胃と腸 27巻4号 (1992年4月)

今月の主題 大腸のいわゆる結節集簇様病変

序説

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 大腸腫瘍が少なく,1例1例それこそ撫でまわすように検査していたころ,あるいはポリペクトミーが普及しはじめたころなどには,大腸腫瘍の診断能はコロノスコープの挿入技術とパラレルだ,などと浅はかにも思ったりしたものである.ところが大腸疾患が増加してくると共に,大腸腫瘍は形態においても単調(隆起型のみ)ではなく,多様であることがだんだんわかってきた.これは全く皮肉なことであって,筆者の施設では現在(91.10.26)コロノスコピーの予約は翌年になってしまっている.検査をスピードアップしたいのに,個々の症例に費やす時間はむしろ延長せざるをえないのである.表面型腫瘍の存在が無言の圧力となっている.

 表面型腫瘍に対する最初の驚きが去り,その診断が日常化するにつれて,新たな問題点が種々浮かび上がってきた.まず膨大な数にのぼる表面型腺腫の存在である.表面型腫瘍の組織診断は施設によって極端に差がある.コロノスコピーの症例の7~8%が平坦・陥凹型早期癌であったなどという発表(1991年内視鏡学会,横浜)が出てくる始末である.表面型病変を癌に甘く診断する病理医が多いか,少なくともそのことが臨床側に喜ばれる傾向は,否定し難い.次に表面型,特に陥凹型腺腫がどういう自然史をとるかということである.一部は発育停止,一部は隆起型に徐々に変形していくのであろう.これは,癌化するにしても一部にすぎないだろうことは,表面型腫瘍の発見率からは,考えられないほど進行癌が少ないことから容易に想像しうるところである.

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要旨 国立がんセンターで1991年8月までに結節集簇様病変と診断された62症例63病変と随伴性の結節集簇様病変(病変の一部~大部分に結節集簇様病変を認めるもの)10症例10病変を対象に検討した.平均年齢61.9歳,男女比は約3:2であった.結節集簇様病変のX線・内視鏡所見では病変の拡がりに比べて背が低く,平盤状の形態を示し,表面は大小の結節(1~7mm)の集簇から成っていた.生検結果は腺腫が多く,63例中26例は絨毛管状腺腫,17例は管状絨毛腺腫であった.病変全体が切除された25例では16例が腺腫,8例が腺腫内癌,1例のみsmへの浸潤癌であり,治療法の選択に際し,過大な手術を避ける必要がある.随伴性の結節集簇様病変10例中9例において,隆起あるいは無構造な陥凹部分でsmあるいはpm以上の癌の浸潤が認められた.経過観察された7症例では結節集簇様病変の発育進展はゆっくりであり,数mmの結節の集合した初期像から結節の数と大きさを増大させながら,結節の集簇した形態を保持したまま発育していくと推測された.また,異時性・同時性の大腸癌15例,他臓器癌13例(胃癌5例,乳癌2例,甲状腺癌2例,皮膚癌,卵巣癌,肺癌,食道癌各1例)の合併がみられた.また,cancer family syndromeが2例含まれていた.

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要旨 内視鏡的に結節集簇様腫瘍と診断された18例の自験例を対象に,これら肉眼的に特異な進展様式をとる病巣が通常の腺腫・癌相関でみられる発癌機序とどのように異なるかを検討する目的で,免疫組織学的にras遺伝子,p53遺伝子産物を染色し検討した.更に,これらの臨床病理学的特徴を検討し文献例と比較した.type B(最大径2cm未満)の腺腫部分でras陽性を示した症例は36%であり,高度異型もしくは粘膜内癌部では71%であった.一方,p53陽性症例は腺腫部分では認められず,癌部で57%に認められた.また,type A(最大径2cm以上)の腺腫部分でras陽性がみられた症例は43%であり,癌部分では50%であり,p53陽性を示した症例はなかった.この結果は通常の腺腫・癌相関から導かれる仮説におけるras陽性結果,p53陽性結果とほぼ同じ傾向と考えられ,陽性率の差は異型度の違いを反映したものにすぎず,形態的特殊性や腫瘍の大きさとは関係なく顆粒集簇様腫瘍は腺腫・癌相関からの癌化機序が関与すると想定できた.また,type Bは水平進展の早期に次のステップへの移行がras遺伝子の異常やp53遺伝子異常で引き起こされ,水平進展を有する腫瘍性格に変化が生じる.一方,type Aでは後期に同様のステップが生じるので水平進展を示す腫瘍性格が長期に維持されたものと推測した.臨床病理学的な特徴としては,比較的大きく(2cm以上),丈の低い隆起性病変で表面が顆粒状を呈するということで十分1つのカテゴリーとすることが可能であると考えられたが,病巣の質的診断にはその病巣内の表面構造が重要であることを示した.また,呼び名については,本症のもつ悪性化,言い換えれば深部浸潤を示さないslow-invasiveな低い隆起の集合した腫瘍として位置付けするには,表面型病変と一線を画する意味で結節集簇様腫瘍がその呼び名として妥当であることを提唱した.

