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はじめに
内視鏡による上部消化管スクリーニング検査の普及を背景に十二指腸非乳頭部の腺腫・癌に遭遇する機会が増加し,その診断と低侵襲治療が注目されつつある.しかし,非乳頭部十二指腸腺腫・癌に関する報告の大部分は“腺腫と粘膜内癌(M癌)”であり1),粘膜下層以深への浸潤を呈した癌(以下,浸潤癌)の報告はまれで,その臨床病理学的特徴は明らかでない.また,M癌と粘膜下層浸潤癌(SM癌)そして固有筋層以深への浸潤癌(進行癌)の病理組織学的比較検討も少なく,その連続性・類似性についても明確にされていない.
外科的切除例での検討に基づいて,十二指腸非乳頭部におけるM癌のリンパ節転移はほぼゼロだがSMに浸潤すると高率(5〜46%)かつ広範にリンパ節転移を来すことが明らかになっており2)3),現時点でM癌は腺腫と同様の局所切除(内視鏡的切除あるいは外科的縮小手術),SM以深への浸潤癌はリンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除(pancreaticoduodenectomy ; PD)が標準術式とされている4).このように,M癌とSM癌では適切な術式が異なりその侵襲が大きく異なるため,SM癌を含む浸潤癌の臨床病理学的特徴を明らかにしM癌との鑑別診断の精度を向上させることは,治療法の選択を検討するうえでも重要と考えられる.
本特集号は「非乳頭部十二指腸浸潤癌」をテーマとした.「胃と腸」誌において,54巻8号(2019年7月)「十二指腸腺腫・癌の診断」,56巻13号(2021年12月)「非乳頭部十二指腸腺腫・癌の診断と治療」などにおいて十二指腸非乳頭部の“腺腫・癌”が主題として取り上げられてきたが,“癌”に限定したテーマは本特集号が初めてとなる.
近年,非乳頭部腺腫・癌の切除例が集積されるに従って腺腫・癌の自然史が明らかにされつつある.十二指腸非乳頭部癌には,主に腸型形質と胃型形質の2つのグループが存在し,その形態的特徴が異なること,ゲノム異常,リンパ節転移リスクをはじめとした生物学的振る舞いに違いがあり,胃型形質主体の腺癌のほうが高い悪性度を有している可能性が示唆されるなど,細胞形質に基づく分類の重要性が明らかになりつつある5)〜8).本稿では,非乳頭部十二指腸浸潤癌に関する報告の中で,細胞形質の分類を含んだ検討を中心にレビューし,報告されている知見を概説する.

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