総合リハビリテーション 45巻11号 (2017年11月)

特集 療養型施設でのリハビリテーション

今月のハイライト
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 わが国において,日常的な医療的管理を要する要介護高齢者の長期療養施設では,可能な限り居宅生活へ復帰することを目指してリハビリテーションが行われています.今後さらに入所対象者数の増加が見込まれ,その社会的重要性はますます高まっています.今回の特集では,「療養型施設でのリハビリテーション」というテーマで,現状と課題に続いて,さまざまなリハビリテーションサービスについて実践例を交えて解説していただきました.

現状と課題 石濱 裕規 , 安藤 高朗
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はじめに

 本稿では,療養型施設の概要と動向,リハビリテーションの現状,認知症をもった高齢者の生活支援,リハビリテーションの質の評価,の各点について,主に行政資料・公益調査研究事業報告をもとに概説する.

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老人保健施設のリハビリテーション

 介護老人保健施設(以下,老健)は,介護保険制度以前は病院から退院した人がリハビリテーションなどにより機能を回復させ,地域に戻るための「中間施設」として整備された.介護保険制度においては「介護保険施設」として再スタートしたが,当初は特別養護老人ホームとの機能の区別が不明確であると指摘されてきた.そこで2011年度の介護報酬改定から,在宅復帰率,および回転率といったアウトカム指標に基づく介護報酬が導入され,在宅復帰の機能が見直された結果,老健と特別養護老人ホームとの機能の差が明確になった.この見直しでは退所者に占める在宅復帰率が50%を超える老健は「在宅強化型施設」で老健の約2割がこれに当たる.在宅復帰率30〜50%の「在宅支援加算施設」は約3割を占めている.

 さらに2018年度に施行される改正介護保険法において,老健は,表1のように定義された.

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はじめに

 医療療養病床の対象患者は長期にわたり療養を必要とする患者のうち,比較的医療密度の高い医学的管理を有する者とされている.その内容は多岐にわたり,難病固有の支援に高い医学的管理が求められる患者,栄養手段が経管栄養・中心静脈栄養などで褥瘡も発生しており喀痰吸引が頻回に必要な患者への支援などさまざまである.

 リハビリテーション職としてのかかわりでは,難病固有の支援には本人の生活行為が上手く行えるための環境調整,自助具提供等だけでなく,本人が安楽にかつ支援者の負担は少ない手段を考案し,指導・情報提供すること.栄養手段や褥瘡への支援には栄養サポートチーム(nutrition support team;NST)委員会・褥瘡ケアチームと協調して摂食嚥下の能力評価やポジショニング方法を指導することを多く経験する.

 また,それらの内容に当てはまらず,別の理由で長期入院をしている,いわゆる社会的入院の様相が強い患者も現実として存在する.

 社会的入院となる背景は本人の医療必要度だけでなく家族関係や地域資源の課題などさまざまであり,課題解決が困難な事例も多い.

 しかしながらそのような課題の中で解決可能と思われるものを整理して見きわめを図り,必要な手立てを講じる,ケースマネジメントによって居宅での暮らしにつなげられる事例も少なからず存在する.

 今回,家族関係に崩れが生じ,医療療養病床での社会的入院となりつつあった患者に対し,生活行為向上マネジメント(Management Tool for Daily Life Performance;MTDLP)を活用し,課題を整理し,目標を共有したチームで総合的な支援を行うことで居宅での暮らしを再獲得するに至った事例を経験した.

 MTDLPはすべての領域にて活用可能であるが,療養型施設でのMTDLPの活用事例として,ここに紹介したい.

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はじめに

 当法人グループは医療法人と社会福祉法人の,医療療養病床,介護療養強化型老人保健施設,在宅強化型老人保健施設,産婦人科医院,特別養護老人ホーム,養護老人ホーム,盲養護老人ホーム,グループホーム,地域密着型特別養護老人ホームで構成され,約600名の高齢者の入所(院)と在宅サービスを提供している.入所者の大半には何らかの認知症状がみられ,職員は日々,さまざまな場面に直面している.本稿では,認知症の方への向き合い方,在宅復帰を図るためにはどうしたらよいのか,認知症短期集中リハビリテーションの可能性・役割などについて述べたいと考える.

