臨牀消化器内科 32巻9号 (2017年7月)

特集 食道癌診療の進歩―現状と課題

巻頭言 北川 雄光

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8年ぶりに改訂された「食道癌取扱い規約」に関し,今回の改訂のポイントとともに食道癌診療の現状を第11版取扱い規約を通して概説した.今回の改訂では,臨床所見,手術所見,病理所見に加え,内視鏡治療所見(e)を加えた.また食道胃接合部の定義に関し,これまで7頁の別刷りとして添付されていたが,本文中に記載された.壁深達度については,T4に関してUICCのTNM分類第7版と同様にT4aとT4bに分け,整合性をはかった.N分類に関しては整合性をはかれず,胸部中部食道癌(Mt)においてNo.104が2群に変更された.頸部リンパ節郭清の重要性が今回の改訂により,より明確化され,頸部郭清を行わないとD2郭清にならないことになった.

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世界保健機関の推計によると,食道癌は世界で8 番目に罹患数の多いがんで,2012 年の推計罹患数は約46 万人であった.同年の推計死亡数は約40 万人で,肺・肝・胃・大腸・乳に次いで6 番目に多いがんとなっている.日本の統計では,2012 年の罹患数が約2 万人,2015 年の死亡数が約1 万人となっており,2006〜2008 年の5年相対生存率が37.2%であったことから,食道癌は比較的予後の悪いがんであるといえる.日本人に多い食道扁平上皮癌の確実なリスク要因は喫煙と飲酒で,世界と日本で評価が一致している.世界的に評価が定まった予防要因はないが,日本人において野菜・果物摂取が予防的であるとする疫学的な根拠が多数ある.

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食道表在癌の治療方針の決定には,深達度診断とリンパ節転移診断が重要で,内視鏡検査が診断の多くを担っている.食道癌の高危険群はとくに注意深い観察が必要である.通常観察で全体像を把握しながら拡大観察を併用して深達度診断を行う.高周波数細径超音波プローブは通常観察と拡大観察で診断の乖離がある病変や粘膜下腫瘍状の形態を呈する病変に用いると有用である.

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わが国における食道癌治療は食道癌治療アルゴリズムに則り,進行度を基準として治療方針が決定される.進行度診断が治療戦略へ直結するため正確な評価が求めらる.食道癌の深達度,リンパ節転移,遠隔転移診断では,病変の深達度により各々の機器の診断精度が異なることを認識し,内視鏡検査,頸部および腹部超音波検査,食道造影検査,EUS,CT,MRI 検査,気管支内視鏡検査,FDG‒PET 検査,骨シンチグラフィーなどの検査を複数用いて総合的に診断することが重要である.各種検査についてその精度を明らかにすることが今後の課題とされる.

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内視鏡の治療適応と診断される食道癌は,内視鏡により原発巣を一括で切除でき,かつリンパ節転移の可能性がほぼ無視できるものに限定される.内視鏡治療は,この内視鏡治療適応病変を一括切除することを目的とする内視鏡切除術と,患者の併存疾患による問題,化学放射線療法後などの瘢痕を有するなどの病変の問題により内視鏡切除が困難と思われる病変に対するアルゴンプラズマ凝固療法や光線力学的治療などに代表される非切除術に大別される.それら治療法の適応は,それぞれのメリット,デメリットを理解し,かつ自身の技量を考慮して検討していく必要がある.

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胸部食道癌に対する外科治療は,食道癌治療の中心をなす治療法であり,日本では食道癌患者の半数以上が外科手術を受けている.食道癌の手術は侵襲が大きく,術後合併症の発症頻度が高いため,低侵襲手術の導入などの安全性向上に向けた試みがなされてきている.しかしながら,食道癌の手術は,胃癌や大腸癌といった他の消化器癌に比べ,リンパ節郭清範囲やアプローチ法(鏡視下手術),切除後の再建方法など,定型化するに足りるエビデンスが少ないため,各施設の判断にゆだねられていることが多い.今後,治療成績の均てん化に向けてエビデンスを発信していくことが重要である.

