LiSA 25巻4号 (2018年4月)

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今回の「交流インタビュー」には,Brigham and Women's Hospital(BWH)の産科麻酔部門を統括しているケイマン先生にお越しいただきました。ケイマン先生は,長年‘Childbirth and pain:Cross-cultural view’の探求に取り組んでおられます。また,昨年,無痛分娩に伴う事故が日本では大きく報道されましたが,その際,ケイマン先生の一般市民に向けた記事が全国紙に掲載されたのでご覧になった方もいるかもしれません。ただ,今回は『LiSA』のインタビューということで,麻酔科医を中心とした医師に視点を置いて,私たちが今後どうしていく必要があるのか,日本の産科麻酔のパイオニアの先生も交えてお話をうかがいます。

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麻酔科術前外来のシステムが確立した施設であれば,高リスク症例は手術予定の決定時点で麻酔科外来を受診し,多職種連携のチーム医療が展開され,最適の手術実施日が患者と医療チームの合意にもとづき決定されるであろう。しかし現実は理想とは異なる。本症例のような高リスク患者の情報が,手術実施を前提として手術前日に初めて麻酔科医に知らされることもまれではない。このような場面で,手術の延期を断固主張すべしと考える麻酔科医は多いだろう。一方で,臨床ガイドラインに反してでも患者の意向を尊重して麻酔を引き受け,無事に周術期を乗り切ることこそがプロの麻酔科医の腕の見せどころである,と考える者もいるだろう。意思決定の際には自施設で利用可能な医療資源を考慮する必要もある。

 本症例の手術を予定どおり実施するか中止・延期するか。どちらの場合でも,その決定の根拠は何か。実施する場合には患者に周術期のリスクをどのように説明して理解してもらうか。中止する場合には,手術実施に合意した患者と主治医の信頼関係の間にどのように立ち入って説明し,理解を得るのか。正解のない問題であるが,カンファレンス参加者と本音の議論を展開したい。

徹底分析シリーズ 術前診察 基本の「き」

巻頭言 髙田 真二
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4月。全国で多くの麻酔科専攻医が新たに私たちの仲間に加わってくれました。これからの長い麻酔科医人生の礎となる基本の「き」をしっかり学んでほしいという思いから,テーマは術前診察です。

「麻酔は術前診察から始まる」といわれます。複数の併存疾患をもつ重症患者の手術が増加するなかで,手術患者の安全を守るために,的確な術前診察の重要性がますます高まってきています。「周術期管理センター」「術前外来」などの組織化されたシステムのなかで術前診察を行う施設も徐々に増えてきましたが,そのようなシステムが必ずしもすべての麻酔科専攻医に提供されるとは限りません。システムの有無にかかわらず,専攻医が修得すべき術前診察の基本の「き」は共通です。本特集では,現時点ではまだ多数派と思われる,術前診察がセンター化されていない施設で専門研修を始める新人麻酔科専攻医を念頭に,質の高い術前診察を行うための要点を解説しました。

 明日の術前診察からすぐに使える有益な情報が満載ですが,単なるknow-howの修得で終わらず,各執筆者がその背景に込めた術前診察の「哲学」まで感じ取ってもらえることを企画者として願っています。術前評価で判明したリスクへの対応が焦点となった今月号の「症例カンファレンス」と併せて読んでいただければ,より理解が深まるものと思います。

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「術前評価をしっかり行うことが麻酔の基本である」と麻酔科上級医が麻酔科レジデントに指導している様子に遭遇すると思います。これは,日本麻酔科学会偶発症例調査1)の結果で「術中心停止を含めた重篤な偶発症例や周術期死亡症例の過半数は術前併発症が原因である」からです。手術件数が増加し麻酔科の役割が大きくなっている中,効率よく術前診察を行う必要があります。

 本稿では,最近の麻酔科専門医試験口頭試験で出題されたテーマを手掛かりに,これから始まる専門研修で専攻医が修得すべき術前診察の知識を概観します。口頭試験の問題文をそのまま掲載することは日本麻酔科学会から許諾が得られませんでしたので,ここでは問題番号と問題の主旨(テーマ)のみを掲載し,それに対する筆者のコメントを加えます。

 日本麻酔科学会の会員は,下記URLから問題文の全文を閲覧してください。《https://nsas.anesth.or.jp/App/datura/qualification2-4.html》

