総合診療 30巻7号 (2020年7月)

特集 その倦怠感、単なる「疲れ」じゃないですよ!—筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群とミミック

片岡 仁美
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「疲労・倦怠感」を訴えて総合診療医のもとを訪れる患者さんは多くおられます。

しかし、漠然とした症状であるがゆえに、見過ごされがちな主訴でもあるのではないでしょうか?

疲労・倦怠感がキーワードの疾患として、最近「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS)」が注目されています。慢性疲労症候群の患者さんはわが国に数万人とも言われますが、まだ全容が十分に知られておらず、苦しむ患者さんも多くおられます。

そこで、本特集では、「倦怠感」という症候を切り口にME/CFSを深め、さらに「疲労」をどのように読み解くかを網羅しました。

疲労・倦怠感を伴う疾患・病態は広範で、それだけでは診断に寄与しない、という意見もある一方で、さまざまな症候に加えての「疲労・倦怠感」は重篤さの証でもあります。

総合診療医として、より深くこの疾患について知ることができたなら、困っている患者さんの一助となれるはず。そう願って、本特集を企画しました。

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本問題集は、今月の特集のご執筆者に、執筆テーマに関連して「総合診療専門医なら知っておいてほしい!」「自分ならこんな試験問題をつくりたい!」という内容を自由に作成していただいたものです。力試し問題に、チャレンジしてみてください。

【特別メッセージ】

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 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に突然罹患したゆらりさんが、当事者にしかわからないCFSの体験をベッドの上で描いたコミックエッセイ『ある日突然、慢性疲労症候群になりました』(合同出版、2019)より、特別に抜粋・転載させていただけることになりました。本作では、ゆらりさんの10年以上に及ぶ闘病生活が、物語と4コマで描き出されます。本稿は、そのごくごく一部です。ぜひ本書を手に取っていただければと思います。倉恒弘彦先生(p.797・800)が、医学的観点から監修されています。本書の詳細はp.794・884も、ぜひご参照ください。(編集室)

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ゆらりさんがご自身の体験をもとに執筆された『ある日突然、慢性疲労症候群になりました。』(以下、本書。合同出版、2019。p.792・884)を監修しましたので、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の患者さんが抱えておられる困難について、少しご紹介させていただきます。

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疲労・倦怠感は、誰もが感じたことのある症候の1つであろう。しかし、健常人が過度の肉体的・精神的労働を行って感じる生理的疲労(休息によって回復する)と、休んでも回復しない疲労や労働強度に見合わない疲労は、“病的な倦怠感”と考えられる1)。本特集で取り上げる「倦怠感」は、プライマリ・ケアのセッティングで経験する慢性的に続く“病的な倦怠感”である。本特集で取り上げた疾患カテゴリーを“at a glance”で俯瞰してみた。

【Ⅰ章】 ME/CFSを極める!—“病像”をつかむ

ME/CFSの疫学と歴史 倉恒 弘彦
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Case

ME/CFSの典型的病像

患者:35歳、女性。会社員。

主訴:倦怠感、脱力、微熱、全身の痛み、思考力低下

既往歴:特になし

現病歴:咽頭痛・咳・発熱がみられるようになり受診、インフルエンザA感染症と軽度の肺炎との診断を受け、即日入院となった。約1週間の治療にて発熱や咳などの肺炎症状は軽快し退院となったが、その後も微熱が続き、次第に倦怠感・脱力・思考力の低下・筋肉痛・関節痛なども強くなり、日中も横になって生活せざるをえない状況になってきた。

 再度、内科を受診して精査を受けたが、頸部リンパ節が少し腫脹している以外は特に異常はみられず、身体的な疾患は否定的との説明を受けた。いくつかの医療機関を受診して調べてもらったが異常はみられず、心療内科での診察でも現在の病態を説明できるような精神疾患はみられないとのことであった。その後、数年間にわたって内科にて定期的な検査は受けていたが異常はみられず、寝たきりのような状態に陥っていた。両親がマスコミ報道で「慢性疲労症候群(CFS)1)という病態の可能性を知り、主治医に依頼して専門の医療機関に紹介してもらったところ、ME/CFS2)の臨床診断基準(p.812)を満たしていることが判明した。