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要旨 大腸結節集籏様病変59例61病変について,臨床病理学的立場から検討した.本腫瘍は直腸(32病変)からS状結腸(10病変)に好発し,肉眼的にはすべて広基性で,平均4.8cm大の低い隆起性病変であり,表面は顆粒,脳回,絨毛状を呈し,色調は褐色調のものが多い.組織学的には腺腫内癌35と腺腫26病変に分類された.腺腫部は腺管絨毛腺腫43病変と腺管腺腫18病変に分けられ,中等度異型18,高度異型43病変であった.癌併存は通常の腺腫と同様,大きさと異型度に比例して高くなった.また,腺腫構成細胞として,杯細胞が51,Paneth細胞が41,好銀性細胞が47,銀還元性細胞が35病変に認められた.以上の結果から,本病変は腺腫を主体とするが,癌を併存する率が高いことを指摘し,併せてその発生や絨毛腫瘍との異同について簡単に考察を加えた.

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要旨 大腸の結節集籏様病変の治療の現況,特に内視鏡治療の実態について,多施設で経験した152例に対する治療成績を集計して検討した.内視鏡治療群は61例(40.1%),外科切除群は91例(59.9%)であり,内視鏡治療群の病変の平均最大径は22.48±11.30mmであり,外科治療群よりも小さい傾向がみられた.内視鏡治療群についてその手技の内容をみると,大きい病変に対して各種手技を併用したりpiecemeal polypectomyが用いられることが多く,小さい病変に対してstrip biopsyが用いられることが多かった.経過観察をなしえた42例中6例(14.3%)に再発がみられた.結節集簇様病変に対する内視鏡治療の適応として,癌の浸潤範囲がsm1までにとどまっていることが確実な症例に限ると考えられ,術前の正確な性状診断と深達度診断が要求された.内視鏡医の技術の巧拙によっても適応は左右されるが,病変が扁平であり,広基性,大きいことが多いため,いずれの内視鏡手技を用いるにせよ,熟練者が慎重に対処しなければならないことを強調した.

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 大腸の腺腫・粘膜内癌(villous tumorを除く)には,大きさの増大にしたがって結節数が増加する群と,大きさの増大にかかわらず1~2結節にとどまる群とがある(Fig.1).3結節以上で構成される病変では,病変最大径と結節数との間に正の相関(p<0.01)がある.結節径ごとの検討では,正の相関を示したのは3~5mm台の大きさの結節であった(Table 1).すなわち,大きさの増大と共に増加する結節の主体は,3~5mm台のものと考えられる.

 3結節以上から成る病変と,1~2結節のみから成る病変では,肉眼形態・生長様式にも差異がみられる(Fig.2).大きさ10mmを境として,大腸上皮性腫瘍は1~2結節有茎Ⅰ型(高さ3mmより大1))と,3結節以上無茎Ⅱa型,および脳回様Ⅱa型とに分極する.後者は30mmを越えるとⅠ型に移行するものの,前者に比べ,水平方向への生長傾向が強いと言えよう.

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 結節集簇様病変とは,大腸粘膜面に花壇状に隆起し,その表面構造は粗大顆粒状を呈し褪色調の光沢を持った上皮性腫瘍性病変である.本病変の辺縁は,急峻な立ち上がりか,ややくびれた形態をなしている.大きさは2cm前後のものから10cm前後のものまである.結節状ないしは顆粒状の表面は半球状ないしは分葉状を呈し比較的平滑で,典型的絨毛腺腫のごとく房状を呈していない.実体顕微鏡観察所見でも,表層びらんや破壊ないしは決壊像をほとんどみない.また,villous patternは一部を除いてみられず,正常に近いpit patternを呈する.

 組織学的特徴的所見としては,中等度の異型を伴う管状ないし管状絨毛腺腫をモザイク状に認める.絨毛腺腫は島状に限局してみられることがある.これらの部においては,異型度がやや増強し,癌化巣の合併をしばしばみることがある.

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 本特集の結節集簇様病変は肉眼形態から名づけられた隆起性病変と思われる.このような肉眼形態は絨毛腫瘍によくみられることから,結節集簇様病変を1つの独立した疾患として認めるには,絨毛腫瘍との差異が問題となる.まず絨毛腫瘍について,次いで結節集簇様病変について述べる.