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術前診察は麻酔管理の優劣を左右する大切な要素である。麻酔科医として客観的な評価を行い麻酔管理につなげる必要がある。そのために診療録の情報を適切に把握し,患者像を構築する。それを術前診察で確認し,麻酔管理の計画を立てる。インフォームドコンセントの際は,手術に向き合う患者の思いに十分配慮する必要がある。

 患者にとって麻酔科医の存在は自分が思うよりずっと大きなものであることを自覚して努力を積み重ねてほしい。

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患者が有する合併症や既往歴などの情報収集や術前検査所見の確認は,麻酔科医として全身麻酔を含む全身管理を行う第一歩となる。これらの情報を踏まえて患者を訪問し,実際に患者を診察する流れとなる。

 本稿では,患者の身体診察の実際を述べるが,次稿に気道評価の実際(420ページ)があることから,気道評価を除く身体診察全般を取り上げる。

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術前診察を誰がどのように行っているかは各施設によって異なるであろうが,特に気道評価は,手抜きは禁物!である。なぜなら他の偶発症(出血,アナフィラキシーショック,悪性高熱症,肺血栓塞栓症など)は,術前に十分備えていても予防が難しいことがあるが,気道トラブルの多くは,術前の予測や麻酔科医の技術や判断力によって危機的状況を回避できるからである。

 気道評価の研究は,2000年にLangeronらが先駆けとなり,マスク換気困難difficult mask ventilation(DMV)のリスク評価についての道を拓いた1)。その後,Kheterpalらが研究を重ね,マスク換気だけでなく,気管挿管困難difficult laryngoscopy(DL)についても議論を深めた2)。これらは術前気道評価の鍵となる論文であり,ぜひ通読しておいていただきたい。

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術前診察基本の「き」,の中には当然,術前検査のチェックが含まれる。ルーチンで行われる基本の検査には,採血(血算,生化学,凝固,感染症),心電図,スパイロメトリー,胸部X線写真などが含まれる。

 術前診察で感染症検査が未検の場合,結果が出るまで麻酔はすべきでないのだろうか? というより,C型肝炎ウイルス(HCV)が陽性だといっても,麻酔法に何ら影響はない。胸部X線写真のオーダー忘れに気づかず,写真のないまま入眠させてしまった。気管の情報が不明であれば,挿管ではなく声門上器具を選ぶべきなのだろうか? 自分の子の鼓膜チュービング術。吸入麻酔単独で5分程度で終わる手術。泣かせてまで術前血液検査を外来で行うか? おそらく多くの読者は検査なしで臨むのでは?…こう考えると,術前検査は本当に必要なのか? 逆に,絶対必要なのはどんなときか? 悩み始める。

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救急外来からの電話。急患の依頼。緊張は走りますが,麻酔の担当を指名されたら,内心ガッツポーズをとりたくなります。なぜなら,信頼できない麻酔科医に緊急手術の麻酔を任せようとは誰も思いません。そう,緊急手術の麻酔担当を指名されるということは,それだけ日頃の麻酔管理を評価され,信頼されているということなのです。そして,緊急手術だからこそ,安定した管理を提供できたときの達成感,充実感は非常に大きなものです。緊急手術の麻酔を無事に終えて,おいしいお酒を味わいたいものです。

 緊急手術でも比較的時間に余裕のある場合もありますが,本稿では,一刻も早く麻酔を導入し,手術を行う必要がある場合を前提とします。緊急時はやはりABCDが基本です。

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1941年,米国麻酔科医会American Society of Anesthetists, Inc.の求めに応じて考案された術前評価の指標,すなわちASA-Physical Status(ASA-PS)分類は,いくつかの歴史的変遷を経て現在に至っている。当初の目的は,術前患者の健康状態を簡単な指標として把握し,臨床麻酔における統計学的データの集積や比較に役立てることにあったが,周術期リスクの推定に応用されるとともに,最近では,いくつかの具体例を併記することで定義の曖昧さを是正しようとしている。ASA-PSは,術前情報さえあればその決定に特別な検査を要せず,周術期予後との密接な関連が認められることから,その基本骨格を維持したまま,過去データとの整合性を変化させることなく,今後とも利用され続けるだろう。

