LiSA 21巻10号 (2014年10月)

徹底分析シリーズ 研修医の素朴な疑問に答えます 生理メカニズム

巻頭言 稲田 英一
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麻酔管理をする際に,体内制御機構についての生理学を理解しておくことは必須である。生体にはホメオスタシスを保つための機構が備わっており,多少の外乱が加わっても,生命を維持することができる。腎臓摘出術や肺全摘術が可能であることからもわかるように,臓器機能の半分が失われたとしても,私たちは大きな支障なく生活をすることができる。400mL献血をしても,輸液を受けることもなく,直後から普通に生活をすることができるし,高山に登って吸入酸素濃度が多少低下しても,組織の酸素化は十分に行うことができる。それは,自律神経系や内分泌反応を主体とした代償機構によるものである。

 麻酔中には血圧変動が起こるが,大きな合併症を起こすことはまれである。そこには,臓器灌流を維持するための自己調節能が大きく寄与している。呼吸と心臓にも密接な関係がある。両者はともに胸腔内に位置し,肺血管系でつながっているという,物理的,解剖学的に密接な関係があると同時に,血液の酸素化や酸素運搬という機能面でも密接な関係にある。呼吸が変化すれば,循環も変化する。その逆もしかりである。このような生理的メカニズムを理解し,さらに病態生理学を理解し,それらを治療するための薬物療法や人工呼吸,透析,補助循環などの機械的療法を理解することにより,周術期管理の幅と深さは格段に向上するであろう。

 今回の素朴な疑問は,呼吸と循環・臓器循環に関する生理メカニズムを中心に取り上げた。体内調節機構の素晴らしさを感じていただきたい。また,これらの生理メカニズムを理解することにより,麻酔管理の奥深さを感じて,日々の麻酔を楽しんでいただきたいと願っている。

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血圧が上昇すると心拍数が低下するのには,圧受容体が関与している。一方で,さまざまな薬物や病態,麻酔方法が,この圧受容体反射に影響している。ここでは,血圧上昇と心拍数低下のメカニズムと,圧受容体への影響について,解説する。

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●冠動脈の解剖

冠動脈には左冠動脈left coronary artery(LCA)と右冠動脈right coronary artery(RCA)の2本がある。LCAはさらに左前下行枝left anterior descending(LAD)と左回旋枝left circumflex(LCX)に分かれる(図1)。LADは大動脈左冠尖から発生して,肺動脈の背後を通り,心室間溝を走行して心尖部に到達する。LCXは冠状溝を通って心臓の後面に達する。RCAは大動脈右冠尖から発生して房室間溝を走行し,心臓後面に達する。

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食物のエネルギーは,食物中に含まれる炭水化物,脂質,タンパク質の熱量によって決まる。これを整数化したものが,Atwaterの係数(1895年)として有名な生理的燃焼価である。炭水化物とタンパク質は4kcal/g,脂質は9kcal/gとされるが,実際の燃焼価は物質ごとに異なり,炭水化物では,グルコースで3.74kcal/g,マルトースで3.95kcal/g,デンプンで4.18kcal/gである1〜4)(ちなみに,アルコールは7.1kcal/gである)。

ヘモグロビンの知恵 村上 剛
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激しい運動時,心拍出量の増加は安静時の6〜7倍が限度だが,末梢組織に供給される酸素は約20倍にも達する。吸気中の酸素分圧は,山上や航空機内では低下し,スキューバダイビング中は上昇しているが,末梢組織内の酸素分圧の変化はわずかである。これらはみな,ヘモグロビンの力による。

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呼吸中枢は延髄にあり,呼吸筋の活動,すなわち換気をコントロールしているが,化学受容体からインプットされる情報により,その活動レベルが調節される。その概要を図1に示した。

 化学受容体は,末梢と中枢にあり,どちらも呼吸中枢へ出力される。末梢化学受容体の主たる対象は,動脈血の酸素分圧(PO2)の低下であるが,さらに,二酸化炭素分圧(PCO2)とpHの変化を感知する。中枢化学受容体は脳脊髄液のpHやPCO2の変化を感知する。化学受容体全体として捉えると,PO2の低下,PCO2の上昇,pHの低下に対して呼吸中枢を刺激して換気を促し,二酸化炭素(CO2)を体外に排出し,十分な酸素(O2)を取り込み,pHを正常に戻して,恒常性を維持するのがその役割となる。

