臨牀消化器内科 32巻12号 (2017年10月)

特集 内視鏡検診の実態と今後の課題

巻頭言 加藤 元嗣

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「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」の改訂に伴い,厚生労働省の指針が改訂され,平成28 年度から胃内視鏡検診が行われることになった.しかし,全国で内視鏡検診を実施することは難しい状況にあるため,日本消化器内視鏡学会によるアンケート調査を行った.その結果,64%の自治体が内視鏡検診を行う見込みがないと回答しており,その理由として内視鏡検査のキャパシティ,指針の示す実施方法が困難,予算が挙げられていた.胃がん検診の低い受診率,内視鏡検査のキャパシティ,精度管理や教育・認定の体制,評価するためのデータベースなど課題は少なくない.本邦における胃内視鏡検診の課題と韓国における胃内視鏡検診について概説する.

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長らくバリウムX 線が唯一の検査法であった胃がん検診において,日韓症例対照研究の結果により内視鏡検査の有効性がようやく評価され対策型検診に用いることが可能となった.日常臨床における消化管の精査としては,高精度と同時に侵襲性も高いと認識されている内視鏡検査だけに,検診運用においても精度と安全,両面からの管理が要求される.これらに対応する手段の一つとして,リスク層別化による対象集団の集約が検討されてきた.胃癌発生のメインルートがH. pylori 感染による萎縮性胃炎,化生性胃炎であることから,ABC 分類に代表されるH. pylori 抗体価やPG 値を活用したリスク層別化の可能性に関して,現在抱えている問題点も含めて概説する.

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2016 年厚生労働省の「がん予防重点健康教育およびがん検診実施の指針」により対策型胃がん検診にて内視鏡検査が可能となった.胃内視鏡検診はおもに経口内視鏡で行われるが,近年,経鼻内視鏡も導入されその受容性から検査件数が増加し,経鼻内視鏡は胃がん検診受診率向上にかなり寄与している.一方,苦痛の少ない内視鏡に対する受診者ニーズと受容性や満足度の点で鎮静内視鏡の希望者も増加しているが,安全性という観点から胃内視鏡検診に導入することは難しい.経鼻内視鏡は,安全性,受容性,検査精度などの点で経口内視鏡と差がなく,今後,胃内視鏡検診において経鼻内視鏡はますます重要な位置を占めると考えられる.

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2016 年より対策型検診としての上部消化管内視鏡検査の導入が可能になった.精度管理として内視鏡画像のダブルチェックが推奨されているが,読影システムの構築や人員の確保の面から導入のハードルは高い.ダブルチェックによらない質の指標(quality indicator)が明らかになれば,より内視鏡検診を導入しやすくなることも考えられる.大腸内視鏡分野ではqualityindicator について海外からさまざまな報告がなされているが,上部消化管内視鏡での議論は十分ではなかった.本稿では上部消化管内視鏡分野でのquality indicator についての現状を解説するとともに,筆者らが着目した内視鏡検査時間の検討についても概説した.

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内視鏡検診が対策型胃がん検診として推奨され,内視鏡検査の標準化,指導体制の構築が喫緊の課題である.質の高い内視鏡検診には,まず安全かつ受容性の高い操作技術の習得が重要で,さらに高い診断精度を維持するために各種セミナーやライブデモンストレーション,e‒learning などを通じた継続的な自己教育が必要である.また内視鏡検診では胃癌の主要なリスクであるH. pylori 感染診断の習得も必須である.専門医・指導医は自施設の精度管理を徹底すること,後進に操作と診断力の両面をきめ細かく指導すること,さらに他者のダブルチェックを行うとともに自身も積極的にダブルチェックを受け,自らの質向上に努める姿勢が大切である.

