看護教育 59巻1号 (2018年1月)

特集 インストラクショナルデザインを活かす

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 インストラクショナルデザインは,授業の設計図を描くのに効果的な方法です。教育の効果や効率を高めるためにさまざまなモデルを応用して,学習する環境を成立させるプロセスであるインストラクショナルデザインを用いれば,授業を良くする道のりがより見えやすくなります。

 授業設計そのものは教員であれば誰しも行っていることですが,他の教育に関する取り組みと同様に,今までは指導者や先輩が行っていたことを真似る傾向から,なかなか脱することができなかったように思います。が,看護にエビデンスが求められるように,教育にもエビデンスが欠かせません。さまざまな手法やモデルを下敷きにしたインストラクショナルデザインは,その求めに応えられる1つの方策といえます。

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インストラクショナルデザインとは何か?

 授業をしていて,「学生がつまらなそうにしている。もっと楽しそうに熱中して学習してもらえないものか」「学びをもっと実践的にしたいのだが,どうしたらいいか」「教材がわかりにくいと言われるけど」など,何かしら困ったことはないだろうか。または,「何かがうまくいっていないようだが,何をどう変えたらいいのかさえわからない」とお手上げということはないだろうか。インストラクショナルデザイン(以下,ID)では,これらの授業で困っていることを解決するための手法や考え方を提供している。また,「今日はすごくうまくいったな。でも何がうまくいったのだろう」とつぶやくとき,授業が成功する要因を整理するために使うこともできる。成功する要因がわかれば,他の授業にも応用できるはずである。

 IDとは「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野,またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセス」1)と定義される。ID研究者は,教育や学習に関連する理論や研究成果をベースに教育改善のための道具をブラッシュアップし,新しい道具をつくり提供している。そして,教育実践者は,IDの道具を使うことで,学習者が余分な時間や労力,コストを使わず(効率的に),楽しんで学び続け(魅力的に),確実に学習目標に達成する(効果的に),授業を行うことができる。

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合格レベルに達していない人を合格させている?

 いきなりだが,読者に問いたい。

「合格レベルに達していない人を合格させていないだろうか?」

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 教育や研修に限らず,保健指導においても事前の設計もせず,KKO(勘と経験と思い込み)で乗り切ろうとするのは,非常に危険である。「たまたま」うまくいくこともあるが,大抵は失敗する。つまり,再現性に欠けるということである。しかし,教育や研修の効果,効率,魅力を高めるインストラクショナルデザイン(以下,ID)を活用して設計すれば,成功する確率が増えるだけでなく,大きく失敗するリスクを軽減することもできる。また,仮に思ったような結果が得られなくても,それを受けてより良いものに改善していくことができるようになる。

 本稿では,モチベーションの低いメタボリックシンドローム・ハイリスク者を「その気にさせ,行動を引き起こし,継続を促す」保健指導の事例を通じて,IDの道具であるARCSモデルの有用性,活用法を紹介する。

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インストラクショナルデザインに出会う前の私の葛藤

 看護師を経て,看護教員養成課程での研修後,所属施設の看護師養成所へ教員として異動となった私(豊場)は,研修で学んだ授業案作成のプロセスにもとづいて授業に取り組んだ。その後は,看護教育界の動向,自組織で採用された教育・学習に関する考え方を参照しながら,担当科目の授業の在り方や授業方法を検討,試行錯誤してきた。ただ,教育に関する新たな考え方やキーワードを耳にすると,自身の実践する授業はどうなのか,これでよいといえるのかと不安になり,自信をもつことができなかった。また,多様な教育・学習に関する考え,方法を見聞きし,時には教育方法の妥当性について違和感があったが,その理由は説明できなかった。

 授業案作成過程で学習内容を考える際,シラバスに掲げた内容,国家試験の出題傾向や教科書にある内容,実習場面で出会いそうな内容など,どれくらい盛り込むのか,考えれば考えるほどやらなくてはならないことが増え,整理に困っていた。しかし,授業で取り扱わないと教えなかったことになると考え,とにかくどれもこれも押し込んだ。その結果,一方的に話し,資料をさっと提示して終わったこともあった。今振り返ってみると,学習者を置き去りにした独りよがりの授業ではなかったかと感じている。

