精神看護 20巻3号 (2017年5月)

特集 打つ手なしの行きづまり事例が、当事者研究で変化する

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北海道・浦河で、自分を助けるためのツールとして生まれた当事者研究ですが、とうとう精神科病院、医療観察法病棟、クリニックにも広がり始めました。

しかも最重度で、打つ手なしと思われた行きづまり事例において、明らかな変化を見せるといいます。

それらを目の当たりにした医療者の皆さんにどんな経験だったのかを教えてもらいました。

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 国立病院機構花巻病院の医療観察法病棟に約6年という長期間入院していたAさんの事例を報告します。

 医療観察法というのは、心神喪失等の状態で殺人、傷害等の重大な他害行為をした人たち(本法では「対象者」という)が、濃厚な医療を受け、再び同様の他害行為をすることなく、社会に復帰することを目的とした法律です。対象者の80%以上は主診断が統合失調症ですが、発達障害が併存している方もいます。Aさんにも統合失調症と広汎性発達障害の診断が付いています。

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当事者研究を知ったきっかけ(澤口)

 私は今から14年ほど前に、浦河べてるの家を知りました。医療職とはかけ離れた仕事をしていたのですが、20代後半の遅いモラトリアムで、自分の人生はこのままでいいのかと生き方を模索していた頃です。

 母にべてるの家の本を勧められ、関連の本を数冊借りて読みました。「これは面白い! べてるに行ってみたい!」という衝動にかられ、さっそく浦河町に住む友人に連絡をして、「べてるって知ってる?」と聞くと「有名だよ。自分の家族がソーシャルワーカーの向谷地さんにお世話になってるんだ」と言うので紹介してもらいました。そんなご縁で向谷地さんとつながることができ、べてるの家や日赤病院精神科デイケアで3日間、メンバーと活動を共にさせていただきました。そこでは今まで体験したことのない安心感や居心地のよさを感じ、自分のダメな人生も捨てたもんじゃないと思うことができました。

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 当事者が回復するためには“自助”の力を育てることが必要—この点に反対する精神科医療者はいません。しかし実際の精神科医療は、薬物療法によるアプローチが中心になりがちです。そして当事者が体調への不安や生活のしづらさを話せば、医療者が中心になってあわてて解決策を出してしまったり、当事者のニーズについても多くの場合、家族や専門家が本人に代わって見立ててしまったりします。

 これはおかしい……。“自助”の力を付けるには、当事者が自分で考え、悩み、選択し、体験していく場面をどんどん作る必要があるのではないか……。そんなことを考えていた時に出会ったのが当事者研究です。

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 当事者研究の伝染力は今やパンデミック、と言うと大袈裟でしょうか。私もこの2年間じわじわと、しかし確実にその伝染力を実感する経験を得ましたので、報告したいと思います。

 当事者研究にハマるということは、べてるにハマるということです。思い起こせば初めて“生べてる”に遭遇したのは、SST普及協会の第8回学術集会、2003年12月のことでした。以後べてる詣で数回を経て、新潟にべてるスピリットを入れようと2012年9月に現クリニックを開業しました。そしてその翌月、福島で行われた当事者研究全国交流集会に初めて参加したのでした。

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当事者研究に出会う前は元気がなかった

 当事者研究といえば「べてるの家」ですが、私(三好)とべてるの家との出会いは2005年です。今思えばずいぶんと遅い出会いでした。当時、私は精神病圏の患者さんの薬物療法や個人精神療法にすっかり失望していました。長期化している患者さんたちはちっとも良くなられず、急性期の症状が治まった患者さんたちも、あまり元気じゃないことが多かったのです。私自身もあまり元気じゃなかったです。

 そんな時に出会ったのが、斉藤道雄さんの本『悩む力』(みすず書房)と医学書院の『べてるの家の「非」援助論』でした。“三度の飯よりミーティング”のつながりの文化や、病気の苦労を大切にして弱さでもつながって生きていく場のありように「これだ!」といたく感激して、10冊ほど購入し、病棟や相談室、既存のデイケア、医局などに「すごいから読んでみて」と貸本して回りました。どんな賛同が得られるのかわくわくしていましたが、意に反して、当時のスタッフの反応はほぼ全員が「魅力は感じるけど、病院とは違う世界じゃないの?」「病院では無理なんじゃないの?」というもので、がっくりしました。本はその後も転々と貸本されているうちに畑の土と消えてゆきましたが、この時蒔いた種が当事者研究を始める第一歩だったのかなと思っています。

