産婦人科の実際 69巻10号 (2020年10月)

特集 内膜を極めるⅠ―内膜の機能と着床をめぐる最近の話題―

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子宮内膜の主な機能は受精卵の着床の場であり,生殖補助医療(ART)の臨床や研究においてその解明は重要である。受精卵に対する臨床や研究はPGT-Aやゲノム編集などの報告もあり,より顕著で話題性に富んでいる一方,子宮内膜はブラックボックス的な要素もあり,研究が遅れているという印象をもつ方も少なくないと推察される。

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子宮内膜をめぐって臨床的に生殖医を悩ませる課題はいくつもあるが,そのなかでも,菲薄化した子宮内膜を厚くして妊娠率を上げる工夫,着床の窓(WOI)を予知する工夫は重要な課題である。しかし,子宮内膜菲薄化についての議論は比較的新しく,原因,着床不全の病態が明確になっているわけではない。また,WOIに関しても胚移植の窓(WOT)との区別があいまいで,個人のWOIの持続期間と一般女性におけるその分布もときとして混同されている。本稿では,子宮内膜の構造と機能の周期的な変化をまとめることを通して,これらの課題の不明瞭な点について検証したい。

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着床は,受精した胚が子宮内膜に接着・浸潤・胎盤形成・発達していく妊娠成立の最初のステップである。黄体ホルモン(P4)は妊娠過程において各種の重要な役割を担っており,着床時にも子宮に対して重要な働きをしていると考えられている。まだ着床の詳細なメカニズム,P4の作用機序に関して十分には理解されていないが,多くの基礎研究から徐々に詳細なメカニズムが解明されてきている。遺伝子改変マウスモデルなどを用いた着床にかかわる分子機構の解析も進みつつある。基礎研究の成果は,生殖・周産期医学への還元が期待される。

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ヒトの子宮内膜はプロゲステロンにより脱落膜化し,着床時期が形成される。脱落膜細胞は胚に対する受容性と選択性をもち,妊孕性のある胚がくれば受容し,一方妊娠まで至らない異常胚がくれば着床しない機序がある。その受容能の障害,もしくは選択能の促進が着床不全となる可能性がある。受容能を阻害する因子として,新鮮胚移植における早期プロゲステロン値の上昇や,抗老化作用をもつレスベラトロールやラパマイシン,脱落膜化を阻害する慢性子宮内膜炎が挙げられる。一方,不良胚と良好胚を同時に胚移植すると,不良胚が選択能を促進し良好胚の着床を阻害する可能性がある。至適な脱落膜化を誘導することが,不妊治療における妊娠率の向上に重要である。

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ヒト子宮内膜が着床能の受容をもつ期間は個体差があるとされており,着床時期に変化する特異的な遺伝子の発現をもとに子宮内膜受容能を評価する子宮内膜着床能検査(ERA®)が普及してきている。ERA検査結果により黄体補充を調整後に胚移植を行うことで妊娠成績の改善が多数報告されている。本稿では,ERA検査の紹介,現在までに報告されている知見,そして当施設での臨床成績を踏まえて報告する。

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慢性子宮内膜炎(CE)は,着床障害の原因になりうるのみではなく,妊娠予後にも影響することが明らかとなってきた。また,不妊症や習慣流産の患者におけるその頻度から診断と治療は重要であると考えられる。CEは,細菌などに対する抗原の持続的な子宮内膜の応答とされ,着床ならびに妊娠維持に影響を及ぼすと考えられる。抗菌薬治療などにより不妊に対しては胚受容能の改善が報告されており,治療可能な疾患であるといえよう。

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凍結融解胚盤胞移植時の非侵襲的な検査結果は,着床時の子宮内フローラと妊娠・出産との関係を最も反映していると考えられる。これまでに,ラクトバチルス菌優位の場合に妊娠率が高いとする報告が多いが,移植時のラクトバチルス菌が0%の場合でも妊娠継続する症例が報告されている。また,月経周期,性行為,生殖補助医療(ART)の手技などでフローラは変動することから,食生活や生活習慣,口腔・腸内細菌と腟環境との関係,検査時期,診断基準や治療方法など詳細な検討が必要である。現在,次世代シーケンサー(NGS)による慢性子宮内膜炎の診断に対する抗菌薬投与が多くなっているが,本来の免疫力を強化し,耐性菌を考慮した最適化が望まれる。

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ヒト子宮内膜は,生殖期間を通じて月経周期ごとに組織再生を反復する。そのユニークな組織特性から,以前より特有の組織幹細胞システムの存在が示唆されてきた。近年,子宮内膜幹細胞の存在が証明され,その挙動や機能も様々なアプローチにより明らかになってきた。今後,幹細胞の観点から,子宮内膜の生理メカニズムや子宮内膜症などの子宮内膜関連疾患の病態メカニズムが解明されていくことが期待される。また,一連の子宮内膜幹細胞に関する研究と連動して,子宮内膜の再生医学・再生医療への応用も始まっている。本稿では,子宮内膜の幹細胞研究の現状と再生医学・医療への応用について概説する。

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子宮内膜の最も重要な機能は着床の場を提供することであるが,その菲薄化は機能障害をきたし難治性不妊の原因となる。われわれは臨床研究として,再生医療の1つである多血小板血漿(PRP)を,反復着床不全を繰り返す菲薄内膜症例(7mm以下)に投与し,子宮内膜の有意な増殖肥厚と着床率改善を確認した。現在実地臨床を行い,成果を挙げている。臨床研究,実地臨床を通じて,内膜菲薄化の原因として子宮に対する手術が多くを占め,手術に際し子宮内膜機能温存に留意する必要性を認めた。なお実施にあたっては,再生医療等安全性確保法を順守することが必須で,産婦人科PRP研究会を通じて安全な普及を図っている。

