精神看護 19巻6号 (2016年11月)

特集1 足の爪切りは患者さんの人生を変える

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足の爪の障害は、人の生活に甚大な影響を与えます。

爪が肥厚して靴が履けない、痛くて歩けないとなれば、それによって血流が悪くなる、身体機能が落ちるという身体面への影響が出ます。あるいは靴を履いていくことが求められる場所へ出かけられなくなり、人と交流ができないといった社会面にも影響が出ます。

現在、自分では爪が切れずに困っている患者さんはかなりの数にのぼります。しかしそこに応えられる爪切りの看護技術が普及していない状況です。それは精神科でも同じです。いや、高齢化が進み、身体合併症が増加中の精神科でこそ、足の爪へのケアニーズは高いと言えるのではないでしょうか。

そこでこの特集では、爪を切る技術を磨いてゾンデ1本で開業を果たした看護師、伊部美代子さんに登場いただきます。その見事な技術で激変する爪ビフォーアフターと、患者さんの人生の変化をごらんください。

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1 A子さんの場合(女性・85歳)

[なぜこうなったのか]

 私たちの身体を覆っている皮膚の角質層、毛髪、爪はケラチンというタンパク質でできています。

 白癬菌は皮膚糸状菌であるカビの一種です。ケラチナーゼという酵素を持っていて、表皮に含まれるケラチンを溶かしつつ、栄養源にして繁殖します。

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介護老人保健施設での爪切り実習に同行しました。

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病院で看護師をしていた私が“素晴らしい”爪に出合って

 はじめまして。横浜市で「天使のつめきり メディカルフットケア」というサロンと、フットケアスクールを主宰している伊部美代子と申します。今年でちょうど、開業して10年目になります。

 もともとは看護師として病院勤務をしていました。生まれは北海道の田舎、紋別医師会の准看護学校を卒業後、19歳で横須賀に従姉妹を頼って上京。横須賀共済病院の高等看護学院を卒業して、横須賀共済病院に2年間お礼奉公し、結婚を機に同胞援護会衣笠診療所に5年勤めました。子どもができる気配がなく、再び横須賀共済病院に9年勤めた時、衣笠診療所から「かなり赤字で、スタッフの給料にもひびく状態。これをなんとかして」と相談を受け、昔のよしみもありなんとかしようと共済病院からドクター(女医)を連れて再就職しました。

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現在は、看護師がせっかくメディカルフットケアの技術を身につけても、なかなかその力を発揮しにくい状況があります。足のケアが患者さんのQOLに直結するという認知がまだ低いこともあり、診療報酬が認められた一部の診療科を除いて、フットケアが病院の中で看護業務として認知されていないためです。

そんななか、天使のつめきりメディカルフットケアスクールの卒業生で、足や爪のケアの重要性に目覚めて猛勉強し、現在は透析施設でフットケアを専門に業務を行うことができている看護師さんがいます。やりがいに満ちたフットケア人生にどうやってたどりついたのか、ご本人に紹介してもらいましょう。

特集2 脱施設化の先進地イタリアの素顔が見たい

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「精神科病院がない」というイタリア。そのことを頭では理解できても、具体的に考えていくと数々の疑問が湧いてきます。急性期状態の時はどうしているの? さすがに触法病棟はあるのでしょう? 国民が精神障害者が地域で暮らすことに理解があるってことなの? 精神障害者の仕事や住居はどうなっているの? スタッフの仕事は?...などなど。

今回、脱施設化発祥の地として有名なトリエステを訪れたのは、べてるの家のメンバーとスタッフ、東京大学の石原孝二氏と山田理絵氏、そして通訳を担当した広島大学の松嶋健氏です。個々の目に写ったイタリアを紹介いただきましょう。同時期に北イタリアを訪問した近田真美子氏にも同じくレポートしていただきます。