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切除可能食道癌の治療の中心は外科的切除であり,周術期補助療法は外科的切除単独での治療成績を向上させるために施行される.本邦ではJCOG9204 試験により術後シスプラチン+5‒FU(CF,FP)療法の手術単独に対する再発予防効果が示され,JCOG9907 試験により術前CF 療法の術後CF 療法に対する予後改善効果が示された結果,現在のcStageⅡ/Ⅲ食道癌の標準治療はCF 療法による術前補助化学療法(NAC)+手術である.一方欧米では,NAC および術前補助化学放射線療法(NACRT)の有用性が報告されている.JCOG9907 試験および海外のメタアナリシスの結果,NAC/NACRT による周術期合併症の増加は認めていない.現在,術前CF療法vs 術前ドセタキセル+CF(DCF)療法vs 術前CF/41.4 Gy 療法の3群間比較試験(JCOG1109試験;NExT study)が進行中であり結果が待たれる.

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食道癌に対する放射線療法の適応には,根治照射,手術の補助療法,内視鏡的切除後の予防照射,食道狭窄などの症状緩和照射などがあり,全身状態が良好な場合には,化学放射線療法が行われる.化学放射線療法により根治性が高まる一方で,心肺毒性などの遅発性有害事象の問題や遺残・再発例に対する救済治療(救済内視鏡治療,救済手術)の安全性に関する問題も認識されるようになり,さらなる治療成績向上のためにはこれらの対策が重要である.食道癌に対する放射線療法の現状について,日本で施行された臨床試験の治療成績をまとめ,新規抗癌剤,新規放射線治療技術や放射線治療機器も含めた成績向上を目指した治療開発の状況について解説した.

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進行・再発食道癌のなかでも治癒切除不能である,① 切除不能局所進行食道癌と,② 遠隔転移を伴う進行・再発食道癌について述べた.切除不能局所進行食道扁平上皮癌は,根治的化学放射線療法が標準治療となる.根治的化学放射線療法で用いられる化学療法レジメンはCDDP/5‒FU 併用療法(CF 療法)が標準である.一方,遠隔転移を有する進行・再発症例に対しては緩和的化学療法が治療の主体となる.一次治療は,CF 療法,二次化学療法は,タキサン系薬剤が標準治療として位置づけられている.しかし,これらの標準治療では満足できる治療成績を得ることができず,より有効な治療法の開発が求められている.今後期待される治療としてドセタキセル/CDDP/5‒FU 併用療法(DCF 療法),免疫チェックポイント阻害薬などがあり,現在,臨床試験が進行中である.

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食道癌における特徴的な緩和療法として,食道狭窄による嚥下・通過障害に対する治療がある.通過障害に対し経口摂取を目的とした治療として,食道ステントやバイパス術があるが,現在は侵襲性が低い自己拡張型金属ステント(SEMS)が主流である.上部・下部食道用を含め種々のステントがあり,症例に応じて選択する必要がある.放射線治療前後のステントに関してもその適応が拡大してきている.ステントの適応がない場合は,胃瘻などの栄養瘻の造設が検討される.出血については,持続的な漏出性出血により高度貧血を呈する症例は少ないが大動脈などに穿破すると致命的となる.最近,気道狭窄に対しても金属ステントが用いられるようになってきている.

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食道癌CRT/RT 後局所遺残再発のサルベージ治療として,レザフィリンPDT が2015 年10月より保険診療可能となった.食道癌に対するPDT は,光感受性物質レザフィリンを静注し,4〜6 時間後に内視鏡を用いて病変部位にレーザ照射することで,光化学反応を引き起こし腫瘍を変性壊死させる.遺残または再発病変が粘膜下層〜筋層までにとどまり,内視鏡的切除や手術が困難な症例に適応となる.医師主導治験では,完全奏効率88.5%と良好な成績を示し,光線過敏症やGrade 3 以上の非血液学的毒性は認めなかった.レザフィリンPDT は,食道癌CRT/RT 後局所遺残再発に対するサルベージ治療として安全かつ有効な治療である.

