臨牀消化器内科 32巻13号 (2017年11月)

特集 消化器癌の拡大内視鏡診断

巻頭言 工藤 進英
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“木を見て森を見て葉を見て花を見る.そしてまた木を見る”.この多重視,複眼視が拡大内視鏡診断の根本である.正しいfocus の合った診断が正しい治療に結びつくことはいうまでもない.「神は細部に宿る」のである.その意味で,森だけを見て診断する旧来の診断学は,終焉したといっていいだろう.診断学なくして良い治療学は存在しないのである.周知のように内視鏡は消化器癌の診断を大きく進歩させた.この内視鏡診断の進展のなかで早期癌分類が成立し,また色素内視鏡は癌の質的診断・量的診断の向上につながった.内視鏡医は共通の言語・共通の目線で癌を見ることができるようになった.このことで自ずと日本の診断学が世界をリードするようになった.筆者らはX 線診断と内視鏡診断による早期癌診断のスパイラルアップのなかで,“幻の癌”とみなされていた大腸Ⅱc 病変を発見し,陥凹型腫瘍が大腸癌の発育進展において非常に重要な意味をもつことを確信していた.陥凹型腫瘍がde novo 癌であること,大腸癌のメインルートであることを立証するために,非常に重要な役割を果たしたのが拡大内視鏡である.われわれは一つひとつの症例について,内視鏡像,実体顕微鏡像,マクロ病理組織像の対比を地道に行いその検討を重ねたが,より詳細な検討のためには生体内での拡大観察が必須であることを痛感した.

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多くの咽頭・喉頭表在癌が消化器内視鏡で発見され,内視鏡的に治療をされるようになっている.NBI を用いることで病変をより簡便に指摘できるようになると同時に,拡大観察を行うことで病変の質的診断も可能となる.しかし正しい診断には綺麗な視野での内視鏡観察は必須であり,そのためには工夫と経験が必要である.日本食道学会から提唱されているNBI 拡大観察基準に準じることで表在咽頭癌の深達度診断が可能であるが,咽頭領域には粘膜筋板がないなど,すべてが当てはまるわけではない.本稿では,当院でのNBI 拡大観察を用いた表在咽頭癌の深達度診断のアルゴリズムも解説する.

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日本食道学会拡大内視鏡分類(以下,食道学会分類)は,2012 年に提唱され広く用いられている.井上分類や有馬分類と比較し,より簡略化された拡大内視鏡分類である.本分類では,上皮乳頭内血管ループ(intra‒epithelial papillarycapillary loop;IPCL)に着目し,拡大観察でみられる血管をType A とB に二分し,異型の弱い上皮内腫瘍や炎症でみられる血管をType A,扁平上皮癌でみられる血管をType Bとした.また,深達度診断のためにType B をB1,B2,B3 に亜分類した.近年,深達度診断能における問題点(欠点)も浮き彫りになり,今後の課題とされている.

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バレット食道癌の拡大内視鏡診断には,胃癌の診断学が応用される.国際的に認知されているNBI 拡大観察分類はまだ診断精度が低く,本邦で実臨床に則した拡大内視鏡分類の作成が望まれる.扁平上皮下進展は拡大観察でリング状の異常血管像の透見や小孔をもって診断できる.NBI 拡大観察は有用であるが,バレット食道癌は範囲診断が難しく限界例が存在する.拡大観察を過信せず,確信がもてない場合は陰性生検で病理学的に確認する姿勢が必要である.また,拡大観察は深達度診断にも応用されつつあり,診断体系の確立が期待されている.

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胃癌の拡大内視鏡による範囲診断のコツは,①背景胃粘膜の拡大像を捉える.そして病変に向かって観察し,②粘膜模様および/または血管パターンの不整から癌への移行部を診断し,③癌の領域診断すること,である.近年は除菌後発見胃癌,すなわちH. pylori既感染胃に発生する胃癌が胃炎様で,ESD時にその範囲診断が難しいことがいわれている.除菌後発見胃癌の拡大内視鏡診断のコツは,①胃炎様であるということを知っておくこと,②範囲診断は間違いなく胃炎であるところから病変に向かって行うこと,③胃炎様でも背景とは異なる粘膜模様の部分で癌の境界を疑うこと,④そしてその部分のwhite zoneと血管を丁寧に診断し,癌に間違いないかどうかを判定すること,である.