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麻酔の術前診察における「患者との対面」のもつ意味は二つある。「麻酔計画の立案」と「インフォームドコンセント(IC)」である。麻酔科のICは,患者-医師関係の構築から説明までを一度に短時間で行うという特徴のため,実は高度な技術が求められる。ICの成り立ち,ICに関する裁判例や,ICで説明すべき内容を整理し,日々の臨床でICを実践するための医療コミュニケーションスキルを身につけよう。

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麻酔科医のマンパワーやその他の問題により,多職種連携の周術期管理チームが導入されている施設はまだ少数です。しかし,システムが整備されていない状況でも,麻酔科専攻医には周術期医療の質の向上のために,多職種で患者情報を共有する意義を理解し,その方法を模索することが求められます。多職種で行う術前診察の意義と,システムがない状況でも実践可能な方法に関して,杏林大学医学部付属病院(当院)での実際を示しながら解説します。

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医療の複雑化,高度化や患者の高齢化に伴い,多数の併存疾患を有する重症患者の手術が増加するなかで,麻酔科医個人の努力で術前リスクを的確に把握し管理することは困難になりつつある。多職種連携の周術期管理チーム1)はその一つの解であるが,全国に普及するにはまだ解決すべき問題が数多い。周術期管理チームの機能の一部である「術前外来」システムすら稼働しておらず,麻酔科医が手術前日になって初めて患者の重大なリスクを知ることを余儀なくされる施設もまれではないのが現状である。

特集 末梢神経ブロックハンズオン120%活用術—RA Asiaのチャンスを見逃すな〈後編〉

巻頭言 末盛 泰彦
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RA Asiaが「国際カンファレンス」であることは,決して「上級者限定」であることを意味しない。

 アジア各国そして日本各地から参集するすべての講師陣が,正しい知識と安全な手技の普及という目標のもと,初心者の参加を歓迎する。先月号の前編でも示された「周到な準備」に加えて,トップランナーたちの多くの知見から「実践」を意識して自分に適したアプローチを選ぶことも「120%活用術」のかなめだ。

 最大のネックは英語だが,専門領域内での英会話はキーワードを共有することもあって,意外と耳になじみやすい。耳が慣れて議論が推察できれば「自分ならこう考える」と発言への意欲もわく。発言には勇気がいるし,もちろん成功体験ばかりともいかない。こうしたトライ&エラーの経験がもつ本当の価値について,本特集でのメッセージにぜひ耳を傾けていただきたい。改めて,「東京での国際学会」RA Asiaのチャンスをお見逃しなく。See you in Tokyo!

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体験・参加型学習であるハンズオンワークショップは,今や末梢神経ブロック(PNB)に限らずさまざまなテーマで広く開催されている。座学よりも学習効果が高いといわれる体験型学習だが,前もって知りたいことを予習したり疑問点を整理しておいたりと,準備をしておくことでその効果はさらに高まる。限られた受講時間を有効に活用して明日の臨床への糧としよう。

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国際学会のハンズオンワークショップというと英語で理解しなければならない点で不安があると思われる。しかし,区域麻酔のハンズオンワークショップのカギは解剖学に尽きる。逆に解剖の知識が中途半端では,たとえ英語が聞き取れたとしても十分な理解は得られない。本稿では,最低限押さえておきたい事柄を筆者の経験を踏まえて説明する。

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ハンズオンセミナーで自分の時間やお金を費やして学んだら,さっそく次の診療に生かしたいと思うだろう。しかし,新しいものを実臨床で運用するのは簡単ではなく,さまざまな困難に直面する。筆者は2012年に初めて超音波ガイド下末梢神経ブロックのハンズオンセミナー(麻酔科エキスパートセミナーin hiroshima 2012年10月)に参加して以降,数を重ねてセミナーに参加し,自施設臨床での神経ブロックに取り組み,周囲への啓発を含めて各地で開催されるハンズオンセミナーにもインストラクターとして従事してきた。また,筆者はこれまで2施設の常勤病院と,複数の非常勤病院で神経ブロックを行ってきた。これまでの経験を中心に,学んだ知識をいかに生かすべきか,この場で述べていきたい。

