看護教育 59巻2号 (2018年2月)

特集 VRで未来を変える

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 VRで未来を変える。大げさなタイトルと思われたかもしれません。VR技術はますます発展を遂げていき,今や触覚もふくめた五感までも体験できるようになってきました。またVRを体験するためのデバイスも,高品質で比較的廉価なものが普及し始め,確実にVRへのハードルは下がってきています。VR技術が今後発展していくことは疑いようがないでしょう。

 しかし,VRという看護教育にとって新たな技術を,単に新しいという理由で,未来を変える教育ツールとして,ご紹介しようとは考えていません。VR「で」未来を変える,というタイトルには,開発者たちの,看護,ケア,そしてその教育で感じている問題点を,多職種で専門知を結集していきながら,看護教育を改善していこうとするパワーを込めています。

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はじめに

 VRという言葉が初めて使われたのが1989年のことであるから,この技術はすでに30年近くの歴史をもつことになる。西海岸のベンチャー企業であるVPLリサーチ社がEye Phoneと呼ばれるゴーグル型ディスプレイ(Head Mounted Display : HMD)とデータグローブと呼ばれる手袋型のデバイスを使った,RB2(Reality Built for Two)という遠隔コミュニケーションシステムをつくったのが始まりである。ゴーグルをかけると目の前に3DCGで作られた立体映像世界が広がる。首を左に振ると左の映像が,右に振ると右の映像が見え,周り360°の視界を得ることができる。自分の手を顔の前にかざすと,視野のなかにやはりCGで描かれた自分の手が見え,その手を使って視界のなかの物体をつかんで持ち上げたり,投げたりと,実世界のなかにおけると同様な操作を行うことができる。

 こういうコンピュータで合成された現実世界のことをVPL社は,Virtual Reality(VR)と呼んだ。VRシステムの特徴の第一は,自分の周囲に視覚世界が広がり,自分があたかもその世界に存在しているかのごとき臨場感を得ることができることである。第二は,その世界を自由に歩き回ったり操作したりできるということである。

 こういうことを可能にするために,図1に示すような3つのサブシステムが必要である。図中の①ディスプレイシステムとは,コンピュータで作られたバーチャルな世界を高い臨場感でユーザに提示するためのインタフェースで,②入力システムとは,ユーザの側から,その世界に能動的にはたらきかけるためのインタフェースである。①②は,パソコンでいえばディスプレイとキーボードに相当するもので,いわゆるヒューマンインタフェース技術である。③は,体験すべきバーチャルな世界そのものを作り出すためのしかけであり,いわばリアルタイムシミュレータである。VRはシミュレーション技術の延長上に存在する技術と言ってもよいのである。

 VR技術にとってもっとも重要なキーワードは「体験」である。単なる机上の理解でなく,体験を通じた理解がさまざまな教育分野で重要といわれているが,VRはまさに人工的な体験をわれわれに与えることのできるメディアなのである。

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現状への危機感と,感覚的なひらめき

 「VR(virtual reality)で未来を変える」,大真面目にそう思っている。自分の居場所を否定することになるので,今の看護教育をすべて否定するようなことはしたくないが,看護教育が今のままで良いとも思わない。時代や人も変化するなかで,教育内容も変化していく必要があるだろう。もちろん,看護師になる,看護師であり続けるために変わらないものもあるだろう。その大事なものを変えないでいるために,状況に合わせて変わり続けたい。看護教育でいちばん大事なものはなんだろうか。

 看護教育でもっとも大事なもの,それは患者の立場に立って生活状況を理解し,その生活をより良くすることだと私は思う。この「患者の立場に立つ」ということが,今,非常に困難である。患者の思いに「寄り添い」「共感的に」理解することが難しい。

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 このシナリオにもとづいたVR教材を活用し,大阪大学の学生(臨地実習直前の3年生と臨地実習終了直後の4年生),京都大学医学部附属病院の院内研修にて,認知症ケアの研修を実施した。従来の研修とは違い,学習者の反応が非常に良く,学びも大きかったことを実感している。研修は,7つのステップ(表1)で展開した。ここでは,各ステップに込められた企画者側の意図もふまえながら解説する。

