛みも消失する.

老人ホームの訓練室から 極楽寺山通信・3

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ホームでの生活は〈仮の生活〉か?

 入院中の患者さんには,患者としての一種の役割のようなものがある.お医者さんや看護婦さんの指示をよく守り,施される治療を受け入れることである.いわば,病気を治してもらうために〈受け身的存在〉であることを引き受ける.病気が治って退院すれば,〈受け身的存在〉である必要はなくなるのだから,これは〈病気〉という特別な一時期に引き受けねばならない役割だということになる.

 入院患者のだれもが,病院の中に自分の本当の生活があるとは思っていない.本当の生活は,病気が治って退院した後に,再び始まるのである.そういう希望があるからこそ,受け身的な〈患者〉であることを引き受けている.

リハビリテーションQ&A・4

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 近藤 老人のリハビリテーションは一所懸命やってもなかなか効果が上がらず,苦労が多いわけですが,今回は特に老化との関係や老人の疾患の特徴との関係などについてお伺いしたいと思います.

バイオエシックス・セミナー・7

患者はパートナー 木村 利人
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 〈バイオエシックス〉の基本の考え方によると,患者と医療従事者とは〈パートナー〉の関係にあることが望ましいのです.

 パートナーという言葉は既に日本語化していますが,元来は人間の平等な関係を前提にして,何ごとかを一緒に分かち合い(share),共同で行う人(partaker)を意味しました.

インフォメーション 新しいナーシングケアのために

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 新生児期には下血・吐血などの消化管出血を主徴とする新生児メレナ(新生児出血症)があることが古くより知られており,その発病の主因は新生児期の一過性ビタミンK欠乏による凝固障害によるとされている.近年,新生児メレナの発症時期を過ぎた生後2週-1年までの乳児,特に生後1, 2か月の母乳栄養児にビタミンK欠乏による,頭蓋内出血を主とする重篤な出血症があることが報告され,注目されている.

教育婦長

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昭和58年5月から,3代目の教育担当次長として,400名余の看護婦の院内教育の企画などに当たる.「立派なことを考えてはいません,教えるなどというより,若い人たちの豊かな感性を,自分という人間の丸ごとで吸収しようとしています.若い人たちから教えられることの方が多いですね.院内の催しものを色々企画しますけれども,催しものだけでナースが育っていくとは思いません.自己学習の動機づけを最大の目標に企画を考えています」

ちょっと一言 総婦長のつぶやき

芸の道と専門職 寺島 敏子
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 ある会議のさ中,伊那市に住む友人のお兄様が病院にみえて是非面会したいという.会議を中座して看護部に戻ってみると,白髪のちらほら交った年配の男性が懐しさいっぱいという感じで待っておられた.

 この方には忘れられない思い出がある.この方の結婚式に看護学校を卒業して間もない私と,同級生の妹さん,そしてHさんの3人で謡曲の“高砂”を謡い,仕舞いを舞ったのである.当時田舎では,このような席でお年寄りが謡をするのはともかく,若い女性のそれは珍しく,ちょっとした話題になったとか.実直で人のよさそうなこの方と話をしているうちに昔が懐しく思い出された.

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ストーマケア専門外来看護婦

 アメリカの看護は日本のずっと先を行っていると,看護学生時代言われ続けてきたので,アメリカには是非行って見てこなければいけないといつも思っていた.たまたまマソニック・メディカルセンターで研修を受ける機会があったが,実際目で見て,言われていたほどでもないと思い,6か月ほどで他の事情もあり帰国した.

 帰国して次の仕事を探していたが,そのころ,外科系の病院に勤めていた友人が,ET(Enterostomal Therapist;ストーマ造設者に対する治療士)のことを教えてくれた.

折々の花 いとしき糖尿病教室の患者たち・4

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 教育入院の日課の中には基礎教育として,医師,看護婦,栄養士が分担する講義がある.講義の前に患者情報を医師,栄養士に提供するのは私の役目.両者から当然様子を聞かれる.‘今回のクラスはどう?’‘はい今回は1級もののクラスですから張り切ってお願いしますよ’また‘今回は理解力が低そうですのでごくろうさま’とか答えていたが,壁に耳ありで,いつどこでこんな会話が患者側に漏れるかも知れないと思うと急に心配になってきた.何かいい合い言葉をつくろう,善は急げでさっそく3人で相談をした.

 天ぷらの大好きな先生がまず一番‘上から順に松,竹,梅で行こうよ’と.これで決まり.‘今回のクラスはどう?’‘松でお願いします.中に梅がチラホラ咲いてます’と,こんな調子でやっていた.

基本情報

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看護学雑誌
48巻7号 (1984年7月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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