胃と腸 54巻12号 (2019年11月)

今月の主題 上部消化管感染症—最近の話題を含めて

序説

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はじめに

 超高齢社会への進展に加えて,新規生物学的薬剤の導入や多剤耐性菌の出現により,近年,日和見感染症の複雑化,多様化が指摘されている1).一方,HIV(human immunodeficiency virus)感染症は1990年代後半に劇的な進歩を遂げた抗HIV療法により長期生存可能な疾患となったが,本邦においては新規HIV感染者の約1/3がAIDS(acquired immuno deficiency syndrome)を発症した状態で診断されており,早期診断の立ち遅れが指摘されている1)2).また,性感染症では,梅毒患者の急激な増加が指摘され,社会問題化しつつある3)

 感染症の疫学は刻々と変化するため,その診療には情報のアップデートを要する.本誌では消化管感染症に関して2018年4月号「腸管感染症—最新の話題を含めて」において小腸・大腸の感染症が特集された.本号は,それに続く「上部消化管感染症」特集号として,食道・胃・十二指腸の感染症を取り上げ,各疾患の動向ならびに診断と治療に関する最新情報を提供するものである.なお,Helicobacter感染症は除外した.

 消化管感染症の確定診断には病変部からの病原微生物の検出を要する.小腸・大腸の感染症では,検体検査として糞便検査,糞便培養も汎用されるが,上部消化管の感染症の診断は,主に内視鏡下生検と生検培養に基づくため,検査中に内視鏡所見から感染症を疑い,至適部位から生検を施行する必要がある4)

 一方,感染性食道炎として食道カンジダ症,単純ヘルペス(herpes simplex virus;HSV)食道炎とサイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)食道炎などがよく知られているが,混合感染を示す例などの内視鏡診断は必ずしも容易ではない5).また,H. pylori(Helicobacter pylori)以外の感染性胃炎として,胃結核,胃梅毒,CMV胃炎,胃カンジダ症などが知られているが,これらの特殊型胃炎は確定診断に至らず,原因不明の胃炎・潰瘍として遷延,難治化することが少なくない6).さらに,Whipple病,非結核性抗酸菌症やランブル鞭毛虫症などは“びまん性病変”を呈し,十二指腸病変の認識が診断契機となるが,その臨床像,内視鏡像が周知されているとは言い難い7)

 本稿では,感染性食道炎とHelicobacter感染症以外の感染性胃炎,感染性十二指腸炎について,各代表的疾患の内視鏡診断を中心に,既報に基づいて概観する.

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要旨●上部消化管感染症のうち,組織像にて確定診断ができる単純ヘルペス食道炎,サイトメガロウイルス感染症,カンジダ症,結核,梅毒,アニサキス症,Whipple病,糞線虫症,ランブル鞭毛虫症,非定型抗酸菌症,イソスポーラ症について,臨床病理学的特徴を概説した.これら疾患の多くは背景の免疫不全状態が関連しており,超高齢社会,またHIV感染者が増加している本邦では,今後増加が予想される.組織学的に診断が容易である疾患もあるが,臨床情報と知識,および経験を踏まえたうえで,注意深く検鏡しなければ診断できない疾患もある.

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疾患の概念と最近の動向

1.疾患の概念

 ヘルペス食道炎は三叉神経節の神経細胞に潜伏感染しているヘルペスウイルス(herpes simplex virus;HSV)が再活性化し,唾液中に排泄されることで食道粘膜に感染し発症するとされている.化学療法中や臓器移植後,HIV(human immunodeficiency virus)感染症などの免疫抑制状態の患者に多いが,基礎疾患のない健康成人にも発症することがある1)

 症状は発熱や胸やけ,嚥下痛,吐気などが報告されている.口腔内病変を伴う場合は咽頭痛もみられる.ただし臨床症状に乏しい症例もあり,検診の上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy;EGD)で発見されることもある.

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疾患の概念と最近の動向

 サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)はヘルペスウイルス科に属するウイルスで,通常は幼少期に感染し,初感染後は不顕性感染の経過をたどり,多くの場合は潜伏感染の状態を維持する.しかし,悪性腫瘍,ステロイド使用者,HIV(human immunodeficiency virus)感染症,骨髄移植後などの免疫抑制状態の患者においては,潜伏感染の再活性化が引き起こされる.まれに健常人での発症もみられる1).食道,胃,大腸などの消化管にびらんや潰瘍性の病変を来す他,肺・網膜・中枢神経にも病変を来す.食道炎は主にCD4(cluster of differentiation)値が100/μl以下に低下したHIV感染者で好発する.

