胃と腸 44巻5号 (2009年4月)

今月の主題 癌や炎症と鑑別が困難な消化管悪性リンパ腫

序説

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はじめに

 「胃と腸」の主題として消化管悪性リンパ腫は比較的頻回に取り上げられており,胃・腸管を合わせて本号で15回目を数える.この間,悪性リンパ腫に関連した主な進歩としてmucosa-associated lymphoid tissue (MALT)リンパ腫の概念1),WHO分類(2001)による腸管悪性リンパ腫の新たな分類2)の推奨(Table 1),遺伝子変異・異常の解析の進歩,診断面においてはカプセル内視鏡,バルーン小腸内視鏡の普及が,また治療面ではHelicobacter pylori(H. pylori)除菌療法の胃MALTリンパ腫への普及3)と抗菌薬治療の腸管MALTリンパ腫への導入4),さらにはrituximabなどの分子標的治療薬の登場5)など,この分野の概念,診断,治療の進歩は著しい変化を遂げている.特に上述した治療法の進歩は,日本における従来からの外科切除を中心とした消化管悪性リンパ腫に対する治療法にも変化を来した.現在では治療法選択のうえで,悪性リンパ腫と癌や粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT),他の炎症性疾患との鑑別がますます重要となっている.

 従来より,消化管悪性リンパ腫の肉眼的特徴がいくつか挙げられており,通常,癌をはじめとしたその他の疾患との鑑別は比較的容易である.しかし,消化管悪性リンパ腫の肉眼所見は症例によって多彩であるため,未分化型早期癌,超高分化胃型胃癌,低分化充実癌,内分泌細胞癌などの一部の癌,GIST(gastrointestinal stromal tumor),カルチノイド腫瘍などの粘膜下腫瘍,胃梅毒,サルコイドーシスなどの炎症との鑑別が問題になる場合がある.また,小腸,大腸における悪性リンパ腫は時に,アミロイドーシスや様々な炎症性疾患との鑑別が困難で診断に苦慮する場合も少なくない.

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要旨 最近5年間に経験した胃MALTリンパ腫19例のX線像を検討した.19例中17例が表層型,2例が腫瘤型に分類された.さらに表層型17例は限局性陥凹の形態を呈した早期胃癌類似型(限局型)5例と広範な顆粒状粘膜パターンを認めた胃炎類似型(広範型)12例の2型に分類可能であった.胃炎類似型のほとんどの症例は,X線所見上,胃小区の乱れに加えて小バリウム斑,ニッシェ,粘膜集中などの多彩な所見を伴っていた.本症のX線診断に際してはこれらの特徴を念頭に置く必要がある.

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要旨 当科で診断した胃MALTリンパ腫98例の内視鏡所見を検討した.胃MALTリンパ腫の内視鏡所見は,早期胃癌(IIc)類似型,胃炎類似型,隆起型の3群に大別できた.早期胃癌類似型と早期胃癌の鑑別のポイントは① 正常粘膜との境界が不明瞭,② 蚕食像がないか,あってもごく一部,③ 陥凹内に粘膜模様が観察される,④ 病変が多発することが多い,の4点であった.胃炎類似型はさらに,びらん・潰瘍型,色調変化型,顆粒・結節型に細分類され,びらん性胃炎,急性胃粘膜病変,消化性潰瘍,萎縮性胃炎,鳥肌状胃炎などとの鑑別が必要である.一方,隆起型は,表面にびらんや潰瘍を伴い,形状も不整であることから間葉系腫瘍との鑑別は容易であるが,IIa型早期胃癌や形質細胞腫との鑑別が問題となる.早期胃癌類似型は胃炎類似型に比べて,壁深達度がSM以深の症例が多く(p<0.01),Helicobacter pylori感染を認めない症例の割合が高かった(p<0.01).