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はじめに

 近年,脳梗塞においては超急性期治療が進歩し,重篤な後遺症が残らずに改善するケースも増えてきている.しかしながら,必ずしもスムーズな急性期治療がなされなかったり,脳の障害が広範囲で重篤な後遺症が残ってしまう場合も少なくない.また,医療設備なども高度化し,脳卒中後遺症の患者も高齢化が進んでいる.そのなかで,さまざまな合併症を併発し,障害像が複雑かつ重症化している症例も多い現状がある.このような症例は,老老介護の問題など介護基盤の弱体化も重なり在宅生活が難しく,長期にわたり入院加療を余儀なくされている.脳卒中という疾病は後遺症が残存するケースが多く,生涯にわたり,広義のリハビリテーションが欠かせない疾患の1つである.

摂食嚥下リハビリテーション 菊谷 武
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療養型施設での摂食嚥下リハビリテーションの目的

 療養型施設では,加齢やさまざまな疾患により認知機能の低下や日常生活動作(activities of daily living;ADL)を低下させている者が多い.これに伴い,摂食嚥下機能に関する問題も生じ,誤嚥性肺炎や窒息などの危険性も増加する.誤嚥性肺炎が発症した場合,さらなるADLの低下や認知機能の低下を招き,ひいては生命予後にも影響を与える.摂食機能の低下に伴って栄養状態が悪化している者も多くみられ,誤嚥のリスクの回避や栄養改善は,高齢者で多くみられる誤嚥性肺炎の予防に貢献する.また,摂食機能の低下により,食物誤嚥の回避や低栄養の改善を目的に胃瘻などの経管栄養に至る者も多く,最期まで口から食べたいという思いを実現できない場合もある.施設入居高齢者に対するリハビリテーションの目的は,誤嚥性肺炎予防であり,ひいては最後まで口から食べことへの支援となる.

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 わが国は2014年2月に障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)を批准しました.その中には,一般原則として「障害者の尊厳,自律及び自立の尊重,無差別,社会への完全かつ効果的な参加及び包容等」が謳われています.そして同条約の第4条1項(f)では,「(略)当該ユニバーサルデザインの製品,サービス,設備及び施設の利用可能性及び使用を促進すること.」(以下略)とされています.また同(h)では,「移動補助具,補装具及び支援機器(新たな機器を含む.)並びに他の形態の援助,支援サービス及び施設に関する情報であって,障害者にとって利用しやすいものを提供すること.」と定められ支援機器の開発と利活用の促進についても謳われています.加えて,第26条はリハビリテーションに関する条文となっており,その第3項には「締約国は,障害者のために設計された補装具及び支援機器であって,ハビリテーション及びリハビリテーションに関連するものの利用可能性,知識及び使用を促進する.」とされています.

 ご存じのように,リハビリテーション医療においては補装具(AFOなど)による移動能力向上の効果は絶大です.また,在宅リハビリテーション(訪問リハビリテーション,通所リハビリテーションなど含んで)の現場では住宅改修とともに手すりをはじめ,車椅子やリフター,昇降機,各種コミュニケーション機器,自助具などの環境調整に支援機器の利活用は必要不可欠なものです.しかし,よく言われることですが,訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションを利用されている方で補装具の修正,再作成の必要性があっても,すでに治療用装具(医療保険)ではなく更生用装具という扱いにあり,その場合は市町村を窓口とした県機関の更生相談所判定を必要とします.また,コミュニケーション機器などは市町村独自の日常生活用具として扱われる場合も多くあります.このような状況の地域リハビリテーション活動のなかでは,支援機器の効果的な活用を含めて,その生活評価がされているとは言い難い現状があります.

入門講座 栄養指標の見方・使い方・2

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はじめに

 個々のリハビリテーション計画を立てる際,リハビリテーション栄養の考え方やリハビリテーション栄養診断が有用である.リハビリテーション栄養とは,「国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;ICF)による全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養摂取の過不足の有無と原因の評価,診断,ゴール設定を行ったうえで,障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し,機能・活動・参加,生活の質(quality of life;QOL)を最大限高める『リハビリテーションからみた栄養管理』や『栄養からみたリハビリテーション』である」と再定義した.リハビリテーション栄養診断のドメインには,栄養障害,サルコペニア,栄養素摂取の過不足があり,これらを評価することで個々のリハビリテーション栄養計画を立てることができる.

 本稿では,リハビリテーション栄養ケアプロセスとリハビリテーション栄養診断に必要な栄養評価指標について解説する.