 絨毛腫瘍は,組織学的に絨毛腺腫を認める病変を指す.しかし,病変のなかで絨毛腺腫の占める割合について一致した意見がない.その割合について33%以上または50%以上と主張する施設がある.絨毛腫瘍で絨毛腺腫以外の組織として腺管腺腫または腺癌の腫瘍性所見を認める.

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 villous tumorとは性状を異にし,Ⅱa型類似の扁平な隆起を呈する結節集籏様病変は,報告者によって種々の名称で呼ばれている.また,症例についてみても形態の捉え方に幅があるようである.

 1.形態的にみた結節集簇様病変

 表面の形状をみると,①一見,結節状にみえるが,溝状の模様の形をとるもの(Fig.1a),②結節顆粒状(Fig.1b)であるもの(色素内視鏡によって顆粒性状がより明瞭となる),③Fig.1bの形態をとるがごく小さいもの,④Fig.1bの平盤な結節状隆起の一部にⅠ+Ⅱa様に高い隆起が並存するもの(Fig.1c),などが混在している.

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 本号に結節集簇様病変が主題として取り上げられたことには特別の感慨がある.というのは,筆者が本誌4巻3号(1969年)に「S状結腸早期癌の1例」として発表した症例報告(Fig.1)は,胃の早期癌に準じた大腸の早期癌としては本邦最初のものであったからである.この病変は,最大径33mm,肉眼的には胃のⅡa型に類似していたことから,筆者はこの種の病変も将来は大腸早期癌の1つの型として注目されるようになるであろうと密かな期待をもっていた.

 この症例を早期胃癌研究会に出す段になって,筆者は,当時は癌研の病理におられた中村恭一教授に,“最も癌らしい局面”を強拡大で撮影してもらったスライドを恐る恐る提出したことを覚えている.結果は,村上忠重教授の“僕は癌としてもよいと思う”の一言で決まった.あれから20年以上も経過し,筆者は病理の大家主義を批判して憚らない傲慢さを身につけてしまったが,当時は権威者の御墨付をもらったことに欣喜雀躍していたのも同じ人格である.

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 大腸のいわゆる“結節集簇様病変”に対する私のイメージは,極めて扁平で表層拡大型に発育した隆起表面が顆粒状または結節状の,かなり大きな隆起性病変である.このような形態をとる病変はまれで,その本体はいま一つ不明確である.

 1.病変の呼称および定義

 私のイメージとほぼ同一形態であろうと思われる本邦報告例を見ても,花壇様隆起1),creeping tumor2),広基性小結節集簇型の低い隆起性病変3),顆粒集簇を主体とした隆起性病変4),顆粒集簇型扁平隆起5),Ⅱa集簇様病変6),巨大平盤状隆起型早期癌7)などと種々呼称されている.報告によっては1cm未満の小さな病変も含まれており,それら病変がすべて本当に水平方向に扁平に発育する病変の初期像なのか疑問が残る.また,どの程度悪性化するのか,高さは,また大きさはどの程度からこの範疇に含めるのか,など,統一された見解がない.また,報告例の組織型も種々で,大腸癌取扱い規約の腺腫の分類のすべて(tubular,tubulo-villous,villous adenoma)が含まれており,すべてが癌のみよりなる病変の報告例もある.とすれば,結節集簇様病変は単に形態を表現するだけで診断名にはなりえない.また,同じ組織型でありながら,なぜ主として垂直方向に発育する病変と水平方向に発育する病変があるのか,その成り立ちは不明である.これらの疑問点には経過観察するしか解答は得られないように思う.経過に関しては石川らの報告4)があるが,このような発育形態をとる病変の初期像が明瞭になれば,1つの疾患単位として取り扱ってよいと思われる.いずれにしても,これら疑問点を解明するには何らかの共通した土台,定義を決めて検討する必要がある.

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 大腸の隆起型上皮性腫瘍の中には,その肉眼形態を大腸癌取扱いの規約の無茎(広基),扁平,Ⅰs(-v),Ⅱa(-v),1型のいずれかに当てはめてしまうのに躊躇される病変が存在し,Ⅱa集簇型,結節集簇型,creeping tumorなどと呼ばれている.これらの呼称で呼ばれる病変の特徴は腫瘍表面の著しい凹凸や占有面積の割には深達度が浅く,内視鏡的治療が可能な病変が多く含まれることが挙げられよう.

 われわれも最近の3年間(1989.1~1991.12)に限ると,いわゆる結節集簇様病変をTable1に示すように13例経験した.男女比は7:6,平均年齢は57.8±11.0歳で,その局在は直腸に7例,S状結腸3例,盲腸2例,横行結腸1例で,直腸・S状結腸に多くみられた.腫瘍の最大径は最小20mm,最大58mm,平均36.7±13.0mmで,期せずして20mm以上のものばかりであった.

