手術 73巻7号 (2019年6月)

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出血は外科医にとって回避することができない合併症である。どの外科医でも術中・術後に必ず経験がある。とくに肝臓外科では出血回避法・出血時対処法の修得は必須であり,十分な知識の習得と技術の応用が必要となる。

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肝切除ではほんの小さなほころびが,時として高度緊急状態に変化する。とくに下大静脈(inferior vena cava;IVC)や主肝静脈の損傷は,致死的な大量出血につながる。このような危機的状況を回避するためには安全域を確保した手術手技の選択が第一だが,実臨床ではそれでもときに予期せぬ大量出血に遭遇する。

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肝胆膵領域の悪性疾患に対する手術において,肝門部での脈管の剥離操作やリンパ節郭清の際,腫瘍の脈管浸潤に対して脈管合併切除を必要とする肝切除の際に,門脈ならびに肝動脈損傷を生じることがある。

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肝切除術において,胆汁漏や胆管狭窄などの胆道合併症は術後の重篤な合併症の1つであり,術後経過に大きく影響する。また,肝切除術における術後合併症は予後に関わることが明らかとなってきており,適切なリカバリーが必要である。

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再肝切除はその治療成績の向上に伴い,肝細胞癌や転移性肝癌の治療において,欠かすことのできない重要な手段となっている1,2)。しかし,肝離断を行う前までに,長時間の癒着剥離を余儀なくされることが多い。

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手術では出血を抑えて術野をクリアに保ち,脈管などの解剖を十分視認したうえで切離を進めていくことが大切である。とくに肝臓は血流の豊富な臓器であるため,切離には出血のリスクを伴う。安全に施行するためには,いかに出血をコントロールするかが重要である。腹腔鏡下肝切除術(laparoscopic liver resection;LLR)ではさまざまな場面で出血のリスクを伴うが,今回はとくに肝離断面からの出血とその対処法について述べる。

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腹腔鏡下肝切除を安全に行うために最も注意すべき点は下大静脈(inferior vena cava;IVC)や肝静脈からの出血であり,対応が遅れた場合は死に至る可能性もある。出血点の圧迫止血,縫合,クリップなどのとっさの対応が開腹手術と比較して難しいことも多く,出血した場合にどうするかをチーム内であらかじめ決めておく必要がある。

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腹腔鏡下肝切除は2016年4月に血行再建や胆道再建を伴わないすべての肝切除が保険収載され,現在多くの施設で普及している術式である。また,肝細胞癌や転移性肝癌を対象とすることが多く,再発形式として残肝再発が多くみられ,その治療に再肝切除がしばしば行われている。

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肝損傷は全外傷入院患者の約5%を占め,腹部臓器損傷のなかで最も多い1)。近年,非手術的療法(non-operative management;NOM)で完遂率が80%との報告2)もあり,2003年にはEastern Association for the Surgery of Trauma(EAST)から循環動態が安定した鈍的肝損傷症例に対するNOMの妥当性が示された3)。しかし,Western Trauma Associationが推奨するアルゴリズムでは,循環動態の安定が得られない症例でFASTが陽性であれば積極的な開腹術を施行することも選択肢の1つである4)と提示されており,このような症例では迅速かつ的確な止血処置,輸血投与が行わなければ救命困難となる。

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腹腔鏡下胆嚢摘出術(laparoscopic cholecystectomy;LC)は1990年にわが国に導入され,世界的な標準的術式になっている。導入当初は,高度炎症の急性胆嚢炎,Mirizzi症候群,上腹部手術既往例は開腹手術が選択される場合が多かったが,外科医の経験と手術機器の進歩により,困難症例に対しても腹腔鏡手術を行う施設が増えている。困難症例では,通常の開腹手術でさえ容易ではなく,腹腔鏡下では出血や胆管損傷のリスクが高まる可能性もある。

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肝門部領域胆管癌では,胆管を末梢で切離する必要があり,切除断端の胆管は細径かつ菲薄であることも多い。胆管は1度裂けてしまうとさらに脆弱になり,修復が困難になっていく。急ぐよりも,できる限り運針の失敗なく慎重に行うことが結果的にスムーズな手術につながる。また,胆管の解剖学的変異は吻合の視野に影響するため,どのような吻合になるのか,あらかじめ想定しておくことも重要である。

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胆管癌の根治には外科的切除が必要であり,R0切除はリンパ節転移と並ぶ重要な予後因子として知られている1)。胆管癌は胆管壁に沿った広汎な壁内あるいは上皮内進展を呈することがあり,R0切除を達成するためには水平進展の診断が重要である。MDCT,胆管造影,胆管内超音波検査,胆管生検などを用いて進展範囲を診断し切除術式を決定するが,現時点ではすべての症例で正確な術前診断を行うことは困難で(図1),術中に胆管断端を迅速病理検査に提出して陰性確認を行うことが重要である。また,単層上皮である胆管上皮は挫滅・乾燥に弱く,切除後標本での正確な上皮内癌の診断はしばしば困難であることからも胆管断端標本を術中に確保しておくことが必要である。術中迅速検査には,胆管断端以外に腫大リンパ節や動脈周囲神経叢などを必要に応じて提出し,追加切除施行の判断材料としている。

