胃と腸 44巻4号 (2009年4月)

特集 早期胃癌2009

序説

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はじめに

 最近の形態診断学の進歩は著しい.そして現在,発見された胃癌のうち,早期胃癌の割合は飛躍的に増えている.拡大内視鏡の普及,NBI(narrow band imaging),経鼻内視鏡,蛍光や酢酸・インジゴカルミンなどによる内視鏡の研究など,検査方法は広がり,精度も高まった.拡大内視鏡の普及,NBI,経鼻内視鏡,蛍光内視鏡の研究などが挙げられ,MDCT(multidetector-row CT)によるバーチャル画像表示法の進歩もある.一方,Helicobacter pylori(HP)と胃癌との関係も判明し,免疫組織の深化,遺伝子学的な病理診断も深まりつつある.

 これらの基本にあるのは,形態診断学と言えよう.そこで私がこれまでに恩師や先輩の先生方から受けた形態診断学の教えを紹介し,その原点について述べることも,私の責務であろうと思う.私見も多いが,診断学に従事している,またこれから診断学の道に入ろうとしている若い先生方に,少しでも役に立てれば幸いである.

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要旨 届け出精度の高い福井県がん登録でみると,胃癌罹患数に変動はないが,年齢調整罹患率は19年間で2/3まで減少した.早期癌比率が48%に達し,特にM癌比率が2倍となったため,5年相対生存率は15年間に約10%上昇した.県内胃癌患者の1/4を診療している当院の早期癌比率は70%を超え,3,753例に達した.平均年齢は66.4歳に上昇し,症状を呈して診断されたものは半減し,任意型検診発見例が56%に達した.早期癌拾い上げ検査として内視鏡が大半となり, 2000年以降には内視鏡切除が38%に実施された.胃上部癌の比率が3倍となり,陥凹型が増加し,複合型が半減した.M癌比率が増加し,平均癌巣径が小さくなり, 組織型ではtub1が半数を超えた.このように早期癌診断能は向上しているが,生検病理診断を基準として内視鏡観察診断を評価すると,偽陰性率32%,陽性反応適中度52%であり,いまだ満足できる内容ではない.

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要旨 当院開設以来1962~2005年の切除早期胃癌について解析を行った.1990年以降早期胃癌の割合が著明に増加し,これに伴って内視鏡治療件数も増加していた.さらに,年代とともに粘膜内癌の割合の増加,平均腫瘍径の縮小を認め,わが国が取り組んできた胃癌の診断学および治療学の進歩が大きく寄与しているものと考えられた.一方,早期胃癌患者の高齢化が認められ,高齢者におけるHelicobacter pylori(HP)感染率の高さと平均余命の伸びが早期胃癌の高齢化に結びついているものと考えられた.今後はHP感染率の低下や生活環境の欧米化に伴い,胃癌の口側への移動が予測される.このことを早期胃癌の診断および治療に生かしていく必要があると考える.

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要旨 現在,早期胃癌の治療においてESD(endoscopic submucosal dissection)やEMR(endoscopic mucosal resection)の手技が一般化してきている.それに伴い早期胃癌の内視鏡診断の重要性が増してきている.また生検は癌の診断のほかに,negative biopsyを施行して癌の範囲を確定させることで,ESD, EMRの適応か否かの鑑別の一助となっている.しかし,生検においては時折,標本の取り違いや,標本作製の不備などにより,時としてインシデントやアクシデントが起こりうるという現実がある.そのようなことを起こさないようにするためにも病理診断においては,日頃からの内視鏡医と病理医の連携が大切であり,内視鏡医は病理診断について,病理医は内視鏡診断についての知識が必要である.ここでは,一般的な生検材料の取り扱いから,病理診断までの流れ,生検に際し注意すべきこと,また早期胃癌の診断,治療の際に必要となる生検の基礎的な知識などについて症例を交えながら初歩的なことを中心に簡単に述べることとする.

2)組織型 大倉 康男 , 守永 広征
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要旨 早期胃癌の組織型について検討した.早期胃癌には高分化型および中分化型管状腺癌,印環細胞癌が多くを占める.M癌では高分化型管状腺癌が半数を占め,次いで印環細胞癌が多い.SM癌では中分化型管状腺癌や非充実型低分化腺癌の割合が相対的に増加を示した.組織型の多様性についてみると,微小癌の大部分が単一型であるが,小胃癌では混合型が30.8%にみられた.また,20mmまでのSM癌では70.8%が混在型であった.組織型診断の問題点を頻度の高い管状腺癌と印環細胞癌について述べたが,低異型度の高分化型管状腺癌が日常診断で特に問題になると思われた.さらに,分化型・未分化型の二分類について概説した.