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 下部直腸に好発する結節集簇様病変は,無数の結節が集簇する平低な隆起性病変で,その境界が不明瞭なことが多い.組織学的には,病変の大部分は腺管腺腫,一部絨毛状腺腫であり,この病変の増殖・発育は側方進展が主体であると言われる1).したがって切除の際,病変の一部を取り残すと局所再発を来すことになる.そこで本症の治療としてわれわれは経肛門的直腸粘膜の筒状切除を2例に行った(Fig.1).本法は粘膜層の病変に対して,粘膜下層で直腸粘膜を全周にわたり筒状に剝離することにより病変の確実な切除が可能となった.また,排便習慣は5か月後には1日数行の通常便排出に回復し,直腸粘膜のみの剝離と口側粘膜肛門吻合は,肛門直腸機能に対する影響が少ないものと考えられた.以下に症例を示す.

 〔患者〕64歳,女性.約1年3か月にわたる便秘のあと肛門腫瘤が出現するようになった.1985年4月5日シグモイドスコープにてtubulo-villous adenomaと診断した.直腸内視鏡所見では大小不同の著しい隆起と,隆起のあまり目立たない,粘膜下血管像の見えない発赤部位が存在した.わずかな隆起の辺縁を確定するには色素撒布が有用であった(Fig.2).注腸透視所見では直腸膨大部から肛門側にかけ,前壁を主体に大小不同の泡沫状のいわゆるsoap bubble所見を呈していた(Fig.3).

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 結節集簇様病変とは,語彙の印象からは結節が集簇したⅡa集簇型のような病変としてイメージされるが,いまだ定義がないので,どのような病変を指すものか明らかではないのが現状と思われる.また結節集簇様大腸病変を独立した1つの疾患として扱うか否かも今後の問題点の1つと言える.これらの結節状病変は,これまでの肉眼形態を表す言葉の中で,山田分類のⅡ型,広基性病変,扁平腫瘍,絨毛状腫瘍などとも呼ばれていると思われる.特に扁平腫瘍の中ではポリープ様集簇型1)と分類されたり,結節が集簇している特異な形態から,絨毛腫瘍の中で扱われているものも多いと思われる.絨毛腫瘍の定義は肉眼的な特徴によるものや,組織学的な特徴によるもの,肉眼形態と組織の両方の特徴によるものなど様々であり,まだ確立された見解がなく,これらの結節集簇様病変を含むか否かの議論も必要と思われる.

 われわれの絨毛腫瘍の定義としては,腫瘍表面に絨毛状の発育形態を呈し組織学的にも絨毛腺腫成分を有するもの,としており,これまで20病変を経験している2).しかし,そのうちの3例は,絨毛腫瘍の成分も見られるが,主体は結節集簇様病変に分類すべきと考えられた.すなわち結節集簇様病変は,絨毛腫瘍の肉眼所見に比べ顆粒が大きく,いわゆる結節状であり,絨毛腫瘍に見られるような細顆粒状の肉眼形態を呈するものとは異なっている.また組織学的にも細顆粒状を呈する病変の組織像は絨毛状腺腫を主とする病変であり,結節集簇様病変では腺管腺腫ないし腺管絨毛腺腫を主体とする病変である.

今月の症例

Ⅱc+Ⅲ型早期胃癌の1例 馬場 保昌
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 〔患者〕48歳,男性.主訴: 8年前から時々空腹時に心窩部痛があり,その都度,近医で胃X線・内視鏡検査を受け,胃潰瘍の診断のもとに治療を受けていた.1986年2月,胃内視鏡検査の結果,手術を勧められた.

 〔胃X線所見〕背臥位第2斜位の二重造影像(Fig.1a)では,胃角部小彎側に不整形のニッシェが認められる.ニッシェ部の陰影は淡く,輪郭は不整である.ニッシェ全体がⅡcのように見える.集中するひだはニッシェの周囲でなだらかに太まり,ニッシェ辺縁で中断している.立位圧迫像(Fig.1b)では,ニッシェ周囲の粘膜は隆起し,ニッシェの輪郭は不整で線状のはみ出したような陰影が認められる.ニッシェ内には小さな顆粒状陰影も数個認められる.腹臥位圧迫像(Fig.1c)では,不整形ニッシェの小彎側と肛門側に淡い陰影が認められる(矢印).

