産婦人科の実際 69巻11号 (2020年11月)

特集 内膜を極めるⅡ—婦人科疾患の治療と内膜機能—

企画者のことば 堤 治 , 久須美 真紀
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子宮内膜の主な機能は受精卵の着床の場であり,生殖補助医療(ART)の臨床や研究においてその解明は重要である。受精卵に対する臨床や研究はPGT-Aやゲノム編集などの報告もあり,より顕著で話題性に富んでいる一方,子宮内膜はブラックボックス的な要素もあり,研究が遅れているという印象をもつ方も少なくないと推察される。

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若年子宮内膜癌患者は,晩婚化,少産化などのライフスタイルの変化により近年増加傾向にある。筋層浸潤のない類内膜癌G1(G1EC)または子宮内膜異型増殖症(AEH)が妊孕性温存治療の対象であり,子宮外病変(重複がん,転移,腹腔内播種)がないこと,漿液性癌などのホルモン不応性の成分の混在のないことの確認も重要である。わが国ではメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)のみが保険診療として用いられている。MPA投与と反復内膜全面搔爬により比較的高い病変消失率が得られているが,不応例があること,高頻度に子宮内再発がみられること,卵巣癌などの重複がん症例が数%みられることなどにも注意を要する。再発症例に対する高用量MPA療法による再治療の前方視的臨床研究が,わが国で近々に開始となる予定である。

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出産年齢の高齢化と子宮頸癌の若年化に伴い,初期子宮頸癌に対する妊孕能温存術式としての広汎子宮頸部摘出術の重要性が増している。がん治療としての根治性を担保しつつ,術後に子宮内膜機能が保たれ,最終的に妊孕能が維持されるかは重要な課題である。本稿では,本術式後の子宮内膜機能を中心に概説する。

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子宮筋腫や子宮腺筋症は発生した部位により妊孕性を低下させ,核出術によって着床能が改善することが知られている。そのポイントは術中における子宮内膜機能の障害を最小限にとどめることにあり,内膜破綻や熱損傷を可及的に避ける必要がある。そのためには筋腫ではmyoma pseudocapsuleの温存,腺筋症では子宮内膜を十分残しながら腺筋症病巣を可及的に切除し,妊娠・分娩に耐えうる子宮壁を再建することが重要である。

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筋腫核剝離向中心切削法を発展させた内膜温存経頸管摘除術(TCR)術式「一搔き剝離法」と「内膜線状切開剝離法」を示し妊娠出産例を紹介する。また,妊娠を望まない過多月経例の子宮鏡下内膜アブレーションの術式と治療効果・予後について述べ,子宮鏡手術における内膜の再生と温存の意義を考察する。TCRでは,筋腫の圧排で生じた筋層陥凹は筋腫摘出により消失する。筋腫増大により増殖した「筋腫を覆う内膜」を切除しても,筋層陥凹が縮小し周辺の内膜が増殖すれば欠損は修復する。内膜温存を意識しない術式でも癒着なく内膜が再生し妊娠出産できるので,内膜温存にこだわるより,むしろ突出率の低い大きな筋腫を効率的に安全に摘出する手法の習得が重要である。

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子宮内膜は蠕動様運動をすることが知られており,その生理的,病理的意義が報告されている。蠕動様運動の評価方法として超音波断層法やMRIが多く発表されている。さらに,着床期における子宮内膜蠕動様運動抑制にatosibanなどの薬物を用いたという研究報告も多い。しかし,これら知見に関して必ずしも一定の見解が得られているわけではなく,今後さらなる研究が必要である。

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われわれは,帝王切開瘢痕症候群の不妊原因は帝王切開子宮創部からのチョコレート囊胞の内容液に類似した出血が排卵期に子宮内腔に逆流するためと指摘してきた。出血は瘢痕深部にある内膜腺からであり,子宮内膜症(腺筋症)の関与が示唆される。

出血による子宮内膜への影響として,鉄の毒性や慢性子宮内膜炎が疑われるが定かでない。また,治療は内視鏡による切除であるが,腺筋症様の病態であり切除範囲の決定が難しい。そこで手術時に腹腔鏡用4 Kビデオシステムを硬性子宮鏡に接続し,帝王切開瘢痕症候群の子宮内膜・切除創部を観察した。通常の子宮鏡より精緻な画像が得られ,「内視鏡生体解剖学」というべき新たな手法により本症候群の解明・治療が進む可能性がある。

7.外来子宮鏡の実際 野見山 真理
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細径硬性鏡は高精細な画質が得られ,広い視野角を有し,軟性鏡に比べて診断精度が高い。挿入に際して頸管拡張および麻酔を行う必要はなく,パワーソースがなくとも各種鉗子を用いて子宮鏡手術が行える。筆者らは,不妊症,不育症など主に生殖年齢の患者を対象に,細径硬性鏡を用いて外来子宮鏡検査と同時に手術を行っている。生殖年齢の患者に対する汎用性は高く,適応疾患は広い。不妊・不育症患者における外来子宮鏡手術後の妊娠成績は良好であり,有用な治療手段と考えられる。