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要旨 胃の悪性リンパ腫(以下,ML)の正診率は多彩多発型では75%であったが,その他の肉眼型では正診と疑診を合わせても50%以下であった.したがって,MLの大多数の症例が,癌や粘膜下腫瘍,炎症などとの鑑別が必要であると考えられ,今回,進行MLの鑑別診断について,肉眼所見およびX線所見を検討した.その結果,潰瘍型と2型癌との鑑別では,① MLは潰瘍が不整形であってもなめらかな線で描出されること,② MLはX線で伸展不良が軽いことが,重要な鑑別点と考えられた.隆起型とGISTとの鑑別では,MLの軟らかさと隆起表面の散在性の微細な星芒状陥凹が鑑別に有用であった.巨大皺襞型とLP型胃癌との鑑別では,腫大皺襞の規則的蛇行の有無,潰瘍の形態,X線における伸展不良の程度により鑑別可能と思われた.また,MLはサルコイドーシスや梅毒などの胃炎との鑑別も問題になる.胃サルコイドーシスは前庭部に多い傾向があるが,病変の形態では鑑別困難であった.胃梅毒も病変が多彩であるが,各所見を詳細に検討すればMLとの鑑別は可能であると思われた.

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要旨 胃悪性リンパ腫の肉眼分類には,従来から佐野分類と「胃と腸」胃悪性リンパ腫編集小委員会の分類がよく用いられている.前者では表層型,潰瘍型,隆起型,決潰型,巨大皺襞型の5型に,後者では表層拡大型,腫瘤形成型,巨大皺襞型の3型に分類されている.しかし,胃悪性リンパ腫は多彩な内視鏡所見を呈することが特徴であり,その分類に当てはまらないものもある.本稿では,各肉眼型の代表的症例を提示したうえで,その内視鏡所見の特徴を記載するとともに,他疾患との鑑別ポイントを概説した.

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要旨 小腸悪性リンパ腫132例を,癌や良性疾患と鑑別を要した鑑別困難例(n=47)と典型例(n=85)に分け,両者の特徴を比較した.典型例と比べ,鑑別困難例では,十二指腸病変,多発例,組織型でMALTやNK/T細胞性リンパ腫,肉眼型でびまん型や混合型の頻度が高かった.また,鑑別困難例では外科切除が少なかったが,病期や予後に差はなかった.鑑別困難例のうち,癌などの腫瘍と鑑別を要した例はdiffuse large B-cell lymphomaや隆起型,限局性炎症と誤診した例はMALTリンパ腫や潰瘍型,アミロイドーシスなどのびまん性疾患に類似した例はNK/T細胞性やびまん型が多かった.良性リンパ濾胞過形成と鑑別困難な例にはMLP型のマントル細胞リンパ腫などがみられた.以上より,小腸リンパ腫の診断には各組織型に特徴的な肉眼所見を理解して,適切な画像検査を行うことが重要と考えられた.

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要旨 小腸悪性リンパ腫は,ダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡の開発で術前の組織診断や病期判定が行えるようになった.小腸病変は多彩であったが,病変の一部に粘膜下の腫瘤を認めること,壁外に腫大したリンパ節や腫瘤を認めることがあること,大きさの割には狭窄や閉塞所見が少ないのが特徴であった.限局型病変では2型進行癌と鑑別が必要になるが,腫瘍の露出が粘膜面にない場合には超音波内視鏡で低エコーの腫瘤像を描出することが重要と思われた.びまん浸潤型を呈するるIPSID,T細胞性リンパ腫,非典型の濾胞リンパ腫やMALTリンパ腫とアミロイドーシスと鑑別が難しい場合にも,他の小腸に粘膜下腫瘍様の病変や顆粒集簇所見など典型所見を見つけることが鑑別診断につながると考えられた.

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要旨 大腸悪性リンパ腫は比較的まれな腫瘍であるが,その多彩な所見よりX線診断や内視鏡診断は困難な場合がある.癌との鑑別には粘膜下腫瘍様の立ち上がりを有すること,腫瘍の硬さに乏しいことなどが挙げられるが,炎症との鑑別は困難であり,特に潰瘍性大腸炎との鑑別は困難である.鑑別すべき疾患のX線・内視鏡的特徴と実際の症例を詳細に比較検討することで,その診断の一助になると考えられる.

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要旨 消化管領域のリンパ増殖性病変における鑑別診断の作業段階は概ね3つに分けられる.1つは非腫瘍性病変と悪性リンパ腫との鑑別である.第2は悪性リンパ腫と他の悪性腫瘍との鑑別である.第3は悪性リンパ腫の病型をめぐる鑑別である.その難易度は様々であるが,なかでも第1の作業が難しい.特に小さな粘膜生検組織での鑑別作業遂行には限界がある.このような場合は,十分量の組織を採取したり,いくつかの補助診断手技を応用し,これらの結果を総合的に判断しながら鑑別作業を進めなければならない.その際,病理医は結果の解釈が独善的にならぬよう留意したい.一方,臨床医は挫滅のない良質な組織採取と漏れのない臨床記載を心がけるとともに病理医がいかなる解析手段を用いて,その結果がどのように解釈されて主診断に至ったのか,ぜひ把握していただきたい.