Coffee Break

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 Dukes分類と言えば外科医のみならず,内科医でも知らない人はいないだろう.その簡明さと臨床的有用性のために,大腸癌の病期分類としてのDukes分類は1936年に発表されて以来,半世紀以上もの間,世界中で用いられてきたのである.Dr C Dukesは,かの有名なロンドンSt Mark病院の病理医であったが,この仕事を真に支えたHJR Busseyのことを知っている人は極めて少ないと思う.1942年17歳でlaboratory technicianとしてSt Mark病院に勤務するようになってから50年間,大腸切除標本の切り出しはBusseyの仕事であった.直腸間膜に5mm間隔に割を入れ,割面からリンパ節を探し出して手書きの標本スケッチ上にマッピングする.こうして1例1例検索された症例の積み重ねからDukes分類は生まれたのである.最近行われるようになったクリアリング法に比べれば,精密さははるかに劣るが,当時はこのようにきちんとリンパ節検索が行われている施設はなかった.しかも,Bussey1人によって継続的に検索されてきたので,その信頼性も高かった.Busseyは医者でも病理医でもなかったが,Dukesの指導によってルーチンの組織診断をつけるに十分な経験と知識を身につけるようになっていた.Dukes分類の生まれた陰の功労者はBusseyだったのである.

 Busseyのもう1つの功績にpolyposis registryの仕事がある.イギリス人独特の几帳面さと真面目さで,1970年代にはイギリスのポリポーシス患者の約1/3が彼のファイルに登録されていたと言われている.家族歴作成に際しては,患者あるいはその主治医に手紙で問い合わせ,更に病理診断または標本を取り寄せて,組織学的に確認された例のみを確実な例として登録していた.Family treeは小さなカードに患者名を列記してつなぎ合わせたものである.患者名を言うと直ちにそのfamliy treeが出てくるだけでなく,その患者自身および家族に関するエピソードまで出てくるという,まるで生き字引きのごとき人であった.このときの,少しはにかみながらも得意満面そうなBusseyの表情は写真からもうかがわれる(写真).コンピューター登録が登場する以前に,彼ほどポリポーシスについて広く深く把握している人は医師のなかにもいなかっただろう.各国で最近になってpolyposis registryが行われるようになったのも,彼がその先鞭をつけてくれたお蔭であると言えよう.Busseyはポリポーシスの仕事をまとめて1970年にロンドン大学からPh Dの学位を授与された.その内容は,“Familial Polyposis Coli”という単行本として出版された(Johns Hopkins University Press,1975).これは当時のポリポーシスに関して知りたい情報のほとんどが含まれている名著である.彼は皆から既にDr Busseyと呼ばれていたが,ここに名実ともにDoctorとなったのである.

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 札幌の会で,早期胃癌1,000例を越えた施設の話をした折に,癌研と同時期に1,000例に達した横山胃腸科病院を知っていますか?と,若手・中堅の外科医に聞いてみたが,誰も答えてくれなかったのは,寂しい限りであった.その後,あちこちで早期胃癌1,000例を越えた施設について聞いてみたが,専門施設として癌研,国立がんセンター,大阪府立成人病センター,東京女子医大消化器病センター,愛知県立がんセンターまでの施設名が出て,時に横山胃腸科病院の名前が挙げられるが,残りの2施設名はどうしても出てこないのであった.

 早期胃癌1,000例を越えた8施設の名前を一覧して,横山胃腸科病院,札幌厚生病院,福井県立病院の3施設が専門施設に伍して名を連ねていることは特記すべきである.ではこの3施設が早期胃癌1,000例以上を集積して,この表に名を連ねるようになったのはどうしてか,何故か,その理由を考えてもらいたい.この3病院について,私なりにその理由を書いてみたい.

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要旨 患者は54歳,女性.血便を主訴として入院.注腸造影検査にて直腸に長径約10cmの全周性で極めて丈の低い隆起性病変を認めた.隆起表面は顆粒集簇状で,病変部直腸壁の伸展性は極めて良好であった.直腸内視鏡検査では色調は周囲正常粘膜とほとんど変化がなく,色素撒布にて境界および表面性状が明瞭となった.生検では腺管絨毛腺腫の組織像が得られたが,大きさより一部に癌の合併を否定できず低位前方切除術を施行した.切除標本では腫瘍は長径10.5cmで,組織学的にはほぼ全体が腺管絨毛腺腫であり腫瘍肛門側の一部に粘膜内癌を伴っていた.

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要旨 患者は45歳のvon Recklinghausen病(R病)の女性,貧血症状を主訴に受診し,消化管の臨床的および病理学的検索により十二指腸の悪性Schwann鞘腫をはじめ十二指腸,空腸,大腸に神経線維腫,末梢神経組織の過形成など多彩な消化管の病変を認めた.現在までR病に消化管病変が合併する頻度は剖検例で比較的高いと言われてきたが,本例のような一連の合併病変を有した症例の報告はない.更に本例は術前に詳細な検索によりその形態学的特徴を捉えられた.以上の点で貴重な症例と考えられた.

