総合リハビリテーション 33巻12号 (2005年12月)

特集 脳卒中治療ガイドラインとリハビリテーション

今月のハイライト
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 5学会合同委員会による「脳卒中治療ガイドライン2004」が発表されてすでに1年半が経過した.ガイドラインの内容が徐々に浸透し,ガイドライン自体が批判的吟味にさらされ,改訂に向けた動きも始まっている.そこで,本特集では,ガイドラインへの評価や国際比較,日本におけるエビデンスづくりに代表される今後の課題など,いろいろな角度から取り上げた.

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はじめに

 1990年代はじめから,information technology(IT)の進歩による情報交換の普及と,活発化したrandomized controlled trial(RCT)やメタ分析手法の開発などにより,世界各国でガイドラインの作成がつづいた1-5)

 しかし,脳卒中大国と呼ばれる本邦においては,専門学会がオーソライズできるような脳卒中治療ガイドラインは従来存在しなかった.1999年,日本脳卒中学会および日本神経治療学会の理事会において,筆者がこの点を指摘し,かつその必要性を主張して,両学会より指針作成委員会委員長に指名された.しかし,その作成は上記2学会のみならず,脳卒中に関連する全ての学会を含めて協議のうえ行うべきと考え,日本神経学会,日本脳神経外科学会(日本脳卒中の外科学会),日本リハビリテーション医学会の賛同を得て,脳卒中関連5学会合同脳卒中治療ガイドライン委員会を1999年に立ち上げた.

 本ガイドラインは2004年2月に正式に日本脳卒中学会ホームページ(http://www.jsts. gr.jp)に掲載され,また同時に市販6)された.

 本稿ではこのガイドラインの策定過程と,インパクトおよび今後の問題点について概説する.

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はじめに

 従来の医療では,厳密な証拠に基づく意思決定よりも経験に基づく意思決定が主流であったが1),EBM(evidence-based medicine)が提唱され,わが国でも急速に広まりつつあり2),リハビリテーション医学・医療への導入が期待されている1,3).このようななかでさまざまな疾患に対して最新の治療法を集積し,EBMの具体的な支援策となり得る診療ガイドラインを作成することが求められている2).ガイドラインとは,医師が特定の臨床上の問題に対して,適切なヘルスケアを提供することを助けるために系統的に作成された勧告である.その目的は,ヘルスケア過程の改善,臨床の均質化,医療資源利用の最適化,医師への最新知識の提供と科学的証拠の活用の促進にある2)

 本稿では,本邦で2004年出版された脳卒中治療ガイドライン2004と,海外の脳卒中,とくにリハビリテーションに関するガイドラインの国際比較をしながら,今後のガイドライン改定の方向およびリハビリテーション医学・医療の課題について述べたい.

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はじめに

 脳卒中治療に関するガイドラインはいくつも公開されている1-3).日本でも脳卒中合同ガイドライン委員会が,日本脳卒中学会,日本脳神経外科学会,日本神経学会,日本神経治療学会,日本リハビリテーション医学会と厚生労働省の脳梗塞・脳出血・くも膜下出血3研究班の合同委員会として,2000年から活動を開始した.その精力的な作業により脳卒中治療ガイドライン2004が刊行された4).また現在,既にこのガイドラインの改訂作業が進んでいる.

 日本リハビリテーション医学会の対応として,2000年からの活動の実行部隊として脳卒中ガイドライン策定委員会が臨時に設定され,委員とその仲間達が文献整理に取り組んだ.この経験を活かすべく2004年度からガイドライン委員会が組織され,脳卒中などテーマ別の小委員会を束ねる形が実現した.

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はじめに

 高性能コンピュータが比較的安価となり,データベース化された医学文献に多くの医師が迅速かつ容易にアクセスすることができるようになった1990年代より,医療界では,科学的根拠に基づいた医療(evidence-based medicine;EBM)がさかんにとりざたされるようになった.現在,わが国にもその言葉は浸透し根付きつつある.これに対して,経験主義的要素が強いと言われている理学療法の分野において,その普及は一歩遅れをとっている感が否めない.