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換気調節は,末梢と中枢の化学受容体により,酸素分圧,二酸化炭素分圧,pHを感知して,呼吸中枢の活動を調節することにより起こる*1。このなかで,通常の換気調節に主要な役割を果たしているのはどれだろうか。

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麻酔中に陽圧換気を行い動脈血圧の波形を眺めていると,その波形全体がゆるやかに上下している。もはや当たり前のように受け入れているこの事実であるが,そのメカニズムはどうなっているのか。呼吸生理学のheart-lung interactionsと呼ばれるこの研究領域の歴史は古く,そして現在も引き続き検討が進められている1)

臓器循環を決める血圧とは 伊藤 裕之
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麻酔科医が術中に血圧を気にするのは,血圧が,全身の臓器機能維持に必要な酸素やエネルギー運搬の指標になると考えているからである。ではその血圧は,具体的にどの程度ならばよいのだろうか。

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本稿では,自己調節能が強いとされる心臓と腎臓のメカニズムを中心に述べる。

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各臓器にはさまざまな強さの自己調節能が備わっている。心臓や脳,腎臓には強い自己調節能が備わっている。一方で皮膚や妊娠時の子宮には自己調節能はほとんどない。自己調節能のある臓器とない臓器の違いは,生体の機能維持における重要度の違いであろう。重要な臓器ほど自己調節能が強いと考えられている。表1に安静時の臓器別血流量を示す。

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●脳血流の調節機構には何があるか

脳は多くの機能をもつ臓器である。体重の約2%しかない臓器に心拍出量の約15%もの血液が流れている。脳には脳血流を一定に維持する機構がある。その調節機能として,化学的調節と血管平滑筋の筋原性調節がある。

 化学的調節では,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)によりpHが変化することで脳血流が調節される。化学的調節は脳代謝と血流のカップリングに影響を与えるとされ,脳代謝が下がれば脳細胞で産生される二酸化炭素(CO2)が減り,脳血流は減ることとなり,逆に脳代謝が上がると産生されるCO2が増えることで脳血流が増える。

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「高血圧患者は,健常者と比較して脳血流の自己調節能の調節域が,より血圧の高い側にシフトしている」と日常の診療で言われることが多いだろう。高血圧患者では,どうして自己調節能がこのように変化するのか,脳血流はどのようになるのかを解説する。

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献血には全血献血と成分献血とがあるが,本稿では400mLの全血献血を前提として考える。循環血液量は体重の約7%である。60kgの成人ならば約4Lであるので,献血によって10%の血液を失うことになる。

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解剖学や生理学の教科書をひっくり返しても答えがどこに書いてあるのか見つけにくいのが,“素朴な疑問”の難しいところである。そのような場合,臨床の知識から遡って答えを導くのも有効な手段である。

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腎臓の最大の役割は,体液量や血圧の恒常性を保つことである。この恒常性維持機構には,内因性調節機構(腎臓での自己調節)と外因性調節機構(神経やホルモンによる調節)があり,どちらも尿量を調節することなどによって恒常性を維持している。この機構について理解し,尿量低下について考えていこう。

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「検討する難問を,できるだけ多くの,しかも問題をよりよく解くために必要なだけの小部分に分割する」という,いわゆる分析の規則をデカルトの『方法序説』1)から引用するまでもないが,今回の素朴な疑問でも適用しよう。素朴な疑問ほど難問と信じるからだ。以下,四つの小疑問へと分割を試みたので,お付き合い願いたい。

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本稿の疑問は,「座っていても下肢から血液が心臓に戻るわけ」であるが,それに答えるには,坐位で下肢の静脈血流がうっ滞する機序についての理解が必要である。

特別講義 プロポフォール静注症候群

プロポフォール静注症候群 坪川 恒久
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プロポフォールを鎮静目的に長期間投与したときに発症するプロポフォール静注症候群propofol infusion syndrome(PRIS)は,小児に発症するまれな病態と考えられてきた。

いったん発症すると死亡率が高いため,添付文書上は「集中治療室での人工呼吸中の小児の鎮静に用いることは禁忌である」とされている。

しかしPRISは,成人であっても,麻酔中にも,比較的短時間の投与でも,低用量であっても,発症することが報告されている。

PRISは根治的な治療法が存在しないことから,発症を予防することが重要であり,そのためには,PRISの知識を整理しておく必要がある。

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連載

Editorial拝見
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The New England Journal of Medicine

Editorial:

Andersson GB. Epidural glucocorticoid injections in patients with lumbar spinal stenosis. N Engl J Med 2014;371:75-6.