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 複合的な環境ストレスが免疫系・内分泌代謝系・脳機能連関の変調をきたし、その結果、異常な疲労感・脱力感、慢性感染症にみられるような諸症状や精神症状を生じたものが「ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)」であることが、脳分子イメージングや脳機能イメージングの方法論を用いた研究アプローチから明らかになってきている(p.803)。

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Case

ME/CFSを疑って鑑別診断を進めている症例

患者:48歳、女性

主訴:全身倦怠感

既往歴:43歳時;閉経、5年前;良性発作性頭位性めまい

職業歴:製造業の営業部に20年前から勤務、特記すべき職場ストレスなし

現病歴:来院約3カ月前にインフルエンザに罹患。しばらく寝込んだが、10日後には職場復帰。その後1日会社を休んだが、翌日には復帰。しかし職場復帰1週間後から、倦怠感のため6日連続で午後休暇をとった。以後、しばしば理由なく倦怠感に襲われるようになり、来院10日前には会社からしばらく休んで体調が回復してから職場復帰するように言われた。

 来院2カ月前には近医を受診し、血液・尿検査、胸部X線・腹部エコー検査で異常所見なく、神経内科を紹介された。そこでは起立性頻拍を指摘され、ベンゾジアゼピン系薬を処方されるも改善しなかった。症状から自分で「ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)」を疑い、当初受診した近医に紹介状を書いてもらって来院した。

 来院前の数日間は、朝起きると息も絶え絶えという感じで起き上がれないほどであった。腕や大腿部に筋肉痛あり、熟眠感はない。

初診時の対応:期間は診断基準を満たさないが、発症状況や明らかな検査異常が認められないこと、性別・年齢などからME/CFSの事前確率は一定程度あると判断し、まずうつ病・うつ状態と稀な身体疾患を除外する予定とした。

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Case

慢性疲労を主訴にした脳脊髄液減少症

患者:32歳、女性

主訴:頸部痛、易疲労・全身倦怠、気力低下、記憶力・思考力低下、頭痛

既往歴:3年前に子宮頸部異形成除去術

現病歴:2年前、男性に頭を強く殴られた。しばらくして回転性めまいが出現した。その後、起立時に悪化する頭痛、頸部痛、吐き気、視力低下、疲れやすい、全身倦怠感、記憶力低下、相手の言っていることが理解できない、思ったことがすぐ言葉に出てこないなどの症状が持続し、2年間多くの病院・クリニックを受診したが原因がわからず、「ME/CFS」と診断されたこともあった。点滴により症状が一時的に改善することがあった。

 他院で「脳脊髄液減少症」が疑われ、当院を紹介受診。造影脳MRIで側脳室狭小化・視神経周囲髄液減少・軽度静脈拡張・軽度硬膜造影所見がみられ、脳脊髄液減少所見と判断した。造影脊髄MRIでは、胸椎部で硬膜外髄液貯留所見がみられた。RI(放射線同位元素)脳槽シンチグラフィーを施行し、髄液圧11cm水柱、腰椎部で髄液漏出像あり。CTミエログラフィーでは頸椎・腰椎に髄液漏出所見がみられ、2カ所にブラッドパッチを行なった。症状は改善傾向だったが、倦怠感・背部痛が持続し、1年後に2回目のブラッドパッチを行い、その後、日常生活に不自由しない程度に症状が改善した。

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Case

車の追突事故による頸椎損傷が契機で線維筋痛症を併発した一例

患者:41歳、女性。百貨店員。

既往歴:30代にうつ病、各種薬剤で気分不良

現病歴:29歳時に誘因なく突然の激しい疲労・倦怠感が出現、「ME/CFS」と診断し通院中、1.7年後に乗用車の追突事故による軽度の頸椎損傷を契機に筋痛・関節痛が持続・悪化・拡大し、仕事を休みがちとなる。全身アロディニア(異痛症)があり、米国リウマチ学会1990年基準を満たし、「線維筋痛症」との併存例と診断。多くの疼痛緩和薬が使用できず、体動による激しい全身痛で破局的状態に陥り、雇用打ち切りとなる。疾患の教育・理解と受容、瞑想的有酸素運動、必要な薬物療法で数年の経過で症状が改善し、パート勤務可能となる。

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Case

患者:40代、女性。看護師。

主訴:全身性の倦怠感・疼痛、頭痛、微熱、睡眠障害

既往歴:X-2年4月にサイトメガロウイルス肝炎(入院治療で軽快)

