小児科 59巻6号 (2018年5月)

特集 発達障害―小児科での具体的な診かたと多職種連携

1.発達障害児の診断と支援 原 仁
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発達障害児の診断は,行動観察と養育者からの聞き取りを根拠に行われている.その現状と限界について私見を述べた.加えて,著者独自の診断の補助手段としての神経学的微兆候(ソフトサイン)の意義と,発達障害児に一般に行われている発達検査・知能検査を紹介した.発達障害児に関わる支援はさまざまであるが,最近行われている薬物治療,そのなかでも「自閉症の易怒性」への抗精神病薬と3種類のADHD治療薬の特徴と使用法を解説した.

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小児期に発達障害と診断された患者全員が,発達障害をもったまま思春期・成人期を迎える.発達障害に関する認知度は上がったが,発達障がい児(者)が学校や職場等で能力を発揮できる環境の整備は進んでおらず,ストレスから二次障害を合併しやすい.また,この時期に診断を求めて受診する人々は,初診時すでに生きづらさをもっている場合が多い.こうしたストレスに早期に気づき,その原因を除去することは非常に重要である.本稿では,思春期から成人期を4つに分け,それぞれの時期で発達障がい児(者)がつまずきやすい問題と対策を,ストレスを中心に述べた.また,この時期に身につけさせたい性と男女交際の知識も述べた.

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発達性協調運動障害のある児に対して,できない動作を繰り返す指導だけでは技能習得につながらないことが多く,自己効力感も低下してしまう.その児の能力に適したプログラムを立案するために動作ピラミッド法による評価を概説した.動きのピラミッド構造は4段階から構成される.第1段階は姿勢である.第2段階は両手の操作に焦点をあてている.第3段階は,手や物などを見る動きと口の動きである.第4段階は,注意,やり方を考える,意欲等が含まれる.本稿の最後に食事,書字,体育に課題のある3名の発達性協調運動障害児を取り上げ,動作ピラミッド法で問題点を抽出し,具体的な指導プログラムを示した.

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筆者のTourette症候群の診療経験から,受診初期および経過中の対応と薬物治療の要点を述べた.チックを主訴に小児科を受診する症例は受診時がチックの最強点で,その後は自然経過で軽減して良好な経過をたどることが多く,心理教育や環境調整での対応が中心となり,服薬が必要だったのは半数以下であった.

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小児科臨床で構音障害,吃音についての相談を受けることは思いの他多い.見守っていればよい状態と,言語聴覚士のもとで訓練をしたほうがよい時期と状態を見極めることが求められる.いずれも明らかな原因はわかっていないが,構音障害の背景には言語・認知発達の全般的な遅れを示す知的障害があることも多く,吃音の背景には自閉性障害がある頻度もかなり高い.このことから,言語聴覚士や心理士と連携や協力をして,保護者が心配しやすい表面の症状にとらわれることなく,適切な対応を提示し,家族への育児支援,本人への心理的サポートをすることも小児科医の大切な役目の一つである.

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磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)を用いた脳科学研究により,定型的・非定型的な脳の発達過程が明らかにされてきた.定型発達児の場合,脳の灰白質体積は青年期までにピークを迎え,その後減少する逆U字型の発達軌道を示す.一方,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)児の場合,脳の灰白質体積は小児期までに過度に増加し,青年期から成人期にかけて急速に減少する.現状ではMRIによってASDの診断を行うことは困難であると考えられる.しかし,MRIによるASDバイオマーカーの解明を目指した研究が世界で進行している.

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PARS-TR(親面接式自閉スペクトラム症評定尺度 テキスト改訂版)の開発理念,開発目的,尺度構成,評定方法,使用上の留意点について述べた.評定方法では,実施条件,評定手順に加えて項目評定を詳述した.とくに,補足質問によって症状変動と関連する場面条件の確認が評定対象児者の理解と支援の手がかりの把握につながることを述べ,補足質問を行う際の基本的視点を解説した.使用上の留意点では,診断該当の判断におけるカットオフ値の限界性,一般母集団にPARS-TRを使用することのリスクについて述べた.PARS-TRは評定尺度であると同時に支援ツールでもあり,この点に留意した活用の重要性を論じた.