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要旨 von Recklinghausen病に進行胃癌を合併した症例を報告した.患者は53歳,男性.主訴は心窩部不快感.上部消化管造影,内視鏡検査で胃角前壁に径60mmのBorrmann 2型の腫瘍がみられ手術を施行した.手術材料では胃角前壁に60×50mmのBorrmann 2型の腫瘍が認められ,組織所見は中分化型管状腺癌であり,粘膜下層から固有筋層を貫いて胚中心を伴ったリンパ組織の著明な増生を伴っていた.腫瘍細胞に対するリンパ組織-間葉系のhyperreactivityを表しているものと思われる.

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要旨 術前に実施した4回目の胃生検にて,初めて胃神経鞘腫が疑われ,摘出標本で胃悪性神経鞘腫と診断された1例を経験したので報告する.患者は80歳,女性.吐血を主訴に来院.胃X線・内視鏡検査で,胃角部前壁から胃内腔に突出する山田Ⅲ型隆起性病変を認めた.胃切除摘出標本では5.0×4.5×3.5cmの大きさの腫瘤で弾性硬,割面は乳白色.光顕所見では,紡錘形または卵円形の細胞が索状あるいは渦巻状に配列しており,一部に細胞異型および分裂像が観察され,電顕でloose bodyを認めた.また平滑筋腫に陽性のdesminは陰性で,S-100α蛋白に陽性,S-100β蛋白にごく一部陽性を示し,上記の病理学的所見より胃悪性神経鞘腫と診断された.

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要旨 患者は49歳,女性.2年10か月の間,径6×5mmの無茎性隆起性病変から径11×10mmのⅡa+Ⅱcへ至った経過を注腸造影で追跡できた,横行結腸癌の症例である.切除材料では径9mmのsm1cの浸潤度を示すsm癌であった.癌のdoubling timeは12.9か月で比較的発育速度の早い癌と考えられた.

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要旨 患者は21歳,女性.十二指腸潰瘍として内科的治療が施行されていたが,治療に抵抗し,手術目的にて当科入院となった.入院後の精査で,十二指腸の狭窄のほかに,小腸,大腸にも病変を認め,Crohn病と診断した.salazosulfapyridineの投与および中心静脈栄養にて,自他覚的に症状の改善がみられ,外来通院での管理が可能となった.胃・十二指腸Crohn病はまれであり,本邦では自験例を含め13例の報告があるが,内科的治療にて寛解したのは4例のみである.本症の内科的治療の長期的予後は明らかでなく,今後も慎重な経過観察が必要である.

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要旨 結節性動脈周囲炎(PN)による虚血性大腸炎の1例を経験した.患者は39歳,男性で,腹痛,下血にて入院した.注腸造影で脾彎曲部を中心に横行結腸および下行結腸の一部にthumb-printing様の壁不整や狭窄を認め,大腸ファイバースコピーにて同部の粘膜の壊死,潰瘍,出血を認めた.虚血性大腸炎と考え,腹部血管造影を行ったところ,下腸間膜動脈に壁不整,狭窄,拡張,途絶を認めた.手掌皮膚の生検より壊死性血管炎の像が得られ,PNと診断した.ステロイドおよびcyclophosphamideで治療し,腸病変は経過中に一部再燃を示しながら治癒した.開腹せずにPNによる虚血性腸病変を確認し,その経過を観察できた症例は極めてまれであるため報告した.

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要旨 患者は3歳6か月,男児.主訴は腹痛,嘔吐,発熱.1991年7月9日夕食後,腹痛,嘔吐,発熱出現,翌10日当院受診,急性腸炎疑いで入院.入院時腹部単純X線写真ではX線不透過性の線状影を多数認めたが,急性腸炎として保存的治療を施行.しかし,腹部所見は改善せず7月12日夜蛔虫虫体を1隻吐出.翌13日,腹単で一塊となった蛔虫を示唆する異常陰影とniveauを認め,蛔虫症による閉塞性イレウスとの診断で県立宮崎病院に転院,手術を施行.開腹時に小腸内腔を閉塞する一塊となった蛔虫を認め,腸切開を加え91隻の虫体を摘出した.蛔虫症は環境衛生の向上に伴い最近ではまれな疾患とされているが,現在でもなお,急性腹症の一因として念頭に置く必要があると考えられる.

早期胃癌研究会

1992年1月の例会から 中野 浩
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 1992年1月度の早期胃癌研究会は1月22日に開催され,満員の会場で3症例の検討が行われた.

