わたしの大切な作業・第31回
作って食べると無心になれる
深緑 野分
pp.1257
発行日 2020年11月15日
Published Date 2020/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202301
- 有料閲覧
- 文献概要
疲れたなあ、と言いながらも、台所に立たないと何だか調子が悪い。私は主婦ではなく、同居人が三食すべてを作ってくれる日もあるが、それでも毎日、なにがしか台所で手を動かしている。無心になれて良いのだ。
ついさっきもそうだ。仕事の疲れから調子が上がらずごろごろしていたけれど、空腹に耐えかねて冷蔵庫から長ネギ、キュウリ、チャーシューを出して刻み、味塩とラー油で和えて簡単な惣菜を作って食べた。野菜を切るのは面倒だけれど、それでもスライサーを使わないのは、包丁を扱うのがなんだかんだで好きだから。昔読んだ『冒険図鑑』(福音館書店)の記憶によると、包丁は刃だけでなく背や柄も扱えば、たいてい一本でこと足りる。木のまな板の上で包丁をトントンリズム良く動かしているとほっと落ち着く。騒がしい頭がしんと静かになる。
Copyright © 2020, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.