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発達障がい児が早期に支援を受けるには,気づきから支援までの時間を短縮する必要がある.プライマリケアにおける発達障害のアセスメントは,時間を要する診断の確定よりもむしろ,まず対象児の全体像を的確に把握することが現実的であり,優先されるべきである.最近は,日本の小児で標準化された簡便なアセスメント・ツールがいくつか使用可能であり,これらを複数組み合わせることで,発達障害特性だけでなく,メンタルヘルス全般を包括的に把握し,患者一人ひとりのニーズの把握や親の理解の助けとなり得る.アセスメント結果は,地域内の紹介をスムーズにし,重要な情報共有となるものと思われる.

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多忙を極める小児科においても発達障害の診療は,何よりも心理社会的治療が優先されるべきであり,薬物療法の導入には適切な評価と診断,および薬物療法によるリスクとベネフィットを勘案したうえでの臨床的判断が求められる.小児科における発達障害診療では,抗ADHD薬のメチルフェニデート,アトモキセチン,グアンファシン,自閉症に対するリスペリドン,アリピプラゾール,ピモジドの6つの薬剤を中心に適切な治療戦略を作り上げていくことが望ましい.薬物療法しか発達障がい児への治療戦略を持ち合わせていない臨床医にならないように,さまざまな心理社会的治療を習得していくことを目指していくべきである.

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発達障がい児の成長を支える関係者にとって,日常生活のなかで児たちが示すさまざまな行動に戸惑うことは少なくない.このような行動の多くは,一人ひとりの発達の状態や発達障害の特性を理解することで,次第に目立たなくなるものである.一方,思春期以降,このような行動ゆえに,学習や社会参加の機会をなくし,自らあるいは周囲の健康に影響を与える重大な行動を示すものも一定数存在する.このような行動は,チャレンジング行動とよばれる.本稿では,チャレンジング行動のうち,日本で30年以上社会問題であり続けている強度行動障害について,その定義と背景,有効と考えられる支援方法について紹介する.

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発達障害に対する乳幼児健診や早期療育体制が整備されても,親の理解と協力なしには健診から支援へとつないでいくことは困難である.親の障害に対する気づきや理解は,家族支援の入り口であり,その後の支援に大きく影響する.本稿では気づきから診断に至る乳幼児期,学齢期に何らかの問題が生じ診断に至る時期の2つに着目し,必要とされる支援について考察した.ライフステージのなかで途切れない支援システムを構築するなかで,親への寄り添いや地域情報の提供におけるペアレント・メンターの役割,具体的な子育て支援としてのペアレント・トレーニングの重要性について指摘した.

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本稿では,小児科医が知っておきたい特別支援教育や発達障害支援の基礎的事柄を整理した.最初に,発達障害のある児童生徒が学ぶ通常の学級以外の場である,特別支援学校,特別支援学級,通級による指導についてまとめた.次に,特別支援教育の理解で重要となる通常の教科と知的障害教科の関係,および,自立活動について説明した.さらに,小学校等の特別支援教育システムとして,特別支援教育コーディネーター,校内委員会,巡回相談,教員研修について整理した.最後に,小・中学校の新学習指導要領において,各教科の困難さに応じた工夫,および,個別の指導計画と個別の教育支援計画の作成と活用の重要性について言及した.

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発達障がい児(者)の福祉については,かつては知的障がい児(者)の福祉を語ることでおおむね足りた.障害福祉政策が施設中心から地域生活支援へと徐々に舵が切られるなか,平成16年(2004年)に発達障害者支援法が制定され,発達障害の早期発見と早期の発達支援,保育や教育における適切な支援の配慮と支援体制の整備,就労の支援,地域での生活支援等,発達障がい児(者)への支援の基本事項が定められた.また,障害福祉サービスや相談支援については,発達障がい児(者)も含めて,児童福祉法および障害者総合支援法に基づき実施されている.なかでも,発達障がい児支援について中核的な役割を担っている児童発達支援事業と放課後等デイサービス事業は,医療,教育等関連分野との連携が図られながら推進されているが,そのサービスの質の確保が課題であり,厚生労働省はガイドラインを作成している.