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要旨 腸管リンパ腫の光デジタル内視鏡所見について概説した.腸管リンパ腫の病変は,NBIでやや薄い茶色の領域として描出される場合が多く,拡大観察の併用により,不規則に走行する口径不同の微細血管が観察される.また小腸においては,通常,絨毛内をループ状に描出される血管が不整に蛇行,あるいは無秩序に走行する所見や絨毛内のうっ血が認められる.AFIでは,リンパ腫病巣は,マゼンタの色調を呈する.また,画像解析ソフトにより色調の変化を数値化した結果,リンパ腫病変では良性のリンパ濾胞過形成に比べ色調変化が著しいことから,リンパ腫細胞の浸潤は自家蛍光の減弱を引き起こすことが示された.今後さらに症例を蓄積し,リンパ腫病変の拾い上げにおける光デジタル内視鏡の有用性を検討するとともに,原発性と全身性リンパ腫との所見の差異,組織型や進行度による違いなどを明らかにする必要がある.

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要旨 まれな食道原発の悪性リンパ腫の1例を報告した.患者は80歳代の女性.主訴は軽度の胸焼けであった.上部消化管内視鏡検査で,中部食道に径約10mm大の2つの粘膜下腫瘍性病変を認めた.表面に多発する小白苔を伴い,伸展性は保たれていた.鉗子生検でリンパ増殖性疾患が疑われ,確定診断の目的で2つの病変に対して内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理組織学所見は,いずれもリンパ濾胞のmarginal zoneにcentrocyte様細胞の増生と上皮内への浸潤を認めた.免疫組織染色では,CD20,CD79aが陽性,CD3,CD5,CD10が陰性で,分子生物学的な解析によりmonoclonalityを認めた.以上より,MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫と診断した.各種画像診断より他部位への浸潤は認めなかった.切除断端は陰性で,高齢であったことより,追加治療は行わずに経過観察しているが,9年4か月経過した現在も無再発生存中である.

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要旨 患者は34歳の男性.健診目的の胸部X線検査で異常影を指摘され,PETで中縦隔に強い集積を認めた.CTおよびMR検査で食道と一塊となった腫瘍を疑われた.上部消化管X線検査では内腔は保たれ,食道の伸展は良好であった.上部消化管内視鏡検査,および超音波内視鏡検査ではびまん性の粘膜下層の肥厚を認めた.以上より,食道原発悪性リンパ腫と診断し,食道切除を行った.病理診断はMALTリンパ腫であった.R-CHOPによる化学療法を施行し,術後16か月現在まで再発はない.食道MALTリンパ腫はまれな疾患であり,治療法も確立していない.さらなる症例の集積と分析が必要である.

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要旨 患者は67歳,男性.右李肋部痛を主訴に受診した.全大腸内視鏡検査を施行したところ,直腸に2型大腸癌様の病変,盲腸に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認め,進行直腸癌および盲腸転移性腫瘍を考えた.鑑別として悪性リンパ腫も否定できず両病変から生検を施行した.組織学的所見はともにびまん性大細胞型リンパ腫であった.CTでは腹部に多数のリンパ節腫脹を認めた.以上より腸管原発悪性リンパ腫,臨床病期Stage IIと診断しrituximab-CHOP療法を施行した.6コース終了後に病変はほぼ消失していた.

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はじめに

 前回述べたように,最終的に癌患者の生命予後と関連するMUC1,MUC2,MUC4の各ムチンの発現について,免疫染色を行い臨床病理学的因子と比較することは,それらの発現の意味合いを知る意味で大変重要なことであるが,それはトランスレーショナル・リサーチの“出発点”であり,その段階でとどまっていたのでは“隔靴掻痒”の感は否めない.ムチン発現の臨床病理学的意義を確認できた次の段階としては,各ムチンがどのような遺伝子発現機構で制御されているかを探究して,ムチン発現の生物学的現象の根本を解明することにより,消化器腫瘍の診断や治療に役立つさらなる臨床応用が可能となる.本稿の前半では,これらのムチン(MUC1,MUC2,MUC4)の遺伝子発現の制御機構について述べる.

