Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
司馬遼太郎の『人間の集団について』―病跡学的民族論
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.1170
発行日 2005年12月10日
Published Date 2005/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100238
- 有料閲覧
- 文献概要
『人間の集団について』(中公文庫)は,1973年に当時のサンケイ新聞に連載された作品で,司馬遼太郎が同年の4月から3か月間,未だ民族統一ならぬ内戦下のベトナムに滞在した時の体験を基にした文明論である.とくに,そのなかの「民族を鍛えたもの」という章では,ベトナム人が17世紀から200年足らずの間に豊穣なメコン・デルタからカンボジア人を追い出した背景には,北部のソンコイ・デルタで鍛えられたベトナム人の民族性が深く関わっているという説が展開されている.
そもそもソンコイ・デルタは,インドシナ半島の北東に位置する世界有数の米作地帯で,ベトナム人は紀元前からこのデルタに住んでいたが,司馬遼太郎は,このソンコイ川との闘いが,「民族を賢くし,勇敢にし,努力好きにした」と言う.というのも,ソンコイ川はしばしば洪水をもたらしたため,その氾濫から稲を守るための知恵が古代から発達したからである.「上流に激流が奔騰しはじめているという情報がくると,農民という農民が総出で川にとりつき,雨を冒して土をはこび,土俵をつくり,それを昼夜兼行で積みあげるという,危機意識をエネルギーとする突貫工事をおこなう.」
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.