臨床雑誌外科 69巻13号 (2007年12月)

術中出血の防止と止血の要点

甲状腺切除術 山下 弘幸
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甲状腺手術のさいに、上甲状腺動静脈、下甲状腺動脈、Berry靱帯部の処理を誤まり出血させると、近傍に存在する反回神経や上喉頭神経外枝を損傷する可能性が生じる。出血したら慌てずに圧迫し、術野をきれいにして、周囲の解剖と出血点を確認後、小さな鉗子を用いて血管のみを結紮するよう心がける。術後出血による気道閉塞が致命傷になるので、創部の観察を十分行い、出血を認めれば処置が遅れないようにする。

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乳房の栄養動脈の60%は鎖骨下動脈から分岐する内胸動脈、最上胸動脈、胸肩峰動脈で、30%は腋窩動脈から分枝し乳房外側から胸筋を貫通する外側胸動脈である。3~5肋間動脈外側貫通枝(10%)からも血流を得ており、これらは同名の静脈に還流する。これら血管の走行の他、乳腺組織とリンパ節群を包む筋膜層の解剖を十分理解していなければ無駄な術中出血をきたし、不十分な止血は術後出血の原因となる。縮小手術においても、術前画像診断により切除乳腺やセンチネルリンパ節と血管との関係を把握しておくことが肝要である。

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多くの消化器疾患の手術に携わってきたが、食道癌手術における術中出血ほど怖いものはないというのが正直な感想である。食道癌手術においては、占居部位、進行度を念頭に入れ、手術操作の中で、いつどこで出血が起きるかを絶えず予測し、決して無謀な操作をしてはならない。術中出血が生じた場合を前もって予測し、心臓血管外科医に相談しておくなど、その対応ができる準備を行っておくだけの慎重さが必要である。

胃全摘術 辻谷 俊一 , 池口 正英
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胃全摘術はおもに胃上部に及ぶ進行癌が対象で、まれに広範囲の早期癌で噴門側胃切除や幽門側胃切除では断端距離が不十分となる症例に行われる。隣接臓器への直接浸潤が多く、リンパ節郭清のための脾摘など、常に適切な合併切除の検討を要する。リンパ節郭清はD2が基本であり、進行癌ではNo.10,11p,11d、場合によってはNo.14vリンパ節の郭清が必要である。リンパ節郭清や合併切除による出血をきたしやすい術式であり、十分な解剖学的理解と外科的技術をもって行う必要がある。

右結腸切除術 河村 裕 , 小西 文雄
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右結腸切除中に出血をきたしやすい部位として、本稿では(1)surgical trunkの処理、とくに回結腸動脈と回結腸静脈の処理に関して、および(2)Henleの胃結腸静脈幹に関して述べる。

結腸左半切除術 野澤 慶次郎 , 渡邉 聡明
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結腸左半切除術の手術中に止血困難な出血に遭遇する可能性の高い脾彎曲部の授動では、脾彎曲部の良好な視野展開が、脾臓の被膜出血などの無駄な出血回避には重要である。術中に出血を認めても、焦らずに大網の切離を行うことにより、十分視野を展開した後に、脾彎曲部の授動や止血を行うことが安全で確実である。また近年、止血装置の改良により安全確実な止血が可能となった。

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直腸癌に対する低位前方切除術は、すでに確立された標準的な手術手技である。局所の解剖を熟知し、膜の解剖に沿った手術を行えばほとんど出血をみることなく手術を終了することが可能である。しかしながら、剥離層を間違えた場合には出血をきたし、とくに仙骨前面からの出血は多量となりえる。本稿では、低位前方切除術において出血をきたさないためのアプローチを中心に概説する。