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1.「臨床の知」としての当事者研究

 当事者研究は、統合失調症などをかかえた当事者たちの生活経験のなかから、生きる知恵を創出する自助活動として始まりました。それは当事者がかかえる苦労の体験を、「かけがえのない有用な人生経験」として受け止め、関心を寄せることから始まります。表面に現れている“現象”は、その人の“生きづらさ”の象徴であり、そこから「研究テーマ」が生まれます。そしてその研究は、出来事や経験の背景にある前向きな意味や可能性、パターンを見極め、仲間の経験も取り入れながら、ユニークな発想で、その人に合った自分の助け方や理解を創造していくプロセスとして、新たな出会いを生むのです。

 2001年に北海道浦河の「浦河べてるの家」(以下、べてる)を中心とした当事者活動をベースに生まれた当事者研究ですが、今そこから生まれた「臨床の知」を、精神医療の現場に導入しようとする取り組みが始まっています★1

連載

べてる新聞『ぱぴぷぺぽ』・115

連載 ケアする人こそやってみよう当事者研究・3

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苦労のプロフィール

 みなさんこんにちは。北海道釧路市の病院で看護師、保健師をしております齋藤優紀といいます。自己病名は「全力疾走よくばり病 チョコレート依存症 肩こり偏頭痛タイプ」です。

 私は学生時代に浦河べてるの家と出会いました。たちまち当事者研究の虜になり、金欠のなかバナナを主食にして浦河に留学したり、講演会で忙しい向谷地生良さんを無理やり引き留めて質問攻めにしたり。周りとべてる関係者にいっぱい迷惑をかけながら、家族や友人を当事者研究の世界に巻き込んで今に至ります。

連載 イイネ!その業務改善・8

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看護師長としてこれでいいのだろうか

 2014年4月、私は当時所属していた精神科救急病棟(40床)において、副主任から看護師長となりました。当初は自分のケアに対する姿勢を評価してもらえたという喜びと共に、果たして自分に病棟管理が務まるのだろうかと自分自身の資質に対して強い不安を抱いていました。

 新任看護師長に対する十分なバックアップ体制がなかったため(現在は管理者研修がありますが)、日々のアクシデントに翻弄され、自己を客観視する指標もなく、役割や成長過程に日々不安や困難感をかかえたまま、“看護師長としてこれでいいのだろうか”と自問自答する日々を過ごしていました。

連載 訪問看護で出会う“横綱”級ケースにくじけないための技と型、教えます・1【新連載】

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私がこの連載を始める動機

 病院と違って自分1人で利用者宅へうかがうことが多い訪問看護では、利用者さんに受け入れられないと、つらい思いをすることがあります。

 私自身も約2年前まではつらさを感じることがありました。訪問すると「お前が来ると面白くない。帰れ」と言われたり、訪問中は常に舌打ちをされ「何や!」と睨み続けられたりと、訪問することすら憂うつに感じる時期がありました。

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精神療法か、薬物療法か

 同じように精神医療に携わっていても、精神療法的かかわりを志向する人と、生物学的な研究や治療を志向する人とでは、考え方も実践の仕方も全く違っていて、交差する点はあまりないと考えられてきた。私自身も、日本では薬物療法一辺倒になりがちな後者の考え方には批判的だった。とはいえ、もともと実験が大好きな“リケジョ”だったこともあり、心理学的仮説を裏書きするような大脳生理学などの研究成果には興味をそそられてもいた。例えば愛着と脳内物質との関連などに関する最近の知見などを聞くと、ワクワクしてしまうのだ。

 今回紹介する『科学者が脳と心をつなぐとき—父と母と私が織りなす50年の物語』の著者、糸川昌成さんは、都立松沢病院の隣にある東京都医学総合研究所に勤務する研究者である。かつてここには東京都精神医学総合研究所があり、私も時々お邪魔していたので、なんだかお知り合いのような気がしないでもない。

連載 失恋の話を聞きまくる男たち。桃山商事・18

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今回ご紹介するのは、片想いした男性の「自己開示」について頭を悩ませた真紀さん(36歳・会社員)のエピソードです。自己開示とは、自分に関する情報を相手に伝える行為のこと。わりと勇気の要る作業で、しばしば男性はこれが苦手と言われます。