 しかしながら,理学療法の分野における臨床研究の数は,過去数年間で飛躍的に増加している.理学療法に関する科学的根拠を集めたデータベース(The Physiotherapy Evidence Database;PEDro)のウェブ上での公開も1999年に始まり,すでに3,500篇以上の無作為化対照試験と600篇以上の系統的レビューが収録されている.これらの事実は,この分野におけるエビデンスの蓄積とそれに基づいた医療の普及,浸透への気運を感じさせるものである.

 理学療法に関するエビデンスの作成には,そのほかの分野にはない特有の困難が存在する.例えば,治療目標が機能の獲得のみならず安定性や安全性など多様である点や,介入を定量化することが難しい点などである.しかし,臨床に直接役立つエビデンスは臨床の現場から生まれるものである.これらの問題解決へ向けて,今後,積極的な取り組みがなされることが期待される.

 本稿では,その一助として日常業務のなかで科学的な研究を行う手順を整理した.

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はじめに

 わが国では「臨床に使えるエビデンス」が不足している1).リハビリテーション医学においても例外でなく,脳卒中治療ガイドライン20042)でも「エビデンスの面からは妥当性が十分とは言えない」とされ,新たなエビデンスづくりが求められている.しかし,リハビリテーション医学では,RCT(randomized controlled trial,ランダム化比較試験)を行いにくい3).そのため,根拠にもとづくガイドライン作成のために,RCT以外の研究デザインによるエビデンスづくりも求められている3)

 その一つの方法が,大規模データバンクを活用した研究デザインである.小論では,まず,RCTとエビデンスについて考えた後,大規模データバンクの動向や多施設のリハビリテーション患者データバンクを活用した報告例を紹介し,その意義や可能性,開発に向けた課題などを考えたい.

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金沢大学病院(当院)のリハビリテーション医療にリハビリテーション医として携わり,やがて10年になろうとしている.振り返れば,当院のリハビリテーション診療現場が安定かつ恒常的であった時期はなく,常に動いていた.

 リハビリテーション紹介患者数は年次増加の途をたどり,最近20年間における年間紹介例数は約3倍に増加した.その間,診療報酬制度,国立病院法人化などの大改革があり,当院は急性期病院,特定機能病院として特化する道を歩むこととなった.当院リハビリテーション部では,おのずと急性発症疾患や周術期患者を対象とする入院急性期リハビリテーションの症例が増加することとなった.対象患者として,骨関節疾患,脳血管障害,神経変性疾患が中心であった時代から,開胸開腹手術例,内部障害,deconditionが増加し,それらがリハビリテーション臨床研究の対象となる時代へと移り変わってきた.

講座 再生医学とリハビリテーション 3

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再生医療とリハビリテーションの関わり

 近年脚光を浴びている医療分野の一つに再生医療があげられる.再生医療は,主に外的に組織を補充することにより,障害を受けた組織の再生を促し,機能の再建を図ることを狙いとしている.その根幹となっているのは,自らを未分化の状態に保ちながら複製するという自己複製能と,さまざまな細胞に分化することができるという多分化能を持つ幹細胞であり,とくに神経系細胞に特異的に分化する能力をもつ幹細胞を神経幹細胞と称する(図1).脊髄損傷のモデル動物の脊髄に神経幹細胞を移植しても,そのほとんどがグリアに分化するだけで,神経細胞に分化するものはほんの数%にすぎず,さらにそのグリアから分泌される神経栄養因子が神経細胞同士の異常なシナプス結合を促通し,その結果allodyniaと呼ばれる異常感覚を誘発するなど,まだまだ解決されねばならない問題が山積している1).しかしながら,この神経幹細胞移植を中心とした再生医療が,可及的早期に,脳卒中や脊髄損傷などといった中枢神経系の障害に応用されることが強く期待されているのは言うまでもない.

 神経幹細胞をはじめとした,幹細胞を用いた再生医療の基本的な考え方は,目的とする臓器の初期発生過程を人為的に再現することにある.そのためには,まず,それらの臓器の発生・分化過程をある程度明らかにする必要がある.中枢神経において,脊髄運動神経細胞は,どのようにして生まれ,どのような機構で軸索を正確に標的に投射するのかといった,発生・分化過程が最も詳細に解析されている組織の一つである.

