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毎年数多くの理学療法に関連した本が出版されるが,著者と題名が違うだけで,内容的には代わり映えしないものが多い.そんな風に感じていたところに,今までにない本が中山恭秀先生編集で出版された.『臨床データから読み解く理学療法学』と題した本書は,東京慈恵会医科大学の理学療法プロジェクトという取り組みの中で,大学附属の4病院において疾患ごとに統一したデータの蓄積,評価を行った結果をまとめたものである.理学療法現場では“いわゆる暗黙知”が非常に多く,臨床評価の分析と検証は十分にできていないという状況があり,データを集め検証し,暗黙知を形式知に転換することの重要性が本書では述べられている.
本書は大きく脳卒中(749例),人工股関節全置換術(THA:1,242例),人工膝関節全置換術(TKA:783例),大腿骨頸部・転子部骨折(249例),パーキンソン病(113例),急性心筋梗塞(375例),廃用症候群(1,731例)の疾患別に分けられ,それぞれの項目は定義,基礎データ,採用している評価項目とレビュー,臨床データ,理学療法関連学会における潮流からなる.特に興味を引くのが基礎データと臨床データの項目であり,各種のグラフで視覚的にもわかりやすく提示されている.脳卒中の基礎データを例に挙げると,1)発症年齢と性別,2)病型,3)併存疾患,4)初発と再発,5)在院日数と転帰,6)発症から理学療法開始までの日数,7)発症前のADL,8)社会的情報に関してのデータが示されている.さらに理学療法の評価項目は,1)NIHSS,2)運動麻痺(BRS),3)意識(GCS),4)筋緊張(MAS),5)感覚,6)基本動作能力(ABMS),7)座位バランス,8)立位バランス,9)歩行自立度(FAC),10)5m歩行テスト,11)TUG,12)日常生活動作(BI),13)健康関連QOLからなっており,これらのすべてにおいて実際のデータが示されている.各評価項目のN数が非常に多く,1例1例を評価していたのでは見えてこない全体像を把握することができる.評価法としては,広く一般に知られたものを中心に多く挙げられているが,第2章の評価表一覧を見ると,これらの評価が発症時期別にそれぞれ1枚の用紙にまとめられており,臨床の中で評価しやすいよう工夫されていることがわかる.
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