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要旨 胃癌は臨床病理学的な観点から,分化型癌と未分化型癌に分類され,遺伝子経路の違いも報告されてきた.特に前者はHelicobacter pyloriが再発見される以前から,慢性萎縮性胃炎と腸上皮化生を経て発生すると信じられ,intestinal-type carcinomaとも称されてきた.一方,粘液組織化学,さらにMUC遺伝子の発見と免疫組織化学の進展などを踏まえて,胃癌を形質発現の観点から再検討する試みがなされてきた.この流れに沿って,胃型高分化型癌とその対極をなす低異型度完全腸型分化型癌が市民権を得るようになり,体部腺・固有腺型の胃癌の報告もされるようになった.また,形質発現の研究によって,腺腫と良悪性境界病変,印環細胞癌の層構造や食道胃接合部癌などの理解が深まり,胃癌の臨床的診断や治療とのかかわりも深くなってきた.本稿では,早期胃癌における形質発現分類の基礎的・臨床病理学的意義について,これまでの歴史と最近の知見を概説する.

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要旨 早期胃癌に対する治療法は,内視鏡治療や縮小手術,腹腔鏡治療などの進歩により多彩となってきたが,リンパ節転移の診断に関する知見は,その治療法の選択や安全性において最も重要な指針の1つである.リンパ節転移は,早期胃癌においても頻度が低くないことから,安易なリンパ節郭清の省略や縮小は,再発の危険性を伴う.また,臨床的意義については議論のあるところであるが,現段階では微小転移の存在も無視できない.早期胃癌におけるsentinel nodeの術中迅速診断を,安全性の担保とした縮小手術も行われつつある昨今,微小転移も含めたさらに正確な病理診断が求められている.

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要旨 早期胃癌の肉眼型亜分類のうち0 I型と0 IIa型の違いは隆起の高さである.胃癌取扱い規約にしたがい,組織学的な隆起の高さが正常胃粘膜の2倍以内のものを0 IIa型,それを超えるものを0 I型と判定する.隆起主体の癌の組織型は,そのほとんどが腺管形成能を有する分化型癌である.臨床診断のポイントは,隆起の形・輪郭,辺縁・境界,基部の形状,丈の高さ,表面性状,色調である.臨床病理学的特徴として,0 IIa型はtub1-tub2 ,0 I型はtub1-papが多く,0 I型ではSM浸潤やリンパ節転移の点で注意が必要である.このような点を踏まえ,精度の高い胃X線・内視鏡検査を駆使し,適切な診断・治療を行う.

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要旨 0 IIc病変はわずかなびらん,または粘膜の浅い陥凹が認められるものと定義され,① 陥凹面,② 陥凹境界線,③ 辺縁の観察を詳細に行うことで診断される.分化型胃癌は,① 陥凹底は比較的平滑~胃小区模様がみられ,顆粒像は少数で発赤調,② 陥凹境界線は不明瞭でなだらかな陥凹,③ 陥凹の辺縁隆起が特徴である.未分化型胃癌は,① 陥凹底は無構造~不整凹凸,褪色調,陥凹内部インゼル,② 陥凹境界線は明瞭で断崖状,③ 陥凹辺縁はM癌では辺縁隆起を来すことはない,という特徴をもつ.0 III型は明らかに深い陥凹を有するもので,悪性サイクルのある時点で短期的にみられ,不整な潰瘍辺縁,辺縁に存在する0IIc成分を発見することがポイントである.

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要旨 IIb型早期胃癌はその定義と頻度の低さから臨床的には診断困難な癌とされている. 胃癌取扱い規約では,IIb(表面平坦型)を正常粘膜にみられる凹凸を超えるほどの隆起・陥凹が認められないものと定義し,臨床所見,手術所見,病理所見の3者をそれぞれの時期に判定して,総合所見により記載するものとしている.しかし,どの時期を有意にとって最終的に総合所見とすればよいのかという記載がなく,臨床重視の立場,病理重視の立場,総合的な立場から,それぞれの定義が提唱されており,混乱の原因となっている.提示した2症例ともに通常内視鏡検査が発見の契機となっており,引き続き行った色素内視鏡検査,NBI拡大内視鏡検査で病変が明瞭となっている.臨床の立場からは,X線検査では病変の描出は撮影された二重造影像の質に左右されること,内視鏡切除例が増えていること,固定の方法にも問題があると思われることから,IIb型の肉眼分類は内視鏡検査で判定すると取り決めれば,混乱は少なくなるものと思われる.