実践講座 乳幼児健診・1【新連載】

乳幼児健診概要 田中 恭子
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はじめに

 一般に,「成長」という言葉は身体的な発育,すなわち身長や体重の増加のように尺度をもって測定することが可能な変化に用いられ,「発達」という言葉は,精神的,社会的,あるいは機能,生理などの面について成熟へ向かっての変化に用いられる.が,厳密には両者を分けて考えることが難しい場合が多く,「発育」という言葉が成長と発達を含めた概念として用いられる.

 また子どもの発育には個人差があり,特に乳幼児期の発育は,出生体重や栄養法,児の状態によって変わにもかかわらず,そのアセスメント項目や健診方法などは各自治体に委ねられてきたのが現状であった.支援に関して,然るべき担当者につなげるためのシームレスな連携も重要な分野であり,現在「健やか親子21」における第2次課題(図1)としても取り上げられている.

 標準的な乳幼児健康診査(以下,乳幼児健診)の方法を全国で統一し構造化した方式で執り行うことを目標に,現在,乳幼児健診を標準化するための研究班が立ち上がっている.乳幼児健診を担当する医師,保健師を対象とした研修会も日本小児科学会,日本小児保健協会,日本小児科医会,日本小児期外科系関連学会協議会の4つの学術団体が中心となり実施されており,今後さらに標準化された乳幼児健診のありかたの構築が期待されている.

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要旨 【目的】本研究の目的は,熊本圏域における超高齢脳卒中患者の転帰に関して検討することである.【対象】熊本脳卒中地域連携クリティカルパスに登録された脳卒中患者のうち適応基準を満たした648例を対象とした.【方法】65〜74歳を前期高齢者群,75〜84歳を後期高齢者群,85歳以上を超高齢者群の3群に分類した.各群における性別,急性期在院日数,回復期在院日数,入院時機能的自立度評価表(Functional Independence Measure;FIM),退院時FIM,自宅復帰率,FIM利得,FIM effectivenessを算出し,比較検討を行った.【結果】平均在院日数,自宅復帰率で各群に有意差は認められず,超高齢者の自宅復帰率は82.6%と高い値を示した.FIM利得は高齢に伴い低下していたが,それでも超高齢者は21.4点であり,先行研究と比べ高い値を示した.【結語】超高齢脳卒中患者において有意に日常生活動作(activities of daily living;ADL)改善が示され,前期および後期高齢者と同様に自宅復帰が達成できることが示唆された.

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要旨 【目的】統合失調症患者に対して身体機能をフィードバックすることにより,身体機能の認識誤差という転倒リスクが軽減できるか否かを検証すること.【対象と方法】入院中の統合失調症患者30名を対象に,10週間の「身体認知フィードバック」を行い,「身体認知フィードバック」の前後26週間の転倒率を比較した.また,最大一歩幅を用いた身体機能の認識誤差を,調査開始時点と「身体認知フィードバック」の前後,26週間後の計4回測定した.【結果】「身体認知フィードバック」前後26週間の転倒率を比較した結果,平均転倒率は4.4±8.4から3.0±5.0に低下したものの,有意な差はなかった.しかし認識誤差の平均値は,初回13.7±8.9cm,2回目13.2±10.1cm,3回目6.8±6.6cm,4回目11.5±9.2cmであり,「身体認知フィードバック」後に身体機能の認識誤差は有意に軽減した.【結語】精神科在院中の統合失調症患者に対して身体認知フィードバックを行うと,転倒率が有意に減少するほどの効果はなかったが,身体機能の認識誤差が一時的に軽減した.

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はじめに

 バイオフィードバック(biofeedback;BF)療法とは,視覚的・聴覚的に動作を確認し,それに基づき自ら運動を調整することで運動学習を促進し,運動機能を回復させようとするものである.特に,脳卒中片麻痺患者1)や尿失禁患者2),整形外科手術後の患者の運動機能回復3)においては,筋電図BF(electromyogram biofeedback;EMG-BF)療法が有用であることが報告されている.

 2008年の日本リハビリテーション医学会調査4)によると,EMG-BF装置の施設所有率は33%である.一方で,購入希望率は調査対象運動療法機器26機器中で最も高く,臨床でのニーズは高いものである.導入が遅れている原因としては,機器の価格が高いこと,そのためEMG-BF装置の使用経験のある療法士が不足していること,さらに,EMG-BF療法の具体的な適応方法が周知されていないことなどが考えられる.

