臨牀透析 37巻7号 (2021年7月)

特集 CKD診療におけるビタミンと微量元素

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ビタミンおよび微量元素の摂取量は食事量と比例するため,食事摂取量が不足した透析患者では欠乏症を合併する.とくに水溶性ビタミンは透析や濾過によって容易に除去されるため,ビタミンB1欠乏症を中心に高頻度に存在する.また,脂溶性ビタミンではビタミンDとK,微量元素では亜鉛の欠乏症が多い.現時点で,透析患者に対するビタミンおよび微量元素の目標摂取量は,「日本人の食事摂取基準(2020年版)」を参考とする.ビタミンや微量元素の欠乏は,透析患者の非特異的なさまざまな症状と関連する可能性があるため,原因として欠乏症が疑われる場合は血中濃度を測定する.ビタミンおよび鉄,亜鉛,セレンなどの微量元素には保険適応の薬があるため,欠乏症の診断がつけば治療は可能である.しかし,透析患者にビタミンおよび微量元素を補充することで,長期的な予後が改善するというエビデンスはないため,漫然とした長期投与は避けるべきである.

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CKD患者は,腎臓の調節機能破綻,食事療法,透析による喪失などからビタミンの異常が生じやすい.末期腎不全患者や透析患者では水溶性ビタミンは低値を示すことが多く,造血やホモシステイン代謝に関与し,合併症の発症・進展に影響を及ぼす.水溶性ビタミンは透析により除去されやすく,欧州ガイドラインで積極的な補充が推奨され,摂取推奨量が提示されている.一方,CKD患者の補充のエビデンスは十分でなく,推奨あるいは提案に留まる.

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ビタミンDとは栄養型(もしくは天然型)のビタミンD代謝物のことを示し,アナログ製剤をはじめとする活性型ビタミンD製剤とは本来は区別される.ビタミンDにはビタミンD3であるコレカルシフェロールと,ビタミンD2のエルゴカルシフェロールがあり,さらに25位水酸化ビタミン(OH)D3であるカルシフェジオールも栄養型ビタミンDに含まれる.血中25(OH)D濃度は体内のビタミンDの過不足状況を反映している.透析・CKD患者の多くは血中25(OH)D濃度が低下しており,ビタミンD不足が潜在化している.血中25(OH)D濃度低下の要因は,古典的なものから腎臓病患者特有のものまで多岐にわたる.また,血中濃度低下は,ミネラル代謝異常のみならず,心血管病をはじめとするさまざまな病態や死亡との関連性が指摘されている.透析・CKD患者における血中濃度の至適レベルは明確ではない.これらの患者へのビタミンD投与による臨床効果についてはさらなる検討を要する.

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ビタミンKは,グルタミン酸残基のγ位のカルボキシル化(Gla化)の重要な補酵素である.Gla化される蛋白には,肝臓で合成される凝固因子,骨のosteocalcin,血管のmatrix Gla proteinとgrowth arrest specific gene-6の産物であるGas6がある.ビタミンKの不足はこうしたビタミンK依存蛋白の活性化の障害から,骨病変,血管石灰化と関連する.慢性腎臓病患者ではビタミンKの欠乏がしばしばみられ,観察研究では血管石灰化などの臨床的アウトカムと関連している.一方,介入試験では明確な予後改善を示す報告には乏しく,今後さらなる検証が必要とされる.

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多くの慢性腎臓病(CKD)患者は貧血を伴う.貧血治療には従来赤血球造血刺激因子製剤(ESA)や鉄剤が使用されてきたが,それらの高用量による管理が,CKD患者のイベントや死亡のリスクを上昇させている可能性が指摘されている.高用量のESAや鉄剤を用いて貧血管理を行っている患者は鉄代謝障害を伴っているケースが多い.近年の研究により,鉄代謝障害はCKD患者における貧血の発症・進展のみならず心血管系合併症等のイベントや生命予後に影響を与えていることも明らかになっている.よって今後のCKDに伴う貧血治療を行うに当たり,鉄代謝障害は重要な役割を果たす.