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 2016年3月14日から16日の3日間、イタリア・トリエステの精神保健局を訪問した*1。トリエステは、イタリアの精神病院廃絶運動を主導したフランコ・バザーリアが活動した所である。バザーリアは1971年にトリエステのサン・ジョバンニ精神病院の院長に就任している。1978年にはイタリアにおける公立病院の廃絶を定めた180号法が成立し、1980年にはサン・ジョバンニ精神病院が廃止された。バザーリアは1979年にトリエステを去り、1980年に亡くなるが、トリエステ精神保健局は、その後も地域精神保健医療の国際的な拠点としての活動を続け、1987年以降、WHOの協働研究センターに指定されている*2

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 私が初めて総合病院精神科専属のソーシャルワーカーとしての一歩を踏み出した1978年、イタリアでは劇的な精神医療改革が断行されていました。それが「法律第180号」による精神病院の廃止でした。

 しかし当時ひとりワーカーだった私には、世界の大きな精神医療の地殻変動に関心を向けるような余裕はありませんでした。右も左もわからないまま飛び込んだ日本の精神医療の現場は、学生時代に触れた難病患者運動や障害者の自立生活運動、そして70年代に生まれた新たなパラダイムであった「エンパワメント」の理念とは真逆な世界で、精神医療は、囲学・管護・服祉の世界—囲い込んで、管理して、服従を強いる世界—に見えました。半面、私は詰所に入るのにも緊張し、他のスタッフの前では自分の無知が知られることが怖くて電話1つかけられず、こっそりと公衆電話に駆け込む情けない新人ワーカーでした。

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はじめに—休棟した浦河日赤精神科病棟の経緯

 浦河ひがし町診療所は、2014年に、元・浦河赤十字病院(以下、浦河日赤)の精神科スタッフ有志で立ち上げた精神科クリニックです。

 北海道浦河町における精神科医療の歴史を振り返ると、1959年に浦河日赤に精神科病棟が50床で開設されたことに始まり、1988年の130床をピークとし、2001年に70床のベッド削減、2012年に10床のベッド削減を経て、ついに2014年に精神科病棟は休棟となりました。

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 研修プログラムの最終日、私たちはアウリジーナ・デイセンター(Centoro diurno di Aurisina)に向かった。同センター内には、レムス(REMS)と呼ばれる中間施設が置かれており、ここには触法精神障害者を受け入れるための病床がある。本稿では、イタリアの脱施設化運動と司法精神病院との関係に触れつつ、トリエステにおける同センターの機能や触法精神障害者に対するアプローチ方法を概観してみたい。

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「見学者」を脱し、披露する側になったべてる

 今回べてるがトリエステで当事者研究を行ったのは、思われている以上に画期的なことである。これまで日本からトリエステを訪問した人は何千人にのぼるかわからないほどだが、その多くが、先進的モデルを見学し勉強させてもらうという構えだったように思われる。そういう意味では、一方向的で非対称な関係性であり、対等な対話とは言えないようなものだったのではないだろうか。

 しかし今回は、トリエステ精神保健局の中の、これまで数々の歴史的なセミナーや講演が行われてきた部屋で、現地の精神保健サービスのスタッフと当事者、研修生などを前に、べてるのメンバーが当事者研究を披露したのである。

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 べてるの家の当事者研究ワークショップ「リカバリーへの道としての当事者研究:べてるの家と日本における精神医学」は、トリエステの精神保健局に関連が強い関係者(当事者、家族、専門家、団体、ボランティア、ピアサポーター、介護士、市民)を集めて、サン・ジョバンニの精神保健局で行われました。そこでは私を含めた5人が発表を行いました。

