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■症例
70歳の独居男性。身長170cm,体重80kg。朝から続く腹痛で,夜も眠れないほどになったため23:00に救急外来を受診した。その後の診察で,大腸憩室の穿孔に伴う汎発性腹膜炎の診断となり,緊急手術が申し込まれた。
当直の麻酔科医が外科医に既往症を聞いたところ「高血圧・高尿酸血症と軽度の耐糖能異常くらいで,普通に一人暮らしをしていたようです」とのことだった。お薬手帳は家に忘れて内服薬は不明だったが,問診では「血圧と血の巡りをよくする薬を飲んでいる」という情報が得られた。腹痛のため,朝から飲まず食わずだった。
…
CT画像で胃内容物はなかったため,プロポフォール・レミフェンタニル・ロクロニウムによる急速導入を計画した。手術申し込み後ただちに手術室へ搬送され,左中指にパルスオキシメータ,右上腕に非観血的血圧計が装着された。心拍数(HR)80bpm洞調律,血圧(BP)183/98mmHg,経皮的末梢動脈血酸素飽和度(SpO2)99%だった。このときのパルスオキシメータ波形を図1に示す。
前酸素化の後に麻酔薬の投与を開始した。プロポフォール100mgを静注したところ,すみやかに入眠が得られた。ロクロニウム50mgを投与し,セボフルランのダイアルを1%として用手換気を開始した。このときのバイタルサインはHR 75bpm洞調律,BP 113/58mmHg,SpO2 100%だった。このときのパルスオキシメータ波形を図2に示す。
筋弛緩モニターでTOF 0になるのを用手換気しながら待った。ロクロニウム投与後3分経過した時点でTOFが0になったため,気管挿管をしようと喉頭鏡に手を伸ばした瞬間にパルスオキシメータの音階が下がり始めたのが聞こえた。担当麻酔科医は「おや?」と思いつつモニターに目をやると,HR 68bpm洞調律,SpO2 96%,非観血的血圧計は駆血をしている最中だった。このときのパルスオキシメータ波形を図3に示す。
血圧の計測が終わるのを確認してから気管挿管を行おうと,用手換気を継続することにした。非観血的血圧計の計測が時間超過によるエラーになったため,再計測のボタンを押した。1分ほど待ったが測定結果が出ない。SpO2も80%台まで低下したことを示していたため,やむなく気管挿管を行った。気管挿管はスムーズに成功し,胸部聴診を済ませたところでパルスオキシメータの音色がエラーになっていることに気づいた。モニターに目をやると,HR 42bpmでBPとSpO2はエラーを表示していた。このときのパルスオキシメータ波形を図4に示す。
人工呼吸器を作動させ,看護師にマンシェットの交換とパルスオキシメータ装着部位の変更を指示した。観血的動脈圧ラインを確保すべく左前腕を触診したが,橈骨動脈の拍動は触知できなかった。エフェドリンを投与しようとシリンジの準備をしている最中に,HR 30bpmとなり,心電図でP波の消失を認めた。ショック状態と考え頸動脈を触知したが,拍動は触れなかった。無脈性電気活動(PEA)と判断し,胸骨圧迫が開始された。

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