 一方で自己開示は、相互理解を深め、時として信頼関係を示すバロメーターにもなる、恋愛に欠かせない要素です。真紀さんは何に戸惑い、その背景にはどんな問題があったのか。それを考えるため、まずは2人の関係性をたどってみたいと思います。

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はじめに

 入退院を繰り返す患者さん、自身の病状悪化時の状況を覚えていない患者さんなど、私たちは臨床でいろいろな患者さんに出会います。そして患者さんを取り巻く支援者の状況もまちまちです。さまざまな障害福祉サービスが入っているけれど情報の共有がいまひとつうまくいっていない場合や、病状悪化の基準が支援者間でばらばらなこともあります。

 このような場合に困るのは、再び患者さんが危機的状況(クライシス)に陥った際にどう対応するかという判断が迅速にいかないことです。

 そこで、危機的状況への対応等を、患者さんや支援者があらかじめ話し合って計画を立てておくのが【クライシスプラン】です。

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「福祉商品」というとどんなイメージがありますか?

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ずばり、これからの福祉商品は“かっこいい”が命。 あこがれの視線を作りましょう。

新潟駅から車で10分ほど走った場所に、中嶋梨沙さんが経営する雑貨店「スイモン」はあります。

古い民家を利用した雑貨店には、中嶋さんがセレクトした福祉商品が並べられています。「水紋のように、少しの動きでも形あらわれ広がるように」という思いから、中嶋さんはお店の名前を「スイモン」にしたそうです。

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これだ!という直観

 A氏(男性、30代、うつ病)には入院当日に挨拶をした。緊張しているのか、うつむいたままで「よろしくお願いします」とだけ話す。その表情と弱々しい言葉から、A氏の自信のなさを感じた。

 A氏はもともと内気で真面目な性格。手先が不器用なところもあったという。大学卒業後、介護職や事務職、引っ越しのアルバイトをしたが、職場に馴染めずトラブルもあって、いずれも短期で退職し職を転々としている。その後、倦怠感や意欲低下があり、自宅に引きこもるようになった。将来への不安もあるので就職したいが、過去の体験からうまくいく気がしない。焦燥感とうつにより、B病院を受診し、入院の運びとなった。

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終末期ケアを担う当病棟の目標

 浅香山病院の精神一般の閉鎖病棟の1つは特殊疾患入院施設管理加算を取っている。定床60床、日常生活自立度判定がB・Cランクの患者が100%、重度肢体不自由・意識障害・神経難病患者が全入院患者の70%以上、認知症患者は30%以内という病棟である。患者さんの平均年齢は74.7歳。男女比は18人対38人。56名が入院している(稼働率93%前後)。

 本稿ではこの病棟(以下、当病棟)において取り組んでいる終末期ケアについて報告する。

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はじめに

 ハンチントン病は舞踏運動などの不随意運動を特徴とする進行性の神経疾患*1であり難病に指定されている。併せて気分や感情の障害、意欲低下、物事へのこだわり、認知機能障害などの精神症状がみられる*1。われわれは本病をかかえることになった人に寄り添い、医学的な予後にとらわれすぎることなく、改善の可能性を信じてかかわりを継続した。

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 前回の取材レポートでは、アメリカにおけるオープンダイアローグ実施を目的とするマサチューセッツメディカルスクール(University of Massachusetts Medical School:UMMS)のプロジェクトについて、背景となるアメリカ精神医療の歴史を振り返りつつ、その概要を述べた。UMMSのスタッフは、1990年代より盛んに論じられてきたリカバリーという「考え方」を実現しうる具体的な実践「技法」としてオープンダイアローグに着目し、アメリカ国内での導入を進めている★1。後編となる今回は、UMMSの連携先であるNPO法人Advocates Inc.での実践に着目し、現地の様子をより詳しく紹介する。

書論

時空を超える本 西川 勝
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1 衝撃の出会い

 今年で還暦を迎えるのに、未だに自分のことを「ぼく」と言わなければしっくりしない未熟さが自分にはある。それでも、振り返ることが叶わぬほどに忘却した過去の大きさに唖然とすることもある。

 こんなことを思ったのは、『中井久夫集1』を読んで、若い頃の自分を思い出したからだ。

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今月の5冊

次号予告・編集後記

基本情報

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精神看護
20巻3号 (2017年5月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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