連載 当世 問はずがたり
民主主義のいい加減さ
石黒 達昌
pp.1024
発行日 2014年10月1日
Published Date 2014/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101200006
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先日,新聞で見かけた若い政治学者の論説に感心しました。最高裁判所の判事は内閣が指名するのだから,時の政権の意向が反映されるのはもちろんのことで,憲法の実際的な運用がその文言と別の場所に存在するのもしごく当然のことだ,というのです。一見,民主主義に反するようですが,結局は内閣を決めているのは民意なのだから,日本の民主主義はそのようなものでしかない,という現実論です。曰く,現実に即した閣議決定のほうが理想論を謳う憲法より上位に位置していても何の不思議もない,と。確かに,政治の世界における現実重視は日本だけのことではありません。平和主義を公約に大統領になり,ノーベル賞までもらったオバマさんだって,国益のためには何のためらいもなしに戦争を始めてしまうのを見れば明らかです。
その逆に,ここ数年,戦時下において,理想を失わなかった兵士たちの映画やドラマがやたらと目につくようになりました。具体名はあえて挙げませんが,それらが実証にもとづくNHKスペシャルなどで語られると,まったく違う様相を呈しているのには驚きです。ドラマでは戦時下における知将の英断とされているものが,実は,大本営の戦略変更にすぎなかったでは,興ざめです。しかし,戦争こそ現実論によって行われているわけですから,そこに理想やロマンがなくても何の不思議もないわけですが…一億総火の玉になって個を殺し,欽定憲法のもと,命を捧げたというのが本当のところではなかったのでしょうか。実際,戦時下,ろくな芸術が生まれませんでした。
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