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膵頭十二指腸切除術は,膵頭部癌だけでなく膵頭部領域疾患に対して広く適応される術式であるが,高難度技術を要する消化器領域の術式の1つである。膵頭十二指腸切除時には局所解剖の深い理解,消化器外科手術のさまざまなテクニックが求められ,再建においても繊細な配慮が必要とされ,術中および術後合併症も高率である。そのなかでも,膵頭部背側に上腸間膜静脈・門脈が位置する解剖学的理由により,膵頭部領域の切除には十分な準備が求められる。

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開腹膵頭十二指腸切除(pancreaticoduodenectomy;PD)を施行するうえで,上腹部を支配する血管解剖に習熟することはきわめて重要であり,外科医は肝動脈(hepatic artery;HA)や上腸間膜動脈(superior mesentetic artery;SMA)の走行バリエーションとその関係を術前に十分に理解して手術に臨むべきである。とくに,HAやSMAの走行を見誤り,術中に損傷・出血させれば,術者はパニックに陥るだけでなく,リカバリーできなければ窮地に立たされる。

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1980年代より始まった消化器外科領域の腹腔鏡手術は,わが国でも胃癌や大腸癌を中心に広く普及してきており,手技の定型化や安全性の確保が固まりつつある。一方,腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(laparoscopic pancreatoduodenectomy;LPD)は,1996年のGagnerら1)による慢性膵炎に対する報告に端を発し,わが国では2016年に「脈管の合併切除およびリンパ節郭清を伴わない腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術」が保険収載されたばかりである。他の消化器疾患に対する腹腔鏡手術と比べるとわが国でのLPDの普及は遅れており,現状では厳格な施設基準によりハイボリュームセンターのなかでも限られた施設のみ実施可能となっている。膵頭十二指腸切除術においては,わずかな操作の誤りや判断ミスが患者の術後経過だけではなく予後にも影響する可能性がある。一方,術中出血量,術後在院日数などの短期成績は開腹手術と比べ優れているとの報告も散見されるようになってきた2,3)が,わが国での今後の普及に向け手術手技の定型化とLPDに特有の術中トラブルに対する対処法を熟知しておく必要がある。

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腹腔鏡下膵体尾部切除術(laparoscopic distal pancreatectomy;LDP)が保険収載されて7年が経ち,適応疾患は低悪性度膵腫瘍から膵体尾部癌(周辺臓器および脈管の合併切除を伴うものは除く)まで拡大された。なかでも,低悪性度膵腫瘍に対しては,脾臓,または脾動静脈を温存する腹腔鏡下脾温存膵体尾部切除術(laparoscopic spleen preserving distal pancreatectomy;LSPDP)が行われている。

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膵の形成異常として膵胆管合流異常や膵管癒合不全,輪状膵などがあげられるが,重複膵管は主膵管が二股に分離する膵管形成異常である。重複膵管に対する膵切除術,とくに膵頭十二指腸切除術や膵中央切除術などの膵管再建を伴う手術では,膵切離面において2本の膵管を同定し,それぞれの膵管再建が必要となる場合もある。

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膵癌の治療法は大きく,①手術療法,②化学療法,③化学放射線療法に分類できる(表1)。従来から診断時の画像評価に基づいた病期診断にしたがって,これらのなかから治療法を選択するのが基本的な治療戦略であった。一方,有効な膵癌化学療法薬の登場によって,切除不能膵癌(unresectable;UR)と判断された患者に対し,化学療法や化学放射線療法による治療を行い,UR因子の軽減が得られた場合には,すかさず手術切除を行う,という集学的なコンバージョン手術(conversion surgery)の実施例が報告されるようになってきた。さらには,切除可能境界膵癌(borderline resectable;BR)に対しても,化学療法や化学放射線療法を先行したうえで手術切除を行う,という計画的な術前補助療法(neoadjuvant therapy)が生存期間を延長するのではないかと期待されている。術前,術後のいずれであっても,有効と考えられる治療を可能なかぎり受けることができた患者が長期生存できる,ということが明らかになってきたのである。

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外傷診療や集中治療が進歩しているにもかかわらず外傷性膵損傷の治療成績は,20年前と比較して大きな変化がないと報告されている1)。外傷性膵損傷が,今日においても外傷外科医を悩ます理由は以下のとおりである。