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胃内視鏡検診の死亡率減少効果が証明されたことを受け,2016 年より胃X 線検診に加えて胃内視鏡検診も対策型検診として実施可能になった.胃内視鏡検診は個別検診が主体となり,クリニックなどでの日常診療の延長として実施されることが多く,精度管理水準が低くなるおそれがある.日本消化器がん検診学会による「対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル」では,胃内視鏡検診を導入しようとする地域では,検診の運営を統括する組織(委員会)を設置することとされている.この委員会は,検診画像のダブルチェック,偶発症対策,検診データ管理などの精度管理を行う.加えて,プロセス指標を用いて検診が正しく行われているかのモニタリングも必要である.検診の質を維持するには正しい精度管理体制の構築が肝要である.

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わが国の大腸癌罹患数は臓器別で2015 年から1 位となり,死亡数も2 位で今後も増加が予測される.その対策として,「がん対策推進基本計画」(2012 年見直し)では大腸がん検診受診率を5 年以内に50%(当面40%)を達成することを目標としている.わが国では大腸がん検診として便潜血検査免疫法(FIT)2 日法が用いられている.FIT 2 日法による検診受診率は35.4%で,未だ目標値は達成されていない.欧米に比べてはるかに低い状況にある.検診受診率には都道府県,地方で地域格差がある.東北地方は概してほかの地方より検診受診率が高い.わが国の低い検診受診率と精検受診率(66.0%)では,欧米のような大腸癌死亡率減少に結びつく水準に至っていないのが現状である.

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大腸がん検診の実施に際しては,限られた医療費や医療資源をいかに有効活用するかという視点が必要であり,その意味で費用対効果分析が必須といえる.海外では,大腸がん検診に関する費用対効果分析を積極的に行い,その分析結果を検診政策に反映させているケースもみられる.一方,日本ではこれまでそのような分析がほとんど行われてこなかったが,近年,日本のデータを用いたモデル分析から,大腸がん検診施行が未施行に比べ費用対効果に優れる点,さらには大腸内視鏡の積極的な活用が費用対効果の観点からより優れる可能性が報告された.抗がん剤などの医療費が高騰し続けるなか,大腸がん検診の費用対効果分析の重要性はますます増してくるであろう.

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大腸癌予防について,ポピュレーション・ストラテジーとハイリスク・ストラテジーの視点から対策を記し,とくに,ハイリスク・ストラテジーを実現するための先制医療の研究の状況を紹介した.アスピリンについては,数多くの研究が行われ大腸癌を予防することがほぼ間違いないと考えられる.しかし,リスクなどを考えると,まだ国内で臨床応用するところまでは至っていない.そこで,実用化に向けて,遺伝子多型を用いた効率的な方法の開発のため,先制医療の考えを取り入れた臨床試験が行われている.近い将来,先制医療の実施により大腸癌罹患が激減することを期待したい.

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対策型検診としての大腸内視鏡検査の受診率と安全性,有効性を評価する目的で東京都新島村において前向き試験を実施した.40〜79 歳の住民1,671 名を対象に啓蒙啓発キャンペーンを行った後に,大腸内視鏡検診の受診勧奨を実施した.大腸内視鏡を第一選択の検査として推奨し,便潜血検査のみも選択可能とした.3 年間に789 名(47.2%)が検診を受診し,そのうち89%が大腸内視鏡を選択した.前処置,挿入,観察に伴う有害事象の発生はなかった.病変発見割合は全腫瘍性病変50.0%,advanced neoplasia11.8%,粘膜内癌2.4%,浸潤癌0.9%であった.全大腸内視鏡検査の対策型大腸がん検診への導入はさまざまな課題を有しているが,本研究をきっかけとして,導入の検討が本格的に加速することを期待する.

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大腸がん検診における大腸内視鏡の目的は症状のない大腸がんの発見,腺腫の発見摘除により大腸がん発生/死亡を抑制することである.大腸内視鏡を行っても大腸がんは発生し,その原因の多くは内視鏡検査の質に関連する.そこで,大腸内視鏡の精度管理が注目され,とくに病変の見逃しを減らすべく,さまざまな研究が報告されている.大腸内視鏡の第一の目標は全大腸の粘膜面を詳細に観察し,腺腫を見逃すことなく発見することである.それを評価するのは,盲腸到達率,腸管洗浄度,腺腫発見率である.本稿では大腸内視鏡のquality indicator を紹介し,重要な論文を解説する.