 後半では,最近盛んに行われるようになってきた,胃型ムチンであるMUC5ACとMUC6と,腸型ムチンであるMUC2の免疫染色を組み合わせた胃や腸の腫瘍の粘液形質の分析について概説する.

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欧文目次

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 当院には時に医学生や研修医が診療所実習に訪れる.実習が終わった後には必ず,彼らが実習中に受けた印象を聞くことにしている.患者との距離の近さを挙げる学生がもちろん多いが,それとともに「診療所には精神面の問題をもつ人がこんなに多いと思わなかった」との印象を述べる実習生が多い.不安障害,認知症などとともに,身体的愁訴が前景に立ったうつ病患者は本当に数多い.最近ではうつ病に関する啓発も増え,患者自らが「自分はうつ病ではないか」と考えて訪れる患者も多くなってきている.

 著者自身も記しているが,認知症,高血圧,糖尿病などと並び,うつ病は疾患の罹患率とその症状の多彩さ,そのアウトカムの重大さから考えると,専門家のみですべてに対応することは現実的ではない.著者によると,内科医のうつ病診療のレベルが期待された水準にないことが,本書のような啓発書を書くきっかけだったとのことである.確かに,これほどありふれた疾患であるにもかかわらず,卒前・卒後における研修機会は十分とはいえない.精神科医に相談をすることも,地域に出てしまうとなかなか容易ではない.また,地域によっては精神科医の診察のアクセスが悪い場合もあり,その場合には好むと好まざるとに関わらず,非精神科医が治療の相当の部分まで担当せざるを得ない場合もある.できれば専門医に診療してもらいたいと思いながらも,薄氷を踏む思いで診療をしている非専門医はかなりの数に上るのではないだろうか.

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 本書の初版は1998年に発刊されています.たかが10年前と思われますが,本書の姉妹書にあたる『細胞診を学ぶ人のために』の初版から約8年後のことです.『細胞診を学ぶ人のために』は病理組織学と細胞診断学とを有機的に結び付け,分かりやすく解説した教科書として,国内で細胞診を“学ぶ”;人たちの新しいスタイルの教科書として好評を持って迎えられ,15年間に3回の改訂が行われて現在の4版に至っています.

 本書『細胞診セルフアセスメント 増補版』は細胞診の知識の習得度を自分で確認するための設問集という形態をとっており,『細胞診を学ぶ人のために』で学んだ知識を実際の症例と問題を用いて確認できるように五肢択一式の画像スライド問題と学科問題の2部で構成されています.

編集後記 八尾 隆史
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 消化管悪性リンパ腫は,① 病変が多発することが多い,② 消化管壁伸展性が良好である,③ 粘膜下腫瘍としての所見を有する,などの特徴をもつことは,「胃と腸」の読者であれば常識であろう.しかしながら,実際の症例を一例一例見てみると,必ずしも癌や炎症性疾患との鑑別は容易でない.そこで本特集号では,改めて鑑別診断に有用なリンパ腫の画像的特徴を明らかにすることを第一の目的とした.

 胃においては,MALTリンパ腫と癌との鑑別として重要な所見が指摘され,びまん性大細胞性B細胞リンパ腫では,リンパ腫の特徴的所見は癌でもしばしばみられることが指摘された.そして,リンパ腫の画像的鑑別においては,潰瘍の形態,粘膜下腫瘍様隆起表面やひだの性状の詳細な観察が重要で,それにはX線検査が特に有用であることも述べられている.腸においては,カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡の普及により,新たな知見が得られるようになったことは大きな進歩である.ただし,炎症性腸病変とリンパ腫の鑑別にはX線検査が有用であることが,提示された美しい画像が語っているように思われた.食道のリンパ腫は頻度が低いので症例提示のみとなったが,特徴的な画像が印象的であった.病理学的稿では,リンパ腫に関する病理学的知識を臨床的視点からも言及してあり,病理医のみならず臨床医にとっても有益な内容である.また,反応性リンパ濾胞とリンパ腫の鑑別におけるNBIやAFIの有用性も示され,新しい手法の今後の発展も期待される.

基本情報

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胃と腸
44巻5号 (2009年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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