胃と腸 54巻13号 (2019年12月)

今月の主題 遺伝子・免疫異常に伴う消化管病変—最新のトピックスを中心に

序説

  • 文献概要を表示

はじめに

 慢性炎症性腸疾患の臨床像は多彩である.加えて,臨床像や消化管病変の特徴は自然経過や治療修飾により変化する.したがって,これらを正しく鑑別するには消化管病変の特徴のみならず臨床経過や種々の臨床検査成績などから総合的に判断する必要があるが,慢性炎症性腸疾患の診療においては,時として診断困難な症例に遭遇する.

 このような“診断困難な慢性炎症性腸疾患”は狭義の炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)であるCrohn病(Crohn's disease ; CD)と潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC),および腸管Behçet病(Behçet disease ; BD)との鑑別に難渋する場合と,診断名を想起しなければ診断できないような希少な炎症性腸疾患に大別される.本誌では,41巻6号「非定型的炎症性腸疾患—診断と経過」ならびに50巻7号「診断困難な炎症性腸疾患」において,前者に焦点を当てた特集が組まれている.一方,希少疾患に含まれる“免疫異常に伴う消化管病変”については,40巻8号「免疫異常と消化管病変」ならびに46巻3号「免疫不全状態における消化管病変」で取り上げられている.しかし,ゲノム解析技術の進歩に伴い,52巻11号で特集された“非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 ; CEAS)”に代表されるように,遺伝子異常に起因する,あるいは関連が示唆される疾患が近年注目されている.さらに,新たな癌免疫療法である免疫チェックポイント阻害療法では,IBDに類似した消化管病変が出現することも明らかとなってきた1).遺伝子異常と免疫異常は表裏一体をなすことが多いため,本号では「遺伝子・免疫異常に伴う消化管病変」に関する特集を企画した.

  • 文献概要を表示

要旨●小児の炎症性腸疾患(IBD),特に6歳未満に発症する超早期発症型炎症性腸疾患では,原発性免疫不全症や自己炎症性疾患(総称してinborn errors of immunity)に伴う腸炎の存在が以前から指摘されていた.近年の遺伝学の発展に伴い,腸炎を発症する遺伝病が次々と明らかになり,“monogenic IBD”や“Mendelian disease-associated IBD”と呼ばれている.この中には,標準的なIBD治療が重篤な感染症を引き起こす疾患や,造血幹細胞移植が有効である疾患が含まれるため,確実に診断することが求められる.本稿では,当院で診療しているinborn errors of immunity患者の消化管病変を,疾患の概要とともに解説する.

  • 文献概要を表示

要旨●骨髄異形成症候群(MDS)は末梢血における血球減少と骨髄の無効造血を特徴とした血液疾患であるが,しばしば自己免疫疾患を合併することがある.特に8番染色体異常(trisomy 8)を伴うMDS症例では腸管Behçet病もしくはBehçet病類似消化管病変を有するとされている.その臨床像はtrisomy 8を合併しないBehçet病と異なる点も多く,一般的にその予後は不良とされている.本稿ではtrisomy 8でみられるBehçet病類似消化管病変における臨床像,消化管病変の特徴について近年の報告例と自験例に基づいて概説する.

  • 文献概要を表示

要旨●IgG4関連疾患と同様の機序が示唆される,IgG4関連消化管病変の疾患概念は確立されていない.IgG4関連消化管病変として報告されている例は,主に粘膜下に多数のIgG4陽性形質細胞浸潤と線維化を生じて,胃や食道に著明な壁肥厚を呈する例と,胃や大腸などに生じたIgG4が関連した偽腫瘍の2つのタイプに分かれる.IgG4関連消化管病変と診断するには,多数のIgG4陽性形質細胞浸潤を伴った腫瘤や壁肥厚の形成に加えて,花筵状線維化や閉塞性静脈炎などの特徴的な病理組織像,高IgG4血症や,ほかのIgG4関連疾患の合併などを含めて判断する必要がある.固有筋層内への筋状を呈したリンパ球と形質細胞の密な浸潤と,粘膜固有層深部における形質細胞の集簇は,本病変の特徴的な病理所見の可能性がある.