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早期胃癌の組織型診断は,治療方針の決定に必須である.日常診療では生検標本を用いて診断されるが,1.5〜8.0%に最終診断との乖離がみられる.分化型癌は未分化型癌と比較して,高齢で男性に多い傾向にある.0‒Ⅰ/0‒Ⅱa といった隆起型早期胃癌のほとんどは分化型癌であり,組織型の鑑別が必要となるのは陥凹型ないしは平坦型である.拡大内視鏡所見に関しても報告されているが,まだ十分なエビデンスが集積されていない.現時点では,内視鏡所見に加え内視鏡的鉗子生検による病理組織診断を参照して癌の組織型の診断を行う.

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筆者らが提唱した胃癌の組織亜型である胃底腺型胃癌(gastric adenocarcinoma of fundicgland type;GAFG)は非常にまれな腫瘍であるが,H. pylori 未感染胃癌の一つと考えられ,今後さらに注目されるべき特殊な分化型胃癌である.近年,胃底腺型胃癌は組織学的に,純粋な胃底腺型胃癌(pure GAFG)と胃底腺粘膜型胃癌(gastric adenocarcinoma of fundic glandmucosal type;GAFGM)の二つのタイプに分類される.胃底腺型胃癌の肉眼形態は多彩であるが,各肉眼形態の通常白色光観察(WLI)の特徴に加え,NBI 併用拡大観察(ME‒NBI)の特徴を把握することが診断に有用であり,GAFGM においてはME‒NBI 所見が癌の診断とpureGAFG との鑑別に有用となる可能性がある.しかし,一般的には内視鏡診断は比較的困難と考えられており,内視鏡医においては胃底腺型胃癌の臨床病理学的特徴を理解することに加え,WLI とME‒NBI で胃底腺型胃癌を疑う所見を見落とさないことが重要であり,胃底腺型胃癌を疑う病変を生検した場合には的確な情報を病理医へ伝える必要がある.本稿では,胃底腺型胃癌の内視鏡診断を理解するために必要な臨床病理学的特徴を説明した後,現状での胃底腺型胃癌のNBI 併用拡大内視鏡を含む内視鏡診断について言及する.

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胃の内視鏡検査において,NBI (NarrowBand Imaging)を併用した拡大内視鏡観察は上皮性腫瘍の診断に有用である.一方で非上皮性悪性腫瘍においては悪性リンパ腫を除く腫瘍は非腫瘍粘膜に覆われているため,表面粘膜を拡大内視鏡で観察しても診断は不可能である.悪性リンパ腫は腫瘍が表面に露出した場合に拡大内視鏡にて診断が可能な場合がある.胃悪性リンパ腫は拡大内視鏡観察にて表面構造の消失と不整血管を認め,胃MALT リンパ腫では太い木の幹から枝状に分岐したtree like appearanceを認めることがある.胃カルチノイドでは引き伸ばされた粘膜の表面構造や拡張血管を認めることがある.

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近年,スクリーニングの内視鏡検査で偶然に発見される表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)が増加している.一般的に消化管腫瘍の確定診断には生検が行われるが,SNADETは生検の正診率が高くなく,また粘膜下層の線維化をきたすため,Narrow Band Imaging 併用拡大内視鏡(ME‒NBI)による精査が推奨されている.ME‒NBI でmicrosurface (MS),microvascular(MV)を評価し,SNADETの質的診断を行うが,とくにirregular MV の所見は癌の診断において生検と同等の可能性があり,ME‒NBI はoptical biopsy として有用と思われる.

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大腸病変を治療するうえで,まず腫瘍性病変か非腫瘍性病変なのかを鑑別しなければならない.鑑別するうえで有用とされているのがNBIやBLI に代表される画像強調内視鏡である.多種類存在するNBI 分類の有用性については数多く報告されていたが,2014 年に大腸拡大NBI 統一分類であるJNET 分類が提唱された.JNET分類は病変の血管構造や表面構造から非腫瘍・腫瘍・癌を診断していくがやはり診断には限界があるため,pit pattern 診断を組み合わせて診断を向上していく必要がある.

