小児科 61巻3号 (2020年3月)

特集 子どもと漢方―日常診療に役立つ考え方・使い方

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小児漢方のランダム化比較試験の既報を紹介するが,洋の東西を問わず小児医療のエビデンスは構築しにくい.また複雑系の漢方は西洋医学の要素還元的な分析がなじみにくい.Evidence-based medicine(EBM)にはエビデンス以外に,患者の病状や周囲を取り巻く環境,患者の意向や価値観,医療者の臨床経験が必要であり,エビデンスが十分でなくともEBMは成立する.統計学的有意差がある治療への過度な依存は,むしろEBMを阻害する.EBMが提唱された1990年代,同時期に英米等で補完代替医療がブームとなり,とくに米国は多額の費用を投じ研究中である.またICD-11には伝統医学が導入間近である.世界的には漢方を含めた伝統医学のニーズが増しており,小児漢方のEBMについて述べた.

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漢方医学は,現代医学とは異なった背景をもっている日本固有の伝統医学である.古くから小児の疾患に対して漢方薬は利用されてきたが,現代医学の進歩とともに,その使用に関して大きな変化を遂げてきた.本稿では小児に対する漢方薬の使用に関する現状を統計や研究を用いて示し,臨床の現場で行われている漢方治療に関して紹介した.小児への漢方薬の研究は増加しており,さまざまな疾患で有効性が示されている.また,現代医学では対処しにくい疾患に対して漢方薬が奏効する場合もあり,今後漢方治療は,小児疾患に対する治療手段の1つとして広がっていくと考えている.

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日常診療の傍らで,漢方を独学であるいは指導医の下でも,学ぶのは大変である.そうして漢方の理論を学んでも,実際に患児を治す術がなければ臨床の現場では役に立たない.五感を使って病状を判別し,病気ではなく病人を治すことが漢方の本道である.本稿では,小児に漢方薬を使うポイントについて,まず訴える症状に対して実践的な処方から入り,それから漢方的にはどう診るのかという基本的な考え方について概略した.

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「子どもが漢方薬なんて飲めるの?」と言われることが多い.漢方薬というと,まずくて飲みにくいイメージがある.ところが実際は,医療者側のちょっとした工夫で飲めるようになることも多い.飲みにくい薬を飲むことができるようにするポイントは,その子に合わせたオーダーメードの服薬指導であると考える.そのためには,患者との信頼関係,さらに医療者側の熱意と努力が大切である.

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漢方薬は中国に発する長い経験医学のなかで臨床結果に基づいて処方が作られてきた.漢方薬は複数の生薬の組み合わせによる多成分系薬剤で,生薬の総合的効果としてヒト生体に作用する.含有成分は西洋薬のように精製されておらず,消化ないしは腸内細菌による代謝を受けてから吸収されて効果を発するため,消化吸収能が未熟な小児における有効性や安全性が確立しているとはいえない.構成生薬としてよく使われる甘草による偽アルドステロン症,柴胡剤に含まれる黄芩による間質性肺炎や肝障害,麻黄による興奮や不眠のような副作用の理解は必要である.漢方薬を子どもに使う時には,証や症状からの東洋医学的仮説構築とともに,漢方薬の特徴を理解することが重要である.

6.小児呼吸器疾患 森 蘭子
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呼吸器症状に漢方薬を用いることで,中枢性鎮咳剤などの処方を減らすことができる.また中枢性鎮咳剤が禁忌である気管支喘息発作にも使用可能である.乾性咳嗽には麦門冬湯,湿性咳嗽には小青竜湯または清肺湯,喘鳴には麻杏甘石湯,のどに引っかかる咳,心因性咳嗽には柴朴湯を用いる.風邪への漢方薬は,病期(ごく初期化~回復期)を見極め,病期と体質に合う処方を用いる.繰り返す気道感染症には,虚証の場合小建中湯,実証の場合小柴胡湯,中間証には柴胡桂枝湯を用いる.気管支喘息には発作時に麻杏甘石湯や五虎湯.非発作時の体質改善に柴朴湯や神秘湯.鼻症状改善に葛根湯加川芎辛夷,辛夷清肺湯を用いる.