実践講座 リハビリテーションに役立つ整形外科的診察法 6

骨粗鬆症 原田 敦
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はじめに

 骨粗鬆症に対する最近の注目の高まりは,社会の高齢化進行に伴う高齢者の骨折増加と,それによる自立低下増加が背景にある.骨粗鬆症の定義は,「骨量の減少と微細構造の劣化によって骨強度が低下し,骨折の危険性が高まった全身性疾患」とされている1).これから明らかなように,骨粗鬆症の診療は,脆弱性骨折の予防を主要な目的とし,骨強度に関連する骨折リスクの評価と治療を診療の内容とする.この場合の骨折リスクは,以前のように骨密度一辺倒ではなく,その他のいくつかのリスクファクターも考慮したほうが予知能は高まる.世界保健機構(WHO)の骨粗鬆症診断基準は骨密度だけで判定されるが,わが国の原発性骨粗鬆症の診断基準2)では,脆弱性骨折と骨密度で判定され,骨折リスク予知に優れるものになっている.

実践講座 リハビリテーションにおける法制度 6

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はじめに

 脳卒中は医学的リハビリテーションを必要とする障害原因として,最も多い疾患である.対象患者の高齢化と,経済基盤が弱く生活環境の厳しいお年寄りの脳卒中罹患が多いことから,生活保護受給者を脳卒中リハビリテーションの現場で取り扱う機会が増加している.他方,青壮年期の脳卒中患者では家族の生活上の困窮を生ずる場合があり,臨床現場で相談を受けることが多い.

 本稿では脳卒中患者のリハビリテーションを進めていくうえで対応が必要となる福祉諸制度の概要に触れ,さらに生活保護に的を絞って詳説したい.

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はじめに

 横断歩道の横断は,時間的な制約を受ける屋外移動場面の一つである.わが国の横断歩道の信号機は,青信号点灯時間が最も短く設定されている場合,最高で1.0m/secの歩行速度が必要となる1).このため1.0m/sec以上の歩行速度を有することは,制限なく屋外を歩行移動する際の有利な体力条件の一つと考えられる.歩行速度と関連する因子としては,年齢,身長,体重,下肢筋力,重心動揺,関節障害の程度などがある2-7).なかでも下肢筋力とは密接に関連し,一定の歩行速度を有するためには,必要となる下肢筋力閾値があることが報告されている8,9)

 われわれは,高齢入院患者の等速性膝伸展筋力,脚伸展筋力(主に大殿筋,大腿四頭筋および二頭筋,下腿三頭筋によって発揮される筋力)が一定値を下回った場合,筋力の低下に従って1.0m/sec以上の歩行速度を有する者の割合が低くなることを報告した10).しかしながら,等速性膝伸展筋力の測定は高価な機器が必要であり,また脚伸展筋力の測定は,対象者が比較的小柄な者や低い体力の者に限られる.このため,等速性膝伸展筋力,脚伸展筋力といった指標を用いることが困難な施設も少なくないと考えられる.一方,徒手筋力測定機器は,比較的安価で携帯性に優れるため多くの施設で測定可能であり,われわれの考案したベルト固定を併用した測定方法は良好な再現性と妥当性を有している11,12)

 道路横断に必要な歩行速度を有するための下肢筋力カットオフ値が徒手筋力測定器によって得られた場合,多くの施設で適切な移動方法やトレーニング目標値の設定,そしてトレーニングに対する動機づけの有用な情報になり得ると考えられる.本研究の目的は,高齢男性患者が1.0m/secの歩行速度を有するために必要とされる等尺性膝伸展筋力目標値について検討することである.

