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◆運転免許証の更新手続きをしてきました。私は優良な人間ですので(“優秀”とか“善良”とかではないのが残念),必要最小限の手間で済むようになっています。それでも,30分の講習受講は必須です。50人を1部屋に詰め込んで(飛行機のエコノミークラスと同等の隙間しかありません),交通安全へ意識を更新することが目的です(たぶん)。
東京のど真ん中の更新センターですから,毎日大勢が詰めかけます。9時から4時までに計8回の講習だとしても,1日に400人。受講者は毎回変わり,けれども発信するメッセージは変わらない。この状況で,講師にマンネリモードが生じないわけがありません。実際,前回の更新時は,変更された交通法規について簡単に説明した後,教育ビデオを流しておしまいだったような…。早く解放されて帰りたい。誰もが思っていたことでしょう。
◆ところが,今回の講師F川さんは違いました。「テキストの7ページを」と言いながら,掲げる自身のテキストは,すっかりページがめくれ上がっていますし,背後のホワイトボードに貼ってある高齢者運転マークを手にする際の流れるような動きは,確かに同じことを毎日,何回も繰り返していることを表しています。それでも彼女は,皆が耳にしたことのある,無免許運転で小学生が何人も死亡した数年前の事故のニュースをわれわれに想起させ,交通事故が被害者・加害者双方にとって,いかに痛ましい出来事なのかを切々と語ります。
30分はあっという間に過ぎ,安全意識が更新された私は,これまで事故に遭わず,事故を起こさず生きてこられた偶然に感謝していました。そこには,生身の人間が,気持ちを込めて語ることで生じるエネルギーが確かにありました。
◆街中には,効率的なサービスを追求した結果,録音によるアナウンスがあふれています。それぞれに意義はなくはない。ワンマン運転の地下鉄で停車駅のアナウンスが録音テープなのは大歓迎。走行中,数分の遅延にスピードを上げながら「深くお詫び申し上げ」られると,“それはいいから,運転に集中してくれ”と思いますから。エスカレーターの足元を気にしてくれているのは,「注意を促した」という状況が必要なのでしょう。本当に危険極まりないのであれば,各機にエスカレーター係を配置するはずです。
術前の麻酔の説明にビデオを活用している施設もあると思います。ビデオの予習で,医療者と一般市民との間にある知識のギャップを埋めるのは有意義です。でも,その患者さんにきちんと伝えたい・理解して欲しいことは,生身の人間が向き合い語るのだろうと思います。
◆何を,誰に,どうやって伝えるか。文書にすれば記録として残るし,メールであれば先方の都合を気にせず発信できるという気楽さもあります。でも,大切なメッセージをしっかりと伝えたいときは“肉声で直接”が基本でしょう。
LiSA編集部から「原稿はまだですか?」という電話があったときは,どうぞお察しください。
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