 村岡の開発したスマートフォンを用いた低コストEMG-BF装置5)は,10点程度の部品を用い低コストで作製することが可能であり,2012年製以前のAndroidスマートフォンで動作確認が行われている.しかしながら,最近広く普及しているApple社製iPad,iPhone,2013年製以降のAndroid端末の多くは,マイク接続を自動検出し,切り替える機能が付加されており,マイクと異なる出力インピーダンスをもつ従来装置では,手動によっても外部マイク入力に切り替えることができない.そのため,本装置を活用できず,臨床応用の停滞を招いている.現行のスマートフォンで使用するためには,マイクと同等の出力インピーダンスになるように回路を変更する必要がある.

 そこで,主に流通している各社のスマートフォン,タブレット型端末を用いて筋電図波形を確認することができるように回路を改良した.さらに各種スマートフォン,タブレットで動作確認を実施し,筋電図の表示に加え,記録や編集機能も検討した.

連載 関連職種の資格制度

義肢装具士 坂井 一浩
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義肢装具士法1)

 義肢装具士法は昭和62年に制定された.この法律で「義肢」とは,「上肢又は下肢の全部又は一部に欠損のある者に装着して,その欠損を補てんし,又はその欠損により失われた機能を代替するための器具器械」をいい,また「装具」とは,「上肢若しくは下肢の全部若しくは一部又は体幹の機能に障害のある者に装着して,当該機能を回復させ,若しくはその低下を抑制し,又は当該機能を補完するための器具器械」と定義されている.さらに「義肢装具士」とは,「厚生労働大臣の免許を受けて,義肢装具士の名称を用いて,医師の指示の下に,義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の製作及び身体への適合を行うことを業とする者」とされている.

 同法により「義肢装具士学校養成所指定規則」が定められており,指定を受けた養成校の卒業により国家試験の受験資格が与えられる.試験科目として臨床神経学,整形外科学,リハビリテーション医学などを含む「臨床医学大要」,機構学やリハビリテーション工学などを含む「義肢装具工学」,「義肢装具材料学」,「義肢装具生体力学」,「義肢装具採型・採寸学」,「義肢装具適合学」があり,形式はいずれも筆記のみである.参考までに,直近の第30回義肢装具士国家試験の全国合格率は,新卒93%,既卒者37%であった.2017年3月末時点で,有資格者数は5,125名に上っている.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 昭和27年の正月早々,50歳で「軽微な脳溢血」に倒れた上林暁は,同年4月に発表した『病閑録』(『上林曉全集第15巻』,筑摩書房)の中で病後の心境を語っている.

 自宅療養中の彼が新聞の死亡欄を見て驚いたのは,脳溢血で亡くなる人の多さである.上林が注意して見るようになってからだけでも,日本画家の吉村忠夫,彫刻家の本山白雲,美術評論家の一氏義良,代議士の木村小左衛門,作家の久米正雄,法学者の加藤正治など,多くの人が脳溢血で死んでいた.もっとも,「それを見ても,別に恐怖は感じない」という上林は,「むしろ自分と同じ病気で倒れてゆく人を見ると,身近かな親しみを感じる」と語る.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 2017年の学習指導要領改訂は,2014年の文部科学大臣による中央教育審議会への諮問によって開始された.諮問文では,「成熟社会を迎えたわが国が,個人と社会の豊かさを追求していくためには,一人一人の多様性を原動力とし,新たな価値生み出していくことが必要」との認識を示している.<分断と排除>の政治思想と真っ向から対立する教育思想として措定できるものであり,その具現化とは,マイノリティを尊重し,その力を活かすことである.過去,これを形象化してきたのが映画であり,それは現在も続いている.以下,マイノリティ讃歌ムービー2作.

 「パワーレンジャー」(監督/ディーン・イズラライト:2017)は,東映のスーパー戦隊シリーズのアメリカ版である.構成メンバーは5人の高校生.ブルーレンジャーのビリーは自閉症スペクトラム.記憶力や機械の扱いに優れているが,冗談や皮肉がわからず,いじめのターゲットになっている.ビリーをいじめから救ったのが,かつて高校アメフトの伝説的スター選手だったレッドレンジャーのジェイソン.雲の上から地底に落ちたような挫折者だ.さらに,仲良しグループから排除されたピンクレンジャーのキンバリー.母親を看病し,不登校を続けるブラックレンジャーのザック.イエローレンジャーのベッキーに至っては,単独行動を好むLGBT.各自がなんらかの不全感やマイノリティ性を抱えている.リーダーはジェイソンだが,ドラマのターニングポイントで力を発揮するのはビリー.チームに自閉症スペクトラム者がいることの利点を描いているという点で出色.