骨盤内臓全摘術 赤須 孝之
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骨盤内臓全摘術で処理する血管の中で、出血しやすく止血がむずかしく、大量出血に結びつくのは、内腸骨血管系とSantorini静脈叢である。仙骨静脈叢も処理を誤ると大量出血する可能性がある。これらの出血を防止し、安全に止血するためには、解剖の理解がもっとも重要である。内腸骨血管系の処理では丁寧に全周性に血管を剥離露出した後に鉗子をかけることが肝要であり、盲目的に鉗子を通すことは避けなければならない。Santorini静脈叢の処理ではbunching techniqueが有効である。仙骨静脈叢からの出血には圧迫止血と電気凝固をうまく用いるのがコツである。また、後出血を防止するために出血点は一つひとつ丁寧に確実に止血しなければならない。

右肝切除術 青木 琢 , 國土 典宏
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右肝切除術における出血防止の工夫、出血時の対処法につき概説した。肝離断までの要点は、(1)開胸開腹による良好な視野の確保、(2)肝門での尾状葉門脈枝の確実な処理、(3)右副腎、短肝静脈、下大静脈靱帯の安全な剥離操作、である。肝離断は肝阻血下に行い、離断中は中心静脈圧、肝静脈圧の低下に努めながら、中肝静脈の分枝を確実に処理する。出血をみたときは、肝静脈根部を圧迫して出血をコントロールしながら、出血点に針糸をかけ縫合止血する。丁寧な剥離、離断操作、確実な結紮など、基本手技の積み重ねが重要である。

肝左葉切除術 三輪 史郎 , 宮川 眞一
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肝左葉切除術は肝臓外科においての基本手技を網羅したもっとも定型的な肝切除の一つである。手術は、大きく分けて肝門部へのアプローチ、肝左葉の授動と肝離断の三つの段階で構成されている。各段階とも、血管へのアプローチ、処理を丁寧に行えば、不測の出血は起りえない。肝切除の成績を決定する重要な因子の一つは術中出血量である。この出血量軽減のためにも、確実で正確な肝の解剖学的知識に基づいた手術操作が求められる。

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肝尾状葉切除は、肝細胞癌あるいは転移性肝癌などに対する尾状葉単独切除と、胆道癌に対する肝葉切除に併施する尾状葉合併切除の大きく二つに場合分けできる。尾状葉へ分布する静脈系は、中肝静脈背面より分布するものと下大静脈より直接分布するものがある。これら静脈系からの出血の制御が出血量減少にもっとも肝要である。とくに中肝静脈よりの小分枝からの出血にはタココンブ(フィブリノゲン配合剤)の小片を出血点に正確に貼布することが有効である。

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胆嚢床切除術・肝中央下区域切除術は胆嚢癌の一切除術として施行され、リンパ節郭清・胆管切除を伴うことが多い。リンパ節郭清・胆管切除時には、出血は細かな血管からみられるのみであるが、リンパ節と肝動脈・門脈、膵との関係をよく把握しておく必要がある。肝切離時は、P4aの走行形態と中肝静脈の走行形態に注意が必要である。出血をみた場合は慌てずに出血点をよく確認のうえ、圧迫あるいは結紮・縫合止血を行えばよい。

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膵頭十二指腸切除術を必要とする疾患の場合、閉塞性黄疸をきたしていることが多く、外胆汁瘻で減黄されているときにはビタミンK吸収障害があることに留意して、術前の凝固能正常化を図る。膵頭十二指腸切除術が他の上腹部手術と異なる点は、(1)上腸間膜動脈根部の露出、(2)上腸間膜静脈、門脈系の全露出、(3)膵切離、膵摘出、の操作がある点であり、とくに膵頭部癌でのこれらの操作法を説明し、このときの出血・止血に対する留意点につき解説する。

