特集 市販薬オーバードーズ 自力での苦痛緩和と見えにくいSOSに私たちはどう応えるか
市販薬問題が私たちに訴えていること—社会が「毒親」化していないか?
松本 俊彦
1,2,3
1国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部
2日本アルコール・アディクション医学会
3日本社会精神医学会
pp.93-103
発行日 2025年3月15日
Published Date 2025/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134327610280020093
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市販薬乱用・依存の実態
近年、精神科医療の現場では、10代、20代といった若年者の市販薬乱用・依存患者が顕著に増加している。全国の有床精神科医療施設で治療を受けた薬物関連精神疾患患者の悉皆調査によれば、2018年以降、10代で最も多く乱用されている薬物は、大麻でも危険ドラッグでも覚醒剤でもなく、市販薬という状況になっている(図1、次ページ)*1。これは単に、危険ドラッグ、覚醒剤、大麻といった違法薬物を乱用する若者が少ない分、市販薬を選択する10代の割合が相対的に増えているわけではなく、絶対数が増えている。というのも、危険ドラッグ乱用禍が終焉した2016年と比較すると、2022年には10代の薬物乱用・依存患者は約4倍に増加しているからだ。
さらに強調すべきは、新たな薬物乱用層が創出されているということだ。つまり、規制強化によって危険ドラッグが入手しにくくなったから、若者たちはその代替薬として市販薬を用いているわけではない。というのも、かつて危険ドラッグを乱用していた10代の患者は男性に多く、早期に学業から離脱し、他にも非行・犯罪歴を持つ者が多かったのに対し、近年市販薬を乱用する10代の患者は女性、それも学業から離脱せず、非行・犯罪歴のない、いわゆる「よい子」が多いからだ*2。さらに、かつての危険ドラッグ乱用患者とは異なり、精神疾患を併存する者が顕著に多くなっている。なかでもストレスやトラウマに関連する精神疾患や、自閉スペクトラム症などの神経発達症の併存が目立つ傾向にある。

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