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感情体験が引き出す,自然なアクティブラーニング

山川 今,まさに京都大学病院での看護師研修として,VRを組み込んだ教育プログラムが終わったところです。まず,実際に研修をされた古谷さん,内藤先生,どうでしたか。

古谷 ここまで研修を受けた人の感情が引き出されるとは,正直思っていませんでした。研修中から,参加者がすごく熱く看護を考え,語っている感じが伝わってきましたし,最後のアンケートにも,中堅からベテランの年代が感情を出していることに驚きました。

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「活動あって学びなし」から「学びの深さ」の探究へ

佐々木 看護学教育でも,アクティブラーニングの考え方自体はずいぶん広まっているように思います。私の所属する大学でも積極的に授業にPBLを導入しています。

 しかし,それが学生にとって本当に効果的なものになっているのか,疑問が残っています。やはり学習ですから,活動していればいいというものではありませんよね。具体的には,フリーライダーの出現や,停滞したグループワーク,深まらない議論,活動に時間を取られるなど,多くの問題があります。

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生活の充実が夢の実現につながる

 皆さんは,学生に接していて不安になったことはありませんか。「この人は,本当に人びとの健康を守っていけるのだろうか。そもそも,この人自身,本当に健康に人生を歩んでいくことができるのだろうか……」と。健康そうに見えながら,ちょっとしたことで咳が出て,それが1か月以上も長引いている……。どうしてそんなことになったのか,本人は考えようともしないで,医師に診てもらって,薬を飲んでいても治らない……。そんな学生は,皆さんの教え子のなかにはいませんか。そんな学生を見ていて,やきもきしてしまう,心配で放っておけなくなってしまう,そんな教員の皆さんに,まっ先に読んでいただけたらと願いながら,本稿を執筆しています。

 私は看護系大学で20年,自然科学の一般教養教育に携わってきました。そのなかで,どうしても前記のような学生の様子が気になり,「生活をととのえる」ことを私自身が学びながら,学生に教え続ける日々を送ってきました。

連載 つくって発見! 美術解剖学の魅力・2

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 私たちにとって特に重要な部位に感じられる頭部は,大きく2つの部位に分けることができます。それは脳を納めている脳頭蓋と顔がある顔面頭蓋です。髪の毛の生えている部位とそうではない部位ともいえますが,おでこは脳頭蓋に含まれます。

 人間は脳頭蓋が大きく目立つので,頭は脳のためにあるようにも思えますが,進化をさかのぼれば,頭部で目立っていたのは顔面頭蓋のほうなのです。重要なのはそこにある顎です。ティラノサウルスの化石を見ると,頭のほぼすべてが顎つまり顔面頭蓋であることに気づくでしょう。現在でも,脊椎動物のほとんどは顎で獲物を仕留めます。人間は顎での捕食をやめ,料理を発明することで顎が極めて小さくなりましたが,頭部はもともと顎のためにできた部位なのです。

連載 キネステティク・クラシック・ネオ 動きの言語化のツールが可能にすること・2

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学生の気づく能力を高める

 前回,キネステティクは動きの言語化のツールであるとお伝えしました。今回は学生の臨地実習での学習を,キネステティク・クラシック・ネオ(以下,クラシック・ネオ)の考え方を使ってどのように支援できるか,その可能性をお伝えしたいと思います。

 まず,実際に教育の現場にクラシック・ネオを取り入れようと,試行錯誤をしている事例を紹介します。

連載 授業を良くする! 教育関連理論・4

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授業を設計する4つの理由

 今回はADDIEモデルのD(Design)「設計」を扱います。A(Analysis)「分析」の結果をもとに,授業の流れを具体化していきます。ちなみに先生方は授業を「設計」し,授業設計を言語化した「指導案」をつくっていますか?

