INTESTINE 23巻1号 (2019年1月)

特集 大腸内分泌細胞腫瘍─WHOの考え方と日本の考え方

序 説 岩下 明德
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消化管の内分泌細胞腫瘍(endocrine cell neoplasm)は,日本では従来からカルチノイド腫瘍(carcinoid tumor;CT)と内分泌細胞癌(endocrinecell carcinoma;ECC)に大別されてきたが,2010 年に発表されたWHO 分類では神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET)と神経内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma;NEC)に大別し,前者を核分裂数とKi-67 指数のみからNET G1(これのみカルチノイドと呼ぶ)とNETG2 に亜分類している. 本邦では,カルチノイド腫瘍は原腸系臓器に広く分布するアミン・ペプタイド産生内分泌細胞の幼若細胞に起源する腫瘍,つまり内分泌細胞のみから構成され特異な組織像を示す上皮性腫瘍で,悪性度の低い一種の癌腫と位置づけられている.肉眼的に黄色調の粘膜下腫瘍として認識される.組織学的には比較的小型で均一な腫瘍細胞が小胞巣状,索状,リボン状,ロゼット状ないし管状に増殖し,間質は狭く毛細血管に富む特徴的な形態をとる.核分裂像はほとんどみられず,増殖能指数(Ki-67 指数)も低値である.組織化学的,免疫組織化学的,および電顕的にはほとんどすべての腫瘍細胞が神経内分泌顆粒(物質)を有している.予後は比較的良好な場合が多い.

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内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍,内分泌細胞癌)は全身すべての臓器で認められるが,腫瘍の部位別頻度,組織学的分類,産生ホルモンの種類,組織像,遺伝子異常は,臓器により少しずつ差異がある.他臓器との比較から得られる大腸内分泌腫瘍の特徴は,直腸発生L 細胞由来のカルチノイド腫瘍が大部分で,組織像は索状配列が目立つ.MEN1 遺伝子との関連は薄く,予後良好な腫瘍に相当する.対して大腸の内分泌細胞癌は非常にまれである.

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消化管内分泌細胞腫瘍の日本分類とWHO 2010 分類を対比した.日本分類は腫瘍細胞の異型度に基づく組織分類であり,WHO 2010 分類は腫瘍細胞の分化度と増殖能(核分裂数とKi-67 指数)に基づく組織分類であった.このため,組織型名の内容に相違があった.日本分類は両腫瘍の組織発生の違いを反映した分類であるが,WHO 2010 分類は組織発生の違いを考慮していない分類であった.消化管内分泌細胞腫瘍の病理診断の手順と項目について述べた.

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大腸内分泌細胞癌は,まれではあるが悪性度が高く予後不良な腫瘍であり,病理組織学的に確実に診断される必要がある.病理診断に際して,現時点で考慮すべき問題点・注意点は,以下のようなことである:① 大腸内分泌細胞癌の病理組織診断は,一定の組織形態学的特徴を有している高異型度癌に免疫染色で十分な内分泌細胞分化が確認された場合になされる.WHO 分類のneuroendocrinecarcinoma(NEC)にほぼ対応するものの,分類の基準が異なる.② 内分泌細胞分化に乏しい低分化癌との鑑別が困難な場合が少なくないため,疑われる場合は積極的に免疫染色を実施して内分泌細胞分化の有無を確認する必要がある.免疫染色の結果の評価には一定の注意を要する.③ 内分泌細胞癌は,しばしば併存する腺腫・腺癌成分とともに腫瘍病巣を形成するが(腺内分泌細胞癌,WHO 分類のMANEC),内分泌細胞癌成分が少量(WHO 分類の定義上,adenocarcinomaと診断される量)であっても予後に関連するため,確実に診断・記載される必要がある.④ 生検組織診断では,手術切除検体との組織像の印象の違い,内分泌細胞癌成分が採取されていない可能性(腺腫・腺癌成分のみの採取,壊死組織や非腫瘍性粘膜のみの採取)に注意する必要がある.

