臨牀消化器内科 32巻10号 (2017年8月)

特集 腸内細菌と臨床

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最近,腸内細菌叢 microbiota の大切さを論じる研究論文や雑誌記事などを頻繁に目にするようになり,学会や研究会においてもシンポジウムや特別企画が組まれて勉強する機会が増えてきた.筆者も,2015 年に沖縄科学技術大学院大学(OIST)にて第17 回 日本神経消化器病学会を主催した際に「腸内細菌と主体機能の新たな展開」をテーマとするシンポジウムをプログラムに取り入れ,大いに勉強させていただいた.現在,腸内細菌に関する研究は消化器病学において,きわめて重要な研究テーマの一つである.消化器疾患だけではなく全身性疾患の発症についてもこの腸内細菌叢 microbiota が大いに関わっている可能性が報告され,さらにこれらの疾患予防や治療において,腸内細菌叢を是正する治療の可能性が期待されている.

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腸内細菌叢は,① 病原体からの感染防御,② 腸管構造/機能の恒常性維持や免疫系の刺激・調節,③ ビタミン合成や未消化残渣の利用によるエネルギーの再活用といった大きな三つの機能を通してヒトとの共生関係を築いている.共生関係のバランスが崩れると,これらの機能はヒトにとって有害な側面をみせるようになり,さまざまな疾病の発症につながる.また,腸内細菌叢の構成は,年齢,地域(国)で大きく異なる.つまり,腸内細菌叢の変化を考えるとき,年齢や地域を考慮した評価が必要と考えられる.今後,細菌叢の構成の変化に加えその機能変化も考慮した研究の展開が必要と考えられる.さらに,糞便のみならず,粘膜付着細菌叢の解析が必要と思われる.

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腸内細菌叢の乱れにより発症する感染症として,クロストリジウムディフィチル感染症(CDI)が代表的である.CDI は各種抗菌薬投与のみならず,制酸薬や化学療法薬もリスクとなるため注意が必要である.診断には便のCD 抗原とトキシンを組み合わせた検査が使用されるようになり感度が上昇したものの,結果の解釈には注意が必要である.治療はメトロニダゾールまたは重症ではバンコマイシン経口薬を使用するが,再発しやすい.再発に対しては海外で新薬fidaxomicin や抗体療法,糞便移植治療(fecal microbiota transplantation;FMT)のような新規の治療法も登場しており,エビデンスの構築が望まれる.CDI の発生を抑制するためには抗菌薬の適正使用と感染予防策の遵守が依然として望まれる.

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近年,炎症・免疫異常とともに,腸内細菌叢の変化が,過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)をはじめとする機能性消化管疾患(functional gastrointestinal disorders;FGID)の病態に対して重要な役割を果たすのではないかと考えられるようになり,脳‒腸‒腸内細菌軸の病態の概念が注目されている.IBS 患者では健常者とは異なる腸内細菌叢のパターンを示すが,IBS に特徴的な腸内細菌種は同定されるに至っていない.一方,便秘症状に寄与する優位な腸内細菌群が示されているが,詳細は明らかになっていない.腸内細菌叢を変容させる食事療法,プロバイオティクス,抗菌薬,さらには糞便移植が今後のFGID治療として期待される.

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自然免疫系の解明により,腸管炎症に対する腸内細菌の役割が注目されるようになった.そして炎症性腸疾患(IBD)は腸内細菌感染症ではないかともいわれてきている.近年,細菌DNAを解析する方法が開発され,膨大な腸内細菌からIBD の原因菌や菌群を探索するといったことが行われてきた.16S rRNA のメタゲノム解析においてIBD では腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)があり,Firmicutes 門のLactobacillus 属やFaecalibacterium parausnitzii,Roseburia hominisとActinobacteria 門のBifidobacterium 属が減少し,Proteobacteria 門のEnterobacteriaceae,硫酸還元細菌やBacteroidetes 門のBacteroides属が増加していたという報告が多い.このdysbiosis は高脂肪食(動物性,植物性)や肉食(鉄分)の負荷でも共通に認められることから,IBD に対する脂肪や肉食制限といった食事指導が治療の一助となるとも考えられる.