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要旨 早期胃癌の肉眼型での複合型は基本型が複合した病変に対して用いられる.胃癌取扱い規約ではより広い病変から順に「+」記号でつないで記載することが決められている.しかし,肉眼型にはそれが用いられるようになった経緯があり,解釈に差がみられることがある.特に複合型の0 IIa+IIc型,0 IIc+IIa型について顕著である.すなわち,0 IIa+IIc型では0IIa部分が0 IIc部分を環状に取り巻いているという形態的な特徴を重視する考えがある.また,0 IIc+IIa型では病変の一部に潰瘍を伴う0 IIc型の癌があり,ほかの部,特に0 IIcの周辺に0 IIa型がみられる肉眼型を呈する例に対して用いるという考えがある.

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要旨 過去19年間に,当センターで経験した表層拡大型早期胃癌69例を対象として,臨床病理組織学的特徴について検討した.男性37例,女性32例,平均年齢64.2歳,平均腫瘍長径8.8cm,占居部位は,M領域44例,小彎41例に最も多かった.肉眼型は,陥凹型49例,隆起型20例で,0 IIb進展を31例(44.9%)に認め,境界診断が病変の口側小彎で困難な症例が多かった.組織型は,混在型40例,分化型17例,未分化型12例の順に多く,SM浸潤率は44.9%で,リンパ節転移を20.3%(14例)と高率に認めたが,そのうち混在型が13例を占めていた.混在型のSM癌についてみると,68.4%にリンパ節転移を認めていた.以上より,表層拡大型早期胃癌は,占居部位ではM領域,小彎を中心に発育するものが多く.小彎口側の境界診断が困難な特徴を有する.組織型では混在型が多く,そのうちのSM癌は,高率にリンパ節転移を来すため,治療法選択において十分に注意する必要がある.

主題 5.早期胃癌の画像診断 1)スクリーニング検査の方法と精度

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要旨 2001年に発行された新・胃X線撮影法(間接・直接)ガイドラインに準じて,現在対策型検診で行われている間接X線について高濃度低粘性バリウムを使用した8枚法と,人間ドックなどの任意型検診で行われている直接X線のスクリーニング検査方法をそれぞれ概説する.X線の精度は画像精度と診断精度の両面から考慮する必要があり,画像精度については統一された撮影法と画像評価法の確立が必要であり,診断精度については死亡率を指標とした多施設による検討と同時に正確な癌登録をもとにした後ろ向き研究や,偽陰性例を中心としたX線診断精度の研究,検討を行う必要がある.

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要旨 上部消化管内視鏡検査は,胃癌の発見診断の第一選択として広く臨床にて行われているが,患者にとっては苦痛を伴う検査である.また広い胃の中で内視鏡が観察困難な部位にある病変は発見が容易ではなく,観察困難になりやすい部位を念頭に置き,丁寧に観察する必要がある.また,術者が異常所見を異常と認識しないと病変として認識できないため,どのような所見が異常であるか癌の所見の解析と所見の蓄積が内視鏡医には必要である.内視鏡検査はこのような検査の特性を考慮して行わないと容易に偽陰性を発生させてしまう検査であり,内視鏡医は,内視鏡検査が患者にとって楽で,偽陰性を発生させないように修練していく必要がある.

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要旨 経鼻内視鏡は,被検者の苦痛が少なく,検査中の循環動態や酸素飽和度が安定しているという利点を有するが,挿入時の鼻腔痛や画質と操作性が通常径内視鏡より劣るという欠点も併せもっている.そのため,スクリーニング検査といえども,その適応は慎重に決定する必要がある.また,癌の見逃しを防ぐには,前処置の工夫や,熟達した内視鏡医による丹念な観察が求められる.今後は,偽陰性癌の検討など,経鼻内視鏡検査の診断精度評価が急務である.