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子宮内環境は胚移植の成功率を大きく左右する。幹細胞馴化培地を子宮内に投与し子宮内膜の遺伝子発現を調整することで,胚着床・妊娠継続に最適な子宮内環境を作成できると考えた。月経血幹細胞(MenSC-CM)および臍帯間葉系幹細胞馴化培地(UC-MSC-CM)に着目し,サイトカインアレイで解析したところ,両馴化培地ともに種々のサイトカインが豊富に含まれていた。子宮内膜再生増殖法(ERP)として融解胚移植周期中の患者の子宮内にこれらの馴化培地を投与したところ,非投与周期と比較して投与周期の流産率が有意に低下した。MenSC-CMおよびUC-MSC-CMは胚移植の成功率を改善するために有用な治療法と考えられた。

10.子宮内膜蠕動運動と着床 中島 章
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月経周期により子宮の運動が変化することは以前より知られている。今回,cine MRIを使用しその変化を解析した。月経時期は子宮筋層全体が連動して子宮底部から子宮頸部方向へ蠕動し,排卵時期は内膜直下の筋層が子宮頸部から子宮底部方向へ頻回に蠕動し,黄体期はこれらの頻度が低下する。これらの異常は不妊の原因となる可能性が指摘されている。子宮筋腫を有する不妊症例や原因不明不妊の精査としてcine MRI検査の有用性が報告されており,その蠕動の評価から治療方法を検討することで,妊娠率が向上していくことを期待したい。

11.PCOSの内膜管理 原田 美由紀
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多囊胞性卵巣症候群(PCOS)は生殖年齢女性において罹患率の高い疾患である。PCOSは子宮内膜癌のリスク因子であり,非PCOS患者に比し2~6倍発症頻度が高い。PCOS患者において子宮内膜癌発症予防のための管理法は確立されていないが,ハイリスクであることを念頭におき慎重に管理することが求められる。PCOSの子宮内膜においては様々な遺伝子発現異常が報告されているが,臨床的な意義については今後の研究が待たれる。

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腹腔内温熱化学療法(HIPEC)における工学サイドから将来的に支援可能な機器の開発に必要な条件を含めた技術について,加温および測温技術を軸に検討を行う。高周波・マイクロ波などの物理エネルギーを用いた加温を行う際に必要な生体の電磁気的な特性について触れ,それら特性を有効に活用した新しい加温・測温方法の可能性についてまとめる。理工系の新しい技術導入を含めた医工連携による,今後のさらなるハイパーサーミアの技術向上に資する。

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リンパ脈管筋腫症(LAM)は肺,後腹膜・骨盤内リンパ節,縦郭,腎臓などに平滑筋様細胞が過形成する疾患で,有病率は100万人に1.9~4.5人と低いものの病態の解明が徐々に進み,国家試験の常識疾患となり,臨床現場で耳にする機会が増えてきた。LAM細胞は結節性硬化症(TSC)の原因遺伝子といわれるTSC遺伝子の変異により形質転換した腫瘍細胞といわれているが,LAMの多臓器病変の病理組織からエストロゲンレセプターやプロゲステロンレセプターが多数報告され,妊娠や女性ホルモン剤で悪化,産褥および閉経で緩和することよりエストロゲンやプロゲステロン,さらにはプロラクチンとの関わりも報告されている。発症者は女性,特に生殖可能年齢に多いことから,産婦人科医も情報を共有すべき疾患と考える。LAMを有する女性の妊娠,避妊,月経随伴症状や子宮内膜症の治療など,産婦人科として携わる機会は多い。国内外でLAM合併妊娠が報告されているが,子宮内膜症合併例の治療についての報告はほとんどない。抗エストロゲン療法によるLAM治療の報告も複数あるが見解は一致していない。

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女性アスリートの三主徴(FAT)が注目されるようになり,当院女性アスリート外来に月経発来の遅延を主訴に受診する患者が増加した。女性アスリートにおける初経発来の遅延率は一般女性よりも高く,競技年齢開始との関連性が報告されている。本稿では,月経発来の遅延を主訴に受診した女性アスリートに行った調査について述べる。思春期遅発症・原発性無月経の原因の大部分は摂取可能エネルギー不足であり,持久・審美系競技に多く,競技を二次性徴前に開始したアスリートに多かった。骨密度の低下を認める思春期遅発症も多く,栄養面などの治療介入の検討を要した。また,無月経のなかに先天性疾患も含まれ,詳細な問診と婦人科ガイドラインに沿った診断が重要だった。女性アスリートの診療は栄養指導,精神サポート,整形外科的治療など産婦人科医のみでなく,多角的な側面からの総合的支援が重要である。

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直腸癌術後に発生した直腸腟瘻の2例に対し,経腟的に修復手術を行ったので報告する。症例1は,直腸腟瘻発生2年後に,瘻孔の周囲を十分に剝離し直腸の移動性を確保したうえで瘻孔周囲の健常な直腸を吸収糸で巾着縫合を行い,手術の2カ月後に瘻孔閉鎖を確認した。症例2は,直腸腟瘻発生6カ月後に手術を行った。本症例は症例1より瘻孔が大きいため,子宮脱手術時の後腟壁形成術様に腟粘膜を剝離しながら瘻孔周囲にアプローチした。瘻孔口側に瘢痕組織を認めたが,健常な直腸粘膜を確保することができ,これを縦に縫合し術後47日目に瘻孔の閉鎖を確認した。以上のように直腸腟瘻修復手術においては,瘻孔発生直後でなければ少なくとも3カ月以後に,健常な直腸粘膜を確保し縫合閉鎖することが肝要と考える。

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産婦人科の実際
69巻10号 (2020年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0558-4728 金原出版

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