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小腸におけるNSAID 潰瘍形成の機序の全貌は明らかになっておらずさまざまな因子が関与していると考えられているが,腸内細菌がその一端を担っていることはこれまでの研究の結果から間違いないとされている.PPI は上部消化管に関してはNSAID 潰瘍の予防薬として広く使用されているものの,小腸においては腸内細菌を変化させることによって,逆にNSAID 潰瘍のリスク因子となることがわかってきた.この二つの事実によるパラドックスを打開するための治療はまだ確立されておらず,今後の研究課題としてなお残っている.

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大腸がんにおける腸内細菌の役割は以前より着目されていた.さまざまな臨床研究・基礎研究により,腸内細菌が直接的に大腸がん発生に作用する機構と,免疫を介して間接的に大腸がん発生に作用する機構が判明してきている.たとえば,大腸菌群B2 pks 株は毒素を産生し宿主細胞のDNA 障害からゲノム不安定性を誘導し,がん化を生じさせると考えられている.F.nucleatum は直接的にWnt/βカテニン系を亢進させがん化に作用するとともに,間接的に免疫逃避機構を減弱させる.B. fragilis は毒素(BFT)を産生しWnt/βカテニン系を亢進させるとともに間接的にTh17 を介してがん化を誘導する.さらに,腸内細菌はがん治療,とくにがん免疫療法にも関与している知見が蓄積されつつある.

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肝臓は,門脈を介して腸管から直接の血流の供給を受ける臓器であり,肝臓病・肝臓癌の病態は,腸内細菌叢,細菌菌体成分,腸内細菌産生代謝物などの強い影響を受けることが近年明らかとなってきた.腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)は,腸管内のPAMPs(病原体関連分子パターン:pathogen‒associated molecular patterns),VOCs(揮発性有機化合物:volatileorganic compouns)をはじめとする種々の因子に大きな影響を与え,さらに腸管透過性亢進(leaky gut)をも促進し,門脈血流を介して肝臓病態を変化させる.腸内細菌叢をターゲットとした,プレバイオティクス,プロバイオティクス,抗生剤,糞便移植などの新たな治療法の確立が今後期待されるものである.

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19世紀末には腸で発生した毒素がうつ病,不安,精神病につながるという「自家中毒」が信じられていた.生体は有害なストレスにさらされたとき,視床下部‒下垂体‒副腎軸と交感神経系を活性化させて恒常性を維持させる.無菌マウスでは前者が亢進し,正常マウスの腸内細菌移植で正常化するとの本邦からの重要な発見もあり,脳‒腸‒腸内細菌軸がクローズアップされている.その流れのなかで腸内細菌と精神疾患の関係が明らかになりつつある.とりわけ,腸内細菌とうつ病・自閉症の臨床研究が進んでいる.ともに多彩な消化器症状が高率にみられるが,まさに脳‒腸‒腸内細菌軸研究の先端分野となっている.

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最近の報告では,腸内フローラの構築は分娩様式や出産後の新生児の環境のみならず,出産前の胎内環境が胎児の腸内フローラの構築に影響を与えることが報告されており,注目を浴びている.さまざまな原因により,新生児期の腸内フローラの異常が惹起されると,成人になってからの生活習慣病やアレルギー疾患の発症に関与することが明らかになりつつある.それゆえ,腸内フローラの改善はこれら疾患の新しい治療になりうる.

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過去数十年間にわたって先進国ではアレルギー性疾患が増加し,その原因の一つとして腸内微生物叢のインバランス(dysbiosis)が重要な役割を果たしていると考えられている.近代的な生活における環境中および食事中の因子により,共生微生物叢の変化をきたすことで炎症を十分に制御できない可能性が推測される.動物モデルやヒトでの観察研究により,喘息,アトピー性皮膚炎,食物アレルギーなどアレルギー性疾患の発症機序に果たす微生物叢の役割が,十分とはいえないが解明されつつある.本稿では腸内微生物叢とアレルギー性疾患の関連性に焦点を当て,現在までの理解,そして予防と治療の可能性について述べる.