尾側膵切除術 木村 理
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膵尾側切除術における術中出血の防止と止血の要点について概説した。脾臓および膵体尾部の後腹膜からの脱転のときにはToldtの癒合筋膜を膵実質につけて脱転することが重要である。膵実質の切離のときには膵の上縁でみられる上横行膵動脈(superior TP)と膵の下縁の横行膵動脈(TP)を明確に認識しておかなくてはならない。これらの動脈をあらかじめ結紮しておく目的で、切離時には膵の上縁および下縁の膵実質を予定切線から約5~10mm十二指腸寄りのところで結紮しておく。膵の断端における動脈分枝からの出血に対してはZ縫合を2針ずつかけて止血する。脾静脈に下腸間膜静脈が流入する頻度は約34%である。脾静脈から膵実質への分枝は細かな枝が頭側および尾側方向に多数存在するので、脾温存尾側膵切除術のときには膵切離部から膵尾部末端にいたるまで丁寧な結紮・切離が必要となる。

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穿孔性胃十二指腸潰瘍に対する過去5年間における開腹手術症例をretrospectiveに検討し、侵襲の評価、術後合併症の検討から危険因子を抽出した。対象は67症例で、胃切除を21例、単純閉鎖を46例に行った。手術時間、出血量、排ガスまでの期間、経口摂取開始時期、在院日数は、いずれも単純閉鎖群が有意に低値であった。術後合併症は31%にみられ、胃切除群:52%(11例)、単純閉鎖群:22%(10例)であった。全症例における術後合併症の独立因子は、穿孔部位、発症から手術までの経過時間であった。単純閉鎖群における術後合併症の独立因子は、穿孔部位であった。単純閉鎖は胃切除に比べて低侵襲で、重篤な合併症も認められず、第一選択とすることは妥当だと思われた。また、手術までの長時間経過例や胃潰瘍穿孔例は術後合併症と有意に関連しており、適切な治療法の選択が必要だと思われた。

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90歳以上の超高齢者19例20手術を検討した。待機手術、緊急手術とも重要臓器の急性臓器不全状態がない症例を手術適応とした。術前検査値異常項目は平均3.7±1.8項目で、最も異常が多かったのは高血圧16例であった。術後合併症は良性疾患13例中9例、悪性疾患7例中5例に認められ、せん妄9例、肺炎4例等であった。術後のADLは、術前と変化なしの8例(不変群)、術前より低下の12例(低下群:死亡2例を含む)であった。不変群は、全例、術前ADLは「自立」であり、自宅より入院し、自宅へと退院した。術前検査異常項目は、不変群:2.75±1.91項目、低下群:4.33±1.56項目であった。術前のADLに問題がなく、重篤な合併症のない90歳以上の症例は、積極的に手術を検討してよいと考えられた。

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症例は39歳女性で、約1年半前、転倒した際に右乳房を強打した。視触診では右乳房上内側に無痛性の硬い腫瘤を触知し、腫瘍マーカー、乳腺超音波検査、乳腺CT、乳房腫瘤の穿刺等から乳房の外傷性脂肪壊死を疑った。その後、来院がなかったが、約半年後、腰痛、歩行障害が出現した。マンモグラフィ、乳腺CT、骨シンチグラフィ、右乳房腫瘤の切除生検から骨転移を伴った進行性乳癌と判断し、胸筋合併右乳房切除術を行った。病理組織像は、右乳腺はほぼ全体が浸潤性乳管癌で、腋窩リンパ節転移、皮下脂肪及び大胸筋への浸潤を示した。右乳房上内側の腫瘤は外傷性脂肪壊死に伴う仮性嚢胞と考えられ、嚢胞壁の瘢痕化した部分に乳管癌の微小浸潤像を認めた。術後、抗癌薬治療等を行ったが、手術から1年3ヵ月後に死亡した。この症例は、右乳房に生じた外傷性脂肪壊死に、その後、別の部位に発生した乳管癌が進展・浸潤したと考えられた。