現病歴:同年6月頃から、全身の倦怠感・関節痛・筋肉痛・脱力などの症状が出現。多発脊髄神経根炎が疑われ、9月に「ステロイドパルス療法」を受けるも軽快せず。業務負担を軽減し勤務継続するも、X年9月には2週間休職(performance status:6。p.813)。「鎮痛薬」「ビタミンC」「補中益気湯」の投与を受けるも病状は一進一退、11月に当院初診。

診療経過:漢方的に「少陽病」と診断し、「小柴胡湯」で治療を開始。日中の眠気が強くなり、12月中旬から1カ月半の休職を指示。休職明けには諸症状緩和され、時短勤務1カ月のあとにフルタイム勤務に復帰した。

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Case

心理的アプローチにより慢性疲労が改善した一例

患者:40代、女性

現病歴:X-10年頃から疲労感が出現し、X-5年頃より疲労感が持続するようになった。X年に疲労感が増悪したため、4つの医療機関を受診したが、異常所見は認められなかった。心理的要因の関与が疑われ、同年に当科を初診した。

治療経過:特発性慢性疲労と診断し、「支持的アプローチ(受容・共感、傾聴)」を用いて信頼関係を築きながら、初診の翌月より段階的運動療法を開始した。その後、過剰適応的な行動パターンが明らかになり、ストレスにより疲労が増悪していることを自覚するようになった。X+2年に「アサーショントレーニング(自己主張訓練)」と「認知行動療法」を開始した。X+5年には夫と一緒にカウンセリングを行い、「リラクセーション法(自律訓練法)」を開始した。X+7年には疲労感は改善し、経過良好のため終診となった。

コラム❹小児ME/CFS 田島 世貴
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Case

睡眠不足を契機に小児ME/CFSをきたした一例

患者:小学6年生、女児

家族歴:母親が中学生の頃、起立性調節障害

現病歴:幼少期には、生育歴・病歴ともに特記事項なし。小学4年生から進学塾に通い、次第に入眠が遅くなっていた。5年生からは次第に起床困難感が強くなっていたが、起床できていたため、特に何もせず経過をみられていた。6年生からは週に5日間塾に通っており、うち4日間は平日のため帰宅が22時、入眠が0時の生活が続いていた。

 7月頃から、起床直後〜日中にわたる激しい頭痛が出現。8月頃から、眠気がこないために2〜3時にようやく入眠、12時前後に目が覚めるようになり、登校困難となった。日中のたちくらみや倦怠感、起床後の腹痛なども頻繁に生じるようになった。

治療:睡眠状態の改善のために「睡眠衛生指導」と、「メラトニン」「選択的α2アドレナリン受容体作動薬」の内服治療を行い、他者の視線が怖いために学校復帰が難しいことに対して「抗うつ薬」での内服治療を行ったところ、ゆっくりではあったが症状が改善し、高校は通信制高校を卒業。大学は通常の進学が可能なまでに回復した。

【Ⅱ章】 ME/CFSミミックス—「疲労・倦怠感」を主訴に受診する患者さんたち

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Case

「なんか疲れやすい」と思ったら

患者:58歳、男性

既往歴:10年前に梅毒

現病歴:15年ほど前から、脂質異常症で定期通院している患者さん。いつもどおりに診察して薬を処方し、来月の予約をとろうとした際に患者さんより、「2週間くらい前から少し倦怠感があり、階段を上ると息切れがするようになった」との訴えがあった。診察時には発熱や呼吸数上昇やSpO2低下はなく、身体所見も問題なかったため、特に異常がないように思われた。患者さんは「ここ最近、仕事が忙しくて寝不足であったせいかもしれない」と話しており、よく休んで経過観察するよう伝えた。

 翌週、呼吸困難が強くなり咳嗽もひどくなったため、再度外来を受診された。診察したところ、38℃台の発熱、呼吸数の増加があり、聴診上late inspiratory crackleが聴取された。胸部X線は正常であったが、CTを撮影したところ、両側肺野にびまん性の浸潤影を認めた。梅毒の既往症があったことからHIV抗体検査をしたところ、陽性であった。さらに、白血球中のCD4陽性リンパ球数が30/μL、β-Dグルカン陽性であった。CT画像と併せて、「HIV陽性のニューモシスチス肺炎」の診断となった。