 近年,先進国において治療法・治療薬の進歩に伴いHIV感染症のマネージメントが向上している.抗HIV治療薬の副作用が強い時期は治療の開始が遅かったが,現在はCD4値にかかわらずに治療を開始することが推奨されている.米国保健福祉省(United States Department of Health and Human Services;DHHS)のガイドラインでは,2017年よりHIVの診断と同時に抗レトロウイルス療法(anti-retroviral therapy;ART)開始が推奨されており,世界的には感染が判明次第,可及的速やかに治療を開始することが推奨されている.

食道カンジダ症 高橋 亜紀子 , 小山 恒男
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はじめに

 食道カンジダ症は近年増加傾向にあり1),注目すべき疾患の一つである.内視鏡所見が類似する疾患もあり,治療方針を決定するうえで鑑別すべきポイントを知っておく必要がある.

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疾患の概念と最近の動向

 結核菌は,病原性も強く易感染宿主のみならず免疫能に異常のない宿主に主として空気感染し,初感染巣が下気道,肺胞領域に形成される.結核は,背景にHIV(human immunodeficiency virus)の流行,スラム街の形成,TNF(tumor necrosis factor)阻害薬の開発,結核対策の希薄化があり,いまだ先進諸国においてもインパクトの高い疾患の一つである.約90%は肺結核であるが,残りの10%は肺外結核である.結核罹患率が本邦と同程度のスペインからの報告では,TNF阻害薬を使用した1,540例中17例に結核発症を認めており,そのうち65%が肺外結核であった1).近年,生物学的製剤は,劇的な進歩をもたらしており肺外結核に遭遇する可能性がある.肺外結核の一つの病型として消化管型があり,その中の食道結核について述べる.

 食道結核とは,食道粘膜への結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の感染により,食道粘膜に潰瘍,瘻孔,腫瘤などの病変を形成した病態である.年齢,性別はやや男性に多く全世代に分布するが,40〜50歳代の罹患率が高い.その頻度は,結核死亡患者の剖検の解析で,結核死16,489例中25例(0.15%)2)であり,Welzelら3)の報告では,肺外結核の中で消化管結核は6番目であり全体の1.2%程度,その中で食道結核は約0.2%と報告されており非常にまれな疾患である.その理由としては,食道内腔が平滑で彎入が少ないこと,嚥下運動により菌の付着に至るまでの時間的余裕が少ないこと,組織学的にも扁平上皮から成ること,他の消化管粘膜と比較してリンパ装置が少ないことが挙げられる4)

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疾患の概念と最近の動向

 胃結核はヒト型結核菌であるMycobacterium tuberculosisにより引き起こされる消化管感染症である1).消化管結核の部位別罹患頻度は,胃3.8%,十二指腸3.6%,小腸29.7%,回盲部37.9%,結腸40.3%,直腸1.2%と報告されており2),消化管結核の中でも極めてまれとされる.それは,胃がリンパ組織に乏しい臓器であることや,胃酸の影響が挙げられる.症状や内視鏡像も多彩であり,生検培養やPCR(polymerase chain reaction)法で結核菌が証明されない場合も少なくないため3),難治性胃潰瘍,胃癌,粘膜下腫瘍(submucosal tumor;SMT)の診断で手術を施行され,術後の病理組織学的検査により初めて確定診断される例も多い.感染経路としては,血行性,リンパ行性,直接浸潤,肺結核患者の感染痰の嚥下などが想定されているが4),明確な発症機序については不明な点も多い.

 加納ら5)の報告(報告年2018年)によれば,近年の胃結核30例は,八重樫ら6)の胃結核70例の報告(報告年1977年)と比較して,発症年齢が高齢へシフトし,前庭部,幽門部の病変が減り,胃体部の病変が増加していた.今後,高齢化が進む中で,免疫力の低下した高齢者の一次結核や潜在性結核の再燃を念頭に置きながら診療に従事する必要がある.

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疾患の概念と最近の動向

 サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)はヒトを自然宿主とするヘルペスウイルスに属する2本鎖DNAウイルスで,学名はhuman herpes virus 5であるが,感染細胞が巨大化することからCMVと呼ばれている.ヒトへの感染は胎内感染による先天性のものと,産道,母乳,唾液,精液,輸血などによる後天性感染に分けられるが,いったん感染すると生涯潜伏感染する1).従来,本邦では欧米に比べCMV感染者が多く,成人の約90%が抗CMV抗体陽性(既感染)とされていたが,近年では若年成人や妊婦の抗体保有率は70%を切るようになり,先進国レベルに近づいてきている2)3)

