臨牀透析 35巻5号 (2019年5月)

特集 透析医工学の最前線

Editorial 峰島 三千男
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透析医療は,ダイアライザ,透析装置などの工学的技術を駆使した腎代替治療である.それらの医療技術は長い年月を経て改良が進み,その技術的な基盤はすでに確立されている.しかしながら,慢性腎不全で透析医療を受ける患者の平均余命は一般人の半分程度といわれており,その治療効果は十分とはいえない.その理由として,治療スケジュールの制約の問題や透析医療による腎代替能の限界などが挙げられる. 一方,新しいセンシング技術やAI(artifi cial intelligence)をはじめとするIT(information technology)の進歩には目を見張るものがあり,やがて,それらの技術が透析医療に導入されることは不可避である.本号では,これからの透析医療に何が必要で,それに対してどのような技術が利用可能かという観点にスポットを当て,特集を考えた.具体的には,一人ひとりの患者の病態に合わせた適正透析の実践と,それを可能とするナビゲーションシステムの開発が重要となる.

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本邦のオンラインHDF 患者数は2012 年より劇的に増加し,2017 年12 月31日現在では70,604 人,I―HDF(17,105 人)を加えると計87,709 人であり,圧倒的に前希釈モードが多い.新しいHDF モダリティであるI―HDF 施行症例も増加してきている. オンラインHDF の生命予後改善効果は欧州から多く発表されてきた.それらは後希釈モードに関しての報告のみであった.しかし,本邦から前希釈モードHDF の生命予後改善効果についての報告もなされている. オンラインHDF の治療効果を規定する要因に関してのエビデンスとしては,現在までのところ置換液量に関する報告のみである.オンラインHDF の本来の目的である中分子量領域の溶質および蛋白結合型毒素の積極的除去と生命予後の改善・臨床効果についての知見が望まれる.

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間歇補充型血液透析濾過(I-HDF)は,限られた透析時間内で間欠的,定時的に少量の補充液の注入と回収が施行されるオンラインHDF の一法である.透析低血圧症の予防や末梢循環障害の是正,plasma refi lling の促進などに有効である.低栄養や高齢者,透析中血圧低下・透析困難症の患者,透析間体重増加が多い患者,末梢循環不全を合併する患者に効果的な適応と考えられる.

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血液透析技術開発の結果,現在の透析装置は多機能となったが,逆に複雑性が増大した.そのため透析装置に関する用語とその定義の確定と,透析装置の標準画面の提案が要望される.日本臨床工学技士会,日本医療機器テクノロジー協会,日本透析医学会は「透析装置標準化に関する会議」を開催し,透析装置に関する用語ならびに標準化画面に関して検討を行った.

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透析医療現場には実際的内容の特性から多種多様な機器が林立・稼働している.テクノロジーの進歩とともに個々に機器の進化を続けたが,高齢者,さまざまな合併症を抱える患者数の絶対的増加が同時に透析医療従事者の相対的な不足をもたらした.医療内容の高度化・精緻化と軸を一にして,安全性の追求と省力化への努力も不可避となった.このような趨勢は現在も進行中であるが,透析関連技術の中核に位置する全自動透析装置とモニタリング技術の現状での到達点について述べる.本分野の動向は現場で働くわれわれ臨床工学技士のフィードバックに支えられるもっともホットな領域である.

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腹膜透析は血液透析に比して通院頻度が少ない在宅主体の医療であり,北海道や離島の多い地域など広大な医療圏をもつ地域では有用性は高く,実際の普及率も高い.しかし遠隔地医療において,患者の状態把握やトラブル発生時の迅速な初期対応は困難な場合が多い.2018 年より新しい自動腹膜灌流用装置が使用可能となった.この装置は「シェアソース」と連携することにより,医療者はインターネット上で治療経過を確認することができ,透析処方変更に伴う機械設定変更についてもインターネットを利用した遠隔操作が可能となった.腹膜透析の遠隔医療において,「シェアソース」を用いることで患者の状態把握と管理がより簡便になることが期待される.

