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はじめに
VRという言葉が初めて使われたのが1989年のことであるから,この技術はすでに30年近くの歴史をもつことになる。西海岸のベンチャー企業であるVPLリサーチ社がEye Phoneと呼ばれるゴーグル型ディスプレイ(Head Mounted Display : HMD)とデータグローブと呼ばれる手袋型のデバイスを使った,RB2(Reality Built for Two)という遠隔コミュニケーションシステムをつくったのが始まりである。ゴーグルをかけると目の前に3DCGで作られた立体映像世界が広がる。首を左に振ると左の映像が,右に振ると右の映像が見え,周り360°の視界を得ることができる。自分の手を顔の前にかざすと,視野のなかにやはりCGで描かれた自分の手が見え,その手を使って視界のなかの物体をつかんで持ち上げたり,投げたりと,実世界のなかにおけると同様な操作を行うことができる。
こういうコンピュータで合成された現実世界のことをVPL社は,Virtual Reality(VR)と呼んだ。VRシステムの特徴の第一は,自分の周囲に視覚世界が広がり,自分があたかもその世界に存在しているかのごとき臨場感を得ることができることである。第二は,その世界を自由に歩き回ったり操作したりできるということである。
こういうことを可能にするために,図1に示すような3つのサブシステムが必要である。図中の①ディスプレイシステムとは,コンピュータで作られたバーチャルな世界を高い臨場感でユーザに提示するためのインタフェースで,②入力システムとは,ユーザの側から,その世界に能動的にはたらきかけるためのインタフェースである。①②は,パソコンでいえばディスプレイとキーボードに相当するもので,いわゆるヒューマンインタフェース技術である。③は,体験すべきバーチャルな世界そのものを作り出すためのしかけであり,いわばリアルタイムシミュレータである。VRはシミュレーション技術の延長上に存在する技術と言ってもよいのである。
VR技術にとってもっとも重要なキーワードは「体験」である。単なる机上の理解でなく,体験を通じた理解がさまざまな教育分野で重要といわれているが,VRはまさに人工的な体験をわれわれに与えることのできるメディアなのである。
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