主題 5.早期胃癌の画像診断 2)深達度診断のための精密検査

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要旨 過去3年間に慶應義塾大学病院で外科的あるいは内視鏡的に切除された胃癌症例508例554病変〔M癌243病変,SM癌162病変(SM1 43病変,SM2 119病変),MP以深癌149病変〕のX線による深達度診断を検討した.それぞれの正診率はM 91.3%,SM 79.3%,MP以深 89.9%で,術前にSM1とX線的に診断した症例はなかった.早期胃癌の8割を占める陥凹型のSM以深への浸潤は,胃壁の肥厚,伸展不良および壁硬化が参考になった.X線でこれらの所見を表わす方法として,二重造影法では病変部における造影剤の厚さを変えることによって肥厚部の厚さや輪郭を表わすと同時に,肥厚部の表面や辺縁の性状を描出して,その肥厚が粘膜の増殖によるものか粘膜下の肥厚かを鑑別すること,圧迫法では圧迫の強さを変えることによって,肥厚部の性状とともに硬さを知ることが正確な診断につながると考えられた.X線で深達度診断を的確に行うためには,二重造影法および圧迫法を駆使するとともに,どのような所見を表わすかという目的意識を持って検査にのぞむことが重要と思われた.

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要旨 通常内視鏡検査における深達度診断はインジゴカルミンによる色素内視鏡を併用し,肉眼型,病変の大きさ,表面性状,辺縁の性状,癌の厚みについて観察して診断する.胃内の空気量を変化させることも正診率を上げることに有用である.隆起型では病変の大きさが重要な因子である.切除標本からの検討ではI型では20mm以下で約70%がM癌,30mm以下では半数がSM癌であった.また有茎性のものはM癌である.IIa型では20mm以下では85%がM癌であるが,51mm以上では半数がSM癌であり,ESDを適応拡大していくうえで重要である.IIa+IIc型では20mm以下でもSM癌率が高く,未分化型では91%がSM癌であった.IIc型では20mm以上では組織型にかかわらず,M,SM癌率は同等で,表面性状,辺縁の変化などを観察し,診断していく必要がある.IIc型でUL(-)では,SM癌の特徴として,陥凹が深く,陥凹内粗大隆起,台地状隆起,粘膜下膨隆が挙げられる.陥凹内隆起は再生結節,取り残し粘膜などの所見と鑑別する必要がある.IIc型でUL(+)ではひだの癒合,太まりがSM癌の重要な所見である.

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要旨 早期胃癌の超音波内視鏡による深達度診断について,代表的な3分類(芳野・中村分類,木田分類,長南分類)を中心に述べた.病巣内に潰瘍性線維化巣を伴わないUL(-)早期胃癌では,第3層以深に変化を認めないものをM癌,第3層の画然とした破壊を認めるものはSM癌と診断する.病巣内に潰瘍性線維化巣を伴うUL(+)早期胃癌では,第3層先端が胃内腔側に滑らかに収束し,UL-II,III,IVの潰瘍,あるいは潰瘍瘢痕と同様のEUS像を示すものをM癌と診断する.一方,SM癌の診断は,先細り状に収束する第3層先端が画然と断裂するものをSM癌と診断する者,胃壁の肥厚をもってSM癌と診断する者など報告者によって異なっているのが現状である.

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要旨 ESDの術前検査におけるX線精密検査の意義は,浸潤範囲診断,深達度診断,Ul深度の推定,さらに同時性多発病変の拾い上げである.特に浸潤範囲診断においては内視鏡的に観察困難な領域や,表層拡大型を代表とする大きな病変に対し,全体像の把握と腫瘍径の測定に有用である.残胃癌においては病変と縫合線との位置関係も客観的に把握できる.また,結果的適応外病変における追加手術の術式決定のために必須と考える.一方,内視鏡的に浸潤境界が不明瞭となる病理組織学的要因を備えた0 IIb,類似0 IIb,あるいはこれらを随伴する病変などに対してもX線検査がその範囲決定に役立ち,マーキングに際し一指標となることがある.実際には淡い陰影斑,非癌粘膜と癌粘膜の微細な形状の差や,わずかなバリウム付着異常から診断しなければならず,より良質の画像を撮影する技術と読影力の修練が必要である.X線検査による浸潤範囲診断をマーキングに反映させるには,内視鏡,X線検査後にたえず両者を対比させ,内視鏡的浸潤範囲診断の妥当性を組織構築を考慮しながら確認する作業が必要となる.盲目的な拡大内視鏡検査や4点生検よりも,問題点を絞り込むことでより正確で効率的な浸潤範囲診断が可能となる.