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2015 年の日本人の平均寿命は男性81 歳,女性87 歳(2016 年7 月27 日:厚生労働省)で男女ともに過去最高であった.1 日3 回食事を取ると一生に約92,000 回食べることになる.本稿では,この食事の内容がどのように腸内細菌叢に影響するのかについて,摂取カロリーの多い肥満者での特徴,2 型糖尿病患者と健常者群での変化,腸内環境を整える食べ物として挙げられる,① 食物繊維が豊富な食べ物,② オリゴ糖が豊富な食べ物,③ ヨーグルトや漬物のような発酵食品という三つの食品群と腸内細菌叢の関わりについてまとめ,さらに長寿県「沖縄」を取り上げ,私たちの研究結果も併せて長寿と腸内細菌叢の関係について紹介していく.

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プロバイオティクスは「宿主に健康効果を示す生きた微生物またはそれを含む食品」と定義されている.これまで,プロバイオティクス投与による腸内環境改善を通じての健康増進作用に加えて,機能研究と疾病への臨床応用が試みられてきた.プロバイオティクスによる予防・治療の有効性については,さまざまな報告がなされており,今後,さらに多くの検討を行う必要がある.また,メタゲノム解析をはじめとした次世代の解析法により,プロバイオティクス投与の腸内細菌へ与える影響について解析が進んでおり,作用機序の解明と,より効果的な予防・治療法への応用につながることが期待される.

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糞便微生物移植法は,攪乱された腸内細菌叢(dysbiosis)を正常化するうえで大きな可能性を秘めた治療法である.本法はClostridium difficile感染性腸炎に対して劇的な効果を上げたことで注目を集め,さまざまな疾患の発症にdysbiosisが密接に関わっていることが明らかになってきたことと併せて,新たな治療戦略として注目されつつある.今後のさらなる研究の発展によって,多くの疾患にこれまでとまったく異なる治療戦略が開発される可能性が期待されている.

学会だより

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はじめに B 型慢性肝炎の治療において,核酸アナログ〔nucleos(t)ide analog;NA〕は重要な役割をもっており,ガイドライン参考URL 1)においても,インターフェロンと並んで主要な治療手段に挙げられている.現在,初回の導入に使用されるNA は,おもにエンテカビル(ETV)とテノホビル(TDF)の2 剤であり,これらは以前使われたラミブジン(LAM)と比べて,ウイルスが耐性変異を獲得する率が大幅に低下している.しかし,一度耐性変異が出現すると,他の薬剤の併用や薬剤変更が必要になる場合がある.われわれはETV を導入した患者において,耐性変異獲得によるブレークスルー肝炎をきたした症例を経験した.

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はじめに 大腸ポリープに関する腫瘍・非腫瘍の内視鏡診断は非常に重要である.昨今のcold polypectomyの普及により診断時に引き続き治療が行われることも多く,その場での確実な治療適応病変の選別が望まれる.白色光での非拡大観察の診断能は70%程度といわれており,一方でNarrow Band Imaging(NBI)やFlexible spectralImaging Color Enhancement (FICE)などによる非拡大観察では90%程度にまで上昇することが報告されている1)〜3).また拡大観察を併用してNBI やBlue LASER Imaging(BLI)などを用いれば,正診率は95%程度に向上するとされる3)〜6).癌化の可能性のあるポリープとしてはadenoma およびsessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)が挙げられるが,本稿ではNBI によるそれらの内視鏡診断を中心に詳説する.

連載 内科医にもわかる肝生検の見方

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今月の症例 患 者:34 歳,女性 臨床診断:骨髄移植後肝障害,悪性リンパ腫 臨床経過:8 年前に悪性リンパ腫と診断され,化学療法にて完全寛解した.その後,再発病変が確認され,化学療法の後,骨髄移植が行われた.移植10 日後に,急激に進行する肝腫大,腹水,浮腫を認め,原因精査のため肝生検が施行された.

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目次

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書評 佐々木 裕

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編集後記/奥付

基本情報

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臨牀消化器内科
32巻10号 (2017年8月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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