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食道扁平上皮がんにおける治療開発は十分に進んでいないのが現状で,この数十年間,残念ながら生存期間の大幅な改善は認められていない.近年,他がん腫において免疫チェックポイントをはじめとしたさまざまな免疫療法の報告がなされるとともに,食道がんにおいても抗PD‒1 抗体薬での臨床試験で相次いでその有効性が報告されている.悪性黒色腫などの他がん腫同様,食道がんでもがんに対する免疫は存在し,がんを制御しうることが明らかとなりつつある.しかしながら,抗PD‒1 抗体薬単独での奏効率はおおむね10〜20%前後であり有効性を予測するバイオマーカーの探索やより高い効果を得るための併用療法が重要と考えられ,現在さまざまな臨床試験が行われている.

5 .バレット食道癌の診療 石原 立
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本邦でもバレット食道癌の増加が懸念されている.その早期発見のためランダム生検が欧米では推奨されているが,本邦では詳細な内視鏡観察による癌の拾い上げが行われている.また広範なバレット食道には,酢酸内視鏡によるサーベイランスも有用である.バレット食道癌に対する内視鏡治療として欧米ではEMR や焼灼術がおもに用いられているが,本邦ではESDが行われている.バレット食道癌に対するESDは術前範囲診断や手技がやや困難なため,術前に詳細な範囲診断を行い,十分なスキルをもつ内視鏡医が施行すべきである.粘膜下層以深癌には外科切除がおもに行われるが,術前術後の補助療法については確立していない.

学会だより

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はじめに 超音波内視鏡(EUS)の描出の基本は以下のとおりである.1 )  いつも決まった順番で決まった臓器を観察する.2 ) 部位ごとの観察臓器を覚える.3 )  いつも決まった方向に決まった臓器を描出する.4 )  空気は,極力除去する(アーチファクトの予防).5 )  除去できない空気によるアーチファクトは,100 ml ほどの脱気水注入で除去する.

連載 薬の知識

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はじめに 大腸がんや炎症性腸疾患などをはじめとした下部消化管疾患は増加し続けており,大腸検査,とくに大腸内視鏡の需要は大きい.正確で安全な内視鏡検査のためには,良い腸管前処置が必須である.30 年以上前に開発されたポリエチレングリコール電解質液(PEG‒ELS)を用いた全腸管洗浄前処置法は画期的であり,標準的前処置法として定着した,.しかしPEG‒ELS を2 l もしくはそれ以上服用することは,患者にとって決して楽なことではない.そのため,さまざまな工夫や新たな腸管洗浄剤の開発が行われてきた.

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はじめに 急性肝不全を引き起こす原因はウイルス感染のほかに自己免疫性,薬物性,循環不全,妊娠脂肪肝,代謝異常など多岐にわたる.単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染が急性肝炎の原因になること自体は広く知られている.しかし,HSV 肝炎が予後不良な疾患であり,臨床判断の遅れが患者の予後を大きく左右することはあまり知られていない.私たちはHSV 感染による急性肝不全をきたし,速やかな診断で救命しえた症例を経験したため提示する.

連載 内科医にもわかる肝生検の見方

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Ⅰ.今月の症例 患 者:20 歳,男性 臨床診断:肝硬変 臨床経過:前医にて食道静脈瘤を指摘され,肝硬変+門脈圧亢進症の診断にて当院紹介受診.画像的に脾腫と肝の変形を認める.肝硬変の原因精査のため肝生検が施行された. 検査成績:AST 27 IU/(l normal range 10〜50),ALP 70 IU/l(30〜130),GGT 29 IU/l(1〜55),Albumin 38 g/l(35〜50),Total Bilirubin6μmol/l(3〜20),自己抗体と肝炎ウイルスマーカーすべて陰性

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目次

英文目次

次号予告

編集後記/奥付

基本情報

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臨牀消化器内科
32巻9号 (2017年7月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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