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はじめに
ヒトは日常生活おいて,種々の環境変化に適応して立位姿勢を制御している.この立位姿勢制御には,環境変化に応じた求心性感覚情報が重要な役割を果たす.通常,ヒトの立位姿勢バランスは前庭系,体性感覚系,視覚系からの感覚情報の統合によって調整されている1).このうち,前庭は重力および頭の位置と運動の情報を,体性感覚は身体各部位の位置関係と運動の情報をそれぞれ入力する.これに対して,視覚は外部環境および頭の位置と運動に関する空間位置情報を入力する.ヒトの姿勢制御には,外部環境と身体各部の位置関係および外部環境と身体との位置関係に関する情報が不可欠であり,これらの大部分は視覚が重要な役割を果たすとされている2).
視覚環境の変化が立位姿勢制御に与える影響は,1970年代後半から視線の変化や眼球運動により姿勢動揺が増大することから明らかにされている3-8).また近年では,流動的な視覚刺激により,自己運動感覚を誘導することによって立位姿勢動揺が増大することも報告されている9).
一方で,立位姿勢制御に影響を及ぼす要因として,認知機能が挙げられている.1990年代以降,多重感覚情報変化を統合するための注意や認知機能が立位姿勢制御に影響を及ぼすことが,二重課題法を用いて多数報告されてきている10-19).二重課題法とは,2つの課題(立位保持課題と認知課題)を同時に課すことにより,1つの課題のみを課した場合との差を評価するものである.これによると,姿勢バランスの制御は,従来から考えられていたような姿勢反射メカニズムによるものだけでなく,より高次な脳機能の働きが関与しているとする報告が多い10-15).とくに,これらの先行研究では姿勢制御のための種々の感覚情報の統合における注意能力の必要性を示している.
二重課題法を用いた先行研究では,認知課題として,ストループ課題がよく用いられている14,18).ストループ課題とは,ワーキングメモリに関連した前頭連合野の機能を必要とする認知課題である20).その具体的内容は,色を表す単語(例えば「赤」)が,その色とは異なる色(例えば,青色)を使って提示された場合,色を表す単語(赤)を答えるのではなく,単語が書かれている色(青)と答えるものである.この課題では,習慣化した注意を抑制するための意識的な注意が必要とされる20).しかし,このストループ課題には,認知機能だけでなく,視標に対する眼球運動が伴う.したがって,ストループ課題の付加により,立位姿勢制御に影響を与えたという結果は,視標運動あるいは認知機能のどちらによってもたらされたかを判断することが困難である.そこで本研究は,視標運動およびストループ課題を付加することにより,立位姿勢制御がどちらによって影響を受けるかを明らかにすることを目的とした.
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