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TruClearTMシステムは,シェーバーをスコープ内に挿入し作動させることで子宮腔内病変を切除し,同時に体外へ排出することが可能な子宮鏡手術システムである。手技が簡便で短い手術時間ですみ,切除に高周波を用いずに病変をきれいに切除できるのが特徴である。海外では,外来での無麻酔手術に本システムが広く用いられている。わが国では2020年に販売が開始され,外来子宮鏡手術への革命がもたらされると期待されている。

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過多月経,過長月経,凝血塊,不正性器出血などの症状や,不妊症・不育症に関連する子宮腔内病変の治療にはヒステロレゼクトスコープを用いた子宮鏡手術が広く普及している。この方法は手術手技の習熟が必要であり,電気メスや灌流液による合併症も散見される。

最近,欧米を中心に,子宮鏡にtissue removal deviceを装着して子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫を切除する術式が広がり,外来でも実施されている。硬性子宮鏡のワーキングチャネルにシェーバー用のブレードを挿入,シェーバーを病変に押し当て切除する術式である。手技が容易で電気メスを使用しないため合併症の減少が期待できる。

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2020年現在,日本では妊娠11週以前の稽留流産に対しては経過観察,吸引手術,搔爬手術が行われ,11週以前の人工妊娠中絶には吸引,搔爬が行われている。薬物療法は認可されていない。搔爬は吸引に比べて子宮内癒着など子宮内膜にダメージを与える可能性が高いことが知られている。世界保健機関(WHO),米国産科婦人科学会(ACOG)は搔爬よりも吸引を推奨している。「産婦人科ガイドライン—産科編2020」では搔爬と吸引のどちらが望ましいかという点には明言していないものの,手動真空吸引(MVA)を「保険適用になっており,簡便な方法である」と紹介している。本稿では,MVAの当科での使用経験と有用性について述べる。

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da Vinci® Surgical Systemによるロボット支援下手術は欧米を中心に急速に普及が進んでおり,当科では保険収載後の2018年4月より子宮体癌に対するロボット支援下手術を導入した。これまで31例にロボット支援下手術を施行したが,その治療成績を腹腔鏡下手術と比較し検討した。出血量,術後入院期間はほぼ同等であり,手術時間はロボット支援下手術群で延長する傾向にはあったが,有意差は認めなかった。また,両群ともに入院期間の延長を要する重篤な合併症は認めておらず,再発症例もなく,良好な治療成績を示していた。

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胎盤表面の囊胞性病変は時折遭遇する病変であり,胎児発育不全(FGR)や胎児機能不全との関連が報告されている。2010年4月〜2019年3月の間に胎盤囊胞を認めた3例について考察を踏まえて報告する。症例1は,29歳,2妊1産。妊娠24週1日時にFGRのため紹介受診し,同日管理目的に入院。妊娠31週4日時に胎児機能不全のため緊急帝王切開術を施行,児は女児で出生体重842g,Apgarスコア7/8点であった。臍帯付着部近くに2cm大の囊胞を2つ認め,少し離れて4cm大の囊胞を認めた。病理検査では梗塞巣やフィブリン沈着が非常に多く認められた。症例2は,31歳,2妊1産。妊娠24週時よりFGRを指摘され,妊娠32週3日時に紹介受診し,同日管理目的に入院。分娩誘発により妊娠36週1日に経腟分娩となった。児は男児で出生体重1,255g,Apgarスコア8/9点であった。胎盤所見では臍帯付着部近くに3個の囊胞を認め,ほかにも4cm大の囊胞を5個認めた。病理検査では絨毛膜板下に高度な浮腫を認め囊胞を形成していた。また高度なフィブリンの析出を認め,フィブリンに取り囲まれた絨毛は梗塞に陥っていた。症例3は,37歳,2妊1産。妊娠初期より胎盤表面に囊胞性病変を認めたが,児の発育は良好であった。分娩誘発により妊娠38週2日時に経腟分娩となった。児は女児で,出生体重2,845g,Apgarスコア9/9点であった。胎盤の胎児側に90mm,80mm大の囊胞性病変を認め,病理検査でも同様の所見と軽度のフィブリン沈着が指摘された。胎盤囊胞を認めてもその経過は異なり,正常な妊娠経過をたどる症例もあった。個々の症例に応じて対応し,羊水量,児のBPS,血流などに注意をしながら至適な時期に分娩となるように管理を行うべきである。

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巨大子宮筋腫の一部は変性に伴う液体貯留により巨大化する。われわれは,MRI検査で囊胞変性を経時的に観察した巨大漿膜下子宮筋腫症例を経験した。腫瘤の長径は45歳時には5cmであったが,2年後には24cmに,49歳の腹部膨満増悪時には腫瘍内溶液除去後でも40cmを超えていた。巨大腹部腫瘍の診断で開腹手術を施行した。腫瘍は子宮と連続し,子宮を取り囲むように発育していた。腫瘍,子宮,両側付属器を摘出し,腫瘍重量は合計17.2kgであった。術後経過は順調で,病理診断は囊胞変性を伴う平滑筋腫であった。

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産婦人科の実際
69巻11号 (2020年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0558-4728 金原出版

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