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Case

ME/CFSの診断基準を満たしたACTH単独欠損症の一例

患者:60代、男性

主訴:全身倦怠感

現病歴:生来健康で社交的だった。定年退職後の200X年より、進行する食欲不振と全身倦怠感のためA病院を受診するが原因不明。関節変形のため、B病院・膠原病内科も受診するが原因不明であった。器質的疾患が否定的とのことで、C病院精神科に「うつ病」として入院、薬物療法やリハビリテーションを行っていた。しかし、全身倦怠感が進行し、胃ろうを増設し補液による栄養管理が行われ、寝たきり状態となっていた。精査の希望があり、200X+3年10月に当院を紹介受診した。

既往歴:狭心症

外来処方:精神科;クロチアゼパム、エチゾラム、ミルタザピン。内科;タムスロシン、ラベプラゾール、乳酸菌整腸剤、モサプリド、酸化マグネシウム、クエン酸第一鉄、アルコルビン酸・パントテン酸、ニトログリセリンテープ。

家族歴:母;関節リウマチと認知症、妹;関節リウマチ

入院時身体所見:身長164cm、体重44.3kg、BMI 16.5。体温36.7℃、血圧122/80mmHg、脈拍数77回/分。

 仮面様顔貌、挺舌制限、構語障害あり、口腔内に唾液貯留(嚥下障害)あり。肺音・心音に雑音なし。手指にスワンネック様変形あり、関節腫脹なし。上腕二頭反射、上腕三頭筋反射亢進、膝蓋腱反射正常〜低下、肘・膝関節に屈曲拘縮。

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Case

整形外科から紹介のあった40歳女性

患者:40歳、女性

主訴:手指の冷感

現病歴:数年前から、寒くなると手指が冷たくなることに気づいていた。手の神経の病気かと思い、今秋、整形外科(手の外科専門医)を受診した。しかし異常はなく、血行の問題ではないかと言われた。年明けにテレビ番組をみて「Raynaud」かもしれないと思ったので、膠原病内科を受診した。

 膠原病内科では、診察で「Raynaudらしくない」と言われた。血液検査が行われ、抗核抗体をはじめすべて正常だった。患者は対処を求めたが、「Raynaudかもしれないが、特にやることはない。治らない」と言われてしょげてしまった。

 その後もやはり冷感がつらいため、別の膠原病内科にもかかりたいと思い、今回の受診となった。

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Case

全身の倦怠感と疲労感を訴えて受診した一例

患者:81歳、男性

家族歴:特記事項なし

既往歴:便秘症

内服薬:酸化マグネシウム、センノシド

生活歴:喫煙なし、機会飲酒。妻と2人暮らしで、ADLはもともと自立している。

現病歴:2年前から右手の疲労感、1年前から左手の疲労感を自覚するようになり、その頃から段々と手の力の入りにくさも自覚するようになってきた。9カ月前から便秘と腹部膨満が出現し、近医で著明な腸管ガスを指摘された(図1)。最近、疲労感が強くなり、特に労作時に強く感じるようになった。原因精査目的で当科を紹介受診した。追加の問診をしたところ、嚥下困難があり、特に水分でむせ込みが強いという。体重は1年間で14kg減少しており、本人は「倦怠感のためだろう」と感じている。

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Case1

閉塞性睡眠時無呼吸と向精神薬により倦怠・疲労感を呈した一例

患者:49歳、男性

家族歴:特記事項なし

現病歴・経過:10年ほど前から、睡眠中の呼吸停止を妻が指摘していた。もともと、身体の不調や、対人関係に不安を抱きやすく、業務上でのミスをきっかけとして、疲労・倦怠感、不安発作、意欲低下、熟眠感欠如が出現し、X-3年に当院精神科を受診した。向精神薬により不安発作は軽減したが、倦怠・疲労感、意欲低下、熟眠感欠如の訴えが持続し、抗うつ薬1剤、抗不安薬2剤、中間型睡眠薬2剤などの処方を受けていた。

 妻からの睡眠中の呼吸停止の情報に基づいて、在宅で「簡易睡眠ポリグラフィ」を施行したところ、AHI(無呼吸低呼吸指数)45.3、3%ODI(酸素飽和度低下指数)42.0と、重症の「閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)」が認められたため、経鼻持続陽圧呼吸療法を導入した。熟眠感欠如は軽減したが、倦怠・疲労感は残存したため、睡眠薬と抗不安薬を漸減・置換したところ、倦怠・疲労感も軽減。超短時間型睡眠薬1剤、抗うつ薬1剤で安定している。