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要旨 当院における通常内視鏡,およびインジゴカルミンを用いた色素撒布後の内視鏡による早期胃癌の範囲診断能,および診断を困難にさせる因子について検討した.全385病変を検討し,通常内視鏡で境界明瞭と判断したものは72.2%,色素撒布後の内視鏡では92.2%であった.最終的に正確な範囲診断が可能であったものは78.4%で,その範囲診断を誤らせる因子として“病変長径31mm以上”,“主な組織型が未分化型”,“粘膜表層に分化型優位の混在あり”,“潰瘍瘢痕あり”,“0 IIb成分あり”が統計学的に有意であった.このような病変に対しては通常内視鏡だけでは限界がありAIMやNBIなどを活用した確実な範囲診断が不可欠であると考える.

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要旨 NBI併用拡大観察での分化型粘膜内癌の範囲診断は血管patternと粘膜模様を形成するwhite zoneから行う.血管patternはmesh patternとloop patternに大きく分類できたが,mesh patternではwhite zoneから成る粘膜模様の消失と網目模様血管の出現,loop patternではwhite zoneから成る粘膜模様の小型不整化,粘膜模様内の不整な血管の出現,white zoneの融合から癌を認識できた.また酢酸,酢酸・インジゴカルミンを併用した方法を“化学的”色素法とした.酢酸では癌部の白色化が早期消失し,癌部は発赤,非癌部は白色のコントラストで観察された.酢酸・インジゴカルミンでは非癌部にはインジゴカルミンが付着するが癌部には付着せず,そのコントラストから癌の範囲診断が可能であった.

主題 6.早期胃癌の治療

1)治療法選択の考え方 浜田 勉
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要旨 早期胃癌の外科的手術と内視鏡的治療の治療法選択の臨床的な考え方を述べた.近年の治療法はEMRからESDへの内視鏡的治療の開発と腹腔鏡補助下幽門側胃切除術などの外科的治療法の変化により低侵襲な治療がもたらされている.内視鏡的治療選択へのステップとして ① 組織型が分化型であること, ② 深達度を決めること,が挙げられる.分化型癌については,まず,大きさより深達度が重要で,形態診断によりMの癌を適応とし,SM2の癌では外科的手術を選択する.次にM癌の大きさを決め,技術的にまた部位的に内視鏡的治療が可能かどうかを判定する.表層拡大型や噴門部にあるものなどは外科的手術が必要となる.内視鏡的治療では一括切除が原則で,EMRでは小さい癌に限定されるため,ESDが一般的に選択されることが多い.新しい治療法の場合,パターナリズムにより治療法が選択されることがないようインフォームドコンセントの重要性を強調した.

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要旨 内視鏡的粘膜切除術(EMR)は,内視鏡で診断された小さな胃癌病変に対して,できるだけ少ない身体的負担で治療することを目的に開発された内視鏡的治療法である.このEMRによる早期胃癌に対する治療は,治療時間が短く,治療による負担が軽く,穿孔などの偶発症が少ない.一方,切除される範囲に限界があるため,一定の頻度で遺残再発がみられることが,この治療法の欠点である.しかし,この遺残再発は追加の内視鏡治療で根治することが明らかになっている.内視鏡治療の適応症例においてEMRであれ,ESDであれ,その治療効果に差はなく根治効果が得られることが証明されている.

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要旨 ESDは占居部位,形,大きさにかかわらず一括切除が可能な優れた内視鏡治療手技であるが,適応拡大病変に対するESDの安全性,長期予後は不明であった.本稿では第75回日本消化器内視鏡学会総会シンポジウム「早期胃癌適応拡大病変に対するESDの現状と問題点」にて集計された,予後把握率90%を超えた12施設のデータを元に適応拡大病変に対するESDの治療成績を検討した.適応内群9,033例,適応拡大分化型群4,207例,適応拡大未分化型群256例で,一括完全切除率はそれぞれ94.5%,86.4%,90.9%,現病死は0.01%(1/9,033例),0.02%(1/4,207例),0.4%(1/256)であり,各群間に優位差はなかった.これらはいずれもレトロスペクティブな検討だが,予後捕捉率90%以上の多施設からのデータ集計であり,現時点で胃癌に対するESDの適応拡大基準は妥当と思われた.