 〔第1例〕69歳,女性.胃幽門前庭部アミロイド沈着症(症例提供: 広島市立安佐市民病院内科 日高徹).

学会印象記

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 第21回アメリカ消化器放射線学会は本年2月16~21日の6日間,フロリダ州オーランドのHyatt Regency Grand Cypressで開催された.会長はシアトル・ワシントン大学放射線科のAlbert Mossであった.日本からは白壁(早期胃癌検診協会),望月・藤田(仙台市医療センター)の諸先生と順天堂から有山,須山,猪狩,窪川,崔の計8名が参加した.オーランドはディズニーワールドで有名で,ロケット発射基地のCape Kennedyにも近い観光地である.会場はディズニーワールドに隣接し,運営・設備は申し分なく気候もよかった.

 学会第1日目にin-camera sessionがあった.メンバーだけで学問的・社会的な問題を討議するセッションで,消化器放射線の専門医を作ることが可能かどうか議論された.消化管のX線診断のトレーニングは問題ないとして,US,CT,MRIでは消化器だけでなく腎・泌尿器,婦人科が腹部のトレーニングに含まれるので,消化器放射線だけの専門医を申請するのは難しいとの意見が多かった.

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 「胃と腸」26巻8号の巻頭を飾る「今月の症例」をみて唖然としたので,敢えて“胃診断学の後退”と銘打ってその理由を記し,著者の見解を問う.

 スキルス胃癌診断の基本はその原発巣を見出すことだが,その姿勢が,提示されたX線・内視鏡写真からは窺われないのはどうしたことか.

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欧文目次

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 最近の画像診断技術の進歩には目をみはるものがある.ボディイメージングという比較的侵襲の少ない診断法にその成果をみることができるが,膵の微小病変の診断には何と言っても膵管造影が切り札となる.ERCPが開発されてから,既に20年以上経過した.開発当初,きれいに造影された膵管像を初めて見せられたとき,「これで小膵癌がどんどん見つかる」と期待したのは筆者ばかりではないと思う.しかし,現実はそれほど甘くはなく,小膵癌の診断には四苦八苦しているのが現状である.その原因は,多くの場合微細変化の読影に耐える鮮明なERP像が得がたいことにある.

 著者の池田靖洋教授は,「内視鏡下留置バルーンカテーテルによる膵管造影―背臥位圧迫撮影法」を開発してERP診断能の向上を目指してきたこの分野のパイオニアである.本書には著者が自らERP検査を行い,あるいは手術を施行した69症例が珠玉のごとく提示されている.

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 Aspirin use and reduced risk of fatal colon cancer: Michael JT, et al(N Engl J Med 325: 1593-1596, 1991)

 1982年秋にスタートしたアメリカ癌学会の癌予防に関する前向き研究に登録された30歳以上の1,185,239人の内で,1982年調査時点でアスピリンの服用歴の欄にきちんと記載されていた662,414人(白人のみ)について,服用歴と1988年までの大腸癌(直腸癌は除く)による死亡率の関係を調査した(調査率98.2%).登録前に1年以上アスピリンを服用していた者をアスピリン使用者とした.

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Screening colonoscopy in asymptomatic average-risk persons with negative fecal occult blood tests: Rex DK, et al(Gastroenterology 100: 64-67, 1991)

 著者らはインディアナ州在住の50歳以上の医師,歯科医師とその配偶者5,000人に郵便で大腸内視鏡スクリーニングを勧奨した.

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 Dr.TwycrossとDr.Lackの共著による「Therapeutics in Terminal Cancer」のsecond editionが出版され,武田文和先生の名訳により,「末期癌患者の診療マニュアル」第2版として世に出されたことは誠に喜ばしい.1987年に訳出された第1版は非常に評判がよく多くの専門家に読まれた.癌性疼痛に関する論文には必ずといっていいほど引用された.

 近年日本においてもターミナルケアに対する関心が高まり,末期癌患者の痛みをはじめとする不快な症状をコントロールする方法について学ぼうとする姿勢が少しずつではあるが医師の間にもみられるようになってきた.しかし,まだまだこの分野に関心を示す医師の数は多くなく,多くの末期患者が苦しみと痛みの中で死を迎えているというのが現状であろう.

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 本書は1979年にW. B. Saundersから出版された同名の本の改訂第2版である.初版では著者はIgor Laufer1人であったが,今回は彼の教え子であるMark S. Levineが共著者として名を連ねている.私と東京女子医大の山田明義教授は初版のときも,今回も執筆者の1人としてこの本の執筆に参画し,それぞれ得意とする分野について日本の仕事を紹介した.