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 愛知県看護研修センターでは,2003(平成15)年度から看護師等養成所の看護教員の再教育研修として「看護教員看護教育学研修会」(以下,本研修会)を開催している。5日間35人定員で開かれている本研修会では,看護教員の資質・能力の向上をねらいとしているため,一斉講義のような受動的な方法ではなく,「演習」を中心とした能動的な学習方法を取り入れている。そして,受講している看護教員が自己の教育経験を振り返り活かしながら,今後の看護教育に活用できるものを自ら生み出せることをめざしている。

 2014(平成26)年度から4年間は「インストラクショナルデザインの手法を用いた魅力ある授業づくり」をテーマに研修会を実施している。そこで,この研修会で行っていることの概要を紹介する。

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臨床判断モデルにもとづく評価

 ラサター臨床判断ルーブリック(Lasater Clinical Judgment Rubric : 以下,LCJR)1)は,クリスティン・タナー(Christine A. Tanner)氏が提唱した臨床判断モデル(図)にもとづき,臨床的思考について,学生をはじめ教員や実習指導者が話し合うための「共通の言葉(common language)」を提供するものとして,キャシー・ラサター(Kathie Lasater)が開発したものである。このルーブリック(rubric)は,学習者の臨床判断の発達を評価するために,多くの国で活用されている。本稿では,LCJR日本語版を紹介するとともに,その背景や特徴,活用の可能性について述べる。

 10数年前,ラサターはどうしたら学生が看護師の思考を学べるように支援できるのだろうかという問いを抱き,米国のオレゴン健康科学大学(Oregon Health & Science University:以下,OHSU)の同僚であるタナー氏に相談した。そのとき,タナー氏は「看護師のように考える:研究にもとづく看護の臨床判断モデル」2)という論文の草稿を机から取り出し,「これを読み,理に適うと思いますか」と尋ねた。その内容は,ラサターにとってまさに腑に落ちるものであった。

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配慮が必要な学生への組織的支援

 2016年4月に障害者差別解消法が施行され,合理的配慮への関心が高まりました。と同時に,日本学生支援機構の「大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」では,2016(平成28)年度の障害学生在籍率は0.86%となり前年より0.18%増加しました1)。急増した背景には,各大学などにおいて障害学生支援体制の整備や取り組みが進み,障害学生の把握が一層進んだことが推察されています。看護基礎教育課程においても同様の傾向があることが予測され,精神障害を有した学生や,聴覚障害をもつ学生など,多様な学生が増えてきていることでしょう。

 また,障害が明確な状況ではなく,障害の特徴を部分的に有する学生や境界型と考えられる学生のほうが多いかもしれません。このような学生は,それらの特徴が顕在化されていないため,対応が遅れたり,学生も教員も臨床指導者も戸惑いや混乱を招きやすいと思われます。看護基礎教育では,障害を有する学生だけでなく,その特徴を有する学生や境界型も含まれるため,合理的配慮としてではなく「教育上の調整」として考えたいと思います。

連載 つくって発見! 美術解剖学の魅力・1【新連載】

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 私たち人間は,魚やトカゲ,鳥などと同じ,背骨(脊柱)をもつ脊椎動物とよばれるグループに属しています。7万種ある脊椎動物のなかで,どういうわけか,人間だけが背骨を地面に対して縦に立てています。ただ,直立した背骨が真っすぐ一直線というわけではありません。ご存知のとおり,前後方向にくねくねと曲線を描いています。この曲線は,進化とともにつくられたと考えられ,また成長の過程でもできる順番が決まっていて,その順序は進化の順を辿ります。そして,いちばん最後にできるのが腰の曲線です。

 粘土で造形するときは,上から順に,頸部が前向き,胸部が後ろ向き,腰部が前向き,骨盤部が後ろ向きと,交互に曲線をつくっておきます。背骨だけで見ると曲線が目立ちますが,ここに胸郭と骨盤をつくると見慣れた姿勢が現れてきます。

