産婦人科の実際 66巻13号 (2017年12月)

特集 不妊と不育の新たな課題

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不妊症の定義は2015 年に改定され,不妊症と診断するための不妊期間は2 年から1 年へと短縮された。不妊症とは本来,妊娠成立を阻む病的因子の存在する病態を示す疾患名であり,不妊期間によって規定されるものではないが,不妊治療を開始する目安として新たな定義は意義を有する。一方,加齢に伴い妊孕能は下降するが,生理現象ともいえる妊孕能の低下は厳密には不妊症ではない。社会問題でもある晩婚化や妊娠年齢の高年化の時代にあって,不妊症をどう捉えて対応していくか,社会全体で考えるべき今後の課題である。

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これまで着床障害と不育症は別の病態として扱われてきたが,最近一部の不妊クリニックで着床障害患者に対し不育症と同様の検査・治療をするようになってきており,その垣根はなくなりつつある。しかし,着床障害患者に移植の日から不育症患者同様の治療をすることは必ずしも正しいとはいえない。本稿では,血液凝固異常という観点からみた着床障害と不育症の関連性,また血液凝固異常のある着床障害患者の治療について,最新の研究結果とともに解説する。

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無精子症にみられる染色体異常の9 割以上が47,XXY で,その他にY 染色体構造異常,常染色体の相互転座,XX 男性などがある。また,女性不妊では45,X が大半を占める。不育症夫婦の2,1%に染色体異常を認め,その内訳としては均衡型転座が多く,その他,逆位,性染色体異常,過剰マーカー染色体などがみられる。PGD を行った場合の挙児獲得率に関しては,今後CGH やSNP microarray を用いたrandomized control study による評価が期待される。不妊症・不育症にはこのような遺伝学的問題が関与しており,適切な遺伝カウンセリングが必須となる。

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ART のための卵巣刺激法は低卵巣刺激法と調節過排卵刺激法に大別されるが,それぞれの特徴を理解して排卵誘発を行うことが重要である。排卵誘発時に下垂体機能の抑制を行うか否かが最も大きな違いであり,結果として排卵誘発剤の投与量,発育卵胞数や回収卵子数などの臨床成績が異なってくる。また患者に対する身体的な負担や,OHSS などの副作用頻度にも違いが生じてくる。本論文では刺激法の実際とその特徴について解説する。

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1970 年代から90 年代にかけて,FDA は妊娠初期に使用する黄体ホルモンが児の先天異常を引き起こすリスクについて,その考え方を変えてきている。FDA の考え方の変遷を受けて,ASRM は天然型黄体ホルモンであるプロゲステロンが先天異常の原因になることはないことを発表し,同時にアンドロゲンリセプターに結合する合成黄体ホルモンは尿道下裂を引き起こす可能性があることに警鐘を鳴らしている。FDA やASRM さらにPubMed 論文など国際的議論を踏まえて現在国内で使われている合成黄体ホルモン製剤を検証すると,ディドロゲステロンは比較的安全性が高く,クロールマジノン酢酸エステル,レボノルゲストレル,メドロキシプロゲステロン酢酸エステルは危険性が高い,と評価されるべきであると思われた。

6. 卵子凍結保存の有用性 井上 太綬
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日本産科婦人科学会の報告によると,体外受精・胚移植などの臨床実施登録施設数は,2005年の641 施設から2015 年には607 施設に減少している。一方で,卵子凍結保存実施施設数は2005 年の11 施設から2015 年には76 施設と7 倍に増加し,周期数についても56 から374 周期と約7 倍増加している。卵子凍結保存は当初,緩慢凍結保存法が普及していたが,高額な機器を必要としないガラス化保存法が普及し,臨床成績は向上した。今後は,卵子凍結保存の臨床データの蓄積がなされ,わが国における年齢や患者背景ごとの生児獲得率が明らかになると考えられる。

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女性の加齢に伴う妊孕性の低下は複合的な病態であり,その主要な原因である異数性胚の増加と,残存卵胞数の減少は治療困難である。最も効果的な対策は早期介入による高齢不妊の予防であるが,国内ではそのほか卵子・配偶子の凍結保存が選択肢となる。国外では着床前遺伝子検査,卵子・胚提供も行われているが,これらを将来的にわが国に導入するためには,文化や法を十分に考慮して社会的コンセンサスを形成するとともに,関連する制度と法の整備が必要不可欠である。