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要旨 近年,低侵襲の重要性がうたわれ,様々な施設で腹腔鏡下胃切除手術の症例数増加が進んでいる状況にある.2004年版の胃癌治療ガイドラインでは,早期胃癌に対する腹腔鏡下手術はStage IBまでを臨床研究として認められた.Kitanoらによる専門施設を中心としたmulti center studyで,早期胃癌の腹腔鏡下胃切除手術の短期長期成績とその有効性が2007年に報告された.JCOGの臨床試験(0703)の第2相試験が始まっているが,その結果によっては,早期胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除手術は近い将来,臨床研究段階から日常診療の標準治療になる可能性がある.今後は,適切なRCTを進め,臨床結果に基づいたガイドラインが作成され,普遍的手術となりうる教育システムの構築が必要である.

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要旨 早期胃癌手術は,D2リンパ節郭清が標準術式とされてきた.しかし,リンパ節転移を来す早期胃癌の臨床病理学的特徴が明らかとなり,近年内視鏡的治療を含めた縮小手術が導入されてきている.縮小手術とは,胃切除範囲・リンパ節郭清範囲の縮小・機能温存が挙げられるが,根治性を保つには原発巣の完全切除とリンパ節転移のコントロールが重要である.当院でのガイドラインにおける縮小手術の導入状況とその根拠を示した.ESD導入後,手術症例の母集団はリンパ節転移陽性率の高い症例が多く占める傾向が示されたが,その治療成績は,ESD導入前と比較し同様であった.以上より,現在行われている早期胃癌に対する治療法は妥当であると考えている.

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要旨 内視鏡治療後の遺残再発病変は,適切なフォローアップがなされている限り粘膜内病変で発見され,局所コントロールでレスキュー治療が可能である.EMR後の遺残再発病変に対してはESDによる再切除が有用であり,外科的切除を要するケースは少ない.一方,ESD後の遺残再発病変に対する再ESDは極めて困難であるため,遺残再発を来さないことが重要である.そのためにはより安全で確実なESD手技の工夫と術前範囲診断能の向上が必要であるが,術前生検によるリスクの絞り込みや不完全切除後の可及的速やかな追加ESDなどによる予防対策も有用である.

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要旨 早期胃癌治療症例を手術例(開腹・腹腔鏡胃切除)と内視鏡的切除例(EMR,ESD)に分け,各々の治療成績から鑑みた適切な治療後サーベイランスについて考察した.手術例における再発率は0.6~4%と低く,全例における術後サーベイランスの意義は不明である.しかし,少なからず転移再発を来す症例も存在することから,再発高危険群に対しては,術後3年間程度の比較的タイト(3~6か月に1度)なサーベイランスを計画すべきだと考えられる.また,1~3%の頻度で発生する残胃癌の早期発見のために,1~2年に1回程度の内視鏡検査は可能な限り続けていく必要がある.一方,内視鏡的切除例では,その適応を越えない限り転移再発の可能性はほとんどなく,転移再発検索を目的とした術後サーベイランスは必要ない.しかし,適応を拡大して内視鏡的切除が行われた症例に関しては,現時点では長期成績の報告も少なく,慎重なフォローを要するだろう.完全切除が行われたESD症例では,絶対適応病変あるいは適応拡大病変のいかんにかかわらず,遺残再発のリスクはほとんどなく,遺残再発検索のための内視鏡検査は年1回で十分とする考えも妥当である.しかし,EMRやESDの不完全切除例では3年以内の遺残再発率が高く,この期間は比較的タイト(3~6か月に1度)な内視鏡検査を要する.また,異時性多発癌の発生を考慮した内視鏡サーベイランスも長期的に必要である.

主題 7.特殊な成り立ちの早期胃癌

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要旨 EBV関連胃癌はEBVに感染した上皮細胞がモノクローナルに増殖した腫瘍で,胃癌全体の約10%を占め,際立った臨床病理学的特徴を有する.一般の胃癌に比べ男性に多く,やや若年に発生する傾向があり,胃の近位側に好発する.内視鏡像では0 IIc型主体の例が多い.組織型はtub2(66%)ないしpor1(21%)と診断されることが多いが,特異的な組織パターンとしてlace patternとリンパ球浸潤癌が知られている.前者は粘膜内でみられることが多く,後者は粘膜下層浸潤部で認められ,結節状増殖を示す.粘液形質は特徴的に無形質か胃型形質を示す.予後良好な傾向があり,早期癌でのリンパ節転移はまれである.