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症例は8歳10ヵ月女児で、便秘、腹痛、嘔吐を主訴とした。病歴聴取の際、1年ほど前まで毛髪を食する習慣があったことが明らかになった。腹部単純X線像で上腹部に腫瘤陰影がみられた。CT、胃内視鏡で毛髪胃石と診断した。腫瘤は全体が硬く、胃内に充満し、十二指腸内にも連続して存在していた。臍ヘルニア手術で施行される臍部の切開を行い、ここに胃壁を縫いつけ、胃石を細かく分けながら除去した。胃内腔は、毛髪の胃石で殆ど埋められており、胃石は幽門から十二指腸にも入り込んでいた。術後、創は臍輪と一体化した。この方法は術後創痕が目立たず、腹腔鏡手術に匹敵するものと思われ、切開に際して試みてよい方法と思われた。

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症例は44歳男性で、6年前、空腸の消化管間質性腫瘍(GIST)の診断で原発巣切除を受けた。2年前には骨盤内腹膜播種病変の増大傾向を認め、STI571の400mg/日内服を開始した。2年後、骨盤内の腹膜播種を疑わせる腫瘤陰影は縮小したが、肝S 4/5の中肝静脈に沿って、周辺に造影効果のある腫瘤を認めた。肝S 4/5に存在する空腸GISTの肝転移と診断し、肝S 4/5部分切除術と骨盤内の腹膜播種病巣の摘出を行った。腫瘍は被膜を有する単結節性腫瘍で、病理組織像は、腫瘍細胞は核の腫大した紡錘形細胞が相交錯して増殖し、胞体はやや好酸性を示した。免疫染色はc-kit:陽性、平滑筋抗体・S-100・CD34:陰性であった。術後補助療法としてSTI571を600mg/日投与したところ、肝再発の兆候はみられず、副作用なく1年6ヵ月間の生存を得ている。GIST切除後再発をきたした場合には、積極的な外科的切除とSTI571による術後補助療法の組み合わせが有効だと考えられた。

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症例は81歳男性で、4ヵ月前、胆石胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術(LapC)を受けた。その後、数度の胆嚢炎発作がみられた。胆嚢管と胆嚢動脈にクリップをかけて切離したところ、術後経過は良好であったが、このたび、黄疸を主訴に近医を受診し、閉塞性黄疸と診断された。腹部単純X線、腹部CT、DIC-CT、ERC像で中部胆管の高度狭窄、下部胆管内に可動性を有する長楕円形の透亮像と中心部にクリップと思われる棒状の物質を認め、手術を行った。術中胆道ファイバーでは、2個のクリップを核とした総胆管結石を認めた。術後経過は良好で、結石の再発は認められない。胆管狭窄と胆嚢管クリップの総胆管への迷入が総胆管結石を形成し、今回、同結石に起因する胆管炎がさらなる胆管狭窄を助長し、顕性黄疸が出現したと判断した。LapCの既往がある症例に、発熱、腹痛などの症状や肝機能異常を認めた場合、総胆管結石症も考慮した精査を進める必要があると思われた。

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症例は18歳女性で、臍右側の腹部腫瘤を自覚した。単純CTは下腹部の多血性腫瘍を示し、中心壊死、変性を伴う消化管間葉系腫瘍を第一に考える像であった。MRIは、T1強調画像でほぼiso intensity、T2強調画像で淡いhigh intensityを示した。CT、MRIとも消化管との明確な連続は指摘できなかった。小腸の壁外性に発育した間葉系腫瘍と思われたが、診断的治療として腫瘍摘出術を行った。切除標本は最大径7.5cmの線維性の被膜を有する黄白色調の髄様な充実性腫瘍で、中心に線維化巣を有していた。病理組織学的には、小型から中等大の円形細胞が増殖する病変で、一次濾胞と思われる細胞密度の高い領域が島状にみられ、リンパ組織と考えられた。リンパ濾胞の中心や濾胞間組織には硝子化した壁を伴った多数の毛細血管の増生が認められた。HV形のCastleman's diseaseと診断した。術後経過は良好で、約2年2ヵ月経過現在、再発は認められない。

基本情報

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臨床雑誌外科
69巻13号 (2007年12月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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