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江藤 今回読んだのは,5巻7号(1964年)の特集 「現代の看護学生」で取り上げられている「看護学生はどんな不満をもっているか」という座談会です。こういった企画もやっていたのか,と驚きました。

林 50年前の記事で学生ですから,今は70歳くらいの方々ですか。出てきている「不満」を列挙してみると,「物足りない一般教養科目」「専任の臨床指導者はぜったいにほしい」「実習は労働力の提供であってはならない」「実習の時間数はこれでよいか」「自治会活動をもっと活発に」「外との交流はぜひ必要」などが挙げられています。「看学連」という学生団体もやっているようですが,特別な人を集めてきたのかな,と思うぐらい元気ですよね。きっとこのあと,たいへんご活躍されたんだろうなと思います。

連載 リズムとからだ 「うまくいく」と「うまくいかない」の謎・11

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 この連載も残すところあと2回となりました。ということで,まとめモードに入りつつ,あらためてリズムとからだの関係について考えてみたいと思います。

連載 専門家と市民の架け橋 CoSTEP・8

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 みなさん,こんにちは。札幌は路上の雪が凍結してツルツルになる季節になりました。今月はCoSTEPスタッフの西尾直樹がお届けします。

 連載第6回(58巻12号)では,遠隔地からも受講ができるCoSTEP選科の「サイエンスイベントの企画・運営を学ぶ」コースを取り上げました。今回は同じく選科の「サイエンスライティングを学ぶ」コースの集中演習を紹介します。

連載 すべって,転んで,立ち上がるために 〜看護職生涯発達学から〜・11

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40歳で大学院へ

 40歳になった頃,「あと4回位,勤務異動すると定年になるんだなぁ」と漠然と思ったことを覚えています。その頃の私は,師長として,このままでよいのだろうかと悩み始めていました。教育を担当したことがなかった私が,日本赤十字医療施設で統一したキャリア開発ラダーを導入する役割をもつことになったのです。

 教育の基本を理解しないまま,キャリア開発ラダーのシステムのみを導入することになるが,それでよいのかと不安が募りました。その不安を解消しないまま1年が経過した頃,佐藤先生の講義を受けました。その講義は「ナラティブ」を深く理解するためのもので,日頃,私たちが行っている看護実践を言語化し語り,聴いている人からポジティブフィードバックを受けることでやりがいにつながることを学びました。また,一生懸命に聴くことで語った人を多方面から理解できると実感しました。

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 まさに待望の1冊である。本書では,ルーブリックを道標とし,自律的に看護を学び,看護ができる学生を育てる教育をめざすパフォーマンス評価と,それに有効な逆向き設計論にもとづくカリキュラム設計について,授業や実習の科目単元としてのミクロな設計面と,カリキュラム全体としてのマクロな設計面が非常にわかりやすく具体的に紹介されている。しかし,単なる方法論の紹介にはとどまらない。本書の素晴らしさは,随所に散りばめられた著者たちの現場であるあじさい看護福祉専門学校の教育実践の軌跡から発せられるメッセージ性に依る。そして,それは学生自身が看護の専門性を価値づけられるよう導き,確かな実践力を身につけさせてきた実績,経験を土台に語られているからこそ,納得のいく重みがある。

 1ページ1ページを読み進めていきながら,同校主催のプロジェクト学習研修に参加した際に感じた衝撃を思い出した。学生自らが学習を切り拓いている様子を目の当たりにし,学校を挙げて自律した学生を育てる教育実践がなされていることへの羨ましさと同時に,自校の教育実践が思うに至っていない悔しさを記憶している。あれから10年。以前にも増して,より一貫性をもったカリキュラムへと進化していることに感服する。看護基礎教育として本来のあるべき方向に向かい,カリキュラムの再構築にチャレンジし続けた教育実践の集大成としての1冊だといえる。最近では,雑誌などでさまざまなルーブリックが散見されるが,本書で示されるルーブリックがそれらと異なるのは,学生の学習活動および学習活動における具体的な評価規準を示している点である。学生の実践をともなう学習活動に指導の軸をおくことで,学生がルーブリックを活用し,自ら探求し学ぶ力を身につけることを主眼としている。

新刊紹介

INFORMATION

基本情報

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看護教育
59巻2号 (2018年2月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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