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大腸内分泌細胞癌は,HE 染色標本で低分化腺癌あるいは未分化癌と診断された症例に対して内分泌細胞への分化を確認し,カルチノイド腫瘍と鑑別することで確定する.診断時にすでに69 ~ 94%の症例に転移がみられ,Stage Ⅳの頻度も33 ~ 65%と高い.一方で内分泌細胞癌の術前診断率は6~ 24%と低い.治療はリンパ節郭清を伴った切除が原則である.しかし術後早期に再発し,急速に発育進展することも少なくない.化学療法は,近年では通常の大腸癌に用いられる薬剤(ベバシズマブ,オキサリプラチン,イリノテカン)が使われているが,奏効率は低く,確立された化学療法レジメンはない.予後はきわめて不良であり,生存期間中央値は10 ~ 11.4 カ月である.

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直腸カルチノイド腫瘍は,本邦においては大腸カルチノイド腫瘍の9 割以上を占め,もっとも頻度が高い.肉眼的には粘膜下腫瘍様形態を示すが,増大すると粘膜面への露出もみられる.組織学的には索状,リボン状,管状,小胞巣状,充実性胞巣などの組織構築を示す.腫瘍細胞は類円形~楕円形で粗大顆粒状クロマチンを有する比較的均一な核と,淡好酸性で繊細な顆粒状細胞質をもつ.免疫染色ではシナプトフィジンやCD56 が通常陽性だが,クロモグラニンA の陽性率が低い等,他臓器発生との違いがある.実際の病理診断では壁深達度や脈管侵襲,断端等,通常記載する項目に加え,核分裂数やMIB-1 index による増殖指数の評価を行い,それに基づくWHO グレード分類も記載する.生検診断においては,粘膜下腫瘍様病変であるため,粘膜表層からの検体採取では診断に至らない可能性があり,深部まで含めた検体採取や複数個の生検が望ましいが,病変が小さい場合は治療時に影響が及ぶおそれがあることにも留意する.本邦の分類は組織所見に基づくが,WHO 分類は細胞増殖指数による分類であり考えが異なっている.

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「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」において,直腸NETの診断と治療指針が示された.直腸NET に対する内視鏡治療の適応は「大きさが1 cm 以下でMP 浸潤がなく,リンパ節転移を認めないもの」とされ,切除標本の病理判定で「MP 浸潤・脈管侵襲がなく,切除断端が陰性」であれば経過観察とされている.直腸NET に対する内視鏡治療後のサーベイランスにおいては,初回治療時のリスク因子を正確に評価することが重要である.

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近年の大腸内視鏡検査の進歩と普及に伴い,大腸カルチノイドの発見率は増加傾向にある.近年,腫瘍径20 mm 以上の粘膜固有筋層の浸潤,リンパ管侵襲,リンパ節転移などの悪性所見を伴う直腸カルチノイドは,根治手術により除去することが推奨されている.腫瘍径10 mm 以下の腫瘍は局所切除が推奨されているが,腫瘍径10~20 mm のカルチノイドに関しては議論の余地がある.とくに直腸カルチノイドの場合は,人工肛門を造設する可能性もあり,患者の病態に応じて治療法を慎重に選択していくことが求められる.

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神経内分泌腫瘍(NET)の内分泌症状に対しては,ソマトスタチンアナログなどの治療薬が用いられる.また,ソマトスタチンアナログにはNET の増殖抑制作用も示されている.分子標的薬としては消化管原発NET に対してはエベロリムスの有効性が示されている.細胞障害性薬剤としては,ストレプトゾシンやテモゾロミドなどがキードラッグである.神経内分泌癌(NEC)に対しては,シスプラチン+エトポシド併用療法もしくはシスプラチン+イリノテカン併用療法が用いられている.