7.インフルエンザ 黒木 春郎
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東アジア伝統医学が日本において発展したものが漢方である.その漢方薬なかでも麻黄湯はインフルエンザに有効である.西洋医学の抗ウイルス薬にはない特徴を有する.投与は,0.1g/kg/日 分2~3,3日間が目安であるが,発汗して解熱すれば麻黄湯の役割は果たしたことになる.「温服せしめて発汗させて,邪気を除く」と先人の言にある通りである.インフルエンザに伴う倦怠感,関節痛などは漢方薬により劇的に改善する.さらに,抗ウイルス薬との併用はインフルエンザの諸症状の軽快を早める.多成分薬剤としての漢方薬の作用機序は,システムバイオロジーの方法により明らかとされる.体制分が複数個所に作用していることが示された.

8.小児の腹痛 上田 晃三
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腹痛は小児科の臨床において頻度の高い症状の1つである.しかし,明らかな器質的異常が認められないことや,西洋医学的な対処を行っても改善しきらないこともまた,しばしば経験され,そのようななかには漢方診療の良い適応となる症例がある.急性腹痛では便秘や浮腫・局所の炎症などによる物理的な病態が,慢性・反復性腹痛では虚弱体質など機能的な病態や心理的な要因が影響している場合があり,それぞれの病態に応じた漢方診療を行うことで,根本的な治癒も可能となる.

9.小児便秘症 秋山 卓士
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小児慢性機能性便秘症の治療については,2013年に診療ガイドラインが示されて,その道筋は決まった.第1は生活習慣(排便習慣)と食事療法(水分摂取を含む)であるが,その補助としての薬物治療の第1選択薬は浸透圧性下剤と示されている.それのみですべての症例が治療できるとは限らない.症例の特性に合わせて,触診時に腹筋を硬くしたりするような症例では小建中湯が有効なことが,ガスの貯留で,腹満を伴うような症例では大建中湯が有効なことが,また腸管蠕動を刺激したい症例では大黄を含む漢方薬が有効なことがある.小児便秘症の治療において,漢方薬は考慮すべき治療手段であると考える.

10.頭痛 松田 正
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当院では五苓散と呉茱萸湯の同時投与により偏頭痛を治療している.トリプタン注射に匹敵する即効性と有効性があり,一次性頭痛と二次性頭痛の鑑別法(頭痛トリアージ)としても活用できる.治療に反応しない場合は,頭部MRI・MRA検査や脳波検査を実施することで,脳腫瘍やてんかんの早期発見につながっている.偏頭痛や脳器質的疾患が否定された二次性頭痛に対しては小建中湯,抑肝散,甘麦大棗湯など,「子どもの心に働きかける漢方薬」が奏効する.小児の頭痛は,不登校の初期症状としても多く認められる.漢方薬治療は痛みを和らげるばかりではなく,その発症機序に切り込むこともできる利点があり,頭痛治療の第1選択薬は漢方薬がふさわしい.

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起立性調節障害(OD)は,立ちくらみ,失神,朝起き不良,倦怠感,動悸,頭痛などの症状を伴い,思春期に好発する自律神経機能不全の1つである.小・中学生の5~10%が罹患しており,早期の診断と適切な対応を行わなければ,学校に行けなくなることも少なくない.治療方法として,疾病教育,非薬物療法(生活指導),学校への指導や連携,薬物療法,環境調整(友だち・家族),心理療法がある.薬物療法のうち,「証」や症状に応じてさまざまな漢方薬が選択されるが,半夏白朮天麻湯が第1選択薬に使用されることが多い.そのほか,苓桂朮甘湯,補中益気湯,小建中湯,真武湯,柴胡桂枝湯,柴胡加竜骨牡蠣湯,桂枝加竜骨牡蠣湯などが使用される.ODは薬物療法単独では効果がでないことも多く,薬物療法以外の治療も重要である.