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近年,大腸癌は増加傾向であり,内視鏡検査による早期発見,早期治療が期待されている.内視鏡検査時に病変を指摘した際は,通常観察に加え,NBI (Narrow‒Band Imaging)や色素法を用いた拡大観察診断を行うことで,適切な質診断のみでなく深達度診断までもが可能となる.内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosaldissection;ESD)を含めた内視鏡治療の普及に伴い,内視鏡診断の重要性が高まってきている.

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SSA/P はMSI 陽性大腸癌の前駆病変であるというコンセンサスが得られているが,SSA/Pに合併する癌に遭遇することはまれである.しかし,癌化した場合は比較的早期に深部へ浸潤する可能性があり,慎重な取り扱いが必要になる.過去のSSA/P 合併癌に関する報告からは,拡大内視鏡の特徴的な所見として,NBI 拡大観察によるcapillary pattern TypeⅢ,クリスタルバイオレット染色下でのⅤ型pit を呈することが報告されている.自験例においても,SSA/P合併癌における拡大内視鏡観察では,前述の特徴が観察された.NBI を含めた拡大内視鏡観察はSSA/P 合併癌の診断に有用と考える.

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UC 関連腫瘍(colitic cancer/dysplasia)の多くがⅢ型,Ⅳ型,Ⅴ型といった腫瘍性pit patternを呈することから,これまで拡大内視鏡を用いたサーベイランスの有効性が報告されてきた.しかし,UC においては慢性炎症と再生によって背景粘膜の表面構造に変化が生じるため,単純に既存のpit pattern 分類に当てはめて腫瘍と非腫瘍を鑑別することは容易ではない.また,UC 関連腫瘍独特の病理組織学的な特徴から,散発性腫瘍において培われてきたpit pattern 診断学の多くが適応できない可能性があり,癌とdysplasia の鑑別,dysplasia と散発性腺腫の鑑別といった質的診断や腫瘍の範囲診断,癌の深達度診断に関しては,拡大観察の有効性は今のところ実証されていない.

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大腸病変に対する治療方針の確定には,正確な内視鏡診断が求められる.そのため,pit patternをはじめとする内視鏡診断学が確立され,現在では広く普及するに至った.しかし,内視鏡所見を正しく評価し診断を下すためには,一定のトレーニングが必要である.そこで,均てん化された診断のために,コンピュータを用いた自動システムが注目されている.現在開発が進められている,500 倍々率のendocytoscopyに対する自動診断システム(EC‒CAD)は高い診断精度が報告されている.EC‒CAD には非腫瘍と腫瘍の鑑別,浸潤癌の診断有用性が報告されているが,SSA/P の診断や炎症性腸疾患の炎症評価にも診断有用性が期待されている.今後,人工知能を用いた研究が進み,臨床で有用性が発揮されることが期待される.

学会だより

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JDDW(Japan Digestive Disease Week)は日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本肝臓学会,日本消化器外科学会,日本消化器がん検診学会の5 学会が合同して行う世界でもっとも大きな消化器疾患にかかわる学会で,2 万人以上の参加者が出席し3,000 以上の演題が発表される巨大学会である.日本消化器病学会の秋の全国大会はこのJDDW に参加する形で開催されており,第59回日本消化器病学会大会は杏林大学外科の杉山政則教授を会長としてJDDW2017 の中心学会として福岡で開催された.開催場所は博多の福岡国際会議場を中心とした会議場群で,開催期間4 日のうち最初の3日は学術会議が行われ,4 日目は教育講演会が行われた.学術会議部分のプログラム構成は参加する5 つの学会が相談をし,複数の学会がサポートするシンポジウムやパネルディスカッション,ワークショップが並んでおり,5 学会の密な連携を感じさせる構成となっている.各学会の専門性はそれぞれ少しづつ異なるが,患者の診療には互いに協力して当たっており,学会のプログラム構成にも消化器疾患に関係する各専門家集団の協力体制の強さを感じさせる.

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第94回日本消化器内視鏡学会総会が2017年10 月12 日(木)〜15 日(日)にJDDW2017の一環として福岡で開催され,金沢医科大学消化器内視鏡学教授の伊藤 透先生が会長を務められた.

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目次

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次号予告

編集後記

第32巻 総目次

第32巻 著者索引

第32巻 key word 索引

基本情報

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臨牀消化器内科
32巻13号 (2017年11月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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