私の3冊

私の3冊 稲澤 明香

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 毎年数多くの理学療法に関連した本が出版されるが,著者と題名が違うだけで,内容的には代わり映えしないものが多い.そんな風に感じていたところに,今までにない本が中山恭秀先生編集で出版された.『臨床データから読み解く理学療法学』と題した本書は,東京慈恵会医科大学の理学療法プロジェクトという取り組みの中で,大学附属の4病院において疾患ごとに統一したデータの蓄積,評価を行った結果をまとめたものである.理学療法現場では“いわゆる暗黙知”が非常に多く,臨床評価の分析と検証は十分にできていないという状況があり,データを集め検証し,暗黙知を形式知に転換することの重要性が本書では述べられている.

 本書は大きく脳卒中(749例),人工股関節全置換術(THA:1,242例),人工膝関節全置換術(TKA:783例),大腿骨頸部・転子部骨折(249例),パーキンソン病(113例),急性心筋梗塞(375例),廃用症候群(1,731例)の疾患別に分けられ,それぞれの項目は定義,基礎データ,採用している評価項目とレビュー,臨床データ,理学療法関連学会における潮流からなる.特に興味を引くのが基礎データと臨床データの項目であり,各種のグラフで視覚的にもわかりやすく提示されている.脳卒中の基礎データを例に挙げると,1)発症年齢と性別,2)病型,3)併存疾患,4)初発と再発,5)在院日数と転帰,6)発症から理学療法開始までの日数,7)発症前のADL,8)社会的情報に関してのデータが示されている.さらに理学療法の評価項目は,1)NIHSS,2)運動麻痺(BRS),3)意識(GCS),4)筋緊張(MAS),5)感覚,6)基本動作能力(ABMS),7)座位バランス,8)立位バランス,9)歩行自立度(FAC),10)5m歩行テスト,11)TUG,12)日常生活動作(BI),13)健康関連QOLからなっており,これらのすべてにおいて実際のデータが示されている.各評価項目のN数が非常に多く,1例1例を評価していたのでは見えてこない全体像を把握することができる.評価法としては,広く一般に知られたものを中心に多く挙げられているが,第2章の評価表一覧を見ると,これらの評価が発症時期別にそれぞれ1枚の用紙にまとめられており,臨床の中で評価しやすいよう工夫されていることがわかる.

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 本書は,工藤慎太郎先生(森ノ宮医療大)が手がける『なぜ?』シリーズの第3作である.同シリーズはこれまで『運動療法の「なぜ?」がわかる臨床解剖学』(医学書院,2012),『運動器疾患の「なぜ?」がわかる超音波解剖』(医学書院,2014),と医療の原点となる解剖学を中心に展開されており,いずれも“臨床に活かすための実践的な解剖学”をテーマとして構築された良著である.そして本作では,理学療法士であれば誰もが苦心する“評価戦略”が主題となっている.

 臨床における評価の重要性に対して,異論を唱える理学療法士はいないだろう.また,その修得に苦心した経験は卒前・卒後を問わず,誰もが有すると思う.その苦心の背景にはさまざまな要因が挙げられるが,解剖学・運動学の正しいエビデンスと検査測定結果とをつなぐことに難渋する場合が多い.本書は学生・現職者の誰もが抱える,そのニーズに応える一冊に仕上がっている.

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文献抄録

次号予告

編集後記
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 先日取材させていただいた義肢装具学会.朝,会場の最寄駅に着くとものすごい人.とりあえず会場までその流れに乗って進んでみたものの,何とも言えない違和感.どうも自分だけが浮いている…….どうやら同じ会場で行われている「同人誌即売会」に向かう波に乗っていた模様.何とか波から脱出してたどり着いた義肢装具学会,こちらも熱気に溢れていました.義肢装具士,エンジニア,医師,PT,OT,開発した企業担当者,そしてユーザーも参加してのディスカッションはとても実際的な内容で,他の学会の研究発表とはまた趣が異なります.他誌の担当時代も含め,いろいろな学会にお邪魔しましたがそれぞれの学会ごとに「色」みたいなものがあるなあと改めて感じた次第.

 さて,秋の学会シーズン真っ盛り.リハビリテーション関連分野だけでも毎週のように全国各地で学会が開催されています.学会取材は日ごろお世話になっている先生方に直接ご挨拶することができる貴重な機会でもあります.いきなり「PRESS」の札を下げた人から声をかけられてもどうぞ驚かないでください.決して怪しい者ではございません.

基本情報

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総合リハビリテーション
45巻11号 (2017年11月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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