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 私が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の患者さんに初めて出会ったのは、数年前である。元気いっぱいだった高校生が、ある日突然、異常な身体のつらさで動けなくなり、学校にも自力では行けなくなって、私の外来に来られた。明るく笑顔が素敵で顔色もよく、見た目は普通の高校生に見えたが、症状は彼女の日常生活を一変させていた。ME/CFSを疑い治療することになったが、私も手探りで学びながら患者さんとご家族と二人三脚のような治療経過であった。初めての患者さんを経験して以来、どういうわけか次々に似たような患者さんが外来に紹介されてくるようになった。1人ひとり少しずつ表現型は違うが、はっきりとした病歴の特徴があり、自分のなかでME/CFSの病像のイメージがどんどん明確になってきた。同時に、「今まで同じような患者さんを見抜けていなかったのではないか」とも感じた。

 そんな折、患者さんの1人が「この本、すごくいいので、先生にも読んでほしくて」と貸してくださったのが、特別メッセージ(p.792)で紹介した、ゆらりさんの『ある日突然、慢性疲労症候群になりました。』(合同出版、2019)という本である(p.792・884)。「この本には、私が表現したかったことが全部書いてあるから」とのことであった。また、別の患者さんのご家族は、「自分は家族の症状や言っていることをわかっているつもりだったけど、ぜんぜんそうじゃなかった。あの時の言葉、こういうことだったんだ、と1つひとつが今になって理解できて、わかってあげられてなかった、という気持ちで涙なくして読めなかった」と、診察室で本を取り出しながらおっしゃった。私自身この本を読み、今目の前にいる患者さんのつらさを本当にわかっているのか、と自問した。

What's your diagnosis?[211]

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病歴

患者:生来健康な自立独居の84歳、女性

主訴:食欲低下、全身倦怠感

現病歴:4週間前より両側項部につまるような鈍痛がして、3日後より倦怠感で寝込むようになり、3週間前から食欲も低下してきたため、2週間前に近医整形外科を受診しロキソプロフェンとプレガバリンの処方を受けたが、項部痛以外には無効だったので3日でやめた。倦怠感が続くため、2週間前には近医内科も受診し、血液検査でCRP 17.5mg/dL、ESR 61mm/hr、WBC 7.3×103(Neut 76%)・Plt 473×103/μL、Hb 11.3g/dL(MCV 96.6fL)であったため(ただしLDH、肝機能、腎機能、ANAは正常)、紹介受診した。悪寒・発熱はないが、直近3日間は盗汗あり。体重減少の自覚、頭痛、眼・耳症状、顎跛行、上気道症状、咳・痰・呼吸苦、胸痛、腹痛・腹満、便通変化、排尿変化、帯下、背部痛・腰痛、皮疹、四肢のむくみ、筋肉痛・関節痛・こわばり、複視、構音障害、嚥下障害、四肢のしびれ・脱力はいずれもなかった。

患者背景:

既往:約20年前に前頸部皮下腫瘤摘出

常用薬:なし(そもそも薬嫌い)

生活歴:17年前に夫と死別後から自立独居。子は2人で、時々会いに来る。ペットなし。たまに畑に出る。酒・タバコは全くやらない。長く旅行はしていない。

身体所見:

バイタルサイン:体温36.4℃、血圧138/70mmHg、脈拍数92回/分 整、呼吸数<18回/分。

概観:意識清明で、認知機能・感情とも正常。腰椎で円背あり、鼻声・嗄声・咳はなく、やや色黒(畑に出るからという)。

頭部:頭皮過敏なし。両側頭動脈正常。結膜充血・出血斑なく眼球運動正常。残存下顎歯に軽い歯周炎あり、咽頭口腔粘膜に病変なし。

頸部:両頸動脈や甲状腺に圧痛なし、リンパ節腫脹なし、項部にも圧痛なし、頸椎可動域正常で軟、Jackson/Spurling試験陰性。

背部:脊椎に叩打痛なし、可動域運動で痛みの誘発なし。

胸部:乳房腫瘤なし。全肺で肺音清。心拡大・過剰心音なし、心基部に2/6収縮期駆出性雑音あり。

腹部:平坦・軟で、圧痛・腫瘤や肝脾腫・叩打痛なし。

直腸診:圧痛・腫瘤なく、茶色便潜血陰性。

四肢:両上下肢の関節可動域正常で、痛みの誘発なし、浮腫なし。

リンパ節:表在リンパ節すべてに腫脹なし。

皮膚:皮疹・出血斑なし。

神経:局所徴候なし。

素人漢方のススメ|感染症編・7

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 先月は、COVID-19とそれに使用する漢方について考えました。今月は、急性気管支炎や軽症肺炎の漢方治療について解説します。当然、病態としてはCOVID-19と似ていますので、重なる部分があります。

Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?・4

福耳はホントだった? 上田 剛士
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患者さんからのふとした質問に答えられないことはないでしょうか? 素朴な疑問ほど回答が難しいものはないですが、新たな気づきをもたらす良問も多いのではないでしょうか? 本連載では素朴な疑問に、文献的根拠を提示しながらお答えします!

オール沖縄!カンファレンス|レジデントの対応と指導医の考えVer.2.0・43

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CASE

患者:57歳、男性。

主訴:意識障害。

現病歴:当院入院10日前より発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛が出現した。食思不振(おにぎり数個、ゼリーを少量程度)もあり、当院入院10日前と7日前に近医Aを受診し、対症療法としてロキソプロフェンとアセトアミノフェンを処方された。当院入院4日前には構音障害や辻褄の合わない言動も出てきたため、近医Bを受診した。体温38.0℃で、脳単純MRI検査では異常所見なく、ロキソプロフェンの処方のみを受けて帰宅となった。当院入院2日前には、子どもの迎えに行くことができなくなった。当院入院日に近医Bを再診し、簡易の血液検査で血清Na 120mEq/Lであったため、精査加療目的で同日夕方に当院紹介となった。

既往歴:なし。

内服歴:定期内服薬なし。

喫煙歴:30本/日を30年間。

飲酒歴:ビール700mL/日。

職業歴:20〜43歳まで大阪でトラック運転手をしていた。現在はパンの配達業をしている。

アレルギー歴:食事・薬剤アレルギーなし。

“コミュ力”増強!「医療文書」書きカタログ・2

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今月の文書

診療情報提供書

セッティング:病院→かかりつけ診療所への引き継ぎ。

患者:42歳、女性。腎盂腎炎の入院治療を終え本日退院。糖尿病あり。

【登場人物】

桜井:臨床研修医2年目。入院担当医。

飛鳥:総合診療科医師。桜井の指導医。

葛城:総合診療科部長。ラーメン大好き。

月ヶ瀬:開業医。患者のかかりつけ医。

【エッセイ】アスクレピオスの杖—想い出の診療録・4

伝えられなかった思い 継 仁
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本連載は、毎月替わる著者が、これまでの診療で心に残る患者さんとの出会いや、人生を変えた出来事を、エッセイにまとめてお届けします。

55歳からの家庭医療 Season 2|明日から地域で働く技術とエビデンス・33

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 新型コロナウイルスのパンデミック下においては、必ずしも豊富にはなかったリソースのもとでの入院医療担当スタッフの奮闘や疲弊に多くの注目が集まることになりました。5月下旬時点での日本の感染者数は減少傾向が明確になり、緊急事態宣言も全国的に解除されました。

総合診療専門医セルフトレーニング問題・27

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セッティング

都市部の無床診療所で、総合診療医3人+後期研修医2人で診療をしている。ここでは尿検査(定性のみ)、X線検査、心電図などはすぐに結果がわかるが、血液検査はすべて外注。CT、MRI、上部消化管内視鏡などの検査および入院は、車で30分の総合病院に依頼している。強化型在宅支援診療所であり、月に40人ほどの患者に対して定期訪問診療を行っている。夜間や休日も交代制で24時間対応している。

“JOY”of the World!|ロールモデル百花繚乱・7

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 教育学部を卒業して7年間、私は中高教員だった。化学を教えていた。しかし“冒険家の私”は、30歳を目前に医学部に学士入学、家庭医の道を邁進してきた。診療所や大学、学会で家庭医教育に従事し、なかでも「ウィメンズヘルス」に注力、また「女性医師」の働きやすい環境づくりにも取り組んできた。私のキャリアの概略を表1に示した。

【臨床小説】後悔しない医者|あの日できなかった決断・第4話

高揚する医者 國松 淳和
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前回までのあらすじ 今月のナゾ