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血液透析療法は血液中に含まれる尿毒症物質をダイアライザにて,拡散・濾過により透析液側に除去する治療法である.透析効率は生命予後と関係が深く,透析効率の低下を防ぐ点で,血中の尿毒症物質量を知ることはきわめて重要である.しかし透析治療ごとの採血検査は患者への負担や治療コストも増大するため不可能に近い.近年,LED などの技術の進歩により,透析排液に紫外光を照射することで透析排液中の溶質濃度を連続で評価できる透析量モニタが内蔵された透析装置が市販され,治療現場で応用が進んできている.これら排液溶質濃度をもとにリアルタイムに透析効率(Kt/V)の解析が可能になったことで,透析中のKt/V を評価し長時間透析や在宅透析へも応用可能であると考える.連続測定できる点もモニタとして有効であり,透析治療における再循環や脱血不良などのバスキュラーアクセスの評価をリアルタイムに把握できる今後の重要なモニタリング技術の一つと考える.

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最近,医療用レーザ血流計が臨床応用され注目を集めている.血流センサを耳朶に装着した際に得られる耳朶血流量は間接的に脳血流量を反映する.一方,指先などに装着した際に得られる皮膚血流量は末梢循環の状態を表している.レーザ血流計は臨床応用として,血液透析中のショックモニタや起立性低血圧の危険度分類として臨床応用できる.過去の使用経験から,① 血液透析中の耳朶血流量の推移には基本的なパターンがあり,② 収縮期血圧と耳朶血流量の間には一定の相関関係が認められ,③ リアルタイムな血流監視が連続的な血圧監視の代替になることがわかっている.また,起立動作時の耳朶血流量のパターン分析を行うと,起立性低血圧による意識喪失の危険性を分類できる.今後レーザ血流計は,マンシェットによる間欠的な血圧測定の空白期間を埋める連続的な監視システムとして普及していくものと思われる.

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透析患者の適正な体液管理は,生命予後改善において重要な管理項目である.しかし,現在の高齢化と低栄養の進んだ患者構成と循環器疾患を抱える患者では,従来の指標では管理に向かない状況がみられ,また,体内水分量と栄養状態が深く関連することから,その評価は難しくなりつつある.多周波数生体電気インピーダンス法(multi frequency bioelectrical impedanceanalysis;MFBIA)が体内水分管理や栄養管理に臨床応用されるが,近年MFBIA で得られる栄養指標として,高齢透析患者のサルコペニア,フレイルをいち早く推定できる可能性から「位相角(phase angle;PhA)」が注目される.総体液量比率(TBW/FFM)とPhA および透析中の血圧状況を組み合わせた検討は,患者の臨床症状を反映でき,透析患者の適正体液量管理と安定透析に有用と思われる.

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透析液の水質管理を行うための基準としては,日本透析医学会が示した「透析液水質基準と血液浄化器性能評価基準2008」があったが,新たに化学的汚染物質基準を追加した「2016 年版透析液水質基準」に改訂されている.また,その基準を臨床現場で達成するための具体的な手段を示すものとして,日本臨床工学技士会(JACE)より「2016 年版透析液水質基準達成のための手順書Ver. 1.01」が提示されている.さらに2018 年末,透析排水の問題が東京都下水道局より指摘され,早急な対応が求められている.最前線の透析医工学の観点から,透析液のシステム管理を行ううえで,今後重要となる注意点として透析用原水の総塩素濃度による管理と透析排水の管理について解説した.透析機器安全管理委員会の役割は重要であり,院内外にも影響を及ぼす事案への対応を求められている.

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透析液濃度は,イオン選択性電極(ISE)が内蔵されている電解質分析装置やISE 付き血液ガス分析装置を用いて測定されるようになっているが,装置によって測定される値が異なっていることが明らかとなった.そこで,それを解決するために,日本臨床化学会,検査医学標準物質機構の協力のもと,透析液に含まれる電解質の濃度測定を標準化するための検討を行った.具体的には,透析液用の校正用標準液(常用参照標準物質)を作製し,関係メーカの協力のもと,それを校正基準とすることで,校正後の測定値の精確さや測定装置間の測定値の互換性が確保できることを確認し,標準化項目をNa+,K+,Cl-,pH,HCO3-の5 項目とし,当該の測定項目が適正に校正されていることを検証する適合性評価としての認証制度を確立した.本制度は,日本血液浄化技術学会透析液成分濃度測定装置認証委員会が認証を行うものである.現在までに,2 回の認証試験を行い,市販されている19 機種(電解質分析装置として7 機種,ISE 付き血液ガス分析装置として12 機種)が基準に適合する機器として認証した.