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パレコウイルスA(Parechovirus A:PeV-A)は,ピコルナウイルス科の一本鎖RNAウイルスであり,多くの場合,軽症の上気道炎,胃腸炎を引き起こす.一方で,パレコウイルスA3(Parechovirus A3,PeV-A3)は,新生児や早期乳児に敗血症や髄膜脳炎などの重症感染症を引き起こすため,小児科領域でとくに注目されている新興感染症である.重症例では,後遺症を残したり,死亡例も報告されている.診断には,頻脈,手掌や足底の紅斑,腹部膨満と臍の突出などが特徴的な身体所見で,血清や髄液を用いたPCR法が有用である.遺伝子型の同定には,特定の領域の遺伝子のシークエンス解析が必要である.現在,PeV-A3に対する有効な治療法はない.その診断と治療には未解決の課題が多く,今後,さらなる研究が必要な感染症である.

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食物アレルギーの管理を行ううえで診断を適切に行うことが第一段階である.魚の摂取によってアレルギー症状をきたした場合には ① 魚アレルギー,② アニサキスアレルギー,③ ヒスタミン中毒の3点の鑑別を行う必要がある.甲殻類アレルギーの診断には特異的IgE抗体価や皮膚試験では不十分であるため経口負荷試験が必要である.魚卵のアレルギー診断は特異的IgE抗体価が目安になる.果物アレルギーにおいて,口腔症状が主体の場合には花粉-食物アレルギー症候群を考える.アナフィラキシーなどの全身症状の場合にはLTPやGRPといったコンポーネントが原因の場合がある.

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Down症児を育てている母親が,これまでにかかわった人やサービスから受けた支援や言葉がけによって抱いた感情について明らかにするため,7名の母親を対象としフォーカスグループインタビューを行った.その結果,① Down症児の育ちについて産婦人科医と小児科医とが正しく知り,双方が連携して,Down症について情報共有・提供すること,② 母親が必要としていることはDown症児がどのような成長をし,どのような暮らしをしているのか,といった将来を見据えた情報に加え,Down症児を含めた家族がどのような思いをもって暮らしているのかも合わせて伝えること,の2点が重要であることが示唆された.

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災害時小児周産期リエゾンの活動は,大規模災害時にDMATや他の災害医療チームと小児周産期医療の連携を担うことである.災害の超急性期には保健医療調整本部に入り,情報の収集・共有と指揮系統の一元化を図る.急性期には,患者・物資搬送の調整や避難所対策を実施する.平時には,情報ネットワークの形成(通信手段・ネットワークの多重化,医療的ケア児のリストアップや連絡方法の確立)と,防災訓練への参加(物品や機材の準備,災害医療関係者・行政担当部署と顔のみえる関係を構築)が主な活動となる.静岡県では,まずリエゾン同士がつながり,それぞれの地域でネットワークの形成・広報活動を実践中であるため紹介する.

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トスフロキサシンが関連した低血糖性昏睡の1女児例を経験した.抗菌薬投与はさまざまな副作用を引き起こす可能性があることを意識し,慎重に処方を行ううえで参考になることを願って本報告を行う.

[連載] 最近の外国業績より

境界領域 日本医科大学小児科学教室
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背 景  炎症性腸疾患(IBD)は,クローン病(CD)や潰瘍性大腸炎(UC)を主要なサブタイプとする腸の慢性炎症状態のグループである.IBDと精神障害との関連のメカニズムは,心理的ストレスや,腹痛,外科的処置,身体障害,コルチコステロイドの使用,慢性炎症に伴う,ビタミン,ミネラルの吸収不良および欠乏,中枢神経機能等が影響していると考えられている.成人のIBD患者の場合は,自殺,気分障害,精神病性障害と関連が示唆されている.一方,小児期発症のIBDに関しては精神病性障害のリスクに関係する研究は少なく,家族性交絡に関しては考慮していなかった.

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小児科
61巻3号 (2020年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4121 金原出版

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