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はじめに

 ヒトは日常生活おいて,種々の環境変化に適応して立位姿勢を制御している.この立位姿勢制御には,環境変化に応じた求心性感覚情報が重要な役割を果たす.通常,ヒトの立位姿勢バランスは前庭系,体性感覚系,視覚系からの感覚情報の統合によって調整されている1).このうち,前庭は重力および頭の位置と運動の情報を,体性感覚は身体各部位の位置関係と運動の情報をそれぞれ入力する.これに対して,視覚は外部環境および頭の位置と運動に関する空間位置情報を入力する.ヒトの姿勢制御には,外部環境と身体各部の位置関係および外部環境と身体との位置関係に関する情報が不可欠であり,これらの大部分は視覚が重要な役割を果たすとされている2)

 視覚環境の変化が立位姿勢制御に与える影響は,1970年代後半から視線の変化や眼球運動により姿勢動揺が増大することから明らかにされている3-8).また近年では,流動的な視覚刺激により,自己運動感覚を誘導することによって立位姿勢動揺が増大することも報告されている9)

 一方で,立位姿勢制御に影響を及ぼす要因として,認知機能が挙げられている.1990年代以降,多重感覚情報変化を統合するための注意や認知機能が立位姿勢制御に影響を及ぼすことが,二重課題法を用いて多数報告されてきている10-19).二重課題法とは,2つの課題(立位保持課題と認知課題)を同時に課すことにより,1つの課題のみを課した場合との差を評価するものである.これによると,姿勢バランスの制御は,従来から考えられていたような姿勢反射メカニズムによるものだけでなく,より高次な脳機能の働きが関与しているとする報告が多い10-15).とくに,これらの先行研究では姿勢制御のための種々の感覚情報の統合における注意能力の必要性を示している.

 二重課題法を用いた先行研究では,認知課題として,ストループ課題がよく用いられている14,18).ストループ課題とは,ワーキングメモリに関連した前頭連合野の機能を必要とする認知課題である20).その具体的内容は,色を表す単語(例えば「赤」)が,その色とは異なる色(例えば,青色)を使って提示された場合,色を表す単語(赤)を答えるのではなく,単語が書かれている色(青)と答えるものである.この課題では,習慣化した注意を抑制するための意識的な注意が必要とされる20).しかし,このストループ課題には,認知機能だけでなく,視標に対する眼球運動が伴う.したがって,ストループ課題の付加により,立位姿勢制御に影響を与えたという結果は,視標運動あるいは認知機能のどちらによってもたらされたかを判断することが困難である.そこで本研究は,視標運動およびストループ課題を付加することにより,立位姿勢制御がどちらによって影響を受けるかを明らかにすることを目的とした.

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はじめに

 呼称障害は失語の中核症状である.その呼称障害に対する言語訓練として,伝統的な刺激法1)では復唱を利用した訓練を行う.一方近年,欧米の研究者は,呼称障害に対する別のアプローチを提唱している.具体的には,音声単語または文字単語と絵カードのマッチング課題,音声または文字で与えられた定義文と絵カードのマッチング課題,絵カードや単語カードの意味的な分類課題などを行って,患者の「意味システム」2,3)に働きかけたり,または意味と語彙の対応の強化によって呼称障害の改善を目指すものである.このような訓練法は,音韻セラピー(phonological therapy)と対比して意味セラピー(semantic therapy)または語彙・意味セラピー(lexical-semantic therapy)と称される.

 意味セラピーの研究は,1985年のHowardら4,5)のものから始まり,欧米ではその後も多くの研究が行われて,有効性が確かめられている.ただし,訓練効果のメカニズムやどのような患者に適応があるかなどについては,いまだに不明なことも多く,現在も探求が続けられている(以上,詳細は文献6-9)).一方わが国においては,意味セラピーは一般的な訓練法として認識されておらず,調べた限りでは意味セラピーについてのまとまった報告はない.

 今回われわれは,失語1例にodd word out課題を用いた意味セラピーを施行し,その有効性を確認した.本邦で初めての意味セラピー研究であり,貴重な知見を得たので以下に報告する.

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はじめに

 痙縮は脳血管障害,頭部外傷,脊髄損傷など中枢神経障害において認められる症状の一つであり,随意運動を困難にする要因となり,さらには歩行や日常生活動作の能力低下を引き起こす1).リハビリテーションにおける痙縮へのアプローチとして,理学療法,作業療法1,2),物理療法(温熱療法,寒冷療法など)2,3),装具療法(inhibitor barなど)4),薬物療法1,2,5),ブロック療法(フェノールブロック,ボツリヌス毒素,muscle afferent block)1,2,6),整形外科的療法(切腱術,腱延長術,腱移行術)1,2)などが知られている.