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透析部門システムは特殊な機器の制御が一義的な役割であるが,電子カルテとの連携により初めて完結する特性を有する.システムの導入・運用においては,行っている業務量,医師をはじめとする医療スタッフの業務負担,投下できるコストなどを勘案しつつ,電子カルテの三原則などの法的要請を満たすべく,全体最適をはかることが重要である.今後の医師の業務負荷軽減の視点や,院外でのデータ活用などの戦略が示されており,それらのソリューションや方向性も注視する必要がある.

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医療システムに日々蓄積されるデータの量は飛躍的に増大している.いわゆるビッグデータという言葉が流行りの言葉として飛び交っている.それでは,ビッグデータは透析医療に対してどのような貢献をしていくのだろうか? 過度な期待ばかりが先行していることも危惧される.

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1997 年,初めて誕生した通信共通プロトコル「Ver. 1.0」は透析装置がもつデータを中央監視システムから要求し受信する機能だったが,通信項目は20 と各メーカのシステムの項目数には程遠かった.2016 年, 日本透析医学会とMTJAPAN は,装置から中央監視システムへのデータ通信項目を60 項目に,中央監視システムから装置へのデータ通信項目を34 項目とした通信共通プロトコル「Ver. 4.0」を策定した.背景として,オンラインHDF などの治療法の出現や,新たなモニタリング機能を搭載した装置が市販される現状がある.「Ver.4.0」の通信手段は将来性を考慮し,XML が有力候補として挙げられた.今後の課題は災害時の情報通信である.自然災害などが発生して二次的災害や複合的災害が起きた場合には,通信インフラを長期に使用できない可能性がある.日本透析医学会は自治体と協力して災害対策を構築しているが,インフラが崩壊した場合の情報通信は解決しなければならない問題として残る.

OPINION

身近な話題 宮本 賢一
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近年,慢性腎臓病や透析患者におけるフレイル,サルコペニア,PEW(protein―energy wasting)など,多くの栄養学的な問題が話題になっている.私は長年,栄養学の教育に従事しているが,「野菜」「果物」「糖質」「脂質」「カロリー」「ビタミン」など,用語に「食物」と「栄養素」が混在し,なかなか,栄養学の理解は難しい. 最近,“Modern Nutrition in Health and Disease”の翻訳をお手伝いさせていただいた.この書籍は,内科学のHarrison,外科学のChristopher などに匹敵する栄養学のバイブルに近いと,翻訳代表者の序文に記載されている. 健康な食事を食物として表すか,あるいは栄養素として表すか,というのがまず,最初の問題となる.

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透析患者の不明熱の原因としてさまざまな疾患があるが,結核感染症は少なくない.なかでも肺外結核の頻度が高く,症状も非特異的なことが多いのが特徴である.肺外結核のなかでとくに多いリンパ節結核に関しては,リンパ節生検の病理組織診断も,時に非典型的であるうえ,培養検査やPCR 検査での確定診断までに時間を要し,経過が重篤となりうる.このため,透析患者のリンパ節結核は診断・治療介入が容易ではないとする報告が散見される.今回,血液透析導入期の不明熱に対して,リンパ節生検の結果から猫ひっかき病(catscratch disease;CSD)として治療開始するも奏効せず,後に結核性リンパ節炎の診断に至った1 例を経験したため報告する.

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現病歴:これまで尿検査異常や腎機能障害を指摘されたことはなかった.X 年2 月末インフルエンザA 型に罹患し,抗インフルエンザ薬で解熱した.3 月14 日37 ℃台の発熱があり,近医でアジスロマイシンを処方されるも発熱は持続,3 月22 日インフルエンザ抗原検査陰性であり,クラリスロマイシンを処方されたが解熱しなかった.3 月25日当院内科を紹介受診となり,薬剤熱を疑い抗菌薬を中止するも発熱は持続した.3 月29 日当院感染症内科に発熱の原因精査・加療目的に入院となり,その際の尿検査で尿蛋白陽性(尿蛋白定量/尿クレアチニン比1.6 g/g・Cr),尿潜血陽性,腎機能障害を認めたため,4 月5 日精査目的に当科へ転科となった.

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目次

次号予告・頻出略語一覧

編集後記

基本情報

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臨牀透析
35巻5号 (2019年5月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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