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近年の医学の進歩とともに悪性新生物の治療は飛躍的に進歩しつつある。一方,その治療による副作用として小児や生殖可能年齢者の妊孕性低下や喪失に関する懸念が存在する。2017年7 月に日本癌治療学会がわが国初の妊孕性温存の診療に関するガイドラインを出版した。近年日本国内のがん・生殖医療ネットワーク構築も進み,わが国においても「がんと生殖に関するがん患者のサバイバーシップ向上」に対する試みが進みつつある。がん治療を何よりも優先とするなかで,患者の自己決定をサポートしつつ妊孕性温存の可能性を考える取り組みは,ある時はがん患者に希望を与え,しかしある時は厳しい現実を突きつけることになる。特に患者や家族に対する心理社会的サポートが必須となり,サバイバーシップ向上に繋がるための多職種に及ぶ医療従事者による支援も重要となってくる。

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近年,先天的もしくは後天的に子宮を失った子宮性不妊女性が自ら児を得るための1 つの手段として,子宮移植が考えられている。海外ではすでに臨床研究がなされ,2014 年9 月にはスウェーデンにおいて世界で初めての生体間子宮移植後の出産が報告された。この福音を契機に国際的に子宮移植が新たな医療技術として急速に展開されつつある。一方で子宮移植はまだ研究段階であり,解決すべき多くの課題が残されている。本稿では,子宮移植の海外の現状および課題について概説する。

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不妊の約半数に男性因子が関与しているにもかかわらず,無精子症の場合を除き男性不妊治療介入を経ずにART を導入されている例が少なくない。受精後,day 3 以後の胚発生には精子DNA の完全性が関与しており,断片化が生じると発生停止,着床障害,流産などの原因となる。精子DNA 断片化に対して,ラボにおける精子選別法以外にも,生活指導や採精指導,内服治療や手術に至るまで,ART 成績向上のための泌尿器科的に治療可能な取り組みが存在し,良好な治療成績が得られている。今後も治療エビデンスを確固たるものとし,ART 治療成績向上のため,婦人科医師と連携を図っていく必要がある。

11. 不妊治療の助成金制度 宇津宮 隆史
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不妊治療には保険適用されていない部分が多く,不妊患者は不妊特有の悩みに加え,経済的にも悩みを持っている。世界的に先進国では少子高齢化を迎え,ほとんどが国を挙げて援助を行っている。われわれの不妊治療への保険適用運動に加え,各方面からの働きかけにより,日本でも2004 年から「特定不妊治療費助成事業」が開始された。その額は年間50 億円から始まり,今では300 億円を軽く超えているため,いくつかの制限がかけられている。また,助成額には各地方でかなりの差があり,その趣旨から考えても国を挙げての平等な援助が求められる。

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不妊カウンセリングと不妊コーディネーターは生殖医療チームの主要なメンバーであり,患者中心の適切な不妊治療を行うためには必須である。不妊カウンセリングのニーズは多様化しており,不妊治療医療施設以外での不妊カウンセリングの重要性も増している。一方で,不妊カウンセリングの質の担保も求められており,各学会やNPO は学術活動などを通してカウンセリング能力を向上させると同時に,カウンセリングの業務範囲を認識させる活動を行っている。2017 年に公認心理師制度がスタートし(2017 年9 月15 日施行),心理専門資格が国家資格になったことも,不妊カウンセリングにとって重要な出来事である。

