産婦人科の実際 69巻2号 (2020年2月)

特集 日本の周産期事情update―出生コホート研究からわかったこと―Ⅱ

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出生コホート研究とは,胎生期と出生後の環境がどのように児の発達に影響を与えているかを明らかにする観察研究である。したがって,妊産婦の食生活,健康状態や疾病についても調査が行われている。日本では,複数の出生コホート研究が行われており,これらの知見に基づいたわが国独自のエビデンスが蓄積されてきている。本特集では,前号に続き,日本の出生コホート研究(前向き研究)などから得られた最新の知見を中心に紹介していただいた。

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周産期メンタルヘルスケアにおいては,精神疾患および精神障害のリスクをより早期に評価することが重要である。婦人科良性疾患や月経異常は,非妊娠期女性の身体的症状だけでなく,精神状態にも影響しQOL(quality of life)を低下させることが知られている。さらに,大規模出生コホート「エコチル調査」をはじめとする疫学研究により,周産期においても女性の精神状態に影響することが明らかになってきた。妊娠以前の月経歴に関して詳細に情報収集することや婦人科良性疾患について慎重に評価することは,周産期を通じた女性メンタルヘルスケアの向上につながる可能性がある。

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胎児期や乳幼児期などの生涯の早い段階における環境は,将来の健康状態に影響を与える。また将来の生活習慣病のみならず,精神神経系などのあらゆる発達に対する影響も含めた非感染性疾患(NCDs)の発症のリスクと関連することが明らかになっており,DOHaDという概念として提唱されている。そのなかで低出生体重児は,循環器系疾患,2型糖尿病,慢性閉塞性肺疾患,精神発達異常など将来のNCDsの発症のリスクが高いことが明らかになってきており,出生体重はNCDs発症の重要因子の1つであると考えられる。出生体重を規定する要因としては,遺伝因子のみならず子宮内環境などによるエピジェネティクスを介することが報告されている。両親の体格に関しては,母親の体格が出生体重に与える影響はよく知られているが,父親の体格が出生体重に与える影響については,一致した見解はない。

子どもの健康と環境に関する全国調査「エコチル調査(JECS)」は,環境省の事業として2010年度から開始された環境化学物質の健康影響に主眼をおいた出生コホート研究である。われわれは,わが国において最大規模の疫学調査である「エコチル調査」のデータを用いて,全国15カ所の地域における約10万組の親子の出生体重と父親の体格に関する関連性を検討した。

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エコチル調査の結果から,母親や父親にアレルギー疾患の既往が多いことが明らかとなった。また,母親のアレルギー疾患とうつ,QOL低下が関連すること,母親のアトピー性皮膚炎の既往がSGAのリスクになる可能性があることも示された。成育コホート研究からは,妊娠中の塩酸リドトリン投与が5歳の子どもの喘息のリスクになることや,2歳までの抗菌薬使用が5歳時の喘息,鼻炎,アトピー性皮膚炎と関連することも明らかとなった。今後,妊娠中や出産後の環境曝露が子どものアレルギー疾患と関連するか明らかにしていく必要がある。

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近年,周産期の環境が児の神経発達や自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如・多動症(ADHD)などの神経発達症の発症にも影響を及ぼす可能性が指摘されている。これまでに海外から周産期の糖尿病,高血圧,向精神薬の使用などとの関連が報告されているが,われわれが2007年に立ち上げた「浜松母と子の出生コホート研究(HBC Study)」においては,周産期のBMIやうつ病,在胎週数比低出生体重,出生体重/胎盤重量比,さらには出生時の季節などが児の神経発達や神経発達症の発症と関連していることが明らかになってきた。今後は,これらの周産期環境のもたらす長期的な影響や,生物学的なメカニズムを明らかにしていくことが望まれる。

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妊娠期の縦断的な生体情報レファレンスデータの構築,および周産期疾患の早期発症予測技術の開発を目的として,NTTドコモ社との共同研究により「マタニティログ調査」が実施された。研究対象は,東北大学東北メディカル・メガバンク機構の推進する三世代コホート調査に参加し,本研究に同意した302名となった。取得した日々のライフログデータの登録率は65.8~85.3%であり,約600万点のデータが登録された。これらにより,妊娠中の縦断的なライフログ変動パターンが明らかとなり,メタボローム,トランスクリプトーム,口腔マイクロバイオーム解析のデータと併せて,周産期疾患の早期発症予測アルゴリズムの開発が期待されている。

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メチル水銀は水俣病の原因物質として知られている環境汚染物質であるが,公害レベルよりも低い曝露レベルで有害影響を有することがわかってきた。東北コホート調査はメチル水銀などの化学物質の胎児期曝露の影響を明らかにすることを目的に2001年より開始された出生コホート調査で,現在も継続中である。東北コホート調査の概要を含め結果の一部を紹介したい。

