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筋強直性ジストロフィーは成人で最も多い筋ジストロフィーであり,脳神経内科医が診断することが多い.たしかに筋ジストロフィーの一つに分類されてはいるが,この疾患は多臓器障害を呈する全身性疾患である.その病態はトリプレットリピート病であり,かつリボ核酸(ribonucleic acid:RNA)病でもある.異常伸長したトリプレットリピートが転写されたメッセンジャーリボ核酸(messenger ribonucleic acid:mRNA)が毒性をもち,多様な遺伝子の発現過程でスプライシング異常が惹起されるため,多臓器にわたる多彩な症状を呈する.心伝導障害を合併することから,適切な時期にペースメーカーを植え込まなくては突然死の危険性がある.拘束性換気障害が進行するのに,呼吸困難感を感じにくいため本人も気づかないうちにⅡ型呼吸不全に陥ることもある.平滑筋障害のため便秘や腸閉塞などを合併しやすい.耐糖能障害の頻度も高い.若年性白内障をきっかけに診断される場合もある.悪性腫瘍を合併しやすく,外科手術時の麻酔でトラブルが生じることもまれではない.女性罹患者の場合,自然流産,切迫早産,遷延分娩,弛緩出血など周産期合併症が多い.また,重症の先天性筋強直性ジストロフィー児を出産するリスクもある.したがって,脳神経内科医だけではなく,小児神経科医,リハビリテーション科医,循環器,呼吸器,内分泌・糖尿病,消化器など多分野の内科医,眼科医,麻酔科医,歯科医,女性患者の場合は産婦人科医,時には精神科医もこの疾患の患者さんに関わる可能性がある.さらに,遺伝子異常を背景に発症することから,遺伝カウンセリングなど遺伝診療も必要であるため,集学的な診療を最も必要とする疾患といえる.しかし残念ながら,このことは医療者の間でもいまだ十分認識されているとは言いがたいのが現状ではないだろうか.
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