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要旨 胃内分泌細胞癌は,高異型度の腫瘍性内分泌細胞から構成される腫瘍で,急速に発育して早期より脈管侵襲と転移を来す予後不良の高悪性度癌であり,低異型度で低悪性度のcarcinoidとは対極に位置づけられる.胃内分泌細胞癌の生物学的態度以外の臨床像は,通常の腺癌とほぼ同様の特徴を示すが,肉眼型では進行癌が粘膜下腫瘍の要素を有する2型が多く,早期癌では通常の腺癌と同様IIc型が多い.発生機序は,腫瘍の一部に管状腺癌成分を伴うことが多く,腫瘍の粘液形質の特徴を含め,腸型または胃腸型の粘液形質を有する管状腺癌から腫瘍性内分泌細胞への脱分化を起こすことが主な経路と考えられている.

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要旨 粘膜下囊胞由来の胃癌はU・M領域に多く認められ,肉眼型はbridging foldを有するSMTを呈することが多い.また,SMT表面には中央部からやや偏位し,不整および発赤調を呈する陥凹所見を認め,自験例では粘液を排出する大小不同の乳頭状構造が観察される開口部が存在し,この大小不同の乳頭状構造が粘膜下囊胞由来の癌の診断において重要な所見と考えられた.癌の組織型は分化型管状腺癌が多く,深達度は粘膜下層にとどまり,リンパ節転移の頻度は低かった.EUSではhyper echoicなエコー輝度を中心にモザイクパターンを呈し,内部にはecho free spaceが散見されたが,囊胞内に癌の存在を示す所見とは考えられなかった.生検診断は癌組織が開口部に露呈している場合や粘膜筋板にまで進展する症例では可能であった.

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要旨 肝様腺癌(hepatoid adenocarcinoma)は,肝癌類似の組織像を呈する特殊な胃癌であり,頻度は低いが高度に静脈浸潤を来し,極めて予後不良な組織型の1つである.組織学的特徴は,好酸性から淡明で豊富な細胞質を有する癌細胞が索状構造を取りながら充実性に増殖し,しばしば硝子球(hyaline globule)や細管構造(canalicular structure)がみられる.そして,免疫染色によるAFP陽性またはin situ hybridization法によるアルブミンのmRNAの検出により肝様腺癌と確定される.肝様腺癌にはAFP産生胃癌も含まれるがAFP非産生胃癌も存在し,AFP産生胃癌には肝様腺癌も含まれるが非肝様腺癌も含まれる.これらの関係は十分理解されておらず,AFP産生胃癌における肝様腺癌と非肝様腺癌の関係や,組織発生から肝様腺癌へと進展する機構の解析はいまだ不十分である.今後は組織像の詳細な評価を基礎として,それらの解析を進めていく必要がある.

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要旨 吻合部ポリープ状肥厚性胃炎(stomal polypoid hypertrophic gastritis ; SPHG)は,1976年,古賀らにより報告された吻合部残胃にみられる特殊な胃炎である.類似用語にgastritis cystica polyposa(GCP)があるが,それぞれの原著論文における病変の成り立ち論からは,残胃癌の組織発生を論じる際には,SPHGを用いたほうがよいものと考えられる.本稿では,このSPHG由来の癌について概略し,その定義・頻度についてもふれた.

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要旨 体外式超音波による胃癌の診断についてその概略を述べた.体外式超音波を用いても高周波プローブを用いることで,ある程度病変の深達度診断は可能であり,場合によっては超音波内視鏡の代替法となりうる.また治療方針を左右するリンパ節転移そのほかのステージを判定するうえで有用であり,さらに造影超音波は腫瘍の血流評価や肝転移の鋭敏な検出法として期待される.

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要旨 早期胃癌に対する内視鏡治療の適応拡大に伴い,病変の側方進展範囲診断はますます重要性を増している.当院では通常の内視鏡機器を用いて,酢酸・インジゴカルミン撒布後に病変部を水洗することで,早期胃癌の側方進展範囲診断を行ってきた.この方法では腫瘍部のインジゴカルミンが水洗で除去されるのに対し,非腫瘍部のインジゴカルミンは残存するため,腫瘍の進展範囲が明瞭に描出される.酢酸・インジゴカルミン撒布・水洗法は特殊な機器を必要とせず,腫瘍進展範囲の全体像が簡便かつ明瞭に認識できる手法である.自験例では正診率が94.9%と高く,有用な手法と考えられた.