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CKD患者における赤血球造血刺激因子製剤(ESA)抵抗性貧血の原因の一つとして,亜鉛欠乏が着目されている.CKD患者では,ネフローゼ症候群における低アルブミン血症,尿毒症からの亜鉛摂取不足,リン吸着薬による亜鉛吸収低下,透析患者では,透析液へのアルブミン喪失など,亜鉛欠乏の原因になりうる病態が多く存在する.亜鉛を補充することで,貧血の改善のみならず,皮膚瘙痒症,味覚障害の改善が期待でき,また近年,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防および治療に亜鉛が注目されている.一方で,亜鉛の過剰投与は銅欠乏を誘発し,銅欠乏性貧血や,歩行障害,感覚異常などの神経学的異常を呈することがあるため注意が必要である.

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微量元素セレン(selenium;Se)は慢性腎不全,透析患者でその血清濃度は低下する.セレン欠乏症疑いのカットオフ値を10 μg/dL以下とすると,透析患者を含め慢性腎臓病の患者の半数はセレン欠乏症の疑いとなるが,臨床上問題となるのは5〜66 μg/dLである.セレン欠乏症に一般的に認められるとされる症状は,低栄養,心疾患,感染症,甲状腺機能障害,悪性疾患,皮膚症状,筋肉症状などである.これらの症状が真にセレン欠乏によるものかは,補充による改善の有無を確認するしかない.セレンの補充は点滴製剤とともにセレン酵母による経口投与も応用されており,栄養状態の改善,腎機能の改善などが報告されている.

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モリブデン,クロムは主要排泄経路が尿であることから,CKD患者では血中濃度が上昇しやすい.血中マンガン濃度に関しては上昇,減少ともに報告があり,CKD患者において一定の見解が得られているとはいえない.CKD患者では,ヨウ素含有造影剤の使用が急性腎障害の原因としてしばしば問題となる.CKD患者や維持透析患者は微量元素の代謝異常が生じやすく,原因不明の症状を認める場合はこれら微量元素の異常も念頭に置いて診療する必要がある.

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慢性腎臓病患者では脳血管障害に伴い脳血管性認知症が増加するが,それのみならず食事制限や血液透析による亜鉛やビタミン欠乏も認知機能低下と関連している.亜鉛は中枢神経系に多く含まれ,不足により海馬障害が生じ,学習記憶障害が生じることがわかってきている.ビタミンB1 欠乏では亜急性に進行する認知症のWernicke-Korsakoff 症候群をきたし,ビタミンB12や葉酸欠乏では大球性貧血,末梢神経障害,亜急性連合性脊髄変性症だけでなく,認知症をきたすことがある.これらの亜鉛やビタミンの欠乏による認知症は適切な補充療法により予防や治療が可能であり,見逃さないようにすることが重要である.

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炭酸ランタンは2009年にわが国で市販されたCa非含有P吸着薬である.炭酸ランタンは強力なP吸着作用を有し,それまでの薬剤に比べ少量の錠剤でP管理を行うことが可能になった.強力なP吸着作用による高P血症の是正およびCa負荷の回避から血管石灰化を抑制し,生命予後の改善効果も報告されている.またFGF23(fibroblast growth factor 23)低下作用も報告されている.蓄積による毒性が発売当初から危惧されていた.8年間の服用継続例の報告では認知症や骨毒性は現時点では報告されていないが,消化管への沈着の報告はあり,今後も長期の観察は必要である.

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本邦における45年ぶりの高カリウム血症治療薬として登場したジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC)は,消化管全体でカリウムイオンを選択的に捕捉しカリウム排泄を増加させる.臨床試験では非透析患者,透析患者ともに急性期での血清カリウム値を低下させる即効性と維持期の安定した血清カリウム値の低下作用が証明されている.安全性に関しても,消化器症状が少ないことから,既存のカリウム低下作用を有する薬剤が内服困難であった患者においても選択肢となりうる.その一方でナトリウム負荷による浮腫,体重増加の副作用も報告されており注意が必要である.