Article:

Friedly JL, Comstock BA, Turner JA, et al. A randomized trial of epidural glucocorticoid injections for spinal stenosis. N Engl J Med 2014;371:11-21.

■脊柱管狭窄症に対する硬膜外ステロイド注入の効果は?

脊柱管狭窄症に対して硬膜外局所麻酔注入に加えて,グルココルチコイドの注入はよく行われている。グルココルチコイドと局所麻酔薬を併用することで,神経根の炎症や虚血が改善すると考えられている。しかし,最近は,その効果について疑問がもたれている。北米脊椎学会は2013年1月に腰部根痛における硬膜外ステロイド注入の有効性を支持したり,反対したりする根拠は不十分であると結論している。また,神経性間欠跛行を伴う脊柱管狭窄症の非外科的治療として,硬膜外グルココルチコイド注入の有効性を支持するエビデンスの質は低い,とChochraneのレビューに結論している。

連載 昼下がりの薬膳 食・薬・医

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「ロコモティブシンドロームlocomotive syndrome(運動器症候群)」とは,「運動器の障害による要介護の状態や要介護のリスクの高い状態」と,日本整形外科学会が2007年に提唱したものです。

 生活習慣病としてよく知られている糖尿病や,日本人の主要な死因であるがん,循環器疾患などについては,病気の知識や予防情報について普及しつつありますが,「運動器の障害で要介護となる恐れ(ロコモティブシンドローム)」の認知度は高くないように感じます。しかし,世界に類をみない勢いで高齢化が進む日本においては,要介護者の割合をいかに減らすかが大切で,ロコモティブシンドロームの予防対策はとても重要です。

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私は麻酔科医ではないが,縁あってLiSAの編集会議に参加している。臨床医学の現場を離れて長い私にとって,編集会議で活発に討論される麻酔現場でのトラブルシューティングの話は大変に刺激的で,あたかも自分が手術室にいるかのような錯覚にとらわれることもしばしばである。

 先日の編集会議で,『Anesthesiology』に掲載されたある学術論文に対して疑義を訴えた体験記について話題になった*1。学術論文の内容は専門性が高く,追試実験を行ってその真偽を確認することは容易ではない。比較的実験条件のコントロールがしやすい生化学系の実験でも,論文に記載された実験条件を完全にトレースすることは難しい。ましてや,患者を対象とした臨床研究の条件を論文と完全に揃えるのは不可能であろう。

 こうした討論のなかで,私自身の「Scienceに掲載された論文のリトラクションにかかわった」経験を紹介することになった。

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11月1日(土)〜3日(月・祝)は日本臨床麻酔学会 第34回大会が東京で開かれます。

そこで今回は,東京医科大学病院麻酔科の屋良美紀先生に,地元住民だからこそ知る東京の名物,お土産,観光地などの情報をご紹介いただきます。旅のお供に是非LiSAを!

連載 Tomochen風独記

⑩オクトーバーフェスト 山本 知裕
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日本でも有名なドイツのお祭りの一つがオクトーバーフェスト(Oktoberfest)でしょう。近年は,日本各地でも夏に“オクトーバー”フェストが行われているので,体験済みの方もいるかもしれません。しかしドイツのオクトーバーフェストは,日本で行われるものよりはるかに大規模です。

 今回は,ドイツ留学初年の2012年に,ミュンヘン在住のドイツ人の友人を頼って家族を連れてミュンヘンまで足をのばし,私が実際に体験したオクトーバーフェストについてご紹介します。

連載 知識をいかに体系化するか

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英語教育の道筋を考察します。私は「やがて英語の重みが増す」と想定するのですが,道筋は現状と大幅に異なるわけではありません。

連載 当世 問はずがたり

民主主義のいい加減さ 石黒 達昌
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先日,新聞で見かけた若い政治学者の論説に感心しました。最高裁判所の判事は内閣が指名するのだから,時の政権の意向が反映されるのはもちろんのことで,憲法の実際的な運用がその文言と別の場所に存在するのもしごく当然のことだ,というのです。一見,民主主義に反するようですが,結局は内閣を決めているのは民意なのだから,日本の民主主義はそのようなものでしかない,という現実論です。曰く,現実に即した閣議決定のほうが理想論を謳う憲法より上位に位置していても何の不思議もない,と。確かに,政治の世界における現実重視は日本だけのことではありません。平和主義を公約に大統領になり,ノーベル賞までもらったオバマさんだって,国益のためには何のためらいもなしに戦争を始めてしまうのを見れば明らかです。

