Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「海を飛ぶ夢」―障害者の安楽死,自己決定権と生命尊重の狭間で
二通 諭
1
1千歳市立北進中学校
pp.1171
発行日 2005年12月10日
Published Date 2005/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100239
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かつて私は,21世紀初頭の障害者映画は障害をポジティブに捉えるということから一歩進んで,性へのアクセスや自己決定権がテーマになっていくだろうと予測した.そして,障害者の死の自己決定をテーマにした作品がたしかに現れた.すでに本欄で紹介した「ミリオンダラー・ベイビー」(監督/クリント・イーストウッド)と,スペインで実際に起きたラモン事件に材をとった「海を飛ぶ夢」(監督/アレハンドロ・アメナーバル)である.
自己決定権の出所は進歩的思想であり,保守的思想との折り合いは当然ながら芳しくない.それゆえタカ派とみなされていたイーストウッドが安楽死を是認するということには違和感があり,どちらかといえば障害への嫌悪から安楽死を導き出したのではないかと想像した.しかし,本作のアカデミー賞受賞には,やはり保守派からの強い抵抗があったらしく,そんなことは百も承知のイーストウッド,ここは腹をくくって進歩的思想の側に飛んでしまったとみるべきだ.
死の自己決定というのは,それ自体は保守でも進歩でもなくて,現実からの離脱,不自由さからの離脱ということだろう.そのことに許容的なのが進歩的,否定的なのが保守的という括りだが,事はそう単純でもない.
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