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粉末透析剤は,1990年代に濃縮透析原液に切り替わり現在ではほとんどの透析施設で使用されている.当初の問題点として,濃縮透析原液は製造過程の最終工程においてフィルタにより微小な物質を除去しているが,粉末透析剤では技術的に最後のフィルタ処理は不可能であるため原材料段階での品質によっては粉末透析剤中に微量元素が含まれる可能性があった.実際に粉末A原液溶解装置の溶解槽内壁や溶解装置後のフィルタに黒褐色の付着物が認められた.この付着物を分析した結果,有機物および珪素(Si)化合物やクロール(Cl),カルシウム(Ca)などであった.このSi化合物は重合の進んだ不溶性高分子の珪酸であり,これは透析膜を通過しないため透析患者の体内に入ることはないが,粉末透析剤の使用にはフィルタなどによる不溶性物質の除去対策が必要となった.

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アルミニウムの排出経路 アルミニウム(Al)はおもに腸管から吸収されるが,吸収率が1%以下,1日の摂取量が2〜4 mgで体内に吸収されたAlは,血中では多くはトランスフェリンと,一部はアルブミンおよびクエン酸とも結合して運ばれ,大部分が腎臓から尿中に排出される.一部は骨,肝臓,脳などに吸収され,体内総量は50 mg前後とされる.骨には長期に沈着し,脳にも26Alトレーサーを用いた検討から,一部は脳関門を通過,移行し長期間沈着するとされる.

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症 例:67歳,女性 主 訴:背部痛 既往歴:慢性腎不全(X-7年,原疾患不明),下肢動脈閉塞症(X-2年,カテーテル治療),うっ血性心不全(詳細不明),高血圧症,2型糖尿病,脂質異常症 家族歴:特記すべき事項なし アレルギー歴:特記すべき事項なし 生活歴:喫煙歴なし,飲酒歴なし 現病歴:慢性腎不全でX-7年より維持血液透析を開始.X年12月上旬,自宅で安静時に突然背部痛が出現.症状は増悪し,立位困難となり,かかりつけの透析施設よりA病院を紹介受診.背部痛に加えて下肢の筋力低下も認めたため,精査および加療目的に当院受診となった.

CKD患者に推奨されるワクチン接種

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免疫抑制薬の進歩により移植腎の生着率は大きく向上し,本邦では2000年以降に,腎生着率50%が20年にせまる長期生着が期待できる治療となった1).腎移植後に長期生着,長期生存が期待できるようになった現在において,感染症は心血管疾患に次ぐ2番目の死因であり,重要な問題である.腎移植後の患者が感染症を併発すると,免疫抑制薬により初期の発熱や症状がマスクされやすいが,発症後の進行は早く重症化しやすい.また,抗菌薬による臓器障害,免疫抑制薬との相互作用や薬剤耐性菌の問題,感染症発症時には免疫抑制薬の減量が必要になり,拒絶反応のリスクが増加することなども問題となる.ワクチンで対応可能な感染症は限られており,また腎移植患者において予防接種が予後を改善できるか結論付けられる十分なデータは存在しない.しかし,上記のような問題や,ウイルス性の発癌〔B型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,ヒトパピローマウイルス,EB(Epstein-Barr virus)ウイルスなど〕に関しては移植後発症率が増加することが知られており2),ワクチンで予防が可能な疾患は対応することが理想である.

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背景 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では,とくに重症例ほど過剰なサイトカインが分泌されることが当初から知られ,サイトカインストーム(cytokine storm)という言葉は一時期,テレビニュースでも取り上げられるほどであった.サイトカインストームは,サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome;CRS)とも呼ばれ,ウイルスや細菌などの外部刺激によって引き起こされる過剰な免疫反応を指す.COVID-19の臨床経過をみると,初期(発症から1週間前後)ではおもに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖が問題となる.ここで80%の人が自然治癒する一方で,20%の人は1週間〜10日前後に免疫/炎症のシステム異常が起こり,中等症〜重症化する.5〜10%の患者が重症化し,命に関わる.

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臨牀透析
37巻7号 (2021年7月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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