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環境と子どもの健康に関する北海道スタディは,2000年代初めに開始した前向き出生コホート研究である。北海道全域を対象とした大規模コホート(20,900組あまりの母子ペア),札幌市の1産院(514組の母子ペア)を対象とした2つの集団で,妊娠期の環境要因と先天異常,出生時,および生後の子どもの成長,発達,アレルギー,ADHDなど発達障害を追跡調査している。北海道スタディは,特に低濃度の環境中の化学物質曝露による,次世代の健康への影響を詳細に観察している,世界でも早い時期に開始した地域に基づいた出生コホート研究で,すでに開始から15年あまり継続し,臍帯血中濃度などの微量分析によるリスク評価を実施している。本稿では,妊婦,出生時アウトカムに焦点をあて,最新の知見を解説する。

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わが国で初めてスマートフォンが発売されてから10年以上が経過し,スマートフォンはわれわれの生活に欠かせないものとなりつつある。近年は,医療分野においても,スマートフォンの多様な活用方法が報告されるようになった。今回は,スマートフォンに関する様々な臨床研究を紹介するとともに,医療分野における携帯情報端末の位置づけについて論じる。

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早発卵巣不全(premature ovarian insufficiency;POI)の不妊治療は晩婚化が進行するなか重要性を増している。また,卵巣手術後に発生する卵巣機能低下が近年注目されており,医原性POIをきたすこともある。本稿では妊孕能温存を希望する患者の卵巣手術後の適切な管理を考察することを目的とし,卵巣手術後POIの不妊治療経過について自然発症POIと比較し,解析した。その結果,卵巣術後POIの不妊治療成績は自然発症POIに比べ不良であることが示唆された。卵巣術後POIでは無月経期間が不妊治療成績を左右する因子となる可能性がある。卵巣術後は卵巣機能のフォローアップを継続的に行い,著しい機能低下を可能な限り早く検出するよう努め,適切な介入を行うことが重要である。

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当院における常位胎盤の経腟分娩において,胎盤の自然剝離がみられず胎盤用手剝離術を施行した症例の臨床像を明らかにすることを目的とした。4年間の経腟分娩は2,385例あり,胎盤用手剝離術を施行した23例(0.96%:M群)について,1年間の単胎経腟分娩559例(C群)と比較した。M群で出血量が多く,不妊治療歴が多かった。M群の分娩第3期は中央値2時間58分であり,輸血施行14例,子宮摘出3例,IVR施行は1例であった。M群は出血量が多く胎盤娩出まで長時間を要する傾向があるため,常位癒着胎盤が疑われる症例では個々に応じて待機療法や,速やかな輸血の準備・IVR・子宮全摘術などの医学的介入も考慮する。

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本研究では,当センターで管理した卵子提供妊娠症例を後方視的に検討した。顕微授精(ICSI)妊娠124症例を対象とし,卵子提供・ICSI群(n=12)と自己胚・ICSI群(n=112)の2群に分けて,患者背景,産科合併症,周産期転帰を比較した。卵子提供妊娠は,夫婦ともに高齢で,共働きが多かった。卵子提供妊娠の産科合併症と周産期転帰は,自己胚妊娠と同等であり,臨床的に許容されるものであった。一方で卵子提供妊娠では,様々な身体的・社会的・精神的ストレスを抱えており,社会的支援が必要であると考えられた。医療機関は,行政機関と一体となって地域ネットワークを構築し,地域共存社会を推進することが重要である。

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黄体化過剰反応は莢膜ルテイン囊胞が多発・腫大した状態であり,内因性の高hCG状態により発症することが多いが,正常単胎妊娠にも稀に発症することがあると報告されている。また,母体高アンドロゲン血症により一部の症例では母体の男性化徴候の報告がある。本症例は,初回単胎妊娠時に黄体化過剰反応を発症し母体の男性化徴候を呈し,次回妊娠時は正常妊娠であったという点で貴重な症例と考えられたため,文献的考察を加え報告する。

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成熟囊胞性奇形腫は,腫瘍内容の漏出により化学性腹膜炎を併発することがあり,治療の原則は病巣切除と腹腔内洗浄である。今回,成熟囊胞性奇形腫に関連した化学性腹膜炎の症例を2例経験したので報告する。症例1は腹腔鏡下成熟囊胞性奇形腫切除後に遷延する腹痛,発熱,CRP上昇を認め,MRI所見から化学性腹膜炎と診断し腹腔内洗浄を施行した。症例2は経腟分娩後,遷延する発熱,CRP上昇,腹水を認め,CT所見から成熟囊胞性奇形腫破裂に伴う化学性腹膜炎と診断し,腫瘍切除,腹腔内洗浄を施行した。2症例とも現在まで化学性腹膜炎再燃を認めない。

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産婦人科の実際
69巻2号 (2020年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0558-4728 金原出版

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