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乳幼児健診等でのスクリーニングや幼児教育の現場で発達障害を疑われた児が,診断とその後の指針を求めて小児科を受診する機会が多くなっている.その際に有用と思われる,精神医療・支援制度・教育・保健行政等の現状を簡潔にまとめた.発達障害医療は歴史的にも専門性においても境界的な領域に位置しているため,治療や支援が分断されたり,狭間に落ち込んだりすることが多くみられる.多くの資源が利用可能になった発達障害への対応だが,そうした多様な資源を有効に活用するコーディネート機能が設置される必要が大きくなっていると考えられる.

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社会福祉法人「旭川荘」が岡山県(人口約200万人)で担ってきた役割を整理した結果から,地域特性に応じて発達障がい児とその家族へのケアシステムを構築するうえで必要な視点は,① 自閉症スペクトラム障害をはじめとする発達障害の特性への早期の気づきと発達支援 ② 家族の子育て支援 ③ 地域の実情に応じた療育(発達支援と家族支援)の場の創出 ④ 義務教育への移行支援であり,⑤ 小児科医は地域の資源を知り,それらとつながりながら,成長を診ることの重要性が明らかとなった.その歴史と概要ならびに課題を紹介した.

診療

小児の下痢と便秘 位田 忍
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消化器の働きは主に自律神経に支配され,消化吸収機能,蠕動機能を通して生命を維持し,子どもの成長に不可欠である.この機能により,食物は蠕動で腸を移動し消化吸収代謝されながら,やがて便として排出される.消化器の病気は排便の不調として現れることが多く,また他の臓器にくらべて直接的に栄養障害をもたらすことも特徴である.精神的な要因や生活リズムの乱れによっても排便は影響を受ける.

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臨床の現場で乳幼児の親から子どもの歯の問題を質問され,どのように答えてよいか戸惑うことがあるとの小児科医の話を耳にすることが少なくない.乳歯の手入れや歯並びの問題は歯科医にきくのが普通であるが,気後れする事情があって身近な小児科医にきいてくるのではないかと推察している.このような状況を念頭に乳歯の必要性や乳歯列の矯正治療に対する考え方を小児歯科の立場から紹介するとともに,小児科医にお願いしたい子どもの歯の外傷への初期対応と近年の感染症事情からテトラサイクリン系抗生物質による子どもの歯の着色の問題が再燃する可能性があること等について説明する.

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近年,食物アレルギー児は増加傾向にあり,乳幼児ほどその占める割合は大きい.また母親の就業率の増加に伴い,保育所をはじめとする施設での幼少時からの受け入れも必要とされている.食物アレルギー児に対する体制作りや,在籍している児がまだ診断されていない食物で,初発のアレルギー症状を施設で経験する等,アドレナリン自己注射液(エピペン®)のみでなく,食物アレルギーに対するいろいろな知識や対応が施設関係者に要求されている.2015年より当市民病院において食物アレルギー児に対する地域連携を主題とした地域の多職種参加による会を開催している.施設関係者の不安や疑問を医療従事者も理解・共有し,よりよい連携を構築していく場が必要である.

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小児の上気道疾患における緊急性の高い病態として扁桃周囲膿瘍が挙げられる.われわれは反復する扁桃周囲膿瘍罹患のため扁桃摘出術施行し,約一年後に扁桃周囲膿瘍に罹患した症例を経験した.診断の過程ならびに管理の方法を中心に報告を行う.

最近の外国業績より

血液 日本医科大学小児科学教室
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背景:バイスペシフィック抗体であるエミシズマブは活性型血液凝固第Ⅸ因子と第Ⅹ因子を架橋し,血友病Aで欠損している活性型血液凝固第Ⅷ因子の機能を回復する.本試験(HAVEN1試験)では,第Ⅷ因子に対するインヒビーター保有血友病A患者に対するエミシズマブ週1回予防的皮下投与の有効性,安全性,薬物動態を評価した.

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小児科
59巻6号 (2018年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4121 金原出版

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