 向谷地生良さんは、べてるを立ち上げる際に、「金儲けしよう」と早坂潔氏たちに働きかけて、当事者主体の会社を立ち上げたことなどをユーモアを交えて語っていました。

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北イタリアのジェノバを中心に

 「精神科病院を廃止した国」として有名なイタリア。私はこの国は、国民の大多数が精神障害を持つ人への理解にあふれた国なのだろうと、理想郷を思い描いていました。

 精神医療に携わる者であれば、誰しも一度は憧れるイタリア詣で。今回視察に訪れたのは、イタリアのジェノバ(Genova)とアレッツオ(Arezzo)、ヴァルディキアーナ(Valdichiana)の3か所です。視察メンバーは京都のACT(包括的地域生活支援プログラム)で地域生活支援に従事していた看護師らをはじめ、職種や所属が異なるメンバーでした。今回の視察レポートでは、そのなかでも私が最も印象深かった、北イタリアのジェノバ(Genova)★1を中心に述べてみたいと思います。

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 特集の最後に、トリエステの精神保健ケアのシステム(トリエステモデル)と、フィンランド発祥のオープンダイアローグを比較する。トリエステを含むイタリアの精神医療のシステムについては、大熊一夫さんや今回通訳をしていただいた松嶋健さんなどの紹介によって、日本でもある程度知られるようになってきたのではないかと思う。また、オープンダイアローグについては、斎藤環さんの精力的な紹介などを通じて急速に認知度が高まってきた。オープンダイアローグと比較することによって、トリエステモデルの特徴も見えやすくなるということがあるかもしれない。日本への導入の可能性ということも少し考えながら、トリエステモデルとオープンダイアローグについて考えてみることにしたい。

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回復を目撃できるこの仕事が好き

 私は認知行動療法を専門とする臨床心理士で、日々、臨床実践(カウンセリング)にどっぷり漬かっている者です。カウンセリングの仕事は大好きで、予約がどんなに立て込んでいてもそれを「つらい」と思うことはありません。たぶんそれは私が「人」を好きだからなのだと思います。当然のことですが、誰ひとり同じ「人」はいません。カウンセリングを受けに来る人(クライアント)も本当にさまざま。さまざまな人がさまざまな人生を背負い、さまざまな生活を送っている。その中で、さまざまな悩みや問題を抱え、その共有や解決を求めてカウンセリングに訪れる。そして時間をかけて回復していく。「どんな状況でも、どんな状態でも、人は回復していけるのだ」ということを、私はこの仕事を通じて教わりました。人の回復の過程を目撃できるという点も、私がこの仕事を気に入っている大きなポイントだと思います。

 認知行動療法というツールも私は大好きです。自分助けのツールとして、そしてストレスケアのツールとして、認知行動療法は非常に優れていると私は考えています。私は偶然にも認知行動療法との出合いが他の人より早く、認知行動療法がここまでメジャーになるはるか前から認知行動療法を学び、それを私自身のセルフケアに役立てつつ、カウンセリングでも活用するようになりました。そして上にも書いた通り、多くのクライアントが認知行動療法に基づくカウンセリングを通じて、自分助けとストレスケアが上手になり、回復していくのを目の当たりにしてきました。

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身体合併症をかかえた患者さんを他科へ入院させたい—そんな時に必要になるのがサマリーです。

しかしこれまでは、サマリーの情報が不足していたために、不穏と誤解され早々に戻されてしまったり、受け入れを拒否されるといった残念なことが起きていました。

サマリーの書き方は学校でも習いませんし、受け取る側が「こういうことを書いてほしい」とフィードバックしてくれることもなかったので、精神科の側は「何が必要とされている情報なのか」を知る機会がありませんでした。

そこで、総合病院で精神科の患者さんを受け入れている松谷典洋さんに、搬送先に送るサマリーには何をどのように書くとよいのかを、良い例、悪い例を示しながら解説していただきます。