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「海外との交流なんて必要ではない」と思っていた私がその重要性を感じたのは4年前,ドイツのある施設を病院見学したときだった。私より4歳若いドイツの麻酔科医W医師がブタを使った神経障害の研究を活発に行っており,その当時,神経ブロック後の神経障害に興味があった私を丁寧に指導してくれた(このつながりは,翌年の日本臨床麻酔学会学術集会のランチョンセミナーへの招待へとつながった)。神経ブロック針と神経障害の関連性について多くを学べた充実感がある反面,英語でうまく議論ができない悔しさを覚えて帰国した。「もっと議論したい」「もっと最先端を学びたい」という思いが海外との交流の重要性を感じさせるきっかけになった。その後,数年の間に積極的に海外との交流も行うようになり,現在では海外の学会でも招待講演で講演できるようになった。

連載 ふぁ〜まこKD 第4話

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これまでのあらすじ:

ベテラン麻酔科医の高根沢先生は,他称“大先生”の若手麻酔科医に,麻酔薬の薬物動態についてレクチャーをしています。ちょうど同じような内容の講義をするために,本日は職場を離れて壇上に立ちました。

連載

THE Editorials
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Anesthesiology

Editorials:

・Sessler DI. Decision support alerts:importance of validation. Anesthesiology 2018;128:241-3.

・Javitt GH. Regulatory landscape for clinical decision support technology. Anesthesiology 2018;128:247-9.

Article:

Kheterpal S, Shanks A, Tremper KK. Impact of a novel multiparameter decision support system on intraoperative processes of care and postoperative outcomes. Anesthesiology 2018;128:272-82.

■よりよいdecision makingをするために

麻酔科医を含め,医師の仕事で重要なのはdecision makingである。「意思決定」と訳されるが,臨床の場ではdecision makingというほうがニュアンスがより伝わるような気がする。麻酔科医は患者の病歴,身体所見,検査所見などから情報を収集し,術中は手術の進行,モニタリングから得られる情報などを処理して,総合的な判断,decision makingをしている。単にその時点の状況ではなく,さらに将来的にどのようなことが起こるかの予測も重要である。多くの情報を短時間に処理するという点では,コンピュータは優れた能力をもつ。もし,周術期における数多くの患者データが入力され,AIによって処理され,アルゴリズムが形成されれば,ある程度の確率をもってどのようなイベントが起こるかのきめ細かな予想が可能になると考えられる。しかし,デジタルデータとなったものはこうした処理ができるが,外科医との会話,声のトーンや沈黙など,データ化できないものは情報として欠落することになる。ときにはこれらが,その後の手術の進行の判断に重要なものとなることがある。

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近代吸入麻酔科学のパイオニア Edmond I Eger IIの逝去

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Egerの麻酔科学への貢献

吸入麻酔薬の研究家として知られているEdmond I Eger II(Ted)が2017年8月26日,家族に見守られながら,サンフランシスコ郊外のティブロンにある自宅で息を引き取った(写真1)。87回目の誕生日が目前だった。

 若い麻酔科医は彼のことをよく知らないかもしれないが,最小肺胞濃度minimum alveolar concentration(MAC)や血液/ガス分配係数は知っているだろう。当時フェローだったLawrence Saidman(元Anesthesiology編集委員長)とともにMACの概念を生み出したのも,血液/ガス分配係数と吸入麻酔薬の薬物動態的な性質を結びつけたのもTedである。これらに関する学問体系を確立し,現在のような吸入麻酔薬の論理的な投与を可能にした。

Enjoy! ワイン

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こんにちは。“ワイン安部”です。

春になり,ワインの主役は赤ワインから白ワインや先月号で紹介したロゼ,そしてスパークリングワインに移行してきます。少し強引ですが,熱燗よりも冷酒が美味しくなってくるのと同じ感覚かもしれません。

今回は,スパークリングワインとその代表とも言えるシャンパン(シャンパーニュ)についてご紹介します。

Tomochen風独記

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2018年3月をもって,2012年3月からの6年間のドイツ生活に一区切りつけて日本へ帰国し,再び新潟大学麻酔科学教室でお世話になります。3年半以上にわたり本連載で,ドイツの日常や臨床現場で体験したいろいろなことを紹介してきました。今回は,6年間のドイツ生活の終わりを目前にした2018年3月現在の心境を綴ります。

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基本情報

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LiSA
25巻4号 (2018年4月)
電子版ISSN:1883-5511 印刷版ISSN:1340-8836 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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