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杯細胞カルチノイドはおもに虫垂に発生し,組織学的にカルチノイド類似像と腺癌類似像の両方を呈する腫瘍である.特徴的な臨床病理像を呈するため,その診断については比較的容易と推測されるが,本腫瘍における概念や組織発生などについてはさまざまな意見がある.本腫瘍の悪性度は通常の腺癌と同様と考えられ,したがってわれわれは本腫瘍をカルチノイドの一亜型とするより,腺癌の一亜型とすべきと考える.

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杯細胞カルチノイドは虫垂に好発するまれな腫瘍であり,リンパ節転移や腹膜播種をきたすことが多く,癌の特殊型と考えられている.腫瘍はおもに粘膜下層以深を浸潤性に発育し,粘膜面に露出することはまれである.急性腹症で発症し,虫垂炎の術前診断で手術されることが多い,虫垂腫瘍,腸閉塞がこれに続く.術前診断は難しく,ほとんどが手術後に診断されている.CT では虫垂腫大や造影効果を伴う回盲部の腸壁肥厚の所見がみられることが多い.大腸内視鏡や注腸X線が行われることは少なく,虫垂開口部の腫瘤や壁不整,盲腸の伸展不良や変形などの所見が記載されているが,内視鏡所見で異常がみられないこともある.また,生検組織診断は困難である.治療は外科的切除が基本であるが,進行した症例には大腸癌に準じた化学療法が行われる.

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内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloondilation;EBD)は炎症性腸疾患に限らず,各種の消化管狭窄に対して行われている狭窄解除法である.本稿ではクローン病(Crohn’s disease;CD)の小腸狭窄に対して行われているEBD に焦点を絞って行った多施設前向き研究の論文について解説する.なお,著作権の観点から論文に用いた図表は提示しておらず,詳細は実際の英文原著を確認していただきたい. EBD は,CD 患者の小腸狭窄に対する外科手術の代替手段である.しかしながら,小腸狭窄に対するEBD の有効性は後ろ向きの単一施設のコホート研究しか報告がなかった.バルーンアシスト下小腸内視鏡(balloon assisted enteroscopy;BAE)の歴史は,本邦の山本先生が開発したダブルバルーン内視鏡から始まっている.したがって,本邦ではこのモダリティーを用いた内視鏡診断・治療が汎用されており,この領域では日本が世界のトップランナーである.CD の小腸狭窄に対するEBD も実臨床で盛んに行われ,その成績もほとんどが日本から発信されている土壌がある.そこで,本内視鏡治療の意義を明らかにし,新たなエビデンス構築を目的とし,多施設前向きオープンラベル観察試験を厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(以下,研究班)の主導で行うに至った.

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転移は多段階のステップから成る複雑なプロセスを経て成立する.それらのステップを制御する生体因子は転移促進因子と転移抑制因子に分けられる.これまでに数多くの転移促進因子が同定されてきたのに対し,転移抑制因子の研究はほとんど進んでいない.本研究では,shRNA ライブラリーと同所移植転移モデルを用いた生体内スクリーニングにより,新規大腸癌転移抑制遺伝子の同定を試みた.

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60 歳代,男性.大腸内視鏡検査にて直腸に約20 mm のLST-NG(PD)を認めた.病変中央部では比較的均一な管状様pit を認め,管状腺腫と判断した.辺縁部では,ほぼ全周を取りまくようにⅠ型pit の介在するⅤI 型pit を認め,同部は癌と診断した.深達度はTis と判断しEMR を施行した.病理組織診断では,辺縁部は中分化腺癌の所見を呈し,中央部は高分化腺癌の所見でT1b, 深達度は1,690μm であった.pit pattern から深達度を判断することが困難なこともあり,拡大観察の所見のみではなく,通常観察の所見も踏まえて総合的に判断することが重要であると再認識した.

※最後のページに訂正情報があります.

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目次

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
23巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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