 われわれ日本人の書いた部分はともかく,この本の概観を紹介するのは国の内外を問わず貴重な機会のような気がする.というのも,古典的なバリウム診断の衰退が危惧されているのはわが国においては現実の問題であり,そういう状況のもとで,この本が出版されたことに私は米国の放射線診断の底力を感ぜずにはいられないからである.執筆者の1人である私がこの本のレビューをするのは,いささか手前味噌で面映ゆい気がするが,それを承知で感じたことを述べてみたい.

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 消化器病,特に診断に携わる者にとって,病理学は,どうして,あるいはどういう時に必要であろうか.総論的には病変の理解を深くする,ということである.それに,診断医はもともと病理形態学が好きであるに決まっている.診断学は形態学の一部であり,形態学は診断学の一部である.例えば内視鏡医にとって,みている所見がどうしてそういう形態,色彩を呈するかに興味をもち,かつ理解しなければ,とうてい長い期間内視鏡医であり続けることは不可能であるし,仮にあり続けるとしても単に世の中に害を流し続けているにすぎない.すなわち形態診断学をやっていくうえでは,常に病理総論,マクロ・ミクロとの対話が必要である.対話をする相手が良ければ良いほど効果的であるし,悪ければどうなるかは言う必要もないであろう.

 そういう観点からも,今回,医学書院(New York)より上梓されたLewinらの“Gastrointestinal Pathology and Its Clinical Implications”は臨床家にとって待望久しいモノグラフである.2分冊,全体で1,400頁を越す消化器病理学の成書である.生検材料,外科摘出標本の取り扱いから,消化器病理のあらゆる事項を対象とした意欲的なreferencetextである.本書の特色は,①病理学の教科書では一般的だが,専門書ではまれな「総論・各論」の2本立てであり,総論は340頁と全体の約1/4を占め,それだけで優に1冊の本となる分量であると共に,内容も充実している.②2分冊のうちVol.1が「総論」と「食道・胃・十二指腸」,Vol.2が「腸管」より成ることからわかるように,どちらかというと腸管の病理にエネルギーが注がれている.③臨床的事項にページが割かれていて,病理を広い意味での臨床の一部とする姿勢がうかがわれる,などである.

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 本に対するまったく単純な好き嫌いの感情から「この本が好きだ」と思うことがある,「NIM LECTURES」シリーズには,そんな本が何冊かある.

 今回,そのうちの1冊,井村裕夫先生の編集による「内分泌・代謝病学」が6年ぶりに改訂され,第3版が上梓された.

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 大垣市民病院の蜂須賀喜多男院長は既に腹部外科学の臨床について大著を出版しておられるが,今回更に「イレウスの治療」を同病院磯谷正敏外科医長と共著で刊行された.本書は医学書院の「臨床外科クリニック」シリーズの1冊で,修練中の外科医に対して外科方面の基本疾患の個々について手術の考え方や術式の基本を解説するように企画され,B5判の縦を少し縮めた判型の本文100頁前後で,病床側でも寸読できるような軽快な装丁となっている.

 蜂須賀院長らは,腸管内腔の閉塞や腸管の運動障害などによって正常な腸管内容の肛門方向への通過が障害される病的状態を「イレウス」と定義し,単純性と絞扼性を含む機械的イレウスと,麻痺性と痙攣性を含む機能的イレウスとに分類し,それらの頻度,原因,病態生理,次いで身体所見・画像検査・血液生化学検査などによる臨床診断法,鑑別診断,更に保存的および手術的治療法の適応・選択・方法などを明快に解説している.次いで,イレウス患者について術前の検査と処置と麻酔,術後管理を,手術について方針・手順,病態ごとの変化への対応などを述べ,最後にイレウスの手術成績を国内国外の資料を参考にして,御自身の経験794例について分析している.この間,多くの資料を図と表を用いて解説し,これに貴重な御経験症例の画像を多数添えて読者の理解を助け,また手術術式を多数の簡明な線画で解説している.

編集後記 小池 盛雄
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 Creeping tumor,顆粒集簇型病変,Ⅱa集簇様病変,花壇様隆起,平盤様隆起など,様々に呼ばれていた特殊な大腸病変について,このへんで検討しようということで特集が組まれた.最も問題となったのは名称である.消化管病変に関して常にopinion leaderとしての役割を果たしてきた「胃と腸」として,その本態と性状を適切に表す名称を提案することが必要であろうと考え,編集会議で慎重な検討がなされた.その結果として“結節集簇様大腸病変”という名称を統一して用いることになった.以前にそれぞれの名称を最初に提案された方々にはいろいろな思いがあり,こだわりがあることは当然である.“結節集簇様大腸病変”という名称が根づき,その本態が更に詳細に解明されることを期待している.

基本情報

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胃と腸
27巻4号 (1992年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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