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生殖医療の技術は進歩したが,すべての患者が妊娠に至るわけではない。治療をしても妊娠・出産に至らない患者には,精子・卵子・受精卵(胚)の提供による(第三者のかかわる)生殖医療を受けるか,里親・特別養子縁組制度を受けるなどの選択肢がある。今回われわれが実施したアンケート調査より,里親・特別養子縁組の相談者の多くが不妊治療経験者であることがわかった。2016 年児童福祉法の改正を受け,家庭に近い環境での養育が推進されたことで,不妊治療経験者も養親となることが期待されている。里親・特別養子縁組制度においては,親を主体とする不妊治療とは違い,養育される子どもが主体の「子どもの福祉を優先する制度」であり,子どもが欲しい人のための選択肢でないことを,患者のみならず不妊従事者(情報提供者)は理解しておくことが重要である。情報提供する時期については,不妊治療の限界を迎えた夫婦がこれらの制度を選択するのではなく,子どもを養育したいと願う夫婦の1 つの選択肢として情報提供するべきである。

企画者のことば 末岡 浩
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生殖医療はすでに技術的な安定と普及を通じてわが国の人口の保持にも深くかかわる重要な位置づけを確立している。これまでの技術の発展も急速にかつ大胆に進んできたことは周知の事実であるが,なお一段と広く普及し,全国に浸透している。さらに技術の発展はゲノム医療や再生医療へも範囲を広げようとしている。

シリーズで学ぶ最新知識

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C 型肝炎ウイルス(HCV)が1989 年に発見されてから28 年が経過した。近年HCV に直接作用する経口剤の抗ウイルス薬が多く開発され,C 型慢性肝炎に対する初回治療例での著効率は95%を超えているが,妊婦や小児への抗ウイルス薬使用経験はほとんどない。また,HCVの主たる感染経路とされている母子感染を予防する有効な手段も現時点ではない。この状況のなかでわれわれ産婦人科医は,肝臓専門医および小児科医と連携しながら,HCV キャリア女性,およびHCV キャリア妊婦より出生した児の管理をすることが重要である。

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今や全世界で航空機の年間利用者数は25 億人を超え,日本人の利用者も1 億人を超えている。航空機での移動はより一般的なものになり,空の移動と妊娠は無縁ではない。

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共焦点顕微鏡と蛍光マーカーを組み合わせたライブイメージングにより,明視野のみの光学顕微鏡では観察できなかった細胞内小器官や染色体の挙動を生きた細胞で観察できるようになった。ライブイメージングにより得られる情報は従来の常識を覆したものもある。ヒト初期胚のライブイメージングデータにより,第一卵割における細胞質分裂を正常に経て形成された多核は胚の生存性を著しく損なうことも染色体異常を引き起こすこともないことが示された。

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受精判定時に1 前核しか認めない胚(1PN 胚)は1 倍体である可能性があるが,胚盤胞に発生すれば2 倍体である可能性が高くなり,移植に用いることができるとの報告がある。しかし,1PN 胚の染色体数的異常に関する報告はほとんどない。そこで本研究では,1PN 由来の胚盤胞の染色体異数性に着目し,array CGH 法にて解析を行った。その結果,1PN 胚由来の胚盤胞の染色体数的異常率は31.3%であり,2PN 胚由来胚盤胞と有意差は認めなかった。また,1PN 胚由来の凍結融解胚盤胞を1 個移植した周期の臨床妊娠率と流産率は2PN 胚由来胚盤胞を1 個移植した場合と比較し,有意差はなかった。1PN 胚由来の出生児9 例に異常は認めなかった。胚盤胞まで発生した1PN 胚の染色体異数性率は2PN 由来胚盤胞と差はなく,移植に用いることが可能であることが示唆された。

海外文献から

睡眠障害と早産のリスクの関係性について

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腟壁血腫の多くは外科的に止血が得られるが,その止血に難渋した場合には,動脈塞栓術が考慮される。今回われわれは動脈塞栓術が有効であった産後腟壁血腫の1 例を経験した。症例は35 歳の初産婦で,前医で鉗子分娩後,会陰裂傷縫合術で止血が得られず,当院に搬送された。造影CT で7 cm 大の腟壁血腫を認め,経腟的に血腫除去・止血術を施行したが,止血が得られず,再手術でも止血困難であった。動脈塞栓術に移行し,左子宮動脈と両側腟頸管動脈を塞栓し,止血した。総出血量は4,410 ml,総輸血量は濃厚赤血球20 単位,新鮮凍結血漿26 単位,濃厚血小板20 単位だった。

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産婦人科の実際
66巻13号 (2017年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0558-4728 金原出版

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