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要旨 自家蛍光内視鏡は,励起光を照射した際に消化管組織中の蛍光物質から生じる自家蛍光を,内視鏡下に捉え画像化する装置で,各種疾患ごとに異なる蛍光特性の差を,内視鏡画像上の色調差として描出することが可能である.autofluorescence imaging(AFI)videoendoscopy system画像で食道,大腸の腫瘍は緑色の背景粘膜内に紫色の領域として描出されるが,胃では背景粘膜に萎縮がない胃底腺粘膜は蛍光の減弱した赤紫~深緑色に,一方,幽門腺粘膜または萎縮粘膜は緑色に描出される.また,早期胃癌は隆起型のほとんどが紫色に,陥凹型は大半が緑色に描出される.それらを組み合わせた色調パターンをもとに早期胃癌の拡がりの診断能を評価したところ,AFIの正診率は68%で,白色光観察の36%に比べて優れた傾向にあったが,色素内視鏡の91%には劣っていた.ただ,形態や色調変化の乏しい平坦病変に対する正診率は80%と,色素内視鏡(100%)と遜色なかった.

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要旨 白色光を用いた画像処理により,内視鏡医が注目する波長の内視鏡画像を作製する分光内視鏡であるFICE(flexible spectral imaging color enhancement)は,optical biopsyを行うことを可能とするimage-enhanced endoscopy(IEE)の1つとして挙げられる.内視鏡医は任意の条件設定を行うことにより診断に有用な内視鏡画像を得ることが可能であり,得られた画像は遠景・中間景でも通常観察とほぼ同等の明るさを有し,病変の視認性の向上が期待される.また,拡大観察においては微小血管や粘膜微細模様の明瞭化が可能である.FICE画像は通常画像に比べて,早期胃癌と胃炎の鑑別診断や早期胃癌の境界診断などに対し,より高い精度で簡便かつ非侵襲的に行える方法として期待される.

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欧文目次

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 『ティアニー先生の診断入門』は卓越した臨床家であるローレンス・ティアニー先生が松村正巳先生とともに日本の研修医を対象にして書かれた診断学の入門書である.しかし,本書は通常の入門書とは一味も二味も違い,ティアニー先生ご自身の診断のプロセスを解説した極めて貴重な教科書となっている.

 ティアニー先生に接した人は皆その膨大な知識量と分析力に圧倒されるが,その診断の進め方は極めてオーソドックスであり,病歴から鑑別診断をもれなく挙げ,身体所見で絞り込み,必要な検査にて確定診断に持ち込むものである.

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 世の中,特に医療人の間では「医療経済」を扱う議論はすべて「医療経済学」に属すると思われているのではなかろうか.本書はその違いを知るとともに,経済学の考え方を学び,専門家や官僚と医療政策論議を交わすための基礎能力を与えてくれる解説書である.

 前者,つまり「医療経済論」は,医療費をめぐる論争,医療制度改革のうちファイナンスのあり方,および医療提供体制にかかわる政策論など広範な分野が当てはまる.医療経済論は,医療経済学の技法を使っても使わなくてもこの世に役立つ(役立たない)議論が可能である.ただし実際のところ,経済学の素養をもつ人たちにとっては,客観的な理論体系からは程遠く,思いつきを並べているだけとしかみえない粗雑な医療経済論が目立つことも否定できない.

編集後記 浜田 勉
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 「早期胃癌1993」以後16年経過して,新たに「早期胃癌2009」を企画した.新旧の2つの増刊号を読み比べてみると,病理,診断,治療法のそれぞれの分野で新しい進歩が認められ,ステップアップして21世紀を迎えたことがわかる.この背景には,ファイバースコープから電子スコープへの変化,拡大やNBIなど新機能の開発,ESDによる切除標本の呈示など,内視鏡機器の進歩に負うところが大きいようだ.時代的変遷の中で,早期胃癌での発見の割合が80%にまで達し,高齢化と発生部位の口側への移動傾向や平坦型の増加があったという草野らの報告は内視鏡診断がさらに進んだことを裏打ちし,ESDや腹腔鏡手術などの低侵襲治療への道が今後ますます広がっていくだろう.

 それに比べてX線画像の呈示が激減しており,時代的変化を表していると思われる.早期胃癌に対するX線の役割を今後どのように位置づけていくのか,明確な議論が必要だ.

基本情報

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胃と腸
44巻4号 (2009年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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