連載 キネステティク・クラシック・ネオ 動きの言語化のツールが可能にすること・1【新連載】

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本連載がめざすこと

 筆者は,外科病棟で看護師としてのキャリアをスタートさせました。そこで失禁ケアや褥瘡ケアなどの当時の自分で解決できない問題にぶちあたり,皮膚・排泄ケア認定看護師の前身であるET/WOCナースの研修を受けるために渡米しました。しかし,帰国後も筆者の抱える問題は解決できませんでした。なぜなら,失禁や褥瘡などの根本的な原因は「動きのセルフケアの欠乏」であるということに気づいていなかったからです。日常生活は数えきれないほど多くの「動き」で構成されています。看護の役割の1つである療養上の世話は,動きのセルフケアが不足している患者への「動きの支援」です。そして療養生活は回復過程が終了するまでの期間,継続し複数の看護師がそこにはかかわります。そのため,効果的に動きのケアが継続されなければなりません。そしてその継続には,看護師自身の健康の維持が必要です。この点を看護師は見逃しがちで,かくいう筆者も自分の健康を後回しにしてしまい,頚や腰の痛みのために寝たきりに近い状態になる文字通り痛い経験をしました。

 そんなとき,「動きの言語化」を行うキネステティクを日本に紹介した医師,澤口裕二氏からお話を伺う機会を得て,氏から得た情報にもとづき自分の動きと痛みの関連を分析した結果,筆者は快方に向かいました。これにより,キネステティクが,身体の故障の予防に役立ち,セルフケアを向上させ,より快適な日常生活を生涯をとおして送るために有用な考え方であると気づきました。そして,これから看護師となる人を守り育てていくために,多くの教育者にそれを伝えたいと思うようになりました。

連載 看護教育 継往開来!・8

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林 この対談も残り3回となりました。今回からは,お題を「教員論」として,さらに時代をさかのぼって記事を読みました。6巻5号の特集,「看護教師のあり方」の,「専任教員講習会と教育者の資質」です。これは,当時の「看護教員専任講習会」の講師,つまり看護専門学校の教員に教えていた方々がメインで執筆されていますね。それにしても,当時から専門学校の教員養成で,教育心理学や教育理論など,ここまで熱心にされていることに驚きました。

 時代も違っていて,江藤先生は専門学校のご経験はないでしょうけれど,当時と今と,共通するところと,そうでないところと,お気づきのことがあったのではと思います。

連載 専門家と市民の架け橋 CoSTEP・7

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 みなさん,こんにちは。どこにも平等に,真っ白く雪に覆われている北海道の風景を見ると,2018年も新たな気持ちで始められそうな予感がします。今回は,アートと科学技術コミュニケーションについて,CoSTEPのスタッフであり,メディアアートの作家でもある朴炫貞がお届けします。

 科学技術コミュニケーションをアートの文脈から行うことには,科学に興味のない人々を,アートを通じて科学に強く引きつける可能性があると思います。そしてアート作品には,アートと科学を比べることで「そもそも科学とは何か」について,考える機会を提供する潜在能力があります。そこでCoSTEPでは,札幌国際芸術祭2017の開催と併せ,アートを用いた科学技術コミュニケーションをいくつか試みました。

連載 リズムとからだ 「うまくいく」と「うまくいかない」の謎・10

二重スパイ 伊藤 亜紗
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 前回のお話の後半で,特定のキャラクターを演じながら話すと,吃音が回避される例を紹介しました。山田舜也さんの例でしたが,サークルの代表になったときに,わざと「適当なキャラ」を演じていると話しやすかった,と言うのです。

 もっとも,こうした演技の要素は,吃音の当事者であるか否かにかかわらず,私たちの日常生活にあまねく見られるものです。ゴッフマンが言うように,その目的は「自分の利益になる印象を相手に与えること」。どのような人に見られると相手との関係がうまくいくのか,そして結果的に自分が得をするのか。私たちは自分の見せ方を微調整しながら,他者とかかわっていきます。

連載 すべって,転んで,立ち上がるために 〜看護職生涯発達学から〜・10

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現任教育担当を任されたときのとまどいをなんとかしたい

 現任教育担当を任された瞬間,ほとんどの人が,「えっ,私が担当ですか」「責任が重そう」と不安をもつと思います。看護師は,看護学校卒業後も,専門職として学び続ける責務があり,臨床現場では看護師が学び続けることをサポートする担当役割もあります。しかし,その責任ある担当者に選ばれたときの驚きやとまどいは,冒頭の発言のように,不安感を抱えながらのスタートとなることが多いのが現状です。

 私も,かつて自分自身がその役割を引き受けた際,驚きと不安のなかで始めました。しかし,周囲の先輩や病棟のナースたちと一緒に新人看護師や後輩看護師を育成し,担当者としてやりがいを感じたこともありました。

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新刊紹介

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基本情報

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看護教育
59巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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