  • 文献概要を表示

要旨●筆者らは,地中海熱(MEFV)遺伝子関連腸炎(IL-1β関連腸炎)の診断法の確立ならびに機序解明に取り組んできた.MEFV遺伝子関連腸炎74症例の患者群を検討した結果,日本人MEFV遺伝子関連腸炎症例の70%以上がexon 2部位での変異を有し,家族性地中海熱非定型例および診断基準を満たさない症例が全体の約70%を占めることが判明した.消化管病変の内視鏡的特徴所見では,直腸に病変を伴わない潰瘍性大腸炎様の連続病変の粘膜所見が多く,またCrohn病様の縦走潰瘍・狭窄例も存在することが明らかとなった.MEFV遺伝子関連腸炎は,炎症性腸疾患患者の中に予想以上に多く存在する可能性が高く,筆者らのデータを基盤に診断基準の作成に取り組む必要がある.

  • 文献概要を表示

要旨●免疫チェックポイント阻害薬は,既存の悪性腫瘍治療薬と異なる作用機序を持つ,新規抗悪性腫瘍薬である.しかし,免疫関連有害事象という既存治療薬では認めなかった有害事象を生じうる可能性がある.その一つに大腸炎があり,下痢,腹痛,血便などの症状を呈する.診断は除外診断が必要となるが,内視鏡検査が有用である.CTCAE Grade 2以上の重症度の際は,ステロイドを用いた治療が必要となる.ステロイド抵抗性の際はインフリキシマブを用いることが各種ガイドラインで推奨されている.免疫関連有害事象に対しては,がん治療主治医のみでなく,多診療科医師・コメディカルなど病院全体での対策・連携が重要である.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は40歳代,女性.20歳代から回盲部潰瘍,吻合部潰瘍を繰り返し,2度の腸管切除歴があった.30歳代で吻合部潰瘍の再燃のため当科に初診となった.発症16年後に陰部潰瘍が出現し不全型Behçet病と診断された.その後,潰瘍は増悪傾向となり,プレドニゾロン,インフリキシマブなどで加療されたが治療効果に乏しかった.発症19年後,吻合部に下掘れ潰瘍および狭窄を呈し,内科治療に抵抗性であることから吻合部切除術を施行した.しかし,術後早期に潰瘍は再燃増悪し,穿孔を来したため人工肛門造設を要した.術後は在宅中心静脈栄養療法を中心とした加療を行っていたが,発症20年後に汎血球減少を来し,骨髄異形成症候群の合併およびtrisomy 8陽性が確認された.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は50歳代,女性.心窩部痛を主訴に前医を受診し,上部消化管内視鏡検査で前庭部小彎前壁に潰瘍性病変を指摘された.生検病理組織学的検査で腫瘍性病変が疑われたため,当院に紹介され入院となった.当院での生検はすべてGroup 1であったが,腹部CTおよびPET検査で腎臓,気管支,涙腺,顎下腺にIgG4関連疾患を疑う所見を認めた.血清学検査ではIgG4の著明な上昇を認めたため,初回内視鏡時の生検を遡及的に検討したところ,免疫組織化学染色で,粘膜固有層にIgG4陽性の形質細胞が増加しており,IgG陽性細胞との比率は55.5%と上昇していた.H. pylori除菌療法を施行し,ステロイドの投与を行うことで潰瘍は瘢痕化し,血清IgG4値も減少した.以上より,IgG4関連疾患に伴った胃潰瘍と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨●6歳未満の超早期発症型炎症性腸疾患(VEO-IBD)は,単一遺伝子異常が原因の疾患で臨床表現型の一つにIBDを発症している,monogenic IBDであることが少なくない.今回,①IL-10受容体遺伝子の新規変異が乳児早期発症IBDを引き起こし,既存の治療に抵抗性で造血幹細胞移植により寛解導入した症例,②眼皮膚白皮症の乳児でCrohn病と初期診断し,遺伝子解析でHermansky-Pudlak症候群1型と確定診断し,インフリキシマブが奏効した症例,以上2例のVEO-IBDを経験したので報告する.VEO-IBDをみた際は,monogenic IBDを鑑別する必要がある.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は40歳代,女性.臨床病期IVの右脈絡膜悪性黒色腫に対して抗PD-1抗体ニボルマブを使用するも,多発肺転移を認めたため抗CTLA-4抗体イピリムマブに治療を変更したところ下痢が出現した.大腸内視鏡検査では終末回腸およびBauhin弁の発赤と上行結腸から直腸に及ぶ白斑が認められた.生検では陰窩上皮に顕著なアポトーシスがみられた.諸検査の結果,感染症は否定的であったため,免疫チェックポイント阻害薬関連腸炎と診断した.ステロイド治療を行い,速やかに症状の改善を認めたが,その後ランソプラゾールに関連すると思われるcollagenous colitisを併発した.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は40歳代,男性.胃体下部前壁に40mm大の隆起性病変を認めた.立ち上がりは明瞭で,表面は大脳回状であった.NBI併用拡大内視鏡検査では,病変部と周囲粘膜との間に明瞭な境界はみられず,微細表面および微細血管構造に不整は認めなかった.非腫瘍性病変を疑ったが,病変が40mm大であり,立ち上がりが明瞭であることから腫瘍を完全に否定できず,ESDを施行した.病変は,成熟した腺窩上皮と体部腺から成り,周囲粘膜よりも2.6〜2.7倍厚く,腺窩上皮と体部腺の厚さ(丈)の比は周囲粘膜と同様に約1:3であったため,限局性肥厚性胃炎と診断した.肥厚性胃炎は,皺襞がびまん性に巨大に肥厚する病変だが,まれに限局性にみられることがある.