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われわれは2018年11月までに400例の腹腔鏡下肝切除を経験したが,そのうち尾状葉切除(すべて部分切除)は14例(3.5%)と少数であった。開腹移行を2例(14.3%)に認め,尾状葉切除を除く腹腔鏡下肝切除の開腹移行率4.1%と比較すると明らかに高く(当科データ),実際,尾状葉切除はその解剖学的困難性から腹腔鏡手術の適応外とする施設もある。その一方,尾状葉切除は腹腔鏡手術特有のcaudal viewが最も有効な術式ともいえる。尾状葉切除でも尾状葉全切除か部分切除か,また同じ部分切除でもSpiegel部か下大静脈部か突起部かによって術式の難度が大きく変わってくる。経肝アプローチによる腹腔鏡下尾状葉全切除術が報告されているが1),これはごくかぎられたhigh volume centerでのみ行われるべき高難度な術式で一般的ではない。Spiegel部や突起部の部分切除は,下大静脈部と比較するとアプローチしやすく腹腔鏡下肝切除の良い適応である。

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主要血管への浸潤を伴うことの多い肝胆膵癌切除においては,血行再建手技が手術適応,安全性,根治性に大きく影響する。主幹動脈浸潤を伴う場合は,動脈吻合による血行再建が必要となるが,動脈吻合は門脈や肝静脈再建と異なり血管径が細く,技術的ハードルが高いため,マイクロサージャリー(microsurgery)に習熟した他科の医師にゆだねられることが多い。その際,動脈再建は長時間手術の終盤に行われることが多く,予定外に必要となる事態もあり,適切なタイミングで再建を依頼することが困難な状況もあり得ることを念頭に置く必要がある。

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膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;PD)における術後膵液漏(postoperative pancreatic fistula;POPF)は現在でも最も憂慮すべき合併症である。わが国ではPD後の膵腸吻合法としては膵管-空腸粘膜吻合法(以下,粘膜吻合法)が広く普及ししており,近年では術後膵液漏発生率は以前と比較して良好な成績が報告されている1)。しかし,粘膜吻合法はsoft pancreasや膵管非拡張症例においては,高度な技術が求められ,その習得には熟練を要するため,すべての施設で良好な成績が得られるわけではない。これに対して陥入法による膵腸吻合の報告は少なく,わが国ではあまり一般的ではないが,海外のhigh volume centerでは陥入法を用いる施設も少なくない2-4)。また,陥入法はその手技が単純で,習得も比較的容易である。当科では1964年の開院以来,粘膜吻合法を基本術式としてきたが,soft pancreasや膵管非拡張症例における術後膵液漏の成績は満足できるものではなかったため,現在ではこれらの症例には陥入法による再建を行っている。

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癌治療に対する薬物療法の進歩に伴い,静注化学療法が施行される頻度も高くなっている1,2)。化学療法を行うための血管確保に伴う苦痛や抗癌剤による静脈炎,血管外漏出による重篤な皮膚障害を予防するために,中心静脈ポート〔central venousポート(以下,CVポート)〕の造設は患者にとって有用である。当科では,血管穿刺時の合併症が少なく,簡便な方法であるエコーガイド下での上腕CVポート造設を採用している。

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大動脈食道瘻(aortoesophageal fistula;AEF)のなかでも二次性AEFは,胸部大動脈瘤手術やステントグラフト内挿術の増加に伴い報告が増えている1)。その治療は困難で外科治療でしか根治は見込めない2)。手術を行っても術後30日以内の死亡率が33~100%と救命率が低いことも報告されている3,4)。

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食道裂孔ヘルニアは高齢化社会の到来も相まって近年増加傾向で日常診療でもしばしば遭遇する疾患である。食道裂孔ヘルニアのなかでもupside downを呈する食道裂孔ヘルニアは合併症をきたしやすいとされる。近年,食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡手術が増加しているが,upside down型食道裂孔ヘルニアに対して腹腔鏡手術を行った報告は少ない。

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大腸癌原発巣による腸間膜静脈腫瘍栓の報告は少なく,血行再建を伴う血管合併切除例はまれである。上行結腸癌の上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;SMV)腫瘍栓に対し,自家グラフトを用いた血行再建を伴うSMV合併切除によって根治切除し得た症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

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肝門部領域胆管癌は,肝動脈や門脈に浸潤することが少なくない。門脈合併切除・再建は手術手技の安定や予後改善が期待されることから一般的になってきたが,肝動脈合併切除・再建に関しては報告例も少なくコンセンサスが得られていない1)。当科では右肝動脈浸潤を伴う左側優位の進行肝門部領域胆管癌に対して動脈合併切除・再建による左側肝切除を積極的に行っており,その経験について概説する。

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内視鏡的逆行性胆道膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography;ERCP)後膵炎は日常的に遭遇し得る合併症であるが,悪性疾患にERCP後の重症膵炎が合併した際の治療戦略についての一定のコンセンサスはない。今回,われわれは遠位胆管癌にERCP後重症膵炎およびWON(walled-off necrosis)を発症し,一期的手術が奏効した症例を経験したのでこれを報告する。

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手術
73巻7号 (2019年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4423 金原出版

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