 通常は不顕性感染に終わることがほとんどであるが,先天感染症や免疫不全状態の易感染性宿主での日和見感染(再活性化)が問題となる.その場合,CMVは全身諸臓器に多彩な疾患を引き起こすが,他のヘルペスウイルス〔単純ヘルペス,水痘・帯状疱疹ウイルス,EBV(Epstein-Barr virus)など〕と同様に消化管にも病変を生じ,なかでも胃はCMV感染の好発臓器であり,胃粘膜傷害(CMV胃炎)を生じる4)〜6).また,近年では免疫不全状態がない健常成人に発症するCMV胃炎の報告も増えてきている7)〜9)

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疾患の概念と最近の動向

 梅毒は代表的な性感染症の一つであり,多彩な皮膚病変がみられるが,まれながら消化管病変を生じることがある.消化管では胃に最も多いとされ1),消化管梅毒の本邦文献でみると,過去50年間では胃197例,大腸34例(31例が直腸),小腸3例,などの報告がある.

 梅毒は主に性的接触によるT. pallidum(Treponema pallidum)の陰部などへの感染から発症する.10〜90日の潜伏期を経て,感染局所に初期硬結,硬性下疳などの一次病変を形成する(第1期).その後血行性に全身に撒布され,ばら疹などの多彩な皮膚病変や臓器梅毒などの二次病変を生じる(第2期).以後は潜伏梅毒を経て慢性に経過し,ごく一部は年余を経て第3期梅毒(晩期梅毒:心血管梅毒,ゴム腫など)に進展する2).胃梅毒の報告例の多くは第2期のものであり,胃梅毒は,血行性に全身に撒布された菌体とその代謝産物に対する血管アレルギーにより,梅毒性皮疹と同様の機序で形成された胃粘膜疹と推測されている3)

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疾患の概念と最近の動向

 カンジダは口腔から消化管に常在菌として存在しており,通常は病原性を示さない.しかし,悪性腫瘍や血液疾患,HIV(human immunodeficiency virus)感染や糖尿病などの基礎疾患を有する患者,ステロイド薬,免疫抑制薬,抗癌薬などの薬剤使用者は,日和見感染として上部消化管カンジダ症を発症することがある1)2).胃カンジダ症は食道カンジダ症と比較してまれだが,免疫不全のない患者においても,酸分泌抑制薬内服,萎縮性胃炎,幽門側切除術後などによる低酸状態や胃内環境の変化により発症しうる.

 胃カンジダ症はカンジダ感染が先行して潰瘍形成する原発性と,潰瘍にカンジダが感染する続発性に分けられるが,判別困難なことも多く,過去の報告では抗真菌薬の効果により分類されているものが多い.病理組織学的に深部へのカンジダ侵入が認められれば診断可能だが3),潰瘍表面に付着しているのみの場合は,適切な検体が採取されていない可能性もあり,付着か感染かを臨床的に判断する必要がある.しばしば難治性潰瘍の経過を呈し,重症例では穿孔4)や狭窄5)6)を合併し手術を要した報告もみられる.

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疾患の概念と最近の動向

 消化管アニサキス症はAnisakis亜科(Anisakidae)の線虫(アニサキス)が人体に侵入して引き起こされる病態で,なかでも胃アニサキス症が最も多い.生魚摂取を食習慣とする本邦では胃アニサキス症の発生頻度は決して低くはなく,日常診療においてまれならず遭遇する疾患である.また昨今,各種媒体でアニサキスによる食中毒事件が増加していることが報道され,世間の耳目を集めたことも記憶に新しい.

 アニサキス症の原因である線虫の多くは,Anisakis亜科のAnisakis属に分類される寄生虫である.線虫の成虫はクジラ,イルカなどの海産哺乳類の消化管に寄生しており,成虫が産んだ卵が海水中で発育して幼虫となる.その幼虫をアミ類が摂取し,幼虫に感染したアミ類を魚類やイカ類が摂取し,さらに感染した魚類・イカ類をヒトが経口摂取することで人体に侵入しアニサキス症を発症する1)2).アニサキスはヒトが最終宿主ではないため人体内で自然死滅するが,アニサキスに対するアレルギー反応が生じると考えられている.なお,アニサキス症の原因として最も頻度の高い虫体であるAnisakis simplexは−20℃以下で24時間もしくは60℃以上の環境下であれば短時間で死滅する.