 その逆に,ここ数年,戦時下において,理想を失わなかった兵士たちの映画やドラマがやたらと目につくようになりました。具体名はあえて挙げませんが,それらが実証にもとづくNHKスペシャルなどで語られると,まったく違う様相を呈しているのには驚きです。ドラマでは戦時下における知将の英断とされているものが,実は,大本営の戦略変更にすぎなかったでは,興ざめです。しかし,戦争こそ現実論によって行われているわけですから,そこに理想やロマンがなくても何の不思議もないわけですが…一億総火の玉になって個を殺し,欽定憲法のもと,命を捧げたというのが本当のところではなかったのでしょうか。実際,戦時下,ろくな芸術が生まれませんでした。

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日本の麻酔科医にとってsonography(超音波)といえば,経食道心臓超音波や超音波ガイド下末梢神経ブロックが広く浸透しています。しかし,「麻酔科医が得意とする気道,呼吸,循環などに対して,もっと手軽に超音波を利用したい!」というコンセプトで,第三の超音波分野として,麻酔・救急・集中治療に携わる者が集まり,2014年にAirway Breathing Circulation Dysfunction of central nerve system and Deep vein thrombosis(ABCD)sonographyを発足することになりました。日本は世界中のCTの1/3が集まる放射線画像大国なのですが,急性期医療での超音波の利用は,実は海外のほうが進んでいる,ともいえます。そこで今回,ABCD sonographyの発足に携わる13名が集い,同様のコンセプトを展開しているUSabcdワークショップを視察するため,デンマークのコペンハーゲンに出かけました。

Medical Books 自薦・他薦

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from LiSA
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◆運転免許証の更新手続きをしてきました。私は優良な人間ですので(“優秀”とか“善良”とかではないのが残念),必要最小限の手間で済むようになっています。それでも,30分の講習受講は必須です。50人を1部屋に詰め込んで(飛行機のエコノミークラスと同等の隙間しかありません),交通安全へ意識を更新することが目的です(たぶん)。

 東京のど真ん中の更新センターですから,毎日大勢が詰めかけます。9時から4時までに計8回の講習だとしても,1日に400人。受講者は毎回変わり,けれども発信するメッセージは変わらない。この状況で,講師にマンネリモードが生じないわけがありません。実際,前回の更新時は,変更された交通法規について簡単に説明した後,教育ビデオを流しておしまいだったような…。早く解放されて帰りたい。誰もが思っていたことでしょう。

◆ところが,今回の講師F川さんは違いました。「テキストの7ページを」と言いながら,掲げる自身のテキストは,すっかりページがめくれ上がっていますし,背後のホワイトボードに貼ってある高齢者運転マークを手にする際の流れるような動きは,確かに同じことを毎日,何回も繰り返していることを表しています。それでも彼女は,皆が耳にしたことのある,無免許運転で小学生が何人も死亡した数年前の事故のニュースをわれわれに想起させ,交通事故が被害者・加害者双方にとって,いかに痛ましい出来事なのかを切々と語ります。

 30分はあっという間に過ぎ,安全意識が更新された私は,これまで事故に遭わず,事故を起こさず生きてこられた偶然に感謝していました。そこには,生身の人間が,気持ちを込めて語ることで生じるエネルギーが確かにありました。

◆街中には,効率的なサービスを追求した結果,録音によるアナウンスがあふれています。それぞれに意義はなくはない。ワンマン運転の地下鉄で停車駅のアナウンスが録音テープなのは大歓迎。走行中,数分の遅延にスピードを上げながら「深くお詫び申し上げ」られると,“それはいいから,運転に集中してくれ”と思いますから。エスカレーターの足元を気にしてくれているのは,「注意を促した」という状況が必要なのでしょう。本当に危険極まりないのであれば,各機にエスカレーター係を配置するはずです。

 術前の麻酔の説明にビデオを活用している施設もあると思います。ビデオの予習で,医療者と一般市民との間にある知識のギャップを埋めるのは有意義です。でも,その患者さんにきちんと伝えたい・理解して欲しいことは,生身の人間が向き合い語るのだろうと思います。

◆何を,誰に,どうやって伝えるか。文書にすれば記録として残るし,メールであれば先方の都合を気にせず発信できるという気楽さもあります。でも,大切なメッセージをしっかりと伝えたいときは“肉声で直接”が基本でしょう。

 LiSA編集部から「原稿はまだですか?」という電話があったときは,どうぞお察しください。

基本情報

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LiSA
21巻10号 (2014年10月)
電子版ISSN:1883-5511 印刷版ISSN:1340-8836 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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