 近年,痙縮に対する新しい治療法として,Gros7)が1979年に痙性筋への運動神経を選択的に減少させる方法を報告し,1988年にSindouら8)によって顕微鏡下末梢神経縮小術が確立された.その代表として選択的脛骨神経縮小術があり,この手術は尖足,内反尖足などの足部変形に対して,痙性筋を支配する運動神経の太さを直径が1/3~1/4になるように縮小して痙縮を軽減させ,随意運動を温存することを目的としている.そして,術中に電気刺激を用いることによって目的とする運動神経を同定するため,感覚神経との分離が可能であり,術後に感覚障害は出現しないとされている8-12)

 当院において,2002年7月から2004年8月までに選択的脛骨神経縮小術が13症例に施行され,術後の理学療法を施行した.今回,歩行自立していた10症例において,足関節の痙縮および歩行能力の術後変化から選択的脛骨神経縮小術の効果を検討し,本手術による歩行能力の改善に影響を与える術前因子について検討したので報告する.

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はじめに

 肺移植では,他に治療法のない末期の肺疾患が対象とされる.海外では1983年にカナダのCooperらによる成功例が報告されて以降,急速に普及し,2001年末までに世界中で14,588例に実施されている.一方,わが国では1997年に臓器移植法が施行され,1998年10月28日に初の生体肺移植が,2000年3月29日には初の脳死肺移植が実施された.2004年11月末までに脳死肺移植は19例,生体肺移植が43例に施行されている.そのうち,当院では国内初の脳死肺移植を含め,これまでに脳死肺移植5例,生体肺移植4例が実施されており,術前後にはリハビリテーションを施行している.

 近年,ドナー不足による脳死臓器移植の待機期間の長期化が社会的な問題となっている.それゆえに待機期間のADL(activities of daily living)をいかに維持していくかが重要となり,肺移植適応評価目的の入院時におけるADL指導1)はその一助となると考えられる.また,移植後の心理機能や生活の質,社会復帰についても注目されるようになってきており,家庭復帰や職業復帰に関する支援も欠かせないものである2).しかしながら,筆者らが検索した限りでは,肺移植前後における作業療法の介入に関する報告は移植先進国である欧米ではなく,わが国で散見されるのみである3,4)

 今回,肺移植術前後における作業療法の介入について後方視的に調査し,今後の介入の方向性を検討したので,術前後を通じて介入することができた事例の経過の紹介とともに報告する5)

一頁講座 リハビリテーション関連用語

「師」と「士」 伊藤 利之
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2001年12月,第153回通常国会において「保健婦助産婦看護婦法」が「保健師助産師看護師法」に改正された.以来,これまで「婦長」と呼んでいた人を「師長」と呼ぶのか? 「師長」は口頭では「市長」と間違えられる可能性が高いがどうしたものか! また,高齢の医師の間では「看護師とするのはいかがなものか,医師と同格の地位を求めるとはけしからん」という意見もあり,さまざまな論議を呼んでいる.

 そもそも法律で「師」を使用した理由は何か? これまで保健婦助産婦看護婦法の施行規則により,男性看護婦の免許名としてすでに「看護士」(1968年:看護人→看護士に名称変更)が使われてきた経緯がある.そのため性による名称の不一致を解消するには,明らかに女を表わす「婦」と男を意識して命名した「士」を統合して,あらためて「士」で統一するわけにはいかなかったことが主な理由と思われる.

一頁講座 日本全国,こだわりの住宅改造

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頸髄損傷による四肢麻痺と異所性骨化のため,股関節が屈曲できず,寝たきりの患者に対して,立ち上がりが可能となる座面モデルを作成して車椅子座面や便座,椅子,ベッドなどを改造することで,一人で起き上がりが可能となり,在宅でのADLが自立したので,その工夫を紹介する.