症例アトラス 感染性十二指腸炎

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疾患の概念と最近の動向

 Whipple病は放線菌近縁のグラム陽性桿菌T. whipplei(Tropheryma whipplei)の日和見感染による全身感染症である1)2).本症は小腸粘膜への感染により著明な吸収障害を来すため下痢と体重減少を主徴とするが,関節炎,腹腔内リンパ節腫脹,中枢神経障害(髄膜炎など),眼症状(眼筋麻痺,ぶどう膜炎など),肝脾腫,胸膜炎など多彩な臨床症状を呈する1)2).消化管では十二指腸から小腸に特徴的な粘膜病変を呈し,内視鏡下生検によって診断される.本症は極めてまれな疾患ではあるが,診断が遅れると致死的経過をたどる可能性があり,消化管内視鏡診断の重要性が高い疾患の一つである1)〜3)

 本症の報告例は白人の中年男性に多く,欧米では約1,000例が報告されている1)2).本邦での報告は極めてまれで,筆者らが検索し得た範囲(医学中央雑誌およびPubMed,1986〜2018年)では文献報告は13症例のみであった(Table 1)3)〜9).報告例のうち,1976年の楢本らの報告4)を除く12例は,2004年以降の報告となっている.これは本症の周知と小腸内視鏡の普及の影響による可能性が高いと思われるが,増加傾向を反映している可能性もあり,今後の動向を注視する必要がある.

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疾患の概念と最近の動向

 糞線虫症(strongyloidiasis)は土壌より経皮的に感染し,主に十二指腸および空腸上部に寄生する糞線虫(Strongyloides stercoralis)による消化管寄生虫感染症である.本邦では亜熱帯地域に属する沖縄県と鹿児島県奄美地方が浸淫地であり,ほかの地域での保虫者は浸淫地出身者がほとんどで,海外からの輸入感染はまれとされている.しかし,倉岡ら1)は浸淫地の居住歴がなく,1週間の沖縄旅行(1972年)のみの重症糞線虫症患者を報告しており,本虫が分布しているアフリカ,アジアおよび南アメリカの熱帯・亜熱帯地域への旅行の際に汚染された土壌に触れることがあれば,同様のことが起こりうる可能性があるため,それを加味した問診が必要である.また,本邦においても浸淫地からの在留外国人が年々増加していることから,輸入症例に遭遇する割合が増えると思われる.

 糞線虫陽性者は陰性者に比較して,成人T細胞性白血病リンパ腫の原因となるヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1;HTLV-1)の重複感染をしている割合が高く,重複感染者は重症化しやすいうえに駆虫薬(イベルメクチン)に対する抵抗性が高いとされている2)〜4).糞線虫感染時にはTh2型免疫応答によりIgE抗体が上昇し,末梢血の好酸球が増加するため,糞線虫症診断の手がかりとなるが,HTLV-1陽性者はIgE抗体の産生が低下し,好酸球上昇も認めないことから,診断の遅れにつながるため注意が必要である5)6)

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疾患の概念と最近の動向

 ランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)は,消化管に寄生する原虫であるランブル鞭毛虫(Giardia duodenalis ; G. duodenalis,別名:G. intestinalis,G. lamblia)による感染症であり,17世紀に顕微鏡を発明したLeeuwenhoekが自身の便中に発見したとされている1).地球上に存在する最も古い真核生物の一つで,ミトコンドリアを有しない.発展途上国を中心に世界中に広く分布し,感染者数は2〜3億人と言われる.流行地では成人よりも小児の感染率が高い2)〜5).日本寄生虫学会の和名表では“ランブル鞭毛虫”とされているが,感染症法では“ジアルジア症”とされ,五類感染症(全数把握疾患)に指定されており,診断後1週間以内の届け出が義務づけられている2)6).国立感染症研究所によれば2010〜2018年の国内の患者数は年間60〜90人で推移している7).一方,米国では年間報告件数が1万件を超えており,本邦では診断に至っていないケースも多いのではないかと考えられている.本邦における感染のリスク要因は,発展途上国への旅行と男性同性愛者間の性行為とされる.一方,欧米では水道管に汚水が混入したことによる集団発生事例が報告されている1)8).ヒトに寄生するランブル鞭毛虫は,イヌ,ネコ,ウシにも感染するとされ,これらの動物からヒトへの感染事例も報告されており,人畜共通感染症の側面もある1)9)

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疾患の概念と最近の動向

 非結核性抗酸菌(nontuberculosis mycobacteria;NTM)は,結核菌群と培養不能ならい菌を除いた抗酸菌の総称である.以前は非定型抗酸菌と称されていた.自然環境のみならず水道やその配管,風呂場などの生活環境にも広く分布している.かつては弱毒菌と考えられていたが,感染臓器で最も多い肺に関しては,2014年に国立感染症研究所などが行った調査で肺NTM症の罹患数は14.7/10万人であり,肺NTM症の急激な増加と,初めて結核の患者数を上回ったことが明らかとなった1).現在,NTMは約150種類が同定されているが,ヒトに病原性を有するのはそのうち50種類程度であり,そのほとんどがMycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareから成るMAC(Mycobacterium avium complex)である.そのため本稿では消化管MAC症を中心に記載する.