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日本における大腸癌罹患者数は増加の一途を辿っており,年間5 万人以上が命を落としている現状にあるが,米国では,従来の便潜血検査に加えてS 状結腸鏡や大腸内視鏡を取り入れた大腸がん検診システムの構築により,大腸癌死亡率は低減を続けている.日本では,1992 年より免疫学的便潜血検査による対策型検診を行っているが,今後,全大腸内視鏡(TCS)を取り入れた新しい検診プログラムの策定が期待される.都道府県別に見た消化器内視鏡専門医数と大腸癌の標準化死亡比(SMR)との検討から,専門医数の多い県では大腸癌SMR は低く,少ない県では高い傾向にあることが示されたが,いかに効率よく対策型検診のなかにTCS を組み入れるかの議論が必要である.

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2016 年からの胃がん検診への内視鏡導入に伴い,各地方自治体を中心に,胃X 線検診から内視鏡検診へのシフトが検討されている.日本消化器内視鏡学会の一事業であるJED プロジェクトは,2015 年に立ち上げられ,現在第二期トライアルの実施中である.本稿では,JED プロジェクトの概要を述べるとともに,JED のスキームを内視鏡検診に応用するために検討された必須項目・推奨項目の解説と,検診JED の将来展望について述べた.

連載 薬の知識

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B 型肝炎ウイルスの増殖を抑えるため,これまで4 種類の核酸アナログが用いられてきた.核酸アナログ内服によってB 型肝炎ウイルスによる肝不全や肝硬変への進展を防止することが可能となり,肝発癌率の低下も報告されている1)〜3).B 型肝炎ウイルスに感染して,慢性肝炎を発症していても核酸アナログを長期に内服することによって長期生存が可能となった.そこで,長期の核酸アナログ内服に伴う問題点が指摘され始めた.一つは長期内服を行っても肝発癌がみられる点である.さらに,次第に患者が高齢化してくることと相まって腎機能障害や骨障害が生じる点が問題となってきている.とくに自然経過でもB 型肝炎ウイルスに感染していると骨粗鬆症を合併する頻度が高いことが台湾の大規模研究で証明された4).これらの合併症が核酸アナログ内服後に進行するのを防止していくための薬剤の登場が待たれていた.ベムリディ®が使用できることによって,どの点が期待されるかについて概説したい.

連載 検査値の読み方

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本邦において,B 型肝炎ウイルス(HBV)持続感染患者は1%以上いることが報告されている.現在,C 型肝炎に対しての治療はdirectacting antiviral の登場により飛躍的に進歩しているが,HBV を完全に排除することは難しい状況である.慢性B 型肝炎(CH‒B)に対してはエンテカビル(ETV)やテノホビル(TDF)が使用可能であり,2017 年からは副作用のより少ないテノホビルのプロドラッグであるテノホビルアラフェナミドフマル酸塩(TAF)も使用可能となった.しかしながら,これらの薬剤はHBVの複製過程における逆転写を阻害するのみであるため,肝細胞核内におけるcccDNA の排除は難しく,その結果,HBs 抗原の産生をブロックすることはできない.したがって,今後の創薬の目標の一つにcccDNA の減少,HBs 抗原を減少させることが挙げられている.

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2013年2月にHelicobacter pylori( H. pylori)の感染胃炎に対する除菌が保険適応になり,今後胃癌の発生は低下すると思われる1)〜4).しかし除菌後にも胃癌は発生し,今後はH. pylori除菌後胃癌の診断が重要となる.除菌後胃癌は非癌上皮の被覆や混在のために質的診断や範囲診断が難しいと報告されている5)〜7).しかしながら報告のほとんどは弱拡大観察で,おもに表面構造に着目した診断であり,血管構築像に関しては触れられていない.

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編集後記

基本情報

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臨牀消化器内科
32巻12号 (2017年10月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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