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

 第58回「胃と腸」大会は2019年5月30日(木)にグランドプリンス新高輪・国際館パミールで開催された.司会は松田圭二(帝京大学医学部外科)と八木一芳(新潟大学地域医療教育センター魚沼基幹病院消化器内科),病理は新井冨生(東京都健康長寿医療センター病理診断科)が担当した.“忘れられない1例”として,江﨑幹宏(佐賀大学医学部附属病院光学医療診療部)が“腸症関連T細胞リンパ腫”の症例を解説した.

私の一冊

  • 文献概要を表示

 強い印象を受けた記憶が頭から離れない号がある.「胃と腸」28巻5号「腸管アフタ様病変」が発刊された1993年4月,私は医師になって4年目,消化器研究室(主任 飯田三雄先生.後年,教授)に配属となって2年目を迎えたところであった.当時の私にとって「胃と腸」誌は内容が難解に思え,定期購読するに至っていない時期であったが,偶然,発刊されたばかりの同号を手に取る機会があり,一画像所見の臨床病理組織学的意義を追求する詳細な検討の連続に圧倒されたのである.

 同号は「アフタ様病変」という一つの大腸内視鏡所見を切り口として,病理診断の立場から,X線診断の立場から,内視鏡診断の立場から,それぞれ,腸炎の鑑別診断を構築しようとした特集号である.

--------------------

目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 小林 広幸
  • 文献概要を表示

 近年,次世代シークエンサーの登場によりゲノム解析(GWAS)が飛躍的に進歩し,これまで分類不能な炎症性腸疾患とされてきたものの中に,単一遺伝子異常により発症する消化管病変が少なからず存在することが明らかとなってきた.その代表として,これまで原因不明の難病とされていた“非特異性多発性小腸潰瘍症”が,遺伝子解析によりSLCO2A1遺伝子異常により発症することが解明され,その詳細が一昨年の本誌(52巻11号)にて特集されたことは記憶に新しい.一方,本邦の本庶佑先生が昨年ノーベル生理学・医学賞を受賞した免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用により予後不良な悪性腫瘍の治療に光明が差した反面,消化管を含めた諸臓器にさまざまな免疫関連有害事象を発症することが問題となっている.このような時代的背景を鑑み,今回の特集号では近年注目されている遺伝子・免疫異常に伴う消化管病変について,先進医療を取り入れた診療を担っている専門医の先生方から「胃と腸」誌にふさわしい美麗な内視鏡画像を中心とした形態学的特徴と臨床像について最新の知見を集約していただいた.

 まず,冒頭の遺伝子異常に関する主題論文(竹内論文)では,一般の消化器内科医では遭遇することもまれな,小児で発症するmonogenic IBD(このような疾患群が存在することを知らない読者も少なからずいるであろう)について,代表的な疾患ごとに症例を提示いただき,その臨床像と内視鏡画像の特徴について解説いただいた.小児の診療では非典型的な画像を示す炎症性腸疾患に遭遇した場合,安易に分類不能型として治療するのではなく,主題症例(石原論文)のように原因遺伝子が特定できれば造血幹細胞移植にて寛解導入可能な症例もあるため,本症の存在も念頭に置き遺伝子解析まで考慮すべきであろう(筆者も保険診療でSLCO2A1遺伝子も含めたパネル解析ができることを初めて知った).次に,腸管Behçet病に合併した骨髄異型性症候群/染色体異常(trisomy 8)については(本澤論文),合併の有無による形態学的特徴に差はないものの,主題症例(冬野論文)を含め抗TNFα抗体製剤が有効な症例があり,早期に染色体解析を行い治療介入する必要があろう.

基本情報

05362180.54.13.jpg
胃と腸
54巻13号 (2019年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月25日~12月1日
)