 MACは周りの環境から直接感染すると考えられているが,主な感染経路は経気道感染,経腸感染である.結核菌群と異なり,ヒト—ヒト感染は起こらないため,感染者の隔離は不要である.感染者の免疫機能が正常な場合は,経気道感染により肺MAC症を引き起こすが,免疫機能が低下している場合や小児では,MACは腸管粘膜より直接浸潤しマクロファージに取り込まれ,消化管MAC症を引き起こすと考えられている.

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要旨●消化管はさまざまな感染症の好発部位である.それらの原因病原体の検出・同定において生検病理診断は重要な役割を果たしている.一部の病原体は特定の細胞・組織に親和性を示すので,上皮や間質構成細胞を含む組織を生検することが推奨される.HE染色による形態学的観察に特殊染色や免疫組織化学染色による検索を加えることによって診断の精度向上が期待できる.なお,免疫不全患者の炎症反応は概して弱く,しばしば非典型的であり,数種類の病原体が混合感染していることもあるので病理診断には注意を要する.基礎疾患,薬歴,渡航歴などの患者情報と種々の検査結果を踏まえて,生検組織を丁寧に検索すれば,より正確な診断に近づくことができると考えられる.

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要旨●頭頸部癌の主な危険因子は従来,飲酒や喫煙とされてきたが,近年,ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の持続感染が頭頸部癌,特に中咽頭癌に関与していることが明らかとなり注目されている.頭頸部癌におけるHPV陽性率は年々増加傾向にあり,HPV由来の癌遺伝子高発現に伴う癌抑制遺伝子であるp53およびRbの不活性化が発癌に関与すると考えられている.HPV陽性の中咽頭癌は,HPV陰性の中咽頭癌に比べ,若年で飲酒・喫煙歴が少ない,重複癌の合併が少ない,予後良好であるなどの臨床的特徴を有しており,HPV感染の有無に応じた新たな治療戦略が必要である.

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要旨●EBVはヘルペスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルスで,成人の大部分が潜伏感染し,多彩な悪性腫瘍の発生に関連している.胃に腫瘍を形成するものでは,EBV関連胃癌や悪性リンパ腫のうちEBV陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫,非特定型,節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型,慢性活動性EBV関連リンパ増殖病変,免疫不全関連リンパ増殖異常症などが認められる.EBV関連胃癌はリンパ球浸潤癌の特殊な組織像をとり,良好な予後に反映される.EBV関連の悪性リンパ腫は,大部分が免疫不全状態により発生するものであり,肉眼形態や病理組織学的所見も非定型的なものが多く,診断に難渋するものが多いため,病態の把握が必要である.

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目次

欧文目次

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 2019年9月18日(水),東京の笹川記念会館で開かれた早期胃癌研究会の席上にて,2018年「胃と腸」賞の授賞式が行われ,竹内学氏(長岡赤十字病院消化器内科)らが発表した「食道表在癌における深達度診断からみたB2血管の意義」(「胃と腸」53巻10号:1343-1352頁)が受賞した.

 受賞者代表として竹内氏が紹介された.続いて,「胃と腸」編集委員長の松本主之氏(岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科消化管分野)より祝辞とともに,賞状と楯が贈呈された.

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次号予告

編集後記 平澤 大
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 2018年4月号の胃と腸「腸管感染症—最新の話題を含めて」の上部消化管編として本号は企画された.上部消化管を構成する臓器の特徴として,食道は強固な扁平上皮に覆われ,胃には胃酸が満ち,十二指腸には消化性酵素が分泌され,病原微生物が活動するには過酷な環境である.それゆえH. pyloriや軽度のカンジダ症,劇症型アニサキスなどの一部の感染症以外は,臨床現場では遭遇頻度の低いまれな疾患である.ただし,近年はHIV感染による免疫不全やステロイド薬の長期内服,化学療法中など免疫能低下状態の患者が増加し,上部消化管感染症の知識を得ておくことは重要である.

 そのような時代背景も踏まえ,本号は蔵原,海崎,平澤が企画を担当した.まれな疾患を可能な限り網羅することを考え,各論はアトラス形式で解説を行った.また腫瘍性病変を惹起する感染症をノートとして取り上げ,carcinogenesisに関する最新の知見も掲載した.

基本情報

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胃と腸
54巻12号 (2019年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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