事 例

 患者は66歳,男性,頸髄損傷による四肢不全麻痺で,ASIA impairment scale Dである.頸椎後縦靱帯骨化症(C2-6)による脊柱の可動域制限と左股関節周囲筋の広範な異所性骨化のため,股関節は20度しか屈曲できなかった.この可動域制限のため起き上がりや移乗動作ができず,寝たきり状態で紹介入院となった.ADLは,食事が自助具を使用して可能な以外は,起居,移動,排泄,更衣などすべてに介助を要した.しかし,立ってしまえば平行棒内の歩行が可能であったため,立ち上がりさえできればADLの自立度を改善させ,自宅復帰が可能であると評価した.手術を行えば可動域制限は改善され,座位保持は可能となるが,広範に股関節周囲筋が切除され歩行不能となるため,行わない方針で自宅復帰を考えた.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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『人間の集団について』(中公文庫)は,1973年に当時のサンケイ新聞に連載された作品で,司馬遼太郎が同年の4月から3か月間,未だ民族統一ならぬ内戦下のベトナムに滞在した時の体験を基にした文明論である.とくに,そのなかの「民族を鍛えたもの」という章では,ベトナム人が17世紀から200年足らずの間に豊穣なメコン・デルタからカンボジア人を追い出した背景には,北部のソンコイ・デルタで鍛えられたベトナム人の民族性が深く関わっているという説が展開されている.

 そもそもソンコイ・デルタは,インドシナ半島の北東に位置する世界有数の米作地帯で,ベトナム人は紀元前からこのデルタに住んでいたが,司馬遼太郎は,このソンコイ川との闘いが,「民族を賢くし,勇敢にし,努力好きにした」と言う.というのも,ソンコイ川はしばしば洪水をもたらしたため,その氾濫から稲を守るための知恵が古代から発達したからである.「上流に激流が奔騰しはじめているという情報がくると,農民という農民が総出で川にとりつき,雨を冒して土をはこび,土俵をつくり,それを昼夜兼行で積みあげるという,危機意識をエネルギーとする突貫工事をおこなう.」

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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かつて私は,21世紀初頭の障害者映画は障害をポジティブに捉えるということから一歩進んで,性へのアクセスや自己決定権がテーマになっていくだろうと予測した.そして,障害者の死の自己決定をテーマにした作品がたしかに現れた.すでに本欄で紹介した「ミリオンダラー・ベイビー」(監督/クリント・イーストウッド)と,スペインで実際に起きたラモン事件に材をとった「海を飛ぶ夢」(監督/アレハンドロ・アメナーバル)である.

 自己決定権の出所は進歩的思想であり,保守的思想との折り合いは当然ながら芳しくない.それゆえタカ派とみなされていたイーストウッドが安楽死を是認するということには違和感があり,どちらかといえば障害への嫌悪から安楽死を導き出したのではないかと想像した.しかし,本作のアカデミー賞受賞には,やはり保守派からの強い抵抗があったらしく,そんなことは百も承知のイーストウッド,ここは腹をくくって進歩的思想の側に飛んでしまったとみるべきだ.

 死の自己決定というのは,それ自体は保守でも進歩でもなくて,現実からの離脱,不自由さからの離脱ということだろう.そのことに許容的なのが進歩的,否定的なのが保守的という括りだが,事はそう単純でもない.

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文献抄録

編集後記 鹿
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 窓から見える木々は紅葉し,秋が少しずつ深まり12月号のあとがきを書くような時期になりました.あー,今年もあっという間に過ぎて,また一つ歳をとり,いろいろなものが残り少なくなってきたなと感じ入っていると突然の訃報.最近学会などでもお目にかからないと思っていた川崎医科大学の明石謙先生が11月5日,お亡くなりになった.謹んでご冥福をお祈り申し上げます.明石謙先生は本誌「総合リハ」の創刊から携わられ,いわば本誌の生みの親,そして育ての親,お会いするたびにこの雑誌のことを気にかけていただき,もっともっといい雑誌に,と励まされた.20巻1号(1992年1月号)の新春随想で先生は,「昭和47年にこの雑誌の編集委員会が出発すると,毎月の会議が待ち遠しいほどだった.」,そして「当時と現在のリハビリテーション医学で何が変わったかを考えてみると……個々の人間の生活や社会との繋がりが密接なはずのリハビリテーションにしては,器官レベルの話が多過ぎないか.それが現在の私自身の反省点の一つである.」と書かれている.

基本情報

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総合リハビリテーション
33巻12号 (2005年12月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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