 患者に触れようとせず、独特の診療をする内科医・黒野。前回まで3話にわたってお送りしたエピソード(4〜6月号)では、研修医と筧が見逃していた病態を、黒野が患者を「みる」ことなく見抜き、急性増悪する寸前に介入して“新たな未来”をつくったストーリーが描かれた。

 今回からの新エピソードでは、黒野のどんな能力が発揮されるのか。黒野には何が見えているのか? 本来取り戻せないはずの運命は変えられるのか…。

 本エピソードから登場する栗塚は、病歴聴取や身体診察を叩き込まれた超優秀な後期研修医だ。実際、そつなく診断推論を進めていくが、何か足りない気がしている。その「何か」とは?彼とのやりとりを通じて学びとれることは…?

投稿 GM Clinical Pictures

臍部に皮下結節 若林 崇雄
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CASE

患者:特記すべき既往のない73歳、女性。

主訴:2カ月持続する食欲不振。

バイタルサイン:正常。

身体所見:臍部中心に約6cmの有痛性皮下結節(図1)を認めた。

また、腹部に波動を触知した。

CT検査:臍部の肥厚と腹水(図2)。

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CASE

患者:88歳、女性。

現病歴:近医で2型糖尿病や高血圧、脂質異常症の加療中。昨晩から上腹部痛があり、当科を受診した。嘔気はあるが嘔吐はしておらず、下痢もない。周囲に同様の症状の人はおらず、心当たりとなるような生ものの摂取もない。ただ、この1カ月間、干柿を毎日2〜3個ずつ食べていたという。

手術歴:なし。

内服薬:グリメピリド、ビルダグリプチン、メトホルミン、アムロジピン、カンデサルタン シレキセチル、アトルバスタチン。

身体所見:身長145cm、体重61kg、BMI 29.0。体温36.1℃、血圧154/86mmHg、脈拍数72回/分、腹部は平坦・軟。

検査所見:Hb 14.5g/dL、WBC 8,200/μL、Plt 15.7×104/μL、Glu 199mg/dL、HbA1c 7.9%、BUN 17.2mg/dL、Cr 0.71mg/dL、T-Bil 0.69mg/dL、AST 47IU/L、ALT 34IU/L、ALP 278IU/L、γ-GTP 182IU/L、AMY 56IU/L、CK 44IU/L、CRP 0.29mg/dL。

画像所見:上部消化管内視鏡検査(図1)。

#総合診療

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#医学書院の新刊

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 本書は、まず、一番最後の編者紹介の写真を眺めるのが正しい読み方に違いない。編集にあたった優しそうな(仮面をかぶった)2人は、1人が心療内科アイデンティティ、もう1人が総合内科アイデンティティ(のはず)である。本書では、編集者の総合内科・心療内科志向によって緩和ケアが磨かれているようにみえる。

 本書のカバーする範囲は広い。心不全だけ!認知症だけ!!ではなく、臨床医がよく出合う緩和ケアの対象となる非がん疾患が網羅されている。特に、腎不全・肝不全は出合う頻度の割には、これまであまり取り上げられてこなかった。だるい・かゆい・なんか落ち着かない時に、どのような方法があるのか?が具体的な処方例を添えて解説してある。

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目次

読者アンケート

『総合診療』編集方針
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 1991年に創刊した弊誌は、2015年に『JIM』より『総合診療』に誌名を変更いたしました。その後も高齢化はさらに進み、社会構造や価値観、さらなる科学技術の進歩など、日本の医療を取り巻く状況は刻々と変化し続けています。地域医療の真価が問われ、ジェネラルに診ることがいっそう求められる時代となり、ますます「総合診療」への期待が高まってきました。これまで以上に多岐にわたる知識・技術、そして思想・価値観の共有が必要とされています。そこで弊誌は、さらなる誌面の充実を図るべく、2017年にリニューアルをいたしました。本誌は、今後も下記の「編集方針」のもと、既存の価値にとらわれることなく、また診療現場からの要請に応え、読者ならびに執筆者のみなさまとともに、日本の総合診療の新たな未来を切り拓いていく所存です。

2018年1月  『総合診療』編集委員会

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次号予告

基本情報

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総合診療
30巻7号 (2020年7月)
電子版ISSN:2188-806X 印刷版ISSN:2188-8051 医学書院

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