連載

べてる新聞『ぱぴぷぺぽ』・112

連載 イイネ!その業務改善・6

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大半の看護師が不安を感じていた

 精神科病棟における物品自己管理について、私たち看護師は、自傷他害のリスクと行動制限最小化との挟間で悩みながら、長らく解決策を模索してきた。

 これまで私たちの病院では、患者が入院してきた時にどの程度物品を自己管理できるか担当医師に確認し、自己管理が困難と予想された物品は病棟で管理していた。病院に持ち込む物品が増えたり、行動制限の解除や最初の外泊などの処遇が変わるタイミングで、担当医師と看護師が相談して患者の希望も踏まえながら物品管理のあり方を変更していた。この時担当医師は普段から患者の生活を看ている看護師の意見を求めることが多いが、看護師によって評価基準がまちまちである。また重篤な自傷行為にも結びつきかねない判断を求められることを不安に感じる看護師もいた。

連載 愛か不安か・8

快気祝いと絶好調 春日 武彦
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精神科で「勝利宣言」できますかねえ

 講演のために東北まで行った時のことである。ホテルのロビーに、本日の会合や催し物が黒い板に白い文字で書かれ掲示されていた。〈××社創業五十周年パーティー〉とか、〈ナントカ先生喜寿の会〉とか、〈○○工業新製品発表会〉などというやつである。ぼんやり眺めていたら、〈△△快気祝いの夕べ〉というのがあった。

 いったい何歳なのか知らないけれど、△△氏(おそらく地元の名士なのではないか)の病気が良くなって退院したのだろう。そこで、家族が見舞いに来てくれた人や世話になった人を招いて感謝と喜びの宴を開くことにしたのだろう。手術を受けたのだろうか。リハビリも込みでの入院だったのだろうかと、どうでもいいことなのに気に掛かる。

連載 就労移行って何だ?・6【最終回】

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手帳の重み

 「健常者になりたいんです」—私の目の前で悲痛に声を落とす中年男性は、精神障害者手帳を自治体に返還したいと訴えた。手帳のせいで自分は「障害者」と決めつけられていて、手帳さえなければ一般の人と同じように就職できるはずだ、と思い込んでいる。彼と日々接している私としては、精神状態の浮き沈みに対して配慮のない一般枠の就職は難しいと感じざるを得ない。周囲の理解と丁寧な支援がなければ、就労定着もままならないだろう。だから発想の転換を促してみる。

 「障害者手帳をDVDレンタルの会員証だと思いましょう。使いたい時に使える権利を得ているカードです」。さらに大きなイメージも言い添える。

連載 武井麻子のOh!それみ〜よ・8

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気鋭のルポライターによる自身のルポ

 患者をケアするには、彼らが生きている世界を知ることが重要だとよく言われる。だが、たとえ病棟で毎日接していたとしても、その世界を知っていると言える自信はない。それでも最近では、当事者の書いた本も数多く出版され、その世界に近づくことが容易になってきた。

 今回紹介するのは、今年6月に出版されたばかりの『脳が壊れた』(新潮新書)という衝撃的なタイトルの本である。

連載 失恋の話を聞きまくる男たち。桃山商事・15

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前回は、私が女性たちから失恋の話を聞きまくる中で、次第に「問題は男性にあり」という思考へシフトしていった経緯についてご紹介しました。女性たちは「男のことがよくわからない」と口を揃えて言う。しかし、男もまた自分自身のことがよくわかっていない。その原因は、男が自分についてちゃんと知ろうとしないからだ—。私は自分自身の経験も含め、そのような考えに思い至ったわけです。

 時を同じくして、本やマンガ、演劇などカルチャーのシーンでも、男性性を問い直すような作品が数多く見受けられるようになりました。前編ではその代表例として、アダルトビデオ監督・二村ヒトシさんの著書『すべてはモテるためである』(イースト・プレス、2012)を紹介しましたが、他にも男性の在り方に疑問を投げかけ、旧来的な男らしさのアップデートを試みるような作品がたくさん出ています。私が見聞きしてきた範囲のものになりますが、後編ではその一部を紹介していきたいと思います。

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学会&イベント information

次号予告・編集後記

精神看護 第19巻 総目次

基本情報

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精神看護
19巻6号 (2016年11月)
